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引退?

『(じゃじゃーん!!!)』

リザードマンの画面に大きなトカゲの形の金色のトロフィーが映る。

『おお〜!なにそれ?どうしたの?』

『(登録者数5000万人突破で、送られてきた!まぁまだ増え続けてるけどな!)』

コムの暴走から数日後。

今はPECの第四回会議が開催されている。

結局あの日、オムニアと地球皇帝のやりとりは、リザードマンのチャンネルで生配信され、世界中の話題の的となった。

やらせを疑ったり、半信半疑の声も多かったけれど、概ね世論は地球皇帝を応援する方向に向かっているらしい。

私は相変わらず、あまりテレビもネットもたくさんは見ないので知らないけど、子供新聞だけ読むようになった。

新聞でも地球皇帝を応援する、世界中の子供達の声が多く書かれていた。

そして今最も世間でホットな話題と言えば

"world king TANUKI chan"

どこかのクリエイターが巨大化したタヌキが、地球を襲うロボットと戦うアニメーションを上げたことを皮切りに、あらゆる戦うタヌキのイラストや、アニメーションがネット上でバズっている。

リザードマンのチャンネルには公式タヌキグッズを出して欲しいというコメントも多いという。

『(そのうち資金集めや、チャリティーとして、PECから出してもいいかもしれないわね。誰か絵描ける?)』

『いやぁ、絵はちょっと…』

『俺も…』

私とカワウソの野口くんが口を濁すと、リザードマンと、柴山田さんも首を横に振っている。

『あ、美弥ちゃん、絵うまいよ。』

『(ミヤ?あぁ、あの時一緒にいた子?)』

『まぁ、上手いっちゃ上手いか?』

『(いいじゃん!説明する手間も省けるし、頼もうぜ!なんならそいつもPEC入る?)』

『いや、どうだろう。座って会議とか出来るのかな?コムはどう思う?』

コムは適当に作った髭おじさんのアバターを辞めて、今は普通の男の子のアバターだ。

小学校低学年くらいの見た目。

『著作権的に、僕が作るよりはいい。ただ特定の企業に依頼するのはダメだと思う。』

『(利益の問題がでてくるものね。パリ協定のご褒美の時のように、今度は参加企業を募って競争してもらうのもありだと思うけど。そこまでするなら母体となる正式な団体も必要かしら?)』

『地球皇帝基金とかを設立するのが、無難じゃないかな。日本の法務省、ローマ法王、UNEPあたりに保証人なり手配なり打診するよ。』

『今、とんでもないワードが出たような…。』

柴山田さんの、柴犬のアバターの耳が伏せられ、尻尾が下がっている。

『まだ、そこまでしなくてもいいんじゃ…』

『(あー、でも知名度が上がってるし、さっさと公式作ったほうが、非公式の変なのが出るのは抑えられるかも。俺も苦労したし…)』

『なるほど。』

『まぁ、最初からうまくはいかないだろし、とりあえずやってみようぜ!コム、助けてくれるだろ?』

『…まぁ、志乃がやれと言うなら。』

コムのアバターはじっとこちらを見つめているように見える。

『うまくいかなかったらまた相談するよ。その時は手伝って。とりあえず美弥ちゃんに絵を頼んでみるから、待ってて。』

『分かった。』

『(地球皇帝、引退の件はどうするの?)』

コムの騒動の前に、PECから提案した三つの案は、それなりに世界から評価されたらしく、近いうちに国際会議で議題として上がるらしい。

さらにエアコンの設置は各方面から称賛の声が上がり、この功績だけでも、私の実績として引退しても文句は出ないだろうと、コムやワシントンさんもはっきり言ってくれた。

それを受け、さっそくリザードマンのチャンネルで、今年いっぱいの引退と、次の皇帝への引き継ぎを発表したところ、継続を求める声が世界規模でかなり多く上がっているとか。

地球皇帝への反対デモが起きていた地域で、今度は継続を求めるデモが起きていると聞いた時は、ちょっと腹が立った。

『いや、引退するつもりだけど…』


そこまで話したところで、部屋の外から『ごはんだよー!』とお母さんの声がする。

私は、"最近は"守っている、お母さんとの地球皇帝のルール通りに、夜ごはんの前にみんなに手を振ってログアウトした。


『よ!』

翌日。学校に行く前に、マンションのエントランスで藤尾さんとすれ違う。

最近藤尾さんは気持ち悪いくらいに、毎日機嫌がいい。

今も鼻歌を歌いながら、怪しい紫色の缶ジュースを飲んでいる。

『お、おはようございます。』

『おー、なんか困ったら言えよー。』

(絶対ほんとに言ったら嫌そうにするんだろうな…)

私は心の声は、発さずにしまっておく。

大人ってそうだって、私は分かってきた。

助けてくれそうな風にはするけど、本当に助けてくれる人は結構少ない。


本気で未来を変えようとしている大人もいれば、本当は少し先の未来だけあればいい人も居て。

子供はまだ、どの人がどこまでは自分の味方でいるのかなんて、分からなくて。

大人も分からないのかも

(少なくもコムは、ずっと私の味方だった。無茶苦茶だったから味方じゃないみたいだったけど。そもそも味方ってなんだ?)

何を考えるべきなのか、はたまた考えないほうがいいのか。

私はとりあえず、道の先にランドセルを背負った美弥ちゃんの後ろ姿を見つけて、走り出した。



第一部 おしまい


もし最後まで読んでくれた方がいたら本当にありがとうございました!

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