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21.金の玉

「みんなー、今日はわたしのライブに来てくれてありがとう」

 会場に戻ったイリーナは二度ほど聞いたことのあるイラつくセリフを耳にした。しかし、いつもの声の主とは違う。だが、それ以上に聞きなれた声だ。


 闘技場の上にはマイクを持ったよく知る魔法少女が立っていた。そう、ソラソラだ。だから迷うことなくイリーナはソラソラにボディーブローをぶちかました。


「何しとんじゃワレ!」

 ソラソラの「うっ」という呻き声がしっかりとマイクに拾われ会場中に響きわたり、ソラソラの口から漏れ出たキラキラ光る液体がマイクに降りかかった。


「本当に何をしていたんですか?」

 コトネは闘技場の傍らでソラソラのライブを楽しそうに見ていたブリギッタに問いかけた。


「コトネさん! イリーナ姫といいコトネさんといいいつの間に消えてどこに行ってたんですか?」

「ちょっと野暮用で。それでこれはどういう状況なんですか?」


「実は……」

 ブリギッタは事情を説明し始めた。


 【ジャック・ジャックが遥か上空に飛び去り、闘技場に残されたのは俺ただひ「ワレもなにしとんじゃ!」】


 と、その時ブリギッタの文字通りの目と鼻の先に木刀が凄い勢いで通り過ぎ会場の壁にぶっ刺さった。


「貴様、今回想しようとしたな?」

 勿論木刀を投げたのはイライラが止まらないイリーナだ。


「回想? この程度でも回想に入るんですか?」


「そのかっこ記号【】は回想の証……よって貴様は今、回想をしようとしていたのだ」

「とんでもない説明ですね。というわけでブリギッタさん【】なしで説明してください」


「言ってる意味は分かりませんが、簡単にいいますと決勝戦がおじゃんになって楽しみにしていた客たちが物凄いブーイングからそのまま暴動を起こそうとしたんですよ、なんせ客の多くが血の気の多い冒険者ですからね。そこに颯爽と闘技場に舞い降りたのがソラソラちゃんです! 彼女が魔法少女ソングメドレーを披露してくれたおかげで暴動が治まり、今に至るのです」


「いや魔法少女ソングメドレーってただのカラオケ大会じゃない」

「可愛らしい少女には全ての男女が甘いんですよ」 

「でも、あれは本当は20歳よ」


「「…………」」

 納得がいかない表情を浮かべる3人のもとにトコトコと高級そうな貴金属を大量に身に着けた小太りの男が駆け寄ってきた。


「イリーナ姫様、ご無事ですか?」

「誰?」


「この大会の主催者ナリーキンさんですよ。今朝会ったじゃないですか」

「そうだっけ?」


「まあ姫は通りすがりにVIPルーム借りるわねって言っただけですからね。詳しい説明は受付のお姉さんがしてて可哀そうでしたよ」

「そうだったっけ? それで主催者がなんの用よ? はっ、まさか、勝手にソラソラが歌った責任を取って私に歌えと?」

「姫も歌いたいんですね」


 イリーナの予想は大きく外れナリーキンは見事なまでの土下座した。

「えっ? なになに?」


「姫様、申し訳ありません。ナリーキン一生の不覚です。私めが主催した大会にまさか魔王軍の幹部が紛れ込んでしまうなんて……。挙句、あの幹部の企みを姫様に阻止していただくなんて、本当に申し訳ありません」


 イリーナはナリーキンの謝罪を目を閉じ黙って聞いていた。そして、ゆっくりと目を開けるとナリーキン静かに歩み寄って優しく肩に手を置いた。姫らしく寛大な心を見せるのだとコトネもブリギッタも思った。ナリーキンもそう思いながら顔を上げた。だが違った。


「それもそうね。お陰様であんな藻臭い湖に飛び込む羽目になったし、どう責任取ってくれるのかしら?」

 イリーナは笑顔を作っているが目はちっとも笑っていなかった。ナリーキンは慌ててイリーナの正面に座り直し再度頭が地面にめり込むまで土下座した。


「本当に、本っっっ当にすみませんでしたーーーー! なので国王に……王妃様には報告しないでいただきたい」

「あれ? お父様とお母様、この場に呼んでるんじゃなかったっけ?」


「今更ですね。来ていないってことは断られたんでしょう。国王は忙しいですしエレザベス様は興味ないでしょうしね」

「ふーん、そうだったんだ。……まあ、とりあえずもう謝罪はいいのよ。それで具体的にどうしてくれるかって話なのよ。お・わ・か・り?」


「わ、わ、わ、わかっておりますとも、姫様。まずは姫様が取り返してくれたその金の玉をお渡しいたします」


「うん、まあそれは当然よね」

「目的達成ですね」

「さすがはイリイリやるー」

 何事もなかったかのようにソラソラ復活。それになんとなく腹立ったイリーナはとりあえずジャブをお見舞いしといた。


「それで他には?」

「えっ?」

 さらっと言うイリーナにナリーキンは素の声が出てしまった。


「えっ? じゃないわよ、他には?」

「ほ、他ですか? えーっとですね…………で、ではこういうのはどうでしょう、姫様は今魔王討伐の旅の最中だと聞いております。そこで」

 ドンっとブリギッタをイリーナの前に押し出した。


「この決勝戦まで勝ち進んだブリギッタを旅のお仲間にというのはどうでしょう?」

 ナリーキンの提案から数秒の変な間が流れてからイリーナたちは「ん?」と首を傾げた。


「そもそも当初の予定通りですね」「だいたいなんでこのおじさんがリギリギのことを決めるの?」「というかいらない」「イリーナ姫そんな……お願いします、俺を旅のお供に」

 ブリギッタはイリーナに縋るようにしがみついて懇願した。


「はあ? 何言ってるのあんた? 圧倒的な優勝がパーティ加入の条件だったでしょ? 圧倒どころが優勝すらできてないじゃない」

「それはそうなんですが……」


「何をおっしゃっているんですか、姫。ブリギッタさんは優勝したじゃないですか」

「は? 決勝であの鳥を逃がしたじゃない」


「ルールをお忘れですか? 一番最初に言っていたじゃないですか、飛べるものも3秒以上闘技場の外にいたら失格、ファンシーからダンディーになった司会者が言ってたじゃないですか」

 イリーナは数秒考える。


「そんなこと言ってた?」

「はい、イリイリこれ」

 ソラソラが手渡したのはルールブック。そこにはしっかりとコトネの言うルールが記載されていた。


「わかりましたか? ブリギッタさんは圧倒的優勝をしたんです。これで約束通りパーティに加入決定ですね」

「決定なの?」

「決定ですよ、約束を果たしたんですから」「約束を破るのは めっ! だよイリイリ」

 ×マークを作るソラソラをイリーナは条件反射で殴った。しかし、二人の言い分は尤もである。どうしようか悩むイリーナの視界の端にまだ縋りつき見つめるブリギッタを捕らえイリーナは折れた。


「わかったわよ、ブリギッタの加入を認めてあげるわよ」

 イリーナの言葉にブリギッタはぱぁーと笑顔になったと思ったら泣きながらイリーナに抱き着いた。

「ありがとうございます、イリーナ姫」

「うざい、抱き着くな! というかなんか手つきやらし、というかどこ触ってんのよ!」

 イリーナはブリギッタを一本背負いの要領でぶん投げた。


「たく、油断も隙もあったもんじゃないわ」

「それでは姫、ここで一度整理してみましょうか?」


「整理? 何を?」

「今の状況ですよ。まず今話した通りブリギッタさんが優勝しました。そのためブリギッタさんには賞金と副賞の金の玉が授与されます。そしてブリギッタさんと私たちの間の密約により金の玉は姫の手に渡りブリギッタさんが仲間に加わります」


「うん、まあそういうことね。それに何か問題あるの?」

「ここまでは問題ありません。問題はここからです。では、ナリーキンさんの今回の件に関する謝罪として姫に渡すものを振り返りましょうか」


「えーっと、金の玉とブリギッタだっけ? ん?」

「気が付きましたか? 最初から手に入る物ばかりで実は金の玉を取り返した件では何も貰ってないんですよ」

 イリーナはゆったりとナリーキンの方に向き直し微笑んだ。


「おい、どういうことだ?」

「ひっ、ひー、姫様誤解です。皆様の間にそのような密約があったのを知らなかったのでこのようなことになってしまっただけです。それに姫様たちは勘違いしているようです」


「勘違い? 何よ?」

「姫様が今お持ちの金の玉は優勝者に渡す金の玉ではないのです」


「はあ? どういうことよ?」

「持っている姫様が一番わかっていると思いますがその玉は真の金の玉です」


「……ごめん、ちょっと何言ってるかわかんない」

「つまり玉の中まで完全な金でできているんですよ」

「ちょっと待ってください、その真の金の玉が優勝者に渡すものではないならば優勝者に渡すはずの金の玉は」


「それは、その……おい、君、賞品の方の金の玉を持ってきてくれたまえ」

 指示を受けたのはイリーナにいいように使われた受付のお姉さんだ。お姉さんはトコトコと走りだし屋内に入ったかと思えばすぐにカートを押しながら戻ってきた。カートの上にはぱっと見はイリーナが手に持つものと同じ金の玉。


「何よ、全く同じじゃない」

「では姫様、こちらの金の玉も持ってみてください」

 お姉さんがびくびくしながらイリーナに新たに運んできた金の玉を渡した。イリーナは二つの金の玉を右手と左手に分けて持ち、揚げたり下げたりした。


「あれ? こっちのほうが軽い?」

「どれどれ? ソラソラにも持たせて」

 そう言うソラソラにイリーナは片方の金の玉を「はい」と無造作に投げた。ソラソラは「あわわ」と言いながらもしっかりと両手で受け止めたが、予想外の重さに金の玉はそのまま地面へとキャッチした両手ごと沈んでいった。


「あんた何やってんの? そっち軽い方よ」

「そちらが軽いというよりは姫が取り戻してくれた方が重いが正しいかと」

「つまり優勝者に渡す方の金の玉は純金ではないと?」


「コトネ様のおっしゃる通りです。そちらの金の玉は表面数㎝が金で残りは鉄でできています。それでも十分価値はあります。大会規定通りそちらの玉はブリギッタに授与します。そして、姫様に取り返していただいた方の金の玉は私の大事な資産でありますが、今回の件のお詫びとして姫様に献上するということです。改めて、どうでしょう? これで今回の失態は見逃していただけないでしょうか?」

 話を聞いているのか聞いていないのか、イリーナは再度金の玉をまじまじと見ていた。


「ねえねえ。コトネ」「なんですか?」

「……もしかしてこれって…………本当にただの金の玉?」


「ようやく気が付きましたか。その玉は魔王城の門の鍵ではなくただの金の玉です。でなければ鍵を守る役目の魔王軍幹部があんな迷いもなく投げ捨てたりしませんよ」


「ちょっと待てぇぇぇぇい、おかしくない? じゃあ、あの鳥はなんで大会に参加してたんわけ」

「恐らくは……」



 その頃ジャック・ジャックは飛びながら泣いていた。

「やっと見つけたと思ったのに。本物の金の玉なんて……このままじゃ魔王様に怒られる。どこ? いったいどこなの? 私の金の玉――――」

 ジャック・ジャックが守るべき金の玉を失ったのは10年以上も前になる。その時はもう必要ないだろうと思っていたが半年前魔王の復活が近いことを知り大陸全土を探して回っていたのだ。

 冒険者一武闘会の副賞が金の玉と知り、これはと思い参加したがはずれであった。

ジャック・ジャックの金の玉探しの旅はまだまだ続く。



「ということだと思います」

「いやどういうことよ!? なんでそんな大事なもの失くしてんのよ、幹部失格よ」


「ジャック・ジャックもそれを恐れて魔王軍には報告せずこっそり探し回っているんでしょうね。そう考えたらなにか悲しい物がありますね」

「もうそんなことどうでもいいわ! じゃあ私は何のためにあんな藻だらけの湖に飛び込んでまでこの玉を救出したのよ!」

 イリーナが怒りでわなわなと震え始めた。


「まあまあ落ち着いてください、姫。結果オーライってやつですよ」

「何が結果オーライよ! 何よこんな金玉こうしてくれるわーーー、てぇい!」

 イリーナは純粋な方の金の玉を遥か彼方にぶん投げた。


「「「「「わああああああ」」」」」

 コトネたちが一斉に悲鳴をあげる。


「姫、話を聞いてなかったのですか?」「イリイリ、たまに本当に馬鹿なの?」「イリーナ様、これはさすがの俺も擁護できません」

「ちょっと、なんなのよあんたち、別にいいじゃない、だってあれ魔王城の鍵じゃなくてただの金の玉よ」


 そう答えるイリーナの横でナリーキンがブクブクと泡を吹きながら倒れた。

「500億オラの……500億オラの金の玉が……」


そこでようやく己が何をしでかしたか理解したイリーナは目を丸くしパチパチさせながら口元は笑いながら皆の顔を見回した。

「と、取ってきた方がいいかな?」


「「「GО!!「」」」」

「いってきます」

 なぜかイリーナはわざわざ金の玉が描いた軌道と同じように空中を走っていった。


 そして、空高く走っていくイリーナを見た客たちはざわつき始めた。

「レギンス?」「やっぱレギンスよね」「まくって隠すくらいなら履かなきゃいいのに」「ドレスにレギンス? 新しいわね」



 20分後。

 ゼェーゼェーと息を切らすなぜか泥まみれのイリーナが戻ってきた。その手にはしっかりと金の玉が握られていた。

 気が付けば客たちから「レギンス姫」コールが沸き起こりイリーナを称えた。イリーナは戸惑いながらもコールに答えるように金の玉を掲げると「おおっー」と拍手が起き、冒険者一武闘会は幕を閉じたのであった。



お読みいただきありがとうございます。今回で女体好きの女戦士ブリギッタ加入の商業都市ウルウール編終了です。


次話からは宿屋街ゴーストタウン編スタートです。引き続きお楽しみください。

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