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11、次のステージへ

 屍アニマル軍団は残る5体。

 虎の骸骨を討ち取った連携魔法は素直に賞賛するも、それが彼らの限界だ。即席でたまたま運良く1体仕留めただけだった。


 距離を詰められ気がつけば並走されていた。

 犬、本間、蛇、根岸、像、メガネ君、サイ、荻原、ダチョウの順に並び、このまま挟み撃ちだ。焦りを見せる彼らとは違い、屍アニマル軍団は鼻で笑い飛ばしそれぞれが牙を剥いた。

 本間が蛇にやられた。


「ちくしょう……っ!??」


「「「本間っ!!」」」


 本間は落馬して転げ回る。強襲を受けて驚いて逃げてしまった<ゴーレム>を気にしている余裕もなく、腕には今もがぶりと噛み付いて離さない蛇をなんとか振りほどこうとするも徐々に体力が落ちてきた。

 毒が回ってきた証拠だ。


「行ってくれ、皆。コレは自分がなんとかする……っ!!」


「わかった!! 頼んだぞ!!」


「本間、ごめん……っ!!」


「くそ……っ!!」


 体長は10mはあるだろうか、アナコンダ以上のバケモノは本間の腕を噛み付きながらトグロを巻く様に本間の身体を締め付けていく。


 尚、締め付ける際、蛇は骸骨だから尖った骨が本間の身体に食い込み、身動きも取れないし抵抗することも、もがき苦しむこともできない。


 メガネ君たちは彼を見捨てるしかなかった。でも、信頼はしていた。彼に蛇を託したのだ。


「自分は……このクエストが終わったら、あの子に告白するんだ……だからお前だけは絶対に倒してみせる……っ!!」


 たとえ指1本動かせなかったとしても魔法を放つことはできるだろう。

 本間のもっとも得意とするのは物体に熱量を与えることだ。<熱伝魔法>は指一つ動かさなくても、詠唱すらしなくても可能な魔法だ。


 さあ、毒が回って先に息絶えるか、絞め殺されるのが先なのか、それとも熱量によって骸骨を燃やしてみせるのが先なのか……


 結果は、本間は息絶えても蛇を燃やし道連れにすることに成功した。

 メガネ君たちは燃えて灰になる1人と1体を後方で確認した。


「あいつは立派だった……っ!!」


 残る屍アニマル軍団は4体となった。


「だけど、くそっ……このままじゃ本間に合わせる顔がねぇぞ!!」


「駄目だ、ダチョウが素早すぎる!! 悪い水原、もうちょっと持ちこたえてくれ……っ!!」


「死ぬなよメガネ……っ!!」


 メガネ君は像とサイのザウルスの猛タックルを喰らい続けていた。カーチェイスの如く振り落とされないように態勢を維持し猛撃を耐え凌ぐしかできない状況下だ。魔法を放つ余裕すらない。


 そして、左腕が無い……


 メガネ君の援護をしたいものの根岸と荻原は両端にいた犬とダチョウに苦戦していた。

 魔法が一向に当たらない。俊敏過ぎるのだ。


「頼む、当たってくれ!!」


「くそくそくそくそくそくそくそっ!!」


 騎乗しながら動くターゲットを撃ち抜く高等なテクニックなど彼らになかった。それどころか、その2体はさらにスピードを上げていく。


「おいおいおい!! どんどん離されていくぞ!!」


「だけど、これが全速力だ!! とても追いつけない!!」


 犬のスカルごん太やダチョウは彼らを相手にしない。どんどん引き離されていった。


「お前の風属性の魔法ならさらにスピードアップできんじゃねーのか!?」


「可能かもしれない。だけど……それはできない」


「なんでだよ!?」


「罠かもしれないだろ……っ!!」


 連携を取る彼らを引き離す作戦だったかもしれない。


「じゃあ、あの2匹は放っておくのかよ!?」


「あぁ、アレはアチラ側に任せるしかないな。川まで持ちこたえればあの面子でも勝機はあるんだから……」


「あんな作戦本当に成功するのかよ……と言いたいけど、もうそれに頼るしかねーか……」


「神頼みだけど、こちとら水原を今ここで失うわけにもいかないと俺の第6感が囁いてるんだ」


 だから、2人は回れ右をした。

 根岸は再び<土槍魔法アースジャベリン>を詠唱した。狙いは点数の高そうな像の方だ。


「やっべ~、メガネに当たったらシャレになんねーよな……?」


「大丈夫だ。俺が軌道修正するから思いっきりやってくれ!!」


 そして、放たれた<土槍魔法アースジャベリン>は像の手前で着弾した。


「やっべー、手元狂った……なんちゃってな!!」


「これが俺たちの伝説……1本目は目くらましのフェイクだったわけさ!!」


 像が怯みそこを本命が襲う。真上から2本目の<土槍魔法アースジャベリン>が降ってきた。荻原の<風速魔法エアージェット>で加速させる。


 これで3体目……彼らに倒せる駒とは所詮、私も彼らと同じレベルなのだろう。

 見事、像を撃破した彼らはその勢いに任せてサイのザウルスにも狙いを定めた。しかし、彼らの快進撃もここまでだ。

 ザウルスの<雷弾魔法>が根岸の上半身を消し飛ばした。


「くっ、俺たちの伝説もここまでか……!!?」


 雷撃の咆哮。それは荻原の下半身を消し飛ばすには十分の威力を誇っていた。余波でメガネ君の乗っていた<ゴーレム>が吹き飛びメガネ君は落馬した。


「荻原、援護できなくてゴメン……」


「ふっ、水原……俺たちの伝説……あとは任せたぞ………」


「あ、あぁ……っ!!」


 彼らは本当によくやった。

 エリート集団ならもっとスマートに勝利を手に入れることができていたのだろう。スマートに雷撃も回避してエレガントに犬たちも取り逃がすこともなくプロフェッショナルに蛇一匹にも苦戦することもなかっただろう。

 だが、今戦っていたのは紛れも彼らだ。

 その勇姿は否定してはいけない。


「残るはオマエだけなんだな、メガネ~」


「残りは君一匹の間違いだね。次の魔法で終わりにしよう」


 メガネ君の左腕は消し飛んでしまっていた。

 しかし、無い左腕を伸ばして、さもそこにありなんと相手に左掌を突きつける。キメ細やかな氷の粒子が光に反射し左腕を作って魔力を解放した。






☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 場所は変わって強行軍。

 生存者24/245名。その内、強行軍は18人……そんな彼らにも試練が襲った。ケムルズの町まで残り数キロにまで差し掛かったところである。


「ひっ、後方から敵が2体接近……っ!?」


「あのメガネ、かっこつけといてダメじゃん」


「ちょーダサ……」


「水原の悪口言わないでくれるぅ!!」


「でも、真紀……ウチらだけじゃ敵いっこない相手なんでしょ……っ!!」


 言い合っているのは北染と同じクラスの女子だ。D組という中途半端な位置にいるからこそ、自分たちの実力に自信が持てなくなっていた。


「水原が、水原たちが頑張ってくれたから2体まで数を減らしてくれたんじゃないの? ここまで頑張ってくれてここであーしらが絶対に諦めちゃ駄目なんだって!! 覚悟決めろし!!」


 北染は中学時代、ワルだった。

 見た目どおり、校則を次から次へと破るワルだった。髪を染めたり耳にピヤスあけたり授業をサボったり部室をたまり場に利用したりタバコさえ吸うワルだった。


 センコーを呼び捨てにタメ口できくワルだった。親の言う事も聞かないワルだった。夜遊びをするワルだった。


 魔法が使えるワルなギャルだった。


 だけど、乙女でもあった。メガネ君の期待に添えたいといつの間にか思っていた。


作戦プランC、準備オッケー??」


「わかったわかった、わかりましたよ。やればいいんでしょやれば!! それに都合よくウチのおやつ、ビーフジャーキーがあるわ。あの犬は任せて……!!」


「菜穂、ありがと……」


「ほらほらー、わんちゃん。おやつの時間ですよ~」


「GARRRRRRRっ!!」


 D組女子、妹尾菜穂せのおなほを先頭に強行軍の半分、9名が正規ルートを目指し進路を変えた。挑発は成功。スカルごん太はエサに釣られて彼女らの部隊へと狙いを変えた。


「そっちの男子!! もし菜穂の身に何かあったらたたじゃ済まさないし!! 全力で菜穂を守ってやれし!!」


「「「「お、おおっ」」」」


 もう強行軍に頼れそうな男子がいないという事実。それを実感していたからこそ女子たちが頑張るしかなかった。北染めも妹尾もその他の女子も、残った男子をどう上手く使って利用するかで勝敗が決まると思っているほどに。


 ダチョウの骸骨が後ろから迫ってくる。

 そして、彼らの最大の難関は目前に迫る大きな川だ。


「き、北染さん、本当にあそこ飛び込むつもりなんですかー!?」


「自殺行為もいいところね!! なんだかテンション上がってきたわ!!」


「いえーい、ちょべりばーって感じぃ!!」


 北染の部隊に残った女子たちがハイテンションな理由。

 それは、川には例の一角ペンギンが睨みを利かしていたからだ。「俺たちの縄張りに入ってくんじゃねー」「地獄を見るぜ嬢ちゃん達」「蜂の巣にしてやんよ」と殺気立っていた。

 だからこそ、そこに飛び込むのだ。


「ここで生き残れたら水原からなんか奢ってもらうし!!」


 もうそれは新たな修羅場を引き起こすだけなのだが。

 ギャンブル性の高い勝算があるからこそ勝負に出た。


「と、突撃ーーーー!!」


「「「「おおーーーーーっ!!」」」」


 北染を筆頭に川へ突撃する。

 一角ペンギンの群れから少し離れた川の上を<ゴーレム>が走る。

 北染たちはそれぞれがスマホのディスプレイを太陽に当てて光を一角ペンギンに照らしてやった。そして、手に持っていたスマホを後ろに投げた。

 正確には追ってくるダチョウへ目掛けて。


「一角ペンギンの習性は……」


「「「「光るものへ突っ込まないと気がすまない!!」」」」


 ゲームだと初心者プレイヤーはその特性を知らずして剣を振りかざし、太陽の光に反射した剣を目掛けて跳んでくる一角ペンギンに風穴を空けられてしまう。

 だから、その習性を利用した。


 ゴール付近で強敵が現れたから、その無謀ともいえる作戦を実行した。ダチョウの骸骨は彼らの策によって一角ペンギンの餌食になった。

 ロケットのように飛んでくるペンギン。縄張りを争うとしなければ実質無害の温厚なペンギンにダチョウの骸骨は負けたのだ。


「本当に作戦成功した……っ!!」


 もちろん、犠牲もあった。

 頼れないと思っていた男子3人組が尻込みして出遅れて案の定、ダチョウの骸骨と共に犠牲になった。


 だけど、そんな彼らの犠牲もあったからこそ北染たちは川を渡りきることに成功した。寧ろ彼らがいなかったら全滅していた。彼らは最後、命を張って光を放つ魔法で一角ペンギンの注意を全部引き付けてくれたのだ。


 北染たちは彼らの勇姿を忘れないだろう。中には惚れた者もいるかもしれない。

 何にしても……


「あーしらの勝ちだし……っ!!」


 作戦は成功。北染たちは<ゴーレム>を走らせケムルズの町へ、入り口の門を目指して先を進んだ。

 そして、このあと強行軍・正規ルート組と合流した。


 スカルごん太はなんとか倒したようだ。あの橋にはなんの細工もしなかったが苦戦したらしい。妹尾ともう1人しか生き残れなかったようだ。

 ともあれ、彼女たちと合流してケムルズの町へ、今、ようやく辿り着いた。

 強行軍の生存者はメガネ君などを除いて8名……






☆――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 さて、次の魔法で終わりにしようと大見得きったメガネ君の話し。

<巫女>の家系に生まれ育った水原つくしはいつも姉と比べられた。よくある話し、優等生な姉と出来損ないの弟。天才と凡才。魔力の質量、魔法の知識量、実際に執行する技量、格闘術、戦闘経験、そして、神と対話できるかどうかを比較され続けた。

 否、それはこれからも比較され続けていく。

 性別も比較される。

 性格も比較される。

 容姿も比較される。

 成績も比較される。

 言動も比較される。

 友達も比較される。

 同じ家族なのに、同じに血筋なのに、生まれてきた順番が違うだけで比較される。<巫女>の資質を比較される。さらに<騎士>であるかないかさえ比較される。


 だから、水原つくしは本気を出すことをやめた。


 どれだけ努力しても報われない。どれだけ頑張っても姉には追いつけない。姉のようにはいかない。姉のように親は褒めてくれない。姉のように周囲から期待されることもない。姉のように格好よく生きることさえできない。

 本気になれど所詮は姉に劣る実力だと比較される。本気を出しても姉の10分の1の実力しか発揮できない。それは凄くプライドを傷つけられることだ。胸を抉られるような事実だ。だから頑張ることもしないし努力もしなくなった。


 だから、水原つくしはF組になった。


 当然の結果だった。

 落ちこぼれのクラス。補欠クラス。周囲から指を差されるクラス。今の彼に相応しいクラス。逃げ出しても逃げ出せれないこの世界へ少しでも身を潜めるにはちょうどいいクラス。

 C級魔法で悪戦苦闘するようなクラス。今頃、初歩中の初歩の魔法を覚えるようなクラス。水原つくしと同じ境遇な者もいるかもしれないようなクラス。初歩のC級魔法さえまったく発動できない者もいるクラス。素人の中の素人がいるクラス。入試の答案用紙を一つ飛ばしでうっかりミスをしてしまった者もいるクラス。ナメぷしている妖怪退治屋がいるクラス。


 もう何がなんだかわからないが、水原つくしの物語にはちょうどいいクラスだ。


 たぶん、これからも姉と比較されるだろう。

 だけど、過度な比較はされないはずだろう。過剰な期待はされることはまずない。これまでみたいなプレッシャーはないはずだ。のほほんとしているF組で本当によかった。これがA組であったらそうもいかなかっただろう。過剰に頑張らなければAクラスの座から落とされる。さらに<巫女>の家系なら当然とばかりにS級魔法の習得の強要、<騎士>の称号を今までどおり強要されていたに違いないだろう。そして、やっぱり姉と比較され弟には無理だったかと失望されるだけだ。

 うんざりだ。


 水原つくしは、12歳で<騎士>になった天才でもなければ、神と対話できるような<巫女>の才能もない。


 水原つくしは、競争のない社会を望む。


 しかし、水原つくしにはどうしても負けられない理由ができた。できてしまった。

 裏切り者を探すゲームに巻き込まれ、裏切り者の目的を阻止するために仲間と共にケムルズの町を目指し、半ば無念に倒れていった者達の犠牲を無駄にはできなかった。

 後を任された。

 勝負を託された。

 今も尚戦い続ける者たちがいる。

 彼が生きて町まで辿りつくことを願う少女がいることも知っている。

 たとえ、また姉と比較されようとも水原つくしは今ここで本気を出してみようと思える仲間と出会えた……

 だから、負けるワケにはいかなかった。


「次のステージへ、<氷界大樹バオムロスト>」


 A級魔法の解放。

 これが水原つくしの本気だ。

 今までの氷と屍のアートは屍をただ氷の中に閉じ込めてきた。しかし、これは敵の魔力を養分に氷の大樹を成長させ生命の活動を停止させるところがミソだ。

 低級悪魔程度ならひとたまりもない。ザウルスは活動を停止することに成功した。

 あぁ、魔法ネーミングセンスは皆無だがまぁいいだろう。

 この勝負、メガネ君の勝ちである。


 そして、出会いと災厄はいつも突然に……


「どっひゃー、なんじゃこりゃー」


「………」


 きょうび、どっひゃーは聞き飽きたがな。


「氷と屍のアートとか素敵すぎる!! これ、君がやったのかい!! なんてこった!! 惚れた!! 濡れた!! なんてふざけてる場合じゃなかった!! 初めましてメガネくん。私は1年A組唯一の生き残りにして妖怪退治屋の端くれであり、君達の隠し玉の灘ちゃんだよ!! さぁ、ボケーと突っ立ってないでさっさと後ろに乗りなー、町まで送ってあげるからさ!!」


「あ、あぁ………」


ゴーレム>をロストしたメガネ君にとっては願っても無い申し出だが、相手を選べなかったのが残念ではあった。


「ありゃりゃー、こりゃクエストしてる場合じゃないですぜーお姫様ぁ……ついに奴さん、痺れを切らしたみたいだー」


「お姫様ってどういうこと? それに町が燃えてる……っ!!?」


「話しはあとだよーん。そんなことより、しっかり掴まっててね☆本気で飛ばすから!!」


「あ、あぁあああああああああああああああ!?」


 ここからでも見て分かる異変。

 町から黒煙が上がっている。ケムルズの町を火の海にしたくなければ休んでいる暇などないぞ、メガネ君。


 残る生存者14/245名。

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