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ある雑然とした部屋にて。

「じゃあお願いしますっ」

色の(にぎ)やかな、ごてごてした服装のおじさんが、さっと立ち上がっていく。

その前にはこたつテーブルと、そこに座って絵を描いている人がいた。

「分かりましたー。…絵ざわり(※後述)もやりましょうか?」

動かしていた鉛筆を止めて、緑のジャージを羽織(はお)った女形(おんながた)は顔を上げる。

向こうへ行きかけた背中は、その言葉に振り返った。

「あっいいですか?」

ジャージは肯定(こうてい)とともに頷くと、色おじさんは顔を明るめ、

「ありがとうございます!じゃあお願いします!」

とさっと身を(ひるがえ)していった。

  フローリングの廊下に出ていき、早足で歩く。

前を見ると、向こうから眠そうなおじいさんが歩いてきていた。軽やかに挨拶の声をかけてすれ違い、答えを待たずに外へ走っていく。


この物語の舞台はメタバース(情報世界、仮想空間)だ。

ゲームのように複数のサービスが存在し、それぞれの世界はその提供者に運営されている。

この物語の舞台となる世界はその中の一つで、話は巨大な島の上で進む。

島の上では色々な地形――山や砂漠や沼などが沢山(たくさん)あり、多くの大きなモンスターがいる。

全ての人工物は参加者が作り出し、その結果、各地域に城を建築し、その中で店を開いたり住んだりしている。近頃は城の上にマンションが建てられたりしている。

城の下…地下には地下鉄を通しており、これで各城の行き来をする。



  城の通路には店が立ち並び、人が多く歩いていた。天井は高く、浅く漂う空気の中を、色おじさんがさっさと歩く。

 地下への階段の口へ差し掛かっていくと、視界の端から視線と声をかけられた。

「あれ、すいません、八重(やえ)さんですか?」

振り向くと茶髪の女形がいた。黒いさらっとした服を着ている。

色おじが肯定すると、その人は、

「あっ私がオトです。よろしくお願いしますっ!」

と笑顔を浮かせて、自分の顔を指さした。紹介を通して2人は流れ、階段へ入っていく。

「今日朝なのに人多いですね」

階段を下りていきながら、オトが周りを見て言う。

「今から外でイベントがあるんですよ」

靴の音が響いていく中、八重が横を見て答えると、オトは納得に浮いた。


階段を抜けると、新しさの光る広大な空間に出た。

多くのプラットフォームと、その上に連なる透明な渡り通路が広がっている。

渡り通路からは、()んだ空気に小さく動く人たちが、下の向こうの方までよく見渡せる。

  広い空間にアナウンスが通っている。プラットフォームへ続く階段を下りていきながら、八重は話し始めた。

「そうだ、作曲して欲しい人を探すっていう話ですけど」

一緒に階段を下りていきながら、オトは返事をして聞き取っていく。

「アニメ系で『りっぽいずむ』っていうラジオがあって、その番組がオトさんにBGMを作ってもらいたいみたいです」

体を揺らしていきながら八重は、小さいものを体の前に出現させ、手で掴んだ。その横でオトは胸の前に手を持ち上げ、宙でひらひらと動かしていく。個人用の端末を操作しているようだ、こちらからは見えない。

「分かりました、……りっぽいずむですね」

 階段の傍に置かれた箱に持ったものを投げ入れながら、ホームの上に出ていく。広いホームの上には、(さわ)やかな色が漂い、人が多くいた。歩いていきながら目を落とし、八重も同じように手をソラで動かしていく。

「連絡先はこれです」

操作する手元に、データの光の影が出現した。オトがそれを受け取っていく横に、広告看板や、駅の椅子を通り過ぎていく。

「それ以外は今のところは分からないですねー、また作って欲しいって人がいたら連絡しますね」

ぶわっと風とともに、電車がホームの横に光を並べ始めた。振り向いたオトは頷く。

「はい、ありがとうございます」

2人はさらさらと横に流れる人の中を歩いていき、向こうに見える柱へと向かっていく。

 その先には一人いるようだった。

「こんにちはー、カゼさんですか?」

背中を柱につけ、ポケットに手を入れていた人が振り向く。

「はいそうです」

「あっ良かったw」

立ち止まる八重の声が揺れた。背中を離したカゼは、電車の方を見て歩き始める。

「じゃあ行きましょうか」

電車には、既に人が出入りしていた。顔を上げたオトとともに、3人はその入り口へ向かう。



  一行はエレベーターを出て、明るい空気がそよぐ廊下を歩いていく。マンションの廊下だ、人は見えない。

「そうだ、これ渡しておきますね……曲の細かい説明です」

歩きながら八重は紙きれを取り出すと、振り返って渡す。

「…え?」

横から青空の光が入り、受け取っていくオトの髪が小さく揺れた。

「ちょっと午前中用事があって、終わり次第戻ってくるんで」

オトが把握に揺れる前で、八重は目的の扉へ向かっていく。

「とりあえず大まかに作っておいてもらっていいですか?」

そう言いながらがちゃっと開けていくと、後ろでオトは了解に頷いた。空気のふるえがおさまっていく。

 中には照明が人工的に壁を照らしていた。あちこちに楽器などが掛かっており、音楽が流れている。

 八重は奥へさくさくと歩いていく。辺りには透明なテーブルがいくつも並び、低いソファがひらいていた。

一つのテーブルに、妙ちくりんな黒いゴスロリみたいな恰好のやつがいた。

「ツムギー」

近づきながら声をかけると、その人は振り向く。

「終わったみたいだよ」

座ったまま声を出し、ゴスロリは単調に言葉を返した。八重は歩きながら把握し、そのままそこを通り過ぎていく。

  奥まった廊下を歩いていき、その先に明かりの漏れる開いた扉へ向かう。

入口に手をかけ部屋に入っていくと、中の一人が顔を上げてこちらに気づいた。

「出来ましたよー」

ドラムやら何やらがこまごまと散っている、緩やかに照らされた部屋だった。その中で、小さい机に座っていたその人は、そう言い手元に目を落とす。

 他にも2人、動いている人たちがいた。紙や楽器が散らかっているのを片付けているようだ。

「どんな感じですか?」

八重はすたっと入っていきながら聞く。

 その長髪パーマの人は座ったまま手元のソラを触っていた。小さな机には、他にも椅子がいくつか散っている。

適当な椅子に座っていく八重に、その人は手元に現れたデータの影を手渡していった。

「さっき聞いたのってどんな感じでしたっけ?」

パーマの言葉に、八重は手元から顔を上げる。輪郭(りんかく)のくっきりとした音楽が鳴り始めた。

「制作ちゃんで出力したやつですか?」

「そうです」

肯定しながら椅子から立ち上がっていくパーマの前で、八重は自分の画面をぱっと表示させた。

「細かい音とか演奏の調整があったら、後で言って下さい」

パーマの言葉に、分かりましたと八重は返事をしながら、画面を操作していく。その横では軽快な音楽が流れている。

「…えーっと……これでいっか」

やがてぽんと画面に触れると、絵っぽい動画の再生が始まった。続けて画面の端の方に手を走らせていくと、(そば)に立って別の方を見ていたパーマが、反応して振り向く。体を少し傾け、八重の手元を覗き込んだ。

「そうそう。…まあこんな感じでも良いですよね?……」

部屋の壁に動いていく音楽を聴きながら、パーマは納得と疑問が混ざったような声を漏らす。

(※第3部分で細かく説明するので、読み流して大丈夫です。とりあえず「制作ちゃん」っていうのは、アニメの簡易制作ツールです)


その映像の横で、八重はさらに別の画面を操作する。

「…でこっちが作ってもらった方……」

再生を切り替え、今度はもう一つの画面の方を動かし始めた。同じような感じの、激しく揺れる映像が再生され始める。

 2人は動きを止めて耳を傾け、

「うん…まあいっかw」

とパーマは顔を離して適当に言った。八重は立ち上がって小さく笑いながら、パーマを向いて言う。

「いや俺はこっちの方が好きです」

「あぁwありがとうございます」

空気に笑みがもつれていると、後ろに人の気配がふっと来た。

「…ここっすか?」

振り返ると、とすんとした男形が、扉から半身をのぞかせていた。入口に手をかけ、ちらっと中を見回す。

八重が動きかけるとすぐに追うように、後ろから足音がした。

「ここでいいですよ」

オトは入口に来て場をまとめると、そのまま部屋へ目をやる。

「八重さん、シンセの人見つけたんで、一応確認してもらっていいですか?」

返事をして歩いてくる八重に、オトは手元を動かす。入口の所でデータの影を渡していき、そのまま暗さのうろつく廊下へ出ていく。

「あっ良いかも!」

ワンテンポ空けて声が上がった。すとすとと廊下を抜けていきながらオトが振り返る。

  明るいテーブルの場所に再び出ていくと、向かうテーブルの傍には2人いた。さっぱりした格好の女形と、さっきのゴスロリだ。

八重は近づきながら声をかけ、

「こんにちは!頼んでいいですか?」

と言うと、さっぱりは顔を上げた。

「いいですか?」

「はい、お願いします!」

分かりましたと明るみ、さっぱりは慌てて別の方に動いていく。その姿を見ていくゴスロリに、続けて目をやった。

「じゃあ、あと頼んでいい?」

振り向いたゴスロリは、返事をして頷く。八重はそれを受け、その場を離れた。



  城の一つに温泉城というのがある。

1,2階は料理フロア、3,4階は風呂フロア、5階は文化フロア、6階は宿フロア、屋上には露天風呂となっている。(そんなに覚えなくて大丈夫です。料理、風呂、文化があると考えてもらえればOKです)

 各フロアにはそのテーマに合わせた店を、多くの人が出店している。

ちなみにそのようなフロアを明確に分けたような構造は、他の多くの城には無く、普通は店や住むための部屋が入り乱れるようになっている。


  風呂フロアにて。

開放された各店の風呂が立ち並ぶ中、浴衣(ゆかた)を羽織った男女形がちらほらと行きかう。

 フロア全体の通路はすのこで敷き詰められている。片側は城の端のようだ、空が開かれて見え、その向こうには石造りのごとごととしたテラス部分が広がっているのが見える。

  その通路の中ほどで、しゃがんだ麦藁帽(むぎわらぼう)がいた。

やや(ゆが)んだすのこを目の前で、片手で持ち上げ眺めている。ばたんと床に落とし、宙で手を動かしだした。

 ふと通りがかった人から挨拶をかけられる。すのこがその場から消えると同時に、その方に顔を上げた。

「お疲れ様です!」

麦藁はそのブラシを持った人に言葉を返すと、再び手元に視線を戻す。手を続けて動かすと、今度はその場に別の木の板が出現した。

 出た真新しいそれを掴み、床に下ろしていく。(くぼ)みに入れていると、今度は別の方から、ぱたぱたと人がやってきた。

「トオル、山行く?」

麦藁は顔を上げ、その人を見る。あっさりした浴衣を一枚羽織った女形が、空気に(そで)を揺らして立っていた。

「あぁ、一旦スタジオ行くけど」

そう言い麦藁は、横に倒れていたブラシを手に取り立ち上がっていく。流れて一緒に動きだすと、浴衣は足を早めていった。

「先行っとくよ、じゃあね」

麦藁トオルはそれに答えて頷くと、引っ張られるように歩調を早めた。


  本屋から、雑誌を読みながら出てくる人がいた。

柔草(やわくさ)の髪の、丁寧な格好の女形だ。入口を出ながら、傍の箱に一瞥(いちべつ)して通貨をはなしていく。

城の通路は広く、辺りには細かく看板が散っていた。

 向こうから麦藁トオルが歩いてくる。通路に出てくる柔草に気づき、足を早めて近づいた。

「すいません、アニメ系のイベント会議にいた方ですか?」

興味を含んだような声に、雑誌から目を離した柔草が振り向く。

「はいそうです」

「そうですよね!自分もです、イベントどんな風にやってんだろうと思って」

そう言いながら一緒に歩きだすと、柔草は腕を下ろして会話に入った。

「私も同じような感じです」

トオルは理解するように頷くと、続けて聞く。

「イベント何か考えました?」

歩きながら柔草は宙を巡り答えた。

「いえ……とりあえずどんな場所が使えるのかを色々調べて回ろうと思って」

「…あぁ!外でやるんだったらってことですか」

エスカレーターに近づいていき、2人は乗りながら会話を続ける。そうですと柔草が頷くと、トオルは立ちながら理解にそよいだ。

 すいすいと風が流れていき、一瞬の後、柔草は横を向く。

「すみません、お名前伺ってもよろしいですか?」

トオルは横を向き、頬を崩した。

「あぁw俺はトオルっていいます」

柔草はそれに頷くと、

「私はナギサです」

と笑んで答えた。


  山は人で(あふ)れていた。浅い緑の中を、足音と無駄話が散っている。鮮やかな暗さに光が差し、澄んだ空気が跳ねている。

「あれ、大丈夫ですか?」

足取り軽く登っていたトオルが振り返ると、後ろを歩く柔草(ナギサ)は、小さく機械的に揺れていた。

「はい…ちょっときついかも」

トオルは並んで動きだし、横に目を回す。

「その荷物はソラに入れないんですか?」

(ほの)めかした視線の先には、中身のずっしりと入った荷物があった。多くの人は手ぶらなど身軽に登っているが、ナギサは荷物を背負っている。

「もう一杯なんですよね」

(ひら)けていく視界に、ナギサはちらりと目を上げながら答えると、リュックのひもを小さくゆする。トオルは顔を前にやった。

「俺の使います?…多分空きありますけど」

 2人は話していると、平たい所へ出ていき、周りに日差しが被った。白い風の中で、ナギサは顔を上げる。

「いいですか?…じゃあお願いします」

そう言い歩みを緩め、肩から身をよじっていく。

 トオルはその横で景色の方に出ていき、立ち止まっていった。

「あれ?……こっちでいいよね?」

ぼそっとトオルの呟きに、後ろでナギサは身を上げると、その景色に目をやる。

山の風を感じていこう!!

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