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外道に生きるモノ  作者: 神無月夕
第三章/七夕祭に誘われて

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20/87

第二夜(7)

 スポットライトがわたしと水天宮円、脇一志、為我井優華に当てられると、ステージ袖からドラムとギター、龍笛を持った催事実行委員が現れる。

 わたしはその設営を見守ってから、配置についた。ちなみに、為我井優華はこれでも、かなりの凄テクを持ったギター弾きである。


「――みんな、ありがとう。みんなのおかげで、こんな無茶が通ったぜ!! さて、それじゃあ、俺ら、即席バンドだけど、最高に痺れる演奏を見せてやるよ!」


 マイクを構えた脇一志が、そんなシャウトをしながら、マイクを観客に向けるパフォーマンスをする。途端に、大講堂内が割れんばかりの歓声に包まれて、わーきゃー、と女性陣の黄色い声が巻き起こった。

 その響きを楽しみながら、脇一志はわたしに手で合図を送ってくる。

 ふむ、とわたしは頷き、トントントン、とスティック同士をぶつけて拍子を刻む。一応、楽譜は見ているし、把握はしたが、巧く叩けるかは自信がない。だがとりあえず、それっぽく叩いていれば、為我井優華がギターアレンジで何とかしてくれるだろう。


「それでは、新曲――『七夕織姫狂想曲』!!!」


 ワンツー、と呟いてから、為我井優華が、ギュイーン、とギターをかき鳴らした。それが合図だ。

 わたしはスティックで軽くシンバルを叩いてから、アップテンポにドラムを叩き始める。それに合わせて、水天宮円も龍笛を鳴らす。

 一見して、ギター、ドラムに龍笛なんて組み合わせはアンマッチだろう。ところが、そんな不協和音じみた旋律をカバーするように、脇一志の美声が全てを呑み込む。

 正直、何を歌っているのか、割と早口の歌詞なのと、あまりにも馴染みのないフレーズの連続で、わたしには聞き取れなかった。

 けれど、これが名曲と呼ばれる類の演奏であることだけは理解出来る。魂が震える、ほどではないが、聞いていて心が躍る曲で、まさか感動出来るとは我ながら意外だった。

 わたしは感動しながら、譜面通りに必死で叩く。それが合っているのかどうかは分からない。けれど、心の赴くままに叩き続けた。


「――――ぉう!」


 そうして、長いようで短い楽曲が終わりを告げて、脇一志が歌うのをやめた。それを見計らい、為我井優華がギターソロで高速ストロークを披露して、演奏が完全に終了する。

 わたしたちは挨拶する為に、ステージ中央に進み出た。すると、観客のほぼ全員が一斉に立ち上がり、爆音に思えるほどの大拍手をした。同時に、アンコールが巻き起こり、収拾がつかなくなりそうなほどの盛り上がりを見せた。


「ちょ、静粛に――静粛に、って、聞きゃしない!?」


 設置された楽器の撤去が始まると同時に、スポットライトが司会者だけに変わる。

 そして司会者が観客に静まるよう言うが、誰もそれで座ろうとしないうえに、拍手も止めようとはしなかった。


「綾女ちゃん、ありがとぉ。想像以上に、大成功だったよぉ!」

「いえ、わたしたちも、感謝です。ありがとうございます。おかげで、かなりのアピールになりました。これならば、上位入賞は固いでしょう」


 爆音の拍手が鳴りやまない中、ステージ上でそんな会話をやり取りしながら、わたしは疲れたように吐息を漏らす。

 想像以上に、他人の前で芸を披露するのは疲れる。だが、これでほぼ勝ち抜けは決まったようなものだろう。それこそ、何かの手違いで、脇一志・為我井優華コンビとの対戦にでもならない限りは、負ける要素が感じられない。それほどに、観客の受けは抜群だった。


「はいはいはい、いい加減に静まってください!!」


 しばし司会者が大声で観客を宥めて、ようやく大講堂内が落ち着いた空気になる。

 さて、そうして次は、最後の一組、トリとして、美馬梓・為我井淑可のパフォーマンスである。果たしてどんなアピールをするつもりなのか、とわたしは楽しげに眺めた。


「えーと、それでは最後のアピールですね。組番号『い』、お願いします!」

「――行くぜ、野郎ども!! 俺が、とびきりのダンスを魅せてやるぜ!!」


 スポットライトを浴びた美馬梓が、高らかに叫びながらステージ中央に躍り出る。そして、バックミュージックで為我井淑可がピアノ演奏を始めた。

 その演奏曲に、ステージ上がざわついた。

 特に、トップバッターでパフォーマンスした組番号『く』の二人、ボカロソングで見事なダンスを披露した二年生女子たちの驚愕は凄まじい。悲しくなるほどの絶望感が見て取れた。

 しかし、それは当然だろう。為我井淑可の演奏している曲は、彼女たちと同じ曲だった。


「……これ、さっきの、二人が踊った、曲ですよね?」

「ええ。そうですね……まさか、ここまでやるとは……」


 傍らの水天宮円が小声で囁いた。それに頷いて、わたしは恐ろしいものを見る目で、為我井淑可に視線を向ける。

 為我井淑可は、さも当然のように、超絶技法で『一千本、桜』を演奏しながら、しかも綺麗な歌声の弾き語りを披露し始めた。そしてそれに合わせて、美馬梓も持ち前の運動神経で、キレキレのダンスを披露していた。

 これは否が応にも、先ほどの二人と比較してしまう。そして比較すると、必然、こちらに軍配が上がるだろう。

 歌唱力は当然、生演奏は絶妙で、そのうえ美馬梓の踊りは、二人の呼吸が合った踊りよりも、ずっとスピーディーで美しいのだ。

 大講堂内は最初こそ驚きでざわついたが、すぐに手拍子を始めて、わたしたちよりも、もっと熱気を帯びた盛り上がりを見せた。

 予想外の展開こそ、観客にとっては最高の演出に違いない。


「――しゃぁ!!」


 さて、そうして、曲調とは全く合わない掛け声を上げて、美馬梓がビシっと決めポーズを取り、為我井淑可の演奏が余韻を残しつつ終了する。

 すると、曲の音頭をとっていた手拍子はそのまま万雷の拍手に変わり、観客の多くがアンコールを叫び始める。その様を満足気に見ながら、為我井淑可がペコリと頭を下げる。美馬梓も、天井に拳を突き上げて、勝利の咆哮を上げている。


「あ、ありがとうございましたっ!! ちょっと、これはビビるほどのアピールでしたが……えと、本来ならばこのまま投票に移るのですが……あの、生徒会長に、質問宜しいでしょうか?」


 マイクで叫ばないと聞こえないくらいの大歓声が巻き起こる大講堂内で、司会者はアピールの終わった為我井淑可に近付いた。スポットライトは既に消されているので、司会者は闇に向かってマイクを突き出す恰好である。

 マイクの先にいる為我井淑可が、ええ、と頷きながら、司会者のスポットライトを奪うように前に出てきた。そして、首を傾げた仕草を見せる。


「いまのアピールの演出ですが……これ、事前に用意したものと違いますよね? しかも、組番号『く』の二人と、被ってしまっていましたが……」

「ええ、違うわ。当初は、クラシックの超難曲を演奏して、梓ちゃんがミスマッチなブレイクダンスを披露する予定だったけど――本戦の、綾女ちゃんたちのインパクトを考えると、もっと凄くないと駄目かなって思ってさ。急遽、直前で演出プランを変更しました!」

「…………ええと、直前で、と簡単に仰りますが……練習せずに、どうやって演奏を……いや、というか、副会長もいきなりで、あれほど見事な踊りを披露したのでしょうか?」

「ああ、それは――耳コピ、とか言えたら格好良いけど、アタシは普通に、ピアノの練習する時に何度か弾いてたから、暗記してただけよ? ま、けど、梓ちゃんは二人の踊りを見て覚えてもらったわ。勉強とかの物覚えは悪いくせに、運動系は覚えが早くて助かったわ」

「へっ――俺を甘く見るなよ、淑可! って言っても、不安な部分の振り付けは、なんか適当に素早くやってみたがな!!」


 そんな司会者とのやり取りを、あえて観客に見せ付けて、二人は自分たちのアピールを誰よりも強く印象付けることに成功していた。

 この司会者との無駄な会話は、生徒会長権限を用いた盤外戦術である。そこまでして勝ちたいのか、とわたしはドン引きする。

 さて、そんな司会者と為我井淑可たちの一問一答が終わる頃には、大講堂内の熱気はひとまず落ち着いていた。

 改めて、準決勝の対戦相手を選定する為のルーレットに移る。


「それではアピール順とは逆順で、運命のルーレットを回して頂きましょう。今回はシード枠はありませんので、悪しからず――さあ、組番号『い』から、どうぞ」


 司会者の言葉に、意気揚々として美馬梓が出てくる。

 おりゃ、と気合の声と同時に停止ボタンを押下すると、回転する運命のルーレットは『A』を指し示した。これは一戦目である。大講堂内に、うぉお、と歓声が上がった。対戦相手は『B』――これだけは絶対に引きたくない。

 美馬梓が戻ったのを見計らってから、続いて、次の組番号『ち』の代表として、為我井優華が出てきた。彼女は、停止ボタンに指を触れてから、チラと視線をステージ袖に向けた。

 細工をしている協力者でも居るのだろう。わたしもチラと視線だけ向けると、そこには、一回戦で敗退した三年生男子がサムズアップしていた。

 ところで、為我井優華の止めたルーレットは『C』を指し示す。二戦目である。とりあえず、姉妹対決は決勝に持ち越しのようだ。


「……今度は、水天宮さんが押しに行ってくださいませんか?」

「あ――え、と? ああ、はい。承知しました」


 わたしはそっと水天宮円の背中を押して、ルーレットの停止役をお願いする。

 水天宮円の羽衣ドレスを観客に見せ付けて、少しでも投票数を稼がなければならない、という浅ましい考えである。

 水天宮円は一瞬キョトンとしたが、別に嫌がる素振りもなく、堂々と停止ボタン前まで進み、何の躊躇もなく停止ボタンを押下する。

 ルーレットは不自然な挙動を見せてから、『F』を指し示した。

 わたしは露骨に安堵する。これは三戦目だから、脇一志・為我井優華コンビとも、美馬梓・為我井淑可コンビとも戦わない組み合わせだ。


「……ありがとうございます、水天宮さん」


 わたしは水天宮円に感謝の言葉を呟いてから、とはいえ油断は出来ない、と運命のルーレットの進行を見守った。対戦相手が誰か決定するまで、気を抜くのは早いだろう。

 そうして、運命のルーレットは粛々と対戦相手を決めていく。

 結果、美馬梓・為我井淑可コンビの相手は、同じダンスを披露した二年生女子コンビになった。

 脇一志・為我井優華コンビの相手は、加藤司・久世明コンビ。わたしと水天宮円の相手は、設楽絵里・大空蹴コンビ。残りが、緋緒怜美・阿部太郎コンビと、書道部の眼鏡部長・オタクプリンスになる。

 この組み合わせでは、投票するまでもなく結果は見えていた。なので、あまり投票で盛り上がることはなく、順当にファイナリスト上位四組が選出された。

 ちなみにその四組は、美馬梓・為我井淑可、脇一志・為我井優華、わたしこと鳳仙綾女・水天宮円、緋緒怜美・阿部太郎である。

 これで、当面の目標は達成出来た。後は優勝争いだが、そこに興味はない。

 こうなると、一秒でも早く帰りたい気持ちになってしまう。とはいえ、途中で勝手に抜けられるイベントではない。

 決勝まで来たからには、最後まで付き合わなければならない。


「はい、それでは、ここで改めてファイナリストの紹介をいたしましょう!! 勝ち抜けた四組の皆様、ステージ中央までお進みください!!」


 司会者が両手を広げて、クルリとその場で回った。途端、大講堂内の照明が全部点り、ステージ上だけではなく、全体がパッと明るくなった。

 決勝戦は、スポットライトの下ではなく、明るいステージ上で行われるのが毎年恒例である。


「それでは、まず織姫役から、一人ずつご紹介をお願いいたします」

「はいはいはいっ!! トップバッターは、俺だぜ!! 改めて、俺は『美馬梓』――生徒会副会長だ」


 ステージ中央に並んだ八人のうち、一番端に立っていた美馬梓が、誰よりも先にその名乗りを上げる。その紹介に、ステージ後ろに控えた負け組が拍手を送った。


「さて、次は俺だ。えー皆さん、ここまでお疲れ! けど、もうちょい付き合ってくれな! と、改めての自己紹介――俺は『脇一志』だ! ぜひ投票を!!」


 わーきゃー、という黄色い声、パチパチと控えめな拍手が起きる。それを横目に、わたしは戸惑っている水天宮円に声を掛けた。


「水天宮さん。決勝は、織姫役、彦星役、それぞれで投票数を競う形式です。なので、織姫役の水天宮さんだけ紹介をお願いします。無難なもので結構ですよ?」

「……え、あ、はい。あ、それじゃ――――わたしは『水天宮円』と申します。ええと、その……決勝まで来れて、大変光栄に思っております。よろしくお願いいたします」


 わたしの言葉を理解して、水天宮円は観客に向き直ると、ペコリと挨拶をする。その羽衣ドレスの裾をちょこんと持って頭を下げる仕草が、図らずも素晴らしいインパクトを与えている。


 ところで、水天宮円には軽く説明したが、この決勝戦は少し面倒な対戦方式である。

 決勝進出したファイナリスト四組のうち、まずは織姫役の中で、誰が一番『織姫』として相応しいかを投票する。投票数順に四位までを決定して、次に彦星役で同様の手順を踏むのだ。

 ここで選出された織姫役、彦星役が、『ベスト織姫』『ベスト彦星』の個別称号を授与される。この称号に特典は一切ない。ただただブックメーカーのオッズに影響するだけである。

 さて、それで優勝特典が授与される優勝組の選定方法だが、これは、織姫役、彦星役それぞれの投票数を合計した数で決まる。つまり、ベスト織姫、ベスト彦星が居なくとも、優勝出来る仕組みである。とはいえ、ベスト織姫、ベスト彦星が不在の組が優勝した歴史など一度もない。大体は、圧倒的なベスト織姫、ベスト彦星が存在しており、そこが投票を独占する構図だった。


「えー、ありがとうございます。はい、織姫役の紹介が終わりました。それでは、ベスト織姫選定の投票を実施いたします!! 観客の皆さん、お手元のスイッチを間違えないよう押してください!!」


 一通り織姫役の自己紹介が終わった後、司会者がそう言うと、電光掲示版に名前と番号が四人分表示される。①:美馬梓、②:脇一志、③:水天宮円、④:緋緒怜美である。

 ピピピ、と大講堂内に居る二百名が、その四人に対して、各々投票を実施する。

 投票数の結果発表は、彦星役の投票が終わってからなので、まだ表示されていないが、全体の投票数だけは表示されている。

 ピピピピピ、とアラームのような音が鳴り響き、全体の投票数が200票を計上した。内訳は分からないが、これで織姫投票は終了だ。


「…………ほぅほぅ、これは接戦のようですね――と、さて、それでは次に、彦星役の紹介をお願いいたします」


 司会者と催事実行委員の一部、裏方のみが投票状況を確認出来ており、投票結果に息を呑む様子が感じられた。だが、その結果は口に出さず、司会者は為我井淑可に手を向ける。


「改めまして、こんにちは!! アタシは、二年連続『ベスト織姫』で、同時に、織姫・彦星コンテスト連続優勝者――『為我井淑可』です!! 今年は彦星として、是非『ベスト彦星』になりたいと思っていますので、よろしく!!」


 為我井淑可が不敵な笑みを浮かべながら、観客に全身を見せるように自己紹介した。かなり強い拍手が巻き起こる。

 そんな演出に対して、同じ顔なのに不貞腐れたような表情を浮かべた為我井優華が、口火を切る。


「はいはいはいっ!! アタシは、いま紹介された生徒会会長の妹で『為我井優華』ですぅ!! 不肖の姉じゃなくて、是非、アタシに投票をお願いしますっ!!」


 為我井優華のその自己紹介に、悪意こそないが、ブーイングが起きていた。わたしは呆れた顔で溜息を漏らしてから、気持ちを切り替えて柔和な笑顔を浮かべる。


「――改めまして、わたしは『鳳仙綾女』と申します。慣れない舞台で、決勝まで残れて感無量です。彦星役として、出来る限り尽力いたしましたので、どのような結果でも充分な思いです。皆さん、ここまで選んでくださり、ありがとうございます」


 噛まないように意識して、わたしは自己紹介を終えると頭を下げた。すると、観客の中から、鳳仙様尊い、という呟きが聞こえてくる。それを無視して、阿部太郎が自己紹介していた。

 わたしは大講堂内のステージ上に設置されている時計を見る。

 時刻は、十九時十五分を回っている。外もだいぶ暗くなっている様子が窺える。


「うぉ――彦星も接戦、え? ってか、これは……なるほど……凄い、結果だ――」


 投票が終わり、司会者が結果を見て驚いた顔を浮かべている。その結果を、いまや遅しと観客たちが固唾をのんで見守っている。

 しばしの静寂。その裏で、ステージ中央で並ぶ四組の前に、表彰台を設置する催事実行委員たち。

 表彰台は、優勝、準優勝、三位、の順番で段差があり、その横に控えた催事実行委員の手には、トロフィーとアクリル楯、メダルが用意されていた。


「…………緊張、しますね」


 準備されている様子を見て、水天宮円がそんな呟きを漏らしていた。

 わたしは望む結果が得られているので、もはやどうでもよい気持ちで、むしろ表彰されるような事態は嫌だな、とまで考えていた。


「――――はい。それでは、集計結果を発表します。まず『ベスト織姫』は――」


 その時、司会者が満を持して、観客席を見ながら声を上げた。ステージ上に一瞬、独特な緊張が走った。

 果たして、司会者の語る名前は、思わぬ相手だった。


「組番号『つ』、緋緒怜美さん!! 有効投票数62票、僅差での『ベスト織姫』だぁ!!」


 なにぃ、と美馬梓がドスの利いた低音と凄まじい形相で、緋緒怜美を睨み付けた。

 それを涼し気に流して、緋緒怜美はニッコリと観客に笑顔を振りまき、頭を下げた。


「ちなみに、次点は水天宮円さんで、有効投票数59票でした。その次が、美馬副会長で、有効投票数57票! 稀に見る接戦!! 素晴らしい勝負でした」


 司会者の紹介に地団駄を踏んで、美馬梓は悔しそうに拳をぶつけている。

 この結果にわたしが思うのは、美馬梓は今回、少し喋り過ぎたのが敗因だと思う。喋らなければ、きっと投票はもっと伸びたに違いない。


「……少しだけ、残念です」

「確かに――水天宮さんがもう少し馴染んだ頃であれば、きっと結果は逆転していたでしょうね。来年はきっとベスト織姫、狙えると思いますよ?」


 どことなく恥ずかし気な水天宮円に、わたしは忌憚ない意見を述べた。

 初出場で、しかも転校してきて日が浅いうえに、知名度もなかった水天宮円が、ベスト織姫二位というのは、偉業過ぎるだろう。ちなみに、選出された緋緒怜美は、なんだかんだと為我井淑可の後釜と言われるほどの逸材で、その美貌は水天宮円に決して引けを取らない。


「そして、次は『ベスト彦星』!!」


 緋緒怜美が『ベスト織姫』のメダルを首に掛けたのを見計らってから、司会者が言葉を続けた。


「組番号『い』、為我井淑可、生徒会会長!! 有効投票数、64票!! こちらも、次点とは僅か2票差!! ちなみに、次点は鳳仙様っ!! 投票数、62票。で、次が阿部太郎くん、有効投票数、48票!!」


 わたしはその結果を聞いて、ホッと安堵の吐息を漏らす。これ以上目立ちたくなかったので、ベスト彦星なぞ受賞しないで済んで良かった。

 ――と、そう考えてから、ハッとして顔を上げる。すると、同じことに気付いて、為我井淑可もわたしに視線を向けていた。


「……あれ? 合計数が、同数の時って……じゃんけん、でしたっけ?」


 当然、水天宮円もそれに気付いた。わたしは苦虫を噛み潰した顔になりそうなところを必死に抑えながら、苦笑交じりに為我井淑可と司会者を交互に見る。

 図らずも、最後の最後まで目立つことになりそうだ。これは憂鬱である。


「皆さん、いまここで、三位が決定しました!! 三位は、組番号『つ』、織姫役『緋緒怜美』、彦星役『阿部太郎』の組み合わせで、投票数110票です。盛大な拍手をお願いします!!」


 わぁ――と、大盛況の中、拍手が巻き起こり、その喝采を浴びながら、緋緒怜美と阿部太郎が表彰台の三位に上る。そして、催事実行委員から三位入賞の楯を授与された。


「そして、いまここに、織姫・彦星コンテストの歴史上で、史上初のことが起きた!! 同数の121票が二組、存在しているっ!! 組番号『い』、織姫役『美馬梓』、彦星役『為我井淑可』と、組番号『り』、織姫役『水天宮円』、彦星役『鳳仙綾女』だぁ!!」


 司会者の宣言に、大講堂内はスタンディングオベーションと大歓声で溢れる。耳を劈く絶叫とはこのことか、わたしと水天宮円はあまりの音量に眉を顰めた。

 一方で、悔しそうな顔で、美馬梓が表彰台前に進み出た。腕を組んで、漲る闘気を放ちながら、わたしたちを睨んでいる。その傍らで、為我井淑可も真剣な顔をして、挑む気概の視線を向けている。


「えー、今回の織姫・彦星コンテストでは、同数の場合、じゃんけんでの勝負が適用されます。つまり、優勝決定戦は、代表者同士のじゃんけん勝負に持ち込まれました!! ちなみに、これで水天宮さん、鳳仙様コンビが勝った場合、これまた史上初、ベスト織姫、ベスト彦星不在の総合優勝という快挙が達成されます。是非是非是非、歴史を刻んで欲しいっ!!!」


 司会者がそんな口上と共に、わたしたちに視線を向ける。いっそうの大歓声が巻き起こり、凄まじい熱気が集中する。

 わたしは心の底から、疲れた、と溜息を漏らして、水天宮円に顔を向ける。


「……じゃんけん、わたしが出ても?」

「あ、もちろん。お願いします」

「ちなみに――負けても、許してくださいますか?」

「ええ、大丈夫です。鳳仙さんのおかげで、ここまで来れたのですし、そもそもわたしは優勝に拘っていませんよ」


 わたしは水天宮円から負けることの許しを貰ってから、よし、と気合を入れた。

 正直、わたしの反射神経があれば、じゃんけん勝負など勝つも負けるも自由自在だ。拳を出す瞬間に、指の動きを読み取れば、相手が何を出すか容易に読み取れるのだから――

 わたしは緊張した面持ちで美馬梓と対峙して、お手柔らかに、と頭を下げた。瞬間、衝撃的な宣言を聞いた。


「では、代表者二名による『目隠しじゃんけん』を行います!! パートナーの方、代表者の目を隠してください!」

「――――へ!?」


 わたしが深呼吸をして美馬梓を見詰めたとき、その視界が、背後の水天宮円により遮られる。わたしは動揺して、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「よし、じゃあ、行くぜ――――最初はグー! じゃん、けん、ポン!!」


 視界を遮られた状態で、美馬梓の元気の良いリズミカルな声が届く。

 わたしはそれに応じて、仕方なしに、グーを出す。確率的に、パーの勝率が高いという話だし、美馬梓は、グー、を強調していた。ということは、グーを印象付けて、パーを出してくれるはず――だが、もしこれで勝ってしまったら、それもまた致し方なしだろう。

 わたしは、諦観半分、祈り半分に拳を握り締めた。ポン、という声から先、しばらくの間、大講堂内がシンと静まり返る。


「――お見事」


 耳元に、水天宮円のそんな声が聞こえた。視界を奪われた暗闇に響くその声に、瞬間、わたしの脳裏には廃病院の出来事が思い出された。

 嗚呼、とわたしは納得して頷き、直後に、爆発したような大歓声が巻き起こった。


「――ここに、新しき歴史が刻まれたっ!! 今回の織姫・彦星コンテスト、優勝組は、組番号『り』!! 織姫役、水天宮円。彦星役、鳳仙綾女!!!」


 わたしの視界から手が離された。ゆっくりと後ろを振り返る。そこには、はにかむ笑顔で、勝ちました、とガッツポーズをする天女の恰好をした水天宮円がいる。

 わたしは、ふふふ、と苦笑を浮かべてから、天井を仰いだ。観客席からは、割れんばかりの大喝采と、絶叫にしか思えない称賛の言葉が飛び交っていた。


「優勝、出来ましたね」

「……ええ、優勝しましたね……」


 しみじみと呟く水天宮円に、わたしは心ここに在らずで答える。

 すると、チョキを出した右手を悔しそうに握り締める美馬梓を叩いて、為我井淑可がわたしに手を差し出す。


「負けたわぁ、綾女ちゃん。完敗よ。それもこれも、梓ちゃんを喋らせすぎたせいだわ。残念――まぁ、言うても、アタシは昨年、一昨年と優勝してるから特典は要らないし、妥協点の『ベスト彦星』は頂いたから、及第点だけどね。あ、でも、このコンテストとは別でやってる全参加者の中で、一番それっぽい織姫・彦星を決める人気投票では、アタシが勝つからね?」

「――本日の優勝は、ほとんど運ですよ? 水天宮さんが手伝ってくれなかったら、わたしじゃとてもとても――でも、ありがとうございます。凄く良い経験になりましたし、楽しかったです」

「もう、本当に良い娘だよねぇ! こりゃ、負けるわ。仕方ない――ま、でも、結果としてブックメーカーでは儲けさせてもらったから、こっちも感謝なんだけどさ」


 ししし、と口元を隠しながら笑う為我井淑可と固く握手を交わしてから、わたしは水天宮円と共に、優勝トロフィーと楯を受け取り、表彰台の一番上に上る。それを見てから、美馬梓と為我井淑可が準優勝の台に上った。

 表彰台に全員が揃うと、ステージ下から写真部のエースがパシャパシャと記念写真を撮りまくる。写真撮影を受けながら、わたしは水天宮円を横目に、さてどうするか、と頭を悩ませていた。


 どうすれば――水天宮円の背後関係を洗い出せて、その上で、彼女と本気の殺し合いが出来るのか。


「……まぁ、とりあえずは、明日か明後日の取材を乗り切らない、とですね……」


 わたしのそんな独り言に、傍らの水天宮円が苦笑しながら頷いていた。

 考えなければならないことは多いが、まだ焦ることはないだろう。どうせ、これに優勝してしまったからには、嫌でも当分、パートナーである水天宮円と行動することになるのだ。

 わたしはそんなことを考えながら、水天宮円に苦笑を返した。

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