思い出が走馬灯の様に
部屋へ向かっている途中に、リオはまだ寝ているのではないか?とガルは思った。起こすのは申し訳ない、そして自分もかなり腹が減っている。色々考えた結果、リオの食事はテイクアウトすることにし、ガルは踵を返して足早にレストランスペースへと向かった。
レストランスペースに着き、辺りを見渡しスタンダスタを探した。すると、テーブルに置いてある料理をやたら写真に収めている一人の男が居た。
「スタン、何してんだ?」
スタンダスタは、持つものがフォークではなく、カメラを持っていた。
「ん?料理の写真撮ってるんだよ。メニュー表とかポスターを新しくしたいんだって!今さっき、船長さんにお願いされちゃったんだー!カメラ好きなら、やってみないか?って」
話ながらも、スタンダスタはシャッターを切り続ける。
「初めてカメラが役に立ったな!」
「ひどいなーそれ!でも、今まで写真って自己満足の世界だったんだけど、誰かのために撮ったのは初めてかもしれない。・・・こんな仕事もいいかもなー」
「こんなってどんなだよ!」
「カメラマンだよ!まだまだ写真って浸透してないと思うんだよね。例えば、図鑑とかもイラストで表現されたものが多いけど、それをボクが撮った写真で図鑑を埋め尽くしたいな~なんてね。」
「へー。スタンもちゃんと自分の将来の事考えてんだな。」
ガルの一言には、驚きとからかいが混じっていた。
「ちょっと!ボクだってなにも考えずに遊びに・・・いや、旅に出てるわけじゃないんだから!」
「遊びって言ってるじゃねえかよ!」
「そりゃいろんな所に行くわけだからちょっとは羽を伸ばしたいというか、、、、違う違う、ちゃんと将来の事考えなきゃなって思ってるんだよ?・・・ちょっとは。」
「はいはい、、、さぁ、飯だ飯だ!!食べまくってやる!!」
スタンダスタを軽くあしらい、ガルはバイキングコーナーへとスキップで向かった。
「ガル行っちゃったよ、、、あれ?そういえばガルって、リオを連れてくるんじゃなかったっけ・・・まぁいいや。さて、ボクも写真撮ったことだし食べよっかな。」
被写体としての使命を終えた料理は、今度はスタンダスタの空腹を満たす使命を果たすこととなった。
ガルはスタンダスタと一緒に食事をすることがなかった。というのも、スタンダスタが座っているテーブルの上は料理で一杯で、ガルが食べる料理を置くスペースがどこにも無かったため、泣く泣くガルは別のテーブルで食べることとなった。
約30分後、ほぼ同時に二人は食事を終わらせた。
「おいしかったね!」
「あぁ、うまかったよな!さすが豪華客船の料理だよ」
お互い、料理で膨らませたお腹をさすりながら、料理の感想を言い合った。
レストランスペースを出るとスタンダスタが立ち止まった。
「ごめん、ガル!ボク船長さんに撮った写真見せてくるから、先部屋に戻ってて!」
「おぉ」
そう言い残し、スタンダスタは船長室に向かった。ガルはスタンダスタを見送り、そのまま部屋に戻ろうとしたが、リオの食事をテイクアウトするのを忘れていた為、急いでレストランスペースへと向かった。
色々考えた結果、2種類のサンドイッチを持ってガルは部屋へと向かうことにした。
部屋の前に着き、リオを起こさないようにそっと部屋のドアを開ける。
「何してんの?」
音を立てまいと、神経を集中させてドアを開けている所を不審者を見るような目でリオがこちらを見ている。リオはすでに起きていた。
「なんだよ、もう起きてんじゃん。気使って損したわ、、、、あ、腹減ってるでしょ?はい、サンドイッチ」
「あら?ちょうどサンドイッチ食べたかったのよね。ありがと。」
リオはガルからサンドイッチを受けとると、黙って食べ始めた。
何度か口にした所で、リオはサンドイッチをお皿に置いた。
「ねぇ、そういえばスタンは?」
「ん?そんなに気になるか?」
腕を組んでるガルの顔は少し、にやついていた。
「何よ!少し気になっただけじゃない・・・」
「愛しのスタンは、船長室だぜ」
「そう、、、」
からかわれたせいか、リオはそっぽを向いてしまった。
「・・・別に深い意味はないけど、スタンのどこが好きなんだ?」
「なんでかしらね、私もよく分からないかも・・・でも」
「いつからか、スタンの事ばかり気になってたの。」
リオは徐に食べかけのサンドイッチに手を伸ばし、食べ始めた。
「それはそれは・・・気持ちは伝えたのか?」
しばらくリオはサンドイッチを食べ続ける。サンドイッチを食べ終え、一息つくと、リオは口を開く。
「そんなこと・・・出来たら苦労しないわよ。」
「ま、スタンの事だ。伝えた所で、理解するかどうか、、、」
「そこなのよね、あの子鈍感だから、、、」
「・・・うふふ」
「はっはっは」
思わず二人は笑いだしてしまった。
「でも、今が楽しいから良いのよ。いつか、その時が来たら・・・ね」
「いつになることやら、、、だな。ふわぁー・・・悪い、俺寝るわ。2時頃になったら起こしてくれ」
ガルはベッドにダイブし、数分もしないうちにイビキをかいて寝てしまった。
「起こしてくれって、、、もう。ま、ずっと寝てなかったから仕方ないわね。・・・そういや、スタンは遅いわね、、、」
リオはソファーに座り、テレビを見ながらスタンが部屋に戻るのを待つことにした。
ガルのうるさいイビキを、テレビの音で打ち消し始めることおよそ5分、、、
「ただいまー帰還致しました!!あ、リオ。起きてたんだね。」
「起きてたら悪いかしら・・・」
「違うよー!こんな時間だから寝てると思って、、、眠くないの?大丈夫?」
只今午前9時半。すっかり夜は明けているがフェリーの出港が午前3時で、部屋に着いてから停電になり、スタンとガルが犯人探しを始める頃にはすでに5時を過ぎていた。そこからの睡眠となると、リオは精々4時間ほどしか寝てないことになる。
「大丈夫よ、だってあなたたちは私の為に寝ずに犯人を探してくれているのに、のうのうと寝ていられますか。ホントだったら、あたし一人で犯人を蹴散らしてやりたかったのだけどね、、、」
「しょうがないよ、だってリオの大事なものが盗られちゃったんだもん。でも、手元に戻って良かったよね!ボクだって頑張ったんだからね!少しは!」
スタンダスタは自分の頑張りをリオに伝える。リオはそんなスタンを宥めている。それは、まるで自分がスタンダスタの母親になった気分であった。
「はいはい・・・ありがとね。」
ZZZ
リオが感謝の言葉を述べた2秒後には、スタンダスタはちいさないびきをかいていた。
「全くもう、、、お疲れさま」
無造作にベッドの上で寝転ぶスタンダスタを、リオは起こさないようにそっと動かし布団をかけてあげた。今出来るスタンダスタに対しての感謝のお返し。
それからというもの、スタンダスタとガルはサスラダバータに到着する午後3時まで一度も起きずに、すやすやと眠っていた。
「お客様にお知らせ致します。只今サスラダバータに停泊しております。停泊時間は午後4時半まででございますのでお降りのお客様がいらっしゃいましたら、時間内に船内からお出になります様お願い申し上げます。この度は、ビーノ・カストロイドをご利用いただきまして誠にありがとうございました。引き続きご乗船されますお客様は、より良い船旅になります様、務めさせて頂きます」
船内アナウンスが聞こえ、サスラダバータに着いたことが分かったリオは二人を起こすことにした。
「ガルー!!スタンー!!さっさと起きなさーい!!」
・・・リオの叫び声は空しく部屋に響き渡った。
しばらくすると、急にガルが体を起こした。周りをキョロキョロすると、リオと目が合った。
「あ、おはよう。もしかして、、、もう着いた?」
「えぇ、私たちの最初の目的地よ。さっさと準備なさい。」
「おぉ。・・・スタンはまだ寝てるんだな。」
「大丈夫よ。想定内だわ。」
リオは、仰向けで寝ているスタンに近づいた。そして・・・スタンめがけてダイブした。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
驚きと共に苦しさも伝わるスタンの呻き声が聞こえてきた。
「あっははははは!」
苦しんでいるスタンを見て、リオは大笑いをしている。
絶対敵に回してはいけない女「リオ・キャスバイン」ここに現る。
呻き声が聞こえなくなると、スタンダスタはゆっくりと体を起こした。
「夢なのかな、、、16年間の思い出が走馬灯の様に・・・」
「あら凄いじゃない?死ぬ寸前って、いろんな思い出が走馬灯の様に思い出されるとかよく言うけどホントだったのね。」
「ボクはまだ死にたくないよ!!てか、リオ!!その起こし方止めてよ!!ホントに死にかけたじゃないか、、、」
「だから言ったじゃない?時間になっても起きなかったら、飛び乗って起こしてあげるって」
「言われてない!今回は言われてないよ!!」
スタンダスタは、昨日のワームガルダのホテルでの出来事を思い出した。思い出したくないことだったが思い出した。ボクは何かリオに悪いことをしたのだろうか、、、スタンダスタは疑心暗鬼になった。
「ごめんなさいって。もうやらないわよ・・・多分」
「最後なんて言ったの!?聞こえないよ!!」
怯えるスタンダスタにガルはそっと近づく。そして、スタンダスタの肩を軽くポンポンと叩いた。
お前ばっかり大変だな。でも、これがリオの愛情表現なんだよ。少しばかり強引だが、これがリオのやり方なんだよ。そしてそれは、スタン以外にはやらないだろうぜ。だってリオは・・・いや、ホントお前は
羨ましいぜ。
「・・・準備して、行くぞ」
「え、、あ、うん。ガルも冷たいなぁー」
ガルの想いを、スタンダスタは知るはずもない。そしてリオの気持ちをスタンダスタは知らない。知らぬも罪な事。
時刻は3時半を回る。準備が出来た3人はフェリーから降り、無事サスラダバータの地へと足を踏み入れた。