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9.隠れ魔女の村の長 ドミドミ

 イリーナは確信していた。これから現れるのはさっきまでのチャラチャラとしたイケメンもどきとは違う真のイケメンだと。


 そんなイリーナの期待を一身に背負い、現れたのは浮遊する水晶玉に乗った魔法使い定番のよれよれの三角帽に黒いローブを着たしわくちゃの老婆であった。


「よく来たな勇者よ」

「ちょっと待てやコラァァー! なんであの声から出てくるのがこんなヨボヨボのババアなんじゃ!」


「ホーッホッホッホッ、さっきの声は私のかつての旦那の声を録音したボイスレコーダーじゃ」

「なんでそんな紛らわしいことしてんのよ」


「いくつになっても愛した男の声は特別なものじゃ。決して忘れないよう全ての魔王のボイスを録音しといたのじゃ」

「何そののろけ、うざっ!」


「姫、確かにうざいですが落ち着いてください。それよりも、あなたはもしかして隠れ魔女の村の長の……」

「如何にも、わしこそ隠れ魔女の村の長ドミドミじゃ。台本では勇者がもうとっくに来てるはずなのに全然現れないから迎えに来たんじゃ」


「勇者じゃなくて姫ですけどね!」

「むむっ? なぜ姫が?」


「実はかくかくしかじかというわけでして」

 コトネが定番の省略用語を使ってことの成り行きを説明する。


「なんと、そんな事情が! しかし、驚いた本当は王子だったのに性転換をして姫になっていたとは……」

「ちょっと待て! なんか私が思ってたかくかくしかじかと違う」


「まあまあ、元王子いいじゃないですか」

「誰が元王子だ! あんたは唐突に私をどういうキャラにしようとしてんのよ!」


「姫、そんな細かいこと気にしてはダメですよ。それよりもドミドミさんが村まで案内してくれるようです。いきましょう」

「その前に正しいかくかくしかじかを説明しなさいよ」

 イリーナの要求は叶うことなく3人は森を突き進んでいった。




「あれじゃ、あの木の上に我が村がある」

 ドミドミが指さす先には天高くまで伸びる豆の木があった。

「ジャックね」

「ジャックですね」

 イリーナとコトネは呟く。


「私やっぱり最初の村は地上にあるべきだと思うな」

「そうですね。この手のステージは第4章ぐらいで出てくるべきですよね」


「お主らは何を言ってるんじゃ? さっさと行くぞい」

 ドミドミが乗る水晶玉は天高く飛んでいく、イリーナとコトネを置いて。


「ちょっと、置いてくな」

 イリーナとコトネは慌ててそれを追いかけるのであった。




「改めて、姫よ、ようこそ隠れ魔女の村に」

 イリーナとコトネはドミドミの家に招かれていた。


「何がようこそよ! 自分だけ水晶で飛んでいって。私たちがここまで来るのにどれだけ苦労したかわかってるの?」

 イリーナは怒りのままに机をバンッと叩いた。


「豆の木の道中、普通にダンジョンありましたね。入った瞬間に豆の木の上っていうテロップが出ちゃうくらいがっつりダンジョンでしたね」


「しかも風属性の強いモンスターばっかじゃない! なんでまだ仲間ひとりも加入してないのに全体攻撃の風魔法使ってくるモンスターと戦わなきゃいけないのよ」


「まあまあ、よくわからんが無事に着いたからよいではないか。これでも飲んで落ち着くんじゃ」

 ドミドミはイリーナとコトネに紫色のグツグツと煮えたぎる液体が入ったマグカップを差し出した。


「なにこの液体恐っ、突然の安直な魔女アピール恐っ」

「ただのカルピスじゃよ」


「そんなわけあるか! 私が知ってるカルピスはブドウ味でもこんな毒々しい色してないわ!」

 イリーナが騒ぐ横でコトネは謎の液体Xをさも当然のように飲み始めた。


「コトネ、何普通に飲んでるのよ」

「う、う、う」

 カルピスを飲んだはずのコトネが毒でも飲んだかのように呻き声を漏らす。

 

「コトネ、大丈夫? 吐く吐く?」

「うまい」

 満足そうなコトネの頭上でポンっと紫色の花が咲く。


「なんか咲いてるわよ」

「気にするな、ただのラベンダーじゃ」


「気にするわ! 芳香剤の第一人者のラベンダーさんでも頭に咲いたら気にするわ」

「姫、うるさいです、ドミドミさんそろそろ本題に入りましょう」

 

「えっ? 今私が怒られたの? なんで?」

「そうじゃな主らには話しておこう、100年前何があったのかを」


「100年前? それってまさか……」

「そうじゃ、魔王を封印した時の話じゃ」

 そして、ドミドミは語り始めた。



【あれは、今から100年も前のことになる。あの頃の私はまだ16歳のいたいけな少女であっ「させるかーーーーーーい」】


 イリーナはドミドミの回想を強制終了させた。


「何をするんじゃない。この姫は」

「オデ、カイソウ、キライ」

 イリーナはなぜか片言だ。


「姫の前では回想禁止なのです。なのでざっくり説明してください」

「ざっくりか……魔王に呪いのリンゴを食べさせたのはわしじゃ」


「悪い魔女ってあんたかよ! よく食べさせられたな」

「まあ、あの頃の私は美しかったからの、魔王なんてわしの美しさでいちころじゃった。ほれ」

 ドミドミは1枚の写真を置いた。そこには若かりしころのドミドミが写っていた。しかし……


「……美しい?」

「今とさほど変わらないのでは?」


「ほほう、照れるのう」

「いや、いい意味じゃなくて悪い意味でですからね」


「悪い意味ってなんじゃ?」

「そのまんまの意味でしょ。で、あんたが100年前の魔王を封印したってのはわかったけど結局何が言いたいのよ?」


「お主のせいで回想ができいのに何という言い草。まあ、よい。あの頃のわしはまだ未熟じゃった。だから、封印することしかできなかった。そして、今のわしじゃ老いすぎて封印することすら叶わんじゃろう」

「まあ、そりゃそうね」


「わしが全盛期であったなら勇者……じゃなかった姫とともに魔王討伐の旅に出ていたのじゃが……」

「いえ、ビジュアル的に結構です」

 イリーナは瞬間的に丁寧にお断りした。


「だが安心するがよい」

「聞いていなー、この婆さん」


「なんと幸いなことに、今、この時代に、歴代最強と謳われたわしの全盛期以上の魔力を持つ者が現れたのじゃ」

「へー、なんかよくわからないけど凄そうね」


「それがわしの孫の孫じゃ」

 イリーナとコトネは渋い顔をする。


「婆さんの血筋? その見た目は?」

「残念なことに私には似なかったが美形の部類じゃ。姫よ、わしから見ればまだまだ未熟な点も多いがきっと役に立つ。我が玄孫を魔王討伐の旅にに連れていくがよい」


「そういうこと……男? 女?」

「? 女じゃ」


「じゃあ、いいです。お疲れさまでした」

 部活が終わったかのようにイリーナは挨拶するとトコトコと玄関へと向かった。


「なんで帰ろうとしてるんじゃ!」

「いや、女はいらないんで」


「それだけで? そこ重要?」

「最重要事項です」


「最重要事項は魔法使いとしての強さじゃろ?」

「いいえ、重要なのは男かどうか、次点でカッコいいかどうかです。強さは正直、どうでもいい」


「ど、どうでもいい……姫は何を言ってるのじゃ?」

「すみません、今私が説得しますので暫しお待ちを。姫、お聞きください」

 コトネが姫の前に立ちふさがった。


「嫌よ! コトネが何と言おうと嫌よ! イケメン以外は仲間にしないわ! これは絶対よ!」

「予想以上の拒絶反応。姫、落ち着いて聞いてください。この村は昔から大陸一の魔法使いが輩出され続けている村です。魔王が現れた時は必ずこの村のその時若くて最も強いものが勇者の仲間として魔王討伐の旅に出るのが決まりなのです。伝統なのです守ってください」


「知らないわよそんな悪しき伝統。いい伝統っていうのは守るものじゃないの、継承しつつ改良していくものなのよ」

 そう言うイリーナの目はとても綺麗でまっすぐであった。


「なんか急にいいこと言いますね。それで、その改良とは?」

「村で若くてそこそこ強い最もカッコいい男が姫の仲間として魔王討伐の旅に出るに改良よ」

 やはりイリーナの目はダイヤモンドのように光り輝いていた


「それのどこが改良なんですか。ただの姫の願望による改悪じゃないですか。ルックスなんて優先してたら倒せるものも倒せなくなりますよ」

「魔王を倒すのにはルックスも大事なのよ。いい、魔王を倒した伝説のパーティが生還してきたときのことを考えてみなさい? もしそのパーティがなんともいえない微妙なメンツだったら救われた民たちはどう思う? なんかやるせない気持ちになると思わない?」


「大丈夫ですよ、そういうのは時間と共に美化されていくものですから、それに考えてください姫」

 コトネはちょいちょいと手招きをしてイリーナを呼ぶと耳打ちする。


「姫は自分以外は男のパーティを望んでいるようですが、それこそ民が見た時どう思うでしょう? 日夜男をとっかえひっかえ食しながら冒険した、男狂いの姫だと思われますよ」

「いや、でもコトネがいるじゃない?」


「私は記録上は存在しませんので」

「コトネってそんな悲しい存在なの! いやー、確かにそうだけど、でもやっぱ先にイケメンを確保しときたいのが乙女の心理じゃない?」


「そんな薄汚れた乙女の心理を暴露するものではありません。ですが、半分同意です。しかし、私はイケメンよりも先に確保すべき人材がいると思います」

「イケメンより先に? 何を確保すべきっていうのよ?」


「自分よりはルックスが劣る女です」

 イリーナにはコトネの頭に生えるラベンダーが急に毒花に見えてきた。


「そ、それは……」

「先ほども言った通り姫以外が男のパーティではあらぬ疑いをかけられます。そのためにはひとり女が必要です。しかし、その女が姫以上の魅力的な女だったら元も子もありません。要するに姫に劣る女をパ―ティに引き入れる必要があります。カワイイ女子が引き立て役の女の子を友達にするように」

 コトネはさも常識のように言うがそんな常識はもちろんない。飽くまでコトネの独断と偏見に満ちた意見であることを理解していただきたい。


「何言ってんのよ! 世の女子はそんなこと考えながら友達を選んでないわよ!」

「因みに男は自分と同じくらいと感じた男に最初に友人になろうとする研究成果が出ています。男は引き立て役をパーティに入れる余裕がないんですね」

 この考えも無論コトネ個人の意見である。


「どこの機関の研究成果よ! 結局、あんたは何が言いたいのよ!」

「これから推薦される魔法使いはドミドミさんの玄孫です。では、今一度ドミドミさんをご覧ください」

 イリーナとコトネは改めて下から上までまじまじとドミドミを見た。


「安心ではないですか?」

「安心ね」

 イリーナはあっさりと同意した。


「お主ら今失礼なこと言ってないか?」

「「言ってないです」」

 二人はハモッテ答える。


「それで、どうです姫? 今後、こんな安パイともいえる女魔法使いを味方にできるチャンスはないと思われますが」

「ふふっ、コトネお主も悪のよう、我はお主の策略の上で踊ってやろうではないか」

 イリーナの頭にも毒花が咲きそうな顔であった。


「何キャラなんですか? では、よろしいのですね?」

 イリーナは心を決めたようで険しい表情で頷く。


「では。ドミドミさん、まとまりました、玄孫を紹介してください」

「なんか色々と失礼な話し合いをしていたような気がしていたが、まあよい」

 ドミドミがパンパンっと手を叩くと待ちかねてたように即行で部屋の奥の扉が開かれた。


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