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夢と現実とその狭間 10

「最近飼い主来ないんじゃない?」

「そーだね・・・」

最近の渉さんは忙しい様だ、アシスタントの子が付いたそうでその子の教育係をさせられていると言う。渉さんにはだいぶ不似合いな役職だ。

「その分じゃ、この家以外でも会ってないのね。」

うん、まぁ・・・

よく考えればここ最近が会いすぎだったんだと思う。元々僕たちは時間が合わず滅多に会えない関係だった。僕は社交界合コンに強制参加で、渉さんは泊まり込みで遠方やら海外なんてよくあったから。僕が合コンに行かなくて済んでいるだけ会う時間が増えていたけど、実際渉さんは愛さん並みに忙しいから、これが普通なのかもしれない。

「雑誌社のカメラマンじゃ忙しいか、」

「そーですね、愛さんなみなのかも。」

「じゃ、やがて人間失格になるわね。」

やめてよそういう言い方・・・いろんな黒い意味が含まれてるじゃん。

愛さんはお酒片手にケラケラと笑っている。

「火遊びしてないといいわね~。」

「やめてください・・・」

ほんと、やめてよ・・・

今までは何とも思ってなかったけれど、近しい人にそう言われると妙に気になるもんだと思った。それはこれまで僕たちの関係を知りえる近しい人ってのがいなかったせいもあるし、女の人に言われたってのもある。

渉さんはバイじゃない、ノーマルだ。本来なら女性を恋愛対象としている健全な男性。僕と会っていない時間に何をしているか、何を思っているかはわからない。

・・・珍しい、僕がそんな風に思うなんて。

どちらかと言えば今まで男女ともに散々振り回して捨てて来たのは僕だった。捨てるって表現は語弊があるけれど後腐れないように円満にふって来たのは僕の方。原因はいつも僕の移り気で、両性と同時進行なんて忙しいこともあったね。愛さんいわく全人類が恋愛対象、まさにだ。永遠を誓うパートナーを求めての恋愛じゃないもんだから、そりゃもう気分次第自由にとっかえひっかえで・・・こんなに長く続いたことも、対象が一人なのも初めてだ。

ちなみに愛さんは対象外。

愛さんの恋愛の仕方もどちらかと言うと僕よりだと思う、本命の日高さんが今はあんな状態だから仕方ないのかもしれないけど。日高さんが生きていたらもう少し素直でおとなしい女の人だったんだろうか・・・まず、ないか。

愛さんの場合は寂しさの裏返しなのかもしれないね、日高さんへの当てつけじゃなきゃいいんだけど。

そんな毎日でも渉さんはメールをすればちゃんと返事は返してくれる、でももうだいぶ声すら聞いてない。

この数日後、渉さんとは一回会って、そしてまた会えなくなっていた。

なんとなくだけど、渉さんが仕事の話をしなくなった気がした。今までずっと何かにつけて仕事の話を入れてくる渉さん、顔合わせの時だって渉さんが仕事の流れからお店を教えてくれた。愛さんの事だってそうだ。

たぶん、隠しているとかそんなんじゃないんだろうけど、なんとなく何かが違う気がしてた。

こういうのを女の勘と言うのかもしれない・・・なんてこった、これじゃいろんな意味で本当に猫だよ・・・なんか、落ち込んできた。

で、こんなことを思い始めてしまうと事態はよくない方向へと転がっていくもので・・・その日、僕は俗にいう大人の合コンに出ていた。

結婚してもこういう社交界と言う場所にはどうしても出なければならなくて、それは西洋風のパーティーだったり料亭だったり・・・居酒屋だったらどんなに楽か・・・

今日は西洋式のものだった。高級ホテルのフロアーでお酒を飲みながら形だけの名刺交換をして、くだらない話をする集いだった。どこどこの社長とか取締役とか、CEOとかそんな人たちがたくさんいてそりゃーもうビジネスの話やらゴルフやら接待やら業務提携やら・・・うちはグループ企業なので手広いから、いろんな人たちが売り込みに来るわけで、愛想笑いしてるのはやはり疲れます。

週末だし、どうせみんなこの後ここのホテル抑えてるんでしょ?

僕は家に帰りますよ、一応既婚者なんで。僕一人で泊まって夫婦不中説でも囁かれたら大変だからね、元も子もなくなる。疑われるようなことはしないに越したことはないね。

「ちょっと失礼します。」

で、疲れた時は電話のふりして会場を出てロビーなんかに行く。この時間は結構重要で、人酔いを醒ますにはちょうどいい。

「メッセージは、ないね。」

携帯を見ても渉さんからのメールはない、別にいつもの事だけど、期待した時にないってのは結構がっかりしたりしない?若い子供じみた恋愛なんてしてないんだけど、毎日メールしあったり電話したり愛してるなんて言葉を言ったりはしないんだけど、いったん不安になっちゃうと、ダメなんだね。

ちなみに愛さんからもないんだけどね。

愛さん明日休みだし、飲んで寝てるよね・・・

「どっちがよかったかな・・・?」

家とここ、どっちがよかったかなんて考えたら笑ってしまった。

こっちの方がマシかもね。

さて、戻るか・・・って思った時、聞いたことのある男の声に僕は振り返った。

「おい!メグ!しっかりしろ!!」

「はらしまさ~ん、」

僕の視界に入ったのは、渉さんと、小柄な女の子だった・・・

「おい!メグ!起きろって!」

「はらしまさ~ん、だいすきですよ~」

「そりゃいつもいつもありがとよ!っとにもぉ!」

女の子は完全に酔っぱらっているようで、渉さんはそんなメグと呼ばれる女の子の肩を抱えてエレベーターに向かっていた。こんな言い方をしたら反感を買うかもしれないけど、ここ、かなりいいホテルだよ?渉さんが普段使うような値段のホテルじゃない、出版社が経費で何部屋も抑えられるような、そんなホテルでもない。

僕は思わず、背を向けてしまった・・・

「はらしまさ~ん、いっしょにねましょ~」

・・・え?

「はいはい!わかったわかった!一緒に寝てやるから歩け!」

・・・・・・・え?

「ちゅ~しましょ~、ちゅ~!」

「お前こんなんで明日の撮影どーすんだよ!」

・・・もしかして、この子が、渉さんのアシスタント・・・?

まさか女の子だって思ってもみなかったから、ってか、なんでか全く疑う余地なく男だと思ってたから、女の子だったなんて・・・しかもこんなに若い女の子。

「メグ!起きろ!部屋に行くぞ!!」

その辺から僕はよく覚えていない気がする。

とりあえず合コンは無難にこなして帰ったようで、翌日僕が昼頃に起きた時、愛さんも同じ時間に起きて来た。

「おはよう、珍しいじゃないこんな時間まで。」

「おはようございます、」

きっと自分で思っているよりも深酒したんだと思う、頭痛いし・・・

「あれ、二日酔いなの?」

「みたい・・・」

僕は滅多に二日酔いなんてしない、愛さんに徹底的に飲まされたときは別として、ああいう大きい場所で飲む場合はそこまで飲むことはない。

「二日酔いになるほど飲むようないい子でもいた?」

・・・だったらいいんだけど。

昨日の事が頭の中をよぎって気落ちする。浮気なのか二股なのか、僕が遊ばれているのか、ただの仕事仲間なのか・・・だめだ、こりゃ重症だ。

愛さんは僕を見てふ~んと言う。

「朝ごはん食べます?今、作りますね・・・」

そう言ってキッチンに行こうとする僕の腕を、愛さんはがしっと掴んで、一言。

「ねぇ、デートしよっか!?」

・・・はい?

デート?

「二日酔いでしょ?朝ごはんなんて作らなくていいよ、外に行こうよ外!」

えっと、どっちかって言うと、あまり出たくはないんですけど・・・

僕の意見なんてまず通らずに、愛さんは僕にさっさとシャワーを浴びて着替えてくるように言う。こうなった場合は従うのが一番なんで、従いましょう・・・

シャワーを終えて着替え、では、と車の鍵を取った僕の手から愛さんがその鍵を抜き取った。

えっと、どういう事でしょうか?

「運転させてよ、猫ちゃんの車。」

はい?

「いいけど、マニュアルだよ?」

運転できます?

そんな僕にお構いなしで、愛さんは高いヒールを履きだした。

「あら、私の車もマニュアルよ?」

そーですか、ご存じなかったです。なら、問題はないってことで。

「では、どうぞ。」

これもまた反論はできないと言うことですね。

この自由奔放な女王様は僕の法的な奥さんで、実際に僕たちは同居しているわけで、でもそこには何の恋愛感情はなくて・・・・・なんだかちょっとだけ、面白くなってきた。

玄関に並ぶ鍵はまるで対照的、赤い金魚のストラップが付いた愛さんのカギに比べ黒い革のベルトだけが付いた僕のカギは何も面白みがなくて少々武骨だ。何か、つけようかな・・・?

秋めいた街中を僕は自分の車の助手席から眺めた、その光景はちょっと新鮮で思わず外を眺め続けてしまう。愛さんはちょっと楽しそうに運転していて、よくもまぁそんな靴で運転できると思うよ。


着いたのは、あのコーヒーショップだった。

偽装結婚の打ち合わせの為に待ち合わせたカフェ、渉さんと愛さんの初顔合わせの場所・・・

僕たちはあの日と同じテラスの席に座った。

暖かい木漏れ日はこれからもう少し気温が上がると教えてくれる。少し隙間が多くなってしまった木々の間を小さな鳥たちがせわしなく飛び回っていた。

みんな忙しいんだね・・・

今住んでいる愛さんのマンションもそうだけど、愛さんは都会よりもこういう場所が好きみたいだ。イメージとあまりに違うけど、実際人間なんてそんなもんなのかもしれない。全部知っているように思っていても、自分が見ている姿がすべてとは限らないのかもしれない・・・

で、そんな愛さんの事でまた一つ知ったことがある。

「愛さん、結構な甘党ですね・・・」

「そう?」

はい、だいぶ。

あれだけの酒飲みだから、甘いものとか好きじゃないんだと思っていたけど、今愛さんの目の前にあるのはブラックコーヒーとクリームが添えられているシロップたっぷりのサバランだ・・・見ているだけで歯が痛くなるんだけど。

「お酒の時には食べないけど、コーヒーや紅茶の時はこんな感じよ?」

この人にはきっと固定概念は通じないんだ。今度、ケーキ買って帰ろうかな・・・

「仕事中は甘いの結構食べるかも、チョコレートが多いかな。技術屋と言えど案外頭使うみたいでね、糖分は必要みたいなの。」

そりゃそうだよね、頭だけじゃなくって体力だって必要だ。テレビとかでしか知らないけど、手術って何時間もかかるんでしょ?立ちっぱなしで集中しっぱなし。

寝起きの時は食欲なかったけど、愛さん見てたらなんとなく気が抜けてきて、少し、落ち着いた気がした。

土曜の昼の公園はカップルや家族連れが多くてみんな幸せそうだ、みんな楽しそう。そんな行きかう人たちをぼーっと見ていたら、愛さんが声をかけて来た。

「ねぇ、私たちってどういう風に見えるのかしらね。」

「・・・えっ?」

愛さんが同じように行きかう人たちに目を細めて微笑んでいる。

「友人か姉弟か、恋人同士か、夫婦か。」

夫婦に、見えるのかな・・・

「たとえどんな風に人が思ったとしても私たちは法的に夫婦、一緒に暮らしてるし財産も共有している・・・でも、愛し合ってはいない。」

愛さんの言葉に、僕は黙った。

「法的に繋がっていたとしてもそれは所詮紙切れ一枚の話、心がよそを向いていたってそんなことは見た目ではわからない。」

まさに、僕たちの事だ・・・

「私のお利口な猫ちゃんは、体は私の物であっても心は私の物じゃない・・・ねぇ、あんたの飼い主、何してるの?」

見破られたか。

僕はしばらく黙ってしまう、昨日の今日だ、すぐに整理はつくもんじゃない。かと言って昨日の事をぺらぺらと口に出して同意を求めるほど若くもない。何かの間違いであってほしいと思っている以上、口にしたら、本当の事になるような気がして・・・

「昨日何かあったんでしょ?でなきゃあんたが私より遅く起きるわけないもの。」

「・・・もしかして愛さん、結構早く起きてました?」

「まーね、昨日疲れてそのまま寝ちゃったの。起きても朝ご飯がないから寝直したのよ?」

「それは失礼しました。」

そこは、作ることはしないんだね。

「聞き流してあげるから言いなよ、あなたがバカおやじの事で愚痴を言ったり相談できる相手なんてこの世に私以外いないでしょ?聞いてあげる。」

愛さんはそう言うけど、僕を見ることはしなくって、流れゆく人の姿を見つめていた。そんな姿はとっても器が大きくって、頼もしくって、大人だなって思った。大人の気遣いだ。

僕は、少し考えて、昨日の事を口に出した。

「昨日、会場となっているホテルで偶然渉さんを見ました。」

「はぁ?あんな高いホテルで?」

驚いた愛さんが咄嗟にこっちを向いた。

「僕も最初は人違いかと思ったけど、渉さんで、かわいい女の子を連れていました・・・」

不思議な事に、一度口に出してしまうとどんどんと言葉があふれてきて、どんどん感情があふれてきて、止まらなくなってしまって、どうしてこんな風に思っているんだろうとか、渉さんに対する想いとか、嘘であってほしいと思っていることも、どこかで本当なんじゃないかって思っていることも、全部が口から出てしまって・・・愛さんは最後まで黙って聞いていた。

「意外。」

「えっ・・・?」

「猫ちゃんがそんなに入れ込んでるって思ってなかったから、意外。」

「・・・自分でも、そう思います。」

数年前の僕ならきっとすぐに乗り換えるか他に手を出す正当な口実にした思う。

「私、猫ちゃんってもっと軽い恋愛をする子だと思ってた。愛し合っているんだろうなーってのはわかってたけど、たまたま今の飼い主との関係が長いだけで、そのうち違うの連れてくるんじゃないかってちょっと期待してたのよね。男だけの三角関係とか面白そうだし。」

それはちょっと重いかも・・・

「好きなんだね、本当に。」

そういって、愛さんは僕を見て笑った。

「子供みたいだってわかってるんです、会えなくて不安になるとか、会いたくて不安になるとか、仕事が忙しいのは知ってるし、僕のように定時の仕事じゃないのもわかってます。会えないから寂しいとかそんな不満は今まで抱いたことはなかったし、会えなければ他で遊べばいいって思ってました。でも、どーにも、渉さんに対してはそんな気になれないんです、惚れた弱みかもしれないけど、それでも今回の僕はひどすぎます。自分でも気持ちの整理がついていない中昨日の事があって、自分でも情けないくらいにへこんでます。渉さんの事は信じてますけど、自分の付き合っている人が他の人を連れているのを見たことがなかったから、こんなにショックだとは思いませんでした。」

情けない顔をしているだろう僕を見て、愛さんはやれやれとコーヒーを飲み干した。そして店員さんを呼んで二人分のコーヒーを頼む。

「今までのお遊び相手全員に謝罪しなさい?同じ想いをさせたんだから。」

はい、反省します・・・

散々遊んだ皆さま、申し訳ありませんでした・・・

心より反省しております・・・

愛さんはくすっと笑った。

「私もあまり人の事言えたもんじゃないのかな、夜の街はそれなりに楽しいから。でも、本当に人を好きになるってのは今の猫ちゃんみたいな事なんだと思うよ?楽しくって幸せなだけじゃない、喧嘩もするし不満も抱く、それが普通なのよ、だって相手は他人なんだから。どんなに愛していたって、たとえ家族であったって自分以外の人間を本当に理解するなんてできない、初めから無理な話なの。だから100%は理解しない、1割から2割は余白を持っておくんだってどこかのばぁちゃんシスターが言ってた。そうすれば自分の意と反したことがあっても理解できるし許せるんだって。まぁ、許せるかどうかは別として、そんなもんだよねってぐらいは思えるのかもね。」

僕はきっと、渉さんの全部を知った気になっていたのかもしれない。

「相手の事、わかったつもりで黙っていたらずっとそのままよ?自分から聞かないと。アシスタントの事もそう、あなたが聞かなかっただけで飼い主側には隠す意図はなかったと思うわ。そもそもそんなに器用な男じゃないもの、隠したり嘘ついたりなんてできないよ。」

そうだね、僕が聞かなかっただけだ。

「変な意味なんてないと思うんだけどなー。」

愛さんはまたケーキを食べている。

「ねぇ、今日来れないか聞いてみてよ。」

「えっ!?昨日の今日で!?」

ハードル高くないですか・・・?

心の準備が・・・

「ピザが食べたいんだけど。」

これは、お嬢様が来いと言っていることは伝えないといけないパターンだ。

でも・・・

「いいから呼びなさいよ、来るか来ないかは別なんだから。面白い事思いついちゃったんだ~。」

非常に危険な香りがするっ!


で、夜、渉さんは愛さんに言われた通りピザをもってやって来た。

明日は日曜日、僕は休みだけど・・・

「お嬢!お前が無理言うから逃げて来てやったんだからな!」

「あら、逃げたかったんじゃないの?」

「そりゃそーだけど・・・お前と会うぐらいなら樹と会ってるっつーんだ!」

「何でよ、猫ちゃんもいるじゃない。」

「そーじゃねーっつーの!」

渉さんはキッチンに立つ僕の後ろを通って冷蔵庫を開けてビールを取る、すれ違いざまに僕の頭に手を置いて、なぁ?と同意を取って来た。

僕は、複雑な想いながら、笑って返して、渉さんは愛さんの前に座って二人はあーだこーだと言い合いを始めた。

「あんた最近忙しいじゃない、何してんの?」

「何してるって仕事だろ!?」

「ふーん、仕事ねー、」

「なんだよそれ、今俺がどんだけ忙しいかわかってねーだろ!?」

「わかってるわよ、見たもん。」

ちょっ!!!!愛さん!?

狼狽える僕の事なんておかまいなしで深酒二人はどんどんと進んでいく。

「今のアシスタントって女の子なんでしょ?」

「そーだけど、それがどーかしたのかよ?」

あっ、あっさり認めた。やっぱり隠していたわけじゃないんだね・・・

「かわいい子じゃない、まだ若いでしょ?」

「ん?22歳ぐらいじゃなかったかなぁ・・・ってそれがどーかしたかよ!?ってかお嬢お前何で知ってんの!?」

「ふ~ん・・・」

ワイングラス越しに渉さんを見つめる愛さんがニヤニヤしてる・・・これは、爆弾が投下される予兆だ!

「そんな若い女の子ぐっだぐだに酔わせてホテルに連れ込んで何してるのよ?」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

渉さん絶叫。僕は、硬直・・・

「たまたま用があって行ってみたら、誰かさんが可愛い女の子連れてるんだもん、見ないわけないじゃない?しかも大きな声で大好きだの一緒に寝るだの、恥ずかしいったらありゃしない!」

「お嬢、お前マジでいたの!!!?」

「猫ちゃんかわいそー、ねー。」

愛さんが思いっきりニヤニヤしながら僕にふって来た!

「樹!誤解だからな!!メグとはそんなんじゃない!」

「往生際が悪いわよぉ?同じ部屋にいて何もないわけがないじゃない?女の子の方は相当あなたのこと好きそうだったし、」

「違う!樹違う!お嬢!お前変なこと言うんじゃねぇ!!」

「いいわよいいわよ、猫ちゃんは私がちゃんと飼ってあげるから。ささっ、親権を渡しなさい?」

「なんだってぇ!!!?」

「ちょ!?愛さん!渉さんも落ち着いて!」

渉さんは絶叫して立ち上がり、愛さんは面白そうで、僕は慌てて渉さんの横に行って座らせる。この二人!完全に酔っ払い同士のテンションなんですけど!?

「そもそも男同士なんて非生産的なのよ、これでちょうどいいじゃない?ねっ、猫ちゃん?」

「愛さんちょっと待って!」

「お嬢てめぇ!俺の事強請ってんのか!!?」

「失礼なこと言わないでよ、事実を言ったまでだわ。誤解だと言い張るならちゃんと猫ちゃんに説明したら?私はどっちでもいいわよ~」

「樹!!お前まさか信じてねーだろうな!?」

「えっ!?えっと・・・・」

信じてないと言うか・・・僕が昨日見たことだし・・・

ちょっと答えに詰まって、目を逸らしてしまって、そしたら渉さんがとうとうキレてしまって再び立ち上がってしまった。

「おい樹!!ちょっと待てよ!メグとはそんなんじゃねー!!!」

わかってるんだけど・・・素直に、想いが口にできない。

「ほらほら、ピザも来たことだし、後はあなたたち二人で話してきたら?ここで大騒ぎされたら私は寝れないじゃない。」

「お前が事を荒立てたんだろーっ!!」

「渉さん落ち着いて、」

「はいはい、猫ちゃん行ってらっしゃーい。」

「行くぞ樹!!!」

「えっ!?ちょっ!?」

僕は携帯すら手にすることもできないまま、鍵だけ何とか手に取って僕の家に向かう。

車中、微妙な空気のまま一言も発しないまま、家の中に入って玄関を閉めるなり僕はリビングに引っ張られて床に押し倒された。

「ちょっ!渉さん落ち着いて!」

これじゃ僕強姦されてるみたいじゃん!

いきなりベルトを外されて服まくり上げられて荒く触られて口づけされて、のってきちゃう僕はやっぱり変態かも。苛立っているせいもあり、久しぶりだってのもあり、僕も、恋しかったってのもあって・・・頭おかしくなりそうなぐらい感じてた。

疲れ果てて息を荒げて汗だくで、二人とも床にひっくり返って・・・ダメだ、立てないよ。

どうしようか・・・

何を話せばいいんだろう・・・

それよりも、話す余力はなくって・・・なんて思っていたら渉さんが怠そうに体を起こして、僕を抱え上げる。

「ちょ!渉さん!?」

僕はそのまま担がれて、ベッドに下された。そんな僕の上に倒れ込むように渉さんが覆いかぶさってきて、口づけをした。そして口を放すと僕の事を抱きしめて、顔を僕の顔の横にうずめた。

渉さんの心臓の音が、とても強く感じた。

「・・・見たの、お前だろ・・・?」

「・・・はい・・・。」

静かな会話だった。

まだ息も落ち着かなくって、血圧も上がったままで、そんなに長い話はできなかった。

「だと、思ったよ・・・」

「すみません・・・」

「いや・・・」

渉さんはそう言って、頭をあげて僕を見た。その顔はなぜか、笑ってた。

「ちょっと、うれしかった。」

・・・うれしい?

僕には意味が分からなくって、じっと渉さんを見つめてしまった。

「やきもち妬いてんだって思って、ちょっとうれしかった。」

なんだか、自分が情けなくって、渉さんの顔を見ることができなかった。

「正直俺はお前に遊ばれてるんだと思ってた、女でも同性愛者でもない普通の男の俺に声をかけて来たのはお前の気まぐれだと思ってた。からかってるのかとさえ思ったよ。もしそうだったら俺も人生経験の一つとして積んでみてもいいかなって思って了承した。まぁ、出だしはそんなもんだ。」

なんとなくそうじゃないかとは思ってた。じゃないと普通は乗ってこないだろう。ノーマルな男性が、ゲイだかバイだかな男に付き合ってほしいと言われて引かないわけがない。しかも出会って早々にだ。

「でも、俺は途中で本気になっちまって、いつこの関係が終わるのかってちょっと気になってた。法的に束縛されることのない関係じゃ本気になる必要もない。お嬢との結婚話もお前がより遊びやすくなるための道具なんじゃないかと勘ぐった。会えない時間が長くなれば長くなるほど、捨てられる気がしてなぁ、お嬢に乗り換えるんじゃないかって思って、出来るだけ早く仕事を終えて時間作って会わねぇとって思って、おかげで俺の仕事効率は格段に上がったんだぜ?」

ケラケラと笑う渉さんの口に今度は僕から口づけをして、渉さんを見つめた。

「僕も、同じでした。渉さんに遊ばれているんだって思ってました。愛さんに言われました、僕はもっと軽い恋愛をしてるもんだと思ったって。確かにそうでした、渉さんに会う前は男女自由に相手にしてた。興味がわいたら声かけて抱いて、関係がめんどくさくなったら次に手を出して、そんな最低な事ばかりやってました。いっぱしの肩書があるにもかかわらずよくすっぱぬかれなかったと今でも思うよ。でも、渉さんは、最初っから違った。僕は最初っから本気だった。だからこそ余計にどうしていいのかわからなくって、こんなことになってしまいました。」

もう、笑うしかないよね。

想いってのは黙っていても通じるものだとどこかで思っていて、でも結局は通じていなくて、そのせいであらぬ誤解を生んでしまう。想いは口に出して伝えなければ伝わらない。愛さんの言う通りだ。文字ではなく、声にしなければ通じないんだ。

僕は愛さんにはきちんと気持ちを口にできている。でも、渉さんにはできていなかった・・・それはきっと特別大切に想うがゆえに、今の関係を悪化させないために、怖がって出せなかったんだ。それじゃ本当の意味で対等ではない。

「なんだ、同じじゃねーか。」

渉さんは起き上がって煙草に火をつけた。

ベッドサイドにある煙草と灰皿は渉さんのためだけのもので、常にそこにある。それ自体が特別である事すら僕たちは気が付いていなかったんだね。

「メグはな、いつだったかな、最近から俺に着いた見習いみたいなもんだ。初めて任された撮影を全ボツにされて、俺の写真を見て来いって部長に言われたみたいでな、ある夜忘れ物取りに戻ってみた俺のデスク漁ってやがったんだよ。で、俺の写真が好きだって言うから、一回だけのつもりで同行させたら毎回くっ付いて来るようになっちまったってわけだ。素直でいい子なんだがな、なんせドジと言うか、おっちょこちょいと言うか、落ち着きがないと言うかぶっ飛んでると言うか・・・手に負えなくって面倒見てやると自分の仕事が全く終わんねーんだよ。で、この間ずっと帰れてねーってわけだ。」

そうだったんだ・・・メグちゃん、だいぶお騒がせな子なんだね。

「あのホテルはたまたま新しいチャペルの撮影を依頼されていてご厚意で泊めてもらったんだよ、もちろん俺とメグは違う部屋だし、他に同行してる奴らもいる。メグはもう一人の女記者と同室だ。あの時は本当に最悪だったんだぞ!?見たと思うけどメグが飲みすぎてべろんべろんになっちまって翌日二日酔いで、当然俺との会話も覚えてねーし飲んでる最中から全く記憶もないんだとよ。俺は全然飲めなかったっつーの!」

笑う僕に、渉さんは笑い事じゃねぇよと笑う。

渉さんも中堅の年齢だ、アシスタントが付くのはごく普通の事、部長に若い子押し付けられてるぐらいなんだからやっぱり腕のいい写真家なんだね。

「ねぇ、渉さん。どうして見たのが僕だってわかったんですか?」

「そんなのすぐにわかるだろ!?」

いや、僕にはわからないんだけど・・・?

「お嬢なら絶対その場に突っ込んでくる、こそこそ隠れて見る様なことは絶対にしねーよ。」

こそこそ隠れて・・・その表現をされると非常に女々しい。結果的にはこそこそ見てたことにはなるんだろうけど、僕、そんな男じゃなかったはずなんだけどなぁ。

「なぁ、樹、お前明日休みだろ?」

「日曜日だからね。渉さんは?仕事でしょ?」

「いや、お嬢に呼び出された段階で明日は二日酔いだと覚悟したから、休み取ってメグを押し付けて来た。」

それは結構なゲリラ作戦じゃないのかな・・・

「だから樹、今日の夜はすっげぇ長げぇんだよ?」

そういうと渉さんは再び僕の上に覆いかぶさって口づけをする。僕はたばこは吸わないけれど、渉さんの煙草の香り、嫌いじゃないんだ。

翌日昼過ぎに帰った僕たちの前には、愛さんがいた。

「おかえりなさい、随分と御前様ねぇ。楽しかった?」

「お嬢!お前仕事は!?」

「休みよ?」

「だってお前!昨日寝れないからって俺たち追い出しただろ!!」

「そのままじゃない、仕事だからとは言ってないでしょ?あんたたちがどんな姿で帰ってくるのか見たくって待ってたのよ。万が一腰が立たなくって歩けなくなってたら妻として夫を迎えに行かないといけないでしょ?男二人が素っ裸で転がってるのを見るいい機会だと思ってね。」

僕と渉さんはドン引きで、愛さんは何事もないかのように立ち上がって玄関に向かった。

「じゃ、私はランチしてくるから自由にしててね。ちなみにこの家ではやらないでよ!?」

玄関にある鍵を持って出て行く愛さん、僕たちはそんな最強女王様を見送る、ただの下部。

「・・・樹、お嬢とだったらやってもいいぞ、浮気とはカウントしねーから。」

「恐れ多くて、遠慮します。」

「俺も、お嬢の裸見ても立たない自信がある。」

「それは、良かったです・・・」

愛さんのように思ったことは素直に口にしないといけないのかもしれない。ただその場合、友達はだいぶ減るのかもしれないけど、僕も友達少ないから、いいのかな・・・?

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