10.魔法少女ソラソラ登場
現れたのは黄緑色の髪をよれよれの三角帽で隠すことなくおしゃれに編み込み、地味なローブではなく紫色の派手なフリフリの短めのスカートに、木製の年季の入った杖ではなくデコレーションが施された先端には星形の装飾が施されたプラスチック製のステッキを持った10歳くらいに見える魔法使いではなく……
「魔法少女ソラソラここに見参! よろしくね」
可愛くウインクを決めた魔法少女であった。
「なんか世界観の違う魔女っ娘来たんですけど!」
「その上予定外なことに、ドミドミさんに似ず可愛らしい女の子ですね」
「おい、それはどういう意味じゃ!」
「そのまんまの意味よ。でも、こんなに幼いならセーフね」
「ですが、予想以上に小さすぎて血が絶えないこの世の地獄ともいえる冒険について来てもらうのは気が引けますね」
「えっ、そんな恐い冒険になるの? なんだかんだでお気楽な冒険じゃないの?」
イリーナの問いは当然のようにコトネに無視された。
「安心するがよい。ソラソラはこう見えて20歳だ」
「二十歳!?」「年上!?」
決めポーズから微動だにしていなかったソラソラが動き出す。
「ドミ婆それは言わない約束でしょ」
その声もやはり幼女そのもの。とても20歳とは思えなかった。
「嘘でしょ? こんなのが成人式に来たら追い返されるわよ! パッパラパーな袴を着た男たちですら迷子センターに案内するわよ!」
「成人式を黒歴史大会と勘違いした若者たちも市長の挨拶は邪魔しますけど彼女の挨拶なら温かく見守りますね」
「お主らは何を言っておるんじゃ。ソラソラは子供の頃に見たプリティーでキュアキュアな魔法みたいなのを少女に憧れてのう、それ以来ずっと魔法少女じゃ」
「いつまで憧れてんのよ! 痛々しいわね」
「痛々しくなんかないもん、ソラソラは永遠の魔法少女だもん」
抗議するソラソラを見てイリーナとコトネは思う、所作まで完璧な少女で鬱陶しいいと。
「しかし、この見た目はどういうことですか?」
「先に言った通りソラソラは歴代でも最強と言える魔力の持ち主じゃ。その魔力を駆使して少女の体を維持しているのじゃ」
「魔力の無駄遣いでは?」
「その通り、魔力の持ち腐れじゃ」
「無駄なんかじゃないもん」
その瞬間ぶちっとイリーナの堪忍袋の緒が切れる音がした。
「さっきからもんもんうるさいんだよ、このロリ風おばさん」
「なっ、誰がロリ風おばさんですか? というか似非姫風おばちゃんこそ誰なんですか? あたしは勇者様に会えるって聞いてたのに」
「誰が似非姫風おばちゃんよ! というか似非姫風って何よ? 似非姫にすらなり切れてもないといいたいわけ?」
互いにぎりぎりと睨みあったかと思ったら、次の瞬間にはイリーナとソラソラは取っ組み合いの喧嘩を始めた。コトネとドミドミは巻き込まれないように少し距離を置いて何事もないかのように話しを続ける。
「まあ、私は魔法少女でも幼女でも構わないんですけど、本当にちゃんと強いんですか?」
「それで確認すればいいじゃないか」
コトネはドミドミに指摘されその存在を思い出す。コトネは王家秘密道具:王家のスカウターを起動してソラソラを見た。
「やりますね、MP1万7600とは」
綺麗な一本背負いでソラソラを投げ飛ばしたイリーナは満足げに手の汚れでも払うかのようにパンパンっと叩く。
「MPなんて概念ある世界だったの?」
「ありますよ。ファンタジーRPG風の世界なんですから」
「だからそういう発言はやめようよ。それで、MP高いの?」
「そこそこですね」
「そこそこじゃと!? わしが知るかぎり人類最高のMPであるぞ! それをそこそことは」
「だそうですよ、姫」
「うーん、そうは言われても基準がないからピンと来ないわね。比較対象とかないわけ?」
「では姫自身の目でご確認ください」
コトネはイリーナに王家のスカウターを渡した。イリーナは装着すると窓から顔を出して村人たちのMPを見始めた。
「えーっと、あのケバイ女は651、あのもさい女は418、で、あの芋い女が472ね……というかやっぱこの村女しかいないじゃない。それで、噂のクソガキは」
イリーナはくるりと振り返り3人を見た。
「クソガキが1万7600で、お婆さんが2319、コトネが27万1818ね。なるほど、確かに強いわね」
「おい! ちょっと待て! この小娘のMPおかしいじゃろ! ソラソラのMPが人類最高って言ったわしの立場がないじゃろ!」
「私は戦闘員じゃないので気にしないでください」
「いやいや、なんでそんな強いのに戦闘員じゃないんじゃ」
「私は飽くまで姫の世話係ですから。それで、ソラソラさんを仲間にするで話を進めてよろしいですか?」
「うーん、でもなー、単なる引き立て役が現れる予定だったのが魔法少女とかいうウザキャラだしなー、そもそもあんたは勇者様救出の旅に行きたいわけ?」
「魔法少女ソラソラの使命は世界平和なの。この世に悪があるかぎりソラソラはみんなのために戦うよ」
ビシッとポーズを決めるソラソラをイリーナは問答無用で蹴っ飛ばした。
「UZA、UZA、UZA! コトネ、こいつを仲間にするのは却下よ! とうわけで女しかいないこの村にもう用はない行くわよ」
イリーナはそう言い捨て出て行こうとした。
「そうですか却下しますか、姫がそう言うなら仕方ない。しかし、勿体ない、それは非常に勿体ない、あー勿体ないなー」
コトネのわざとらしいまでの勿体ないにイリーナは渋々歩みを止めてうんざりした顔でコトネを見た。
「あんたは勿体ないお化けか何か? 何が勿体ないっていうのよ?」
「あれ? 私のひとりごと聞こえてしまいましたか? すみません、気にしないでください、ただの戯言ですので」
「UZA! なんでうざさ感染してんのよ! いいから早く言いなさいよ! 何が勿体ないっていうのよ!」
「そんなに聞きたいですかー?」
「聞きたいのー?」
いつの間にか復活したソラソラも参加してイリーナを煽る。うざさが限界に達し、我慢の限界を迎えたイリーナは木刀を抜き今にも殴りかかりそうであった。
「まあまあ、姫、落ち着いてください」
「そうだよ、ひめー、落ち着いてー」
「あっ、ソラソラさんは黙ってください」
味方だと思ったコトネに突き放されたソラソラは体育座りしてしゅんとする。
「それで結局コトネはなにが言いたいのよ?」
「はい、ではもう一度スカウターでソラソラさんを見てください。年齢の項目に20という数字が見えますね」
「確かにあるわね」
「これはソラソラさんが本当に二十歳ということを証明しています」
「言われてみればそうね。別に疑っていたわけじゃないけどこの見た目で本当に成人なのね」
「そこです」
コトネはビシッと指さすのでイリーナは思わずビクッとする。
「ソラソラさんは二十歳なのにどう見ても小学5年生くらいにしか見えません。恐らく魔法で少女の体を維持しているのでしょう」
「それの何が問題なのよ」
「まだわからないのですか? ソラソラさんは少女の体を維持していますがやろうと思えば別の年齢、姫が望む年齢でも維持できる魔法だとは思いませんか?」
コトネが言いたいことをイリーナは理解した。要するにソラソラの魔法を知れば永遠の若さ(ソラソラの場合は幼さ)を手に入れることができるということだ。今のイリーナには不要であるが10年後、いやもしかしたら数年後には必要な魔法かもしれない。
そのことに気づいたイリーナはいまだ体育座りのままのソラソラを見た。ソラソラはイリーナと目を合わせると誇らしげに笑うといコクリと頷いた。
「そうだとしても、というかそうみたいだけど、なんか関係あるの?」
コトネとソラソラ、ドミドミまでもがやれやれと言わんばかりに大きなため息を吐く。
「あんたたちなによ、その人を小馬鹿にしたような態度!」
「姫様、わしを見てくだされ。わしが若さを保ったままに見えますか?」
「頭でも打った婆さん? あなたはどう見ても死にかけの老婆よ」
「そこまで言わなくてもいいじゃろ!」
「要するにドミドミさんはソラソラさんが使っている魔法を使っていないってことですよ」
「あれ? そう言われたらそうね。でも、あれでしょ? 使ってもあんまり変わらないから使ってないんでしょ」
「そんなわけあるか! 使えたら使ってるわ!」
「じゃあ、お婆さんにはその魔法使えないってこと?」
ソラソラがボソッと何か言う。
「えっ? なんか言った?」
「『永遠の○○歳』。その魔法じゃなくて『永遠の○○歳』!」
「何それ? 魔法名? ださっ」
「ダサくないもん! 素敵だもん!」
「いや、間違いなく素敵ではないわ」
「わかりましたか姫? 一般的に普及してる魔法ならこんなダサい魔法名にはなりません。要するにこの魔法は……」
「だから、ダサくなんかないもん!」
ソラソラの抗議は無視してコトネはイリーナの返答を視線で促し待った。
「よ、要するに……えーっと、どういうこと?」
「にぶにぶ姫ですね。年齢を維持する魔法はソラソラさんのオリジナル魔法ってことですよ」
「オリジナル魔法? このロリおばさんが編み出したってこと?」
「そういうことです」
「ふーん、で?」
「で? じゃないですよ。オリジナル魔法を使えるのは編み出した本人と伝授されたものだけです」
「そうなのじゃ。そして、ソラソラはまだ誰にも伝授していない」
「となると?」
イリーナは少し考えてからゆっくりとソラソラに近寄り微笑んだ。
「ソラソラちゃん、その魔法私にも教えてほしいなー」
「いや」
ソラソラはぷいっとそっぽを向いて拒絶した。
「ソラソラちゃん、そんなこと言わないで」
「いや」ぷいっ
「ソラソ」
「いや」ぷいっ
名前を呼び終える前に拒否するソラソラにイリーナの中でぶちっと音を立てて何かが切れた。
「このガキが! 下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」
イリーナとソラソラの第二ラウンドのゴングが鳴るも決着は一瞬で着く。イリーナがコブラツイストを決めてソラソラが何度もタップするがイリーナの攻撃は終わらない。
「ほらほら、私にその魔法を教える気になったか?」
「ギブギブ、ギブだけど、それはいやー」
「痛いのもいや、教えるのもいや、世の中そんな我が儘通らないのよ」
「いえ、姫の行動も十分我が儘です。姫、ソラソラさん、じゃれ合いをやめて私の話を聞いてください」
「「じゃれ合ってなんてない!」」
イリーナは仕方なくソラソラを解放したが、直後ソラソラがイリーナの脛を蹴ったため今度は追いかけっこが始まった。
「やれやれ、もういいです。そのままお聞きください。二人の希望を叶えるために交換条件を提案します」
「交換?」「条件?」
喧嘩しているイリーナとソラソラの息がぴったりと合った。
「はい、交換条件です。姫はソラソラさんを仲間にすることを許可します。その代わりにソラソラさんは姫に魔法を教えます」
イリーナは少し考えてから悪そうな顔をした。
「いい、いいわ。いい提案ね。そうしましょう。冒険に連れて行ってあげるわ。その代わりに早速私にその魔法を教えて頂戴、さあ早く!」
「いや!」
ソラソラは当然、拒否した。
「何がいやなのよ! 名案じゃない!」
「だって魔法を教えたらそれっきり置いていく気満々だもん」
イリーナは明かにぎくっとした。それでも、
「そ、そんなことないもん。そんなこと思いつきもしなかったもん」
イリーナはへたくそな口笛をぴゅーぴゅー吹いて誤魔化そうとした。
「姫、バレバレですよ。まあ、誰もがそう考えますよね。そこでこれです」
コトネは無限空間ポーチから一冊のノートを取り出した。
「王家秘密道具:約束手形ノート」
「まーた、なんか出てきた。それで何そのお金を振り込んでくれそうなノートは」
「このノートに約束を書いて、約束した二人が手形を押せばその約束はほぼ必ず守られます」
「ほぼってどういうことよ?」
「矛盾したり、不可能な約束は無理ってだけなのでここでは気にしないでください。では早速カキカキと」
コトネはノートになにやら書いていく。
「お二人ともこれでどうですか?」
「なになに、姫イリーナは魔法少女ソラソラを勇者救出および魔王討伐の旅に目的を果たすまで仲間として連れて行くことを約束します」
「んーと、魔法少女ソラソラは姫イリーナとの旅で勇者救出および魔王討伐を果たしたのち、あるいは姫イリーナとの旅の途中に還らぬ人となった場合、姫イリーナにオリジナル魔法『永遠の○○歳』を伝授することを約束します」
二人は各々の約束を読み上げると、うーんっと唸った。
「如何ですか?」
「これじゃあ魔法を教えてもらうまで長くない? 三日くらいで良くない?」
イリーナの提案は即座にソラソラに否定される。
「よくない! 魔王を倒した魔法少女として名を刻むまでは教えれないもん! それよりも還らぬ人となった場合ってどういうこと?」
「旅の途中に不幸にもソラソラさんが命を落とした場合のことです。この一文がなければせっかくの素晴しい魔法が未来永劫失われてしまいますからね」
「でもソラソラが死んだら教えられないじゃん」
「大丈夫です。その時はこのノートに会得方法が書かれる仕様になってますので」
「そんな遺言書みたいなの、なんかいや!」
「まあ死ななければいいのですから。万が一の文なのであまり気にしないでください。それにせっかく開発した魔法を後世に残せないのは不本意じゃないですか? お二人ともこれでよろしければ手形を押してください」
コトネの説得にやや不満は残るが仕方ないと納得し、ソラソラは手形を押そうとしたが、
「なるほど、途中でころ……否死ねばすぐに魔法が手に入るのか」
と、イリーナが呟いたので慌てて手を引っ込めた。
そして『ただし、姫イリーナが直接的あるいは間接的に魔法少女ソラソラを殺害した場合はこのかぎりではない』という一文を書き加えて手形を押した。
「さあ、姫も」
コトネに促されどこか不満そうではあったがイリーナも手形を押した。
「よろしくね、イリーナお姉ちゃん」
「ちゃんと働きなさいよ、ロリおば」
こうして、見た目は子供、頭脳も子供、でも本当は二十歳。
魔法少女ソラソラが仲間になった。
お読みいただきありがとうございます。今回で最初の仲間魔法少女ソラソラ加入の隠れ魔女の村編終章です
次話からはタケノコな里編スタートです。引き続きお楽しみください。




