第2話 栄善との出会い
【第一部】心の扉―始―
私は今、お城の中のお手伝い係として働かせていただいている。
なぜこのようなことになったのかというと──
話は数日前に遡る。
*
「お主……そこのおなご!!ここで何をしておる!!」
お主……?おなご……?
……はて?
時代劇でも始まったのだろうか?
不思議に思いながら、そっと目を開ける。
……ここはどこだろう。
見知らぬ景色に、思わず息を呑んだ。
目の前には、高価な着物を纏い、長い黒髪を結った青年が立っていた。切れ長の目をした、背の高い青年だった。
「そこのおなご。ここで何をしているんだ。この場所は、限られた者しか入れぬ場所であるぞ……見慣れない装いをしているな。其方は海を越えてきたのか?」
「あっ……あなたは……」
「私を知らぬか。私はこの国を治めている羽田栄善と申す。其方、名は何と申す」
「私は……笠原トワと申します」
「……さようか。トワ、其方はここで何をしているんだ?」
「申し訳ありません……私も目が覚めたらここに居て、何がなんだか……」
頭は混乱しきっていて、何も考えられなかった。
夢なのか現実なのか、区別すらつかない。
「……トワよ。身寄りはあるのか?」
「……ありま……せん……」
私が力なく伏せ目がちに答えると、大きな手が私の頬に触れた。
驚いて顔を上げると、彼は柔らかく微笑み、優しい眼差しで私を見つめていた。
「そんな悲しい顔をするでない。トワよ、私についてくるがいい。ちょうど今、城のお手伝い係を増やさなくてはと考えていたところだったんだ。私の城で仕えよ」
「お手伝い……がか……り?はねださん……でも……」
何が起きているのか、すぐには理解できなくて──
戸惑う私を察したのか、彼はふっと微笑み、またあの柔らかい優しい眼差しで私を見つめていた。
「私のことは栄善と呼ぶといい」
そう呟いたかと思うと、私の手を引き歩き出した。
「トワの手は小さいのだな」
はにかむように微笑む彼の眼差し。
私を包む、温かく大きな手……
疲れて冷え切っていた私の心に、少しずつ灯火が宿るのが分かる。
栄善との出会いをきっかけに、私はお城でお手伝い係として新たな生活を始めることになった。
──この時、私の運命が大きく動き出すとは、まだ夢にも思わなかった。




