地球皇帝?
主人公は小学四年生の女の子ですが、児童文学的な展開にはしてないつもりです。
完結まですでに書いてあるので、最後までお楽しみ頂ければ幸いです。
この世界に満足していますか?
私はあまり満足していません。
毎日学校は疲れるし、先生も理不尽なことばかり言うし、体育も嫌いだし。
家族は好きだけど、頑張っても頑張っても毎日何かしら叱られるし、ゴールの無い円の周りを走り続けてる感じというか、なんなら、円はどんどん大きくなるというか。
でもそれって私だけじゃないと思うんです。
テレビのニュースでは怖いニュースばかりだし、お母さんは何かとアレコレは危ないから気をつけなさいと言うし、お父さんは政治家の人の悪口言うし、
変なウイルスも流行るし、夏ぬも暑すぎるし、何買うのも高いし、
だからやっぱり今の世界ってあんまり良くないと思うんです。
そんなことを考えたとしても、私はただの平凡な小学4年生だから、ただ思うだけなんですけど。
思っているだけが、良かったんです。
本当に変えたいと思っていた訳ではなかったんです、ごめんなさい、許してください、と
私は、震えが止まらない手に握られた、金色に塗られた割り箸を凝視し、何処にいるかも知らない神様に謝った。
その、にわかに信じがたいニュースが流れたのは今年の5月の頭だった。
“地球皇帝案、国際会議にてついに議決”
お父さんはそんなニュース番組を馬鹿にしてる様な感じだったし、お母さんも苦笑いだった。
もちろん学校でも子供同士でニュースの話題なんてでるわけもないし、その時は一瞬で忘れた。
6月になった
“地球皇帝、異例の早さで選出方法決定。歴史的偉人の人格を学習したAIが選出方法を策定中。AIのプログラミングには全世界のトップレベルの技術者が参加”
“AI、自らをOMNIAオムニアと名乗る、地球皇帝の選出エリアをアジア圏に絞ることを発表。欧米各国からの批判が噴出!”
“オムニア、地球皇帝を日本人から選ぶことを提言。今夜、総理緊急記者会見”
次々と嘘なのか本当なのか分からないニュースが毎日毎日色んなところで流れた。
私は大人ってすごく手の込んだ嘘を大々的にやるんだなって内心呆れてたりした。
『嘘でしょ?』
夕食を作り終えてスマホの画面をを見ていたお母さんがそう呟くと、テレビのリモコンを掴んで電源を押した。
カシャカシャカシャカシャ
画面の中では、けたたましいシャッター音と、フラッシュのライトが四方八方から長テーブルに座って狼狽するおじさんを照らす。
スーツを着て、たくさんの大人に囲まれているけど、威厳とかそう言うものは無いように見えた。
上にLIVEの表示があるから生放送みたいだ。
私は好物のほうれん草をお皿に山盛りよそいながら、対岸の火事である大人たちのざわめきにワクワクした。
ここまでくれば私も流石に今回の騒動がどうやら本当の現実に起こる出来事ってことはなんとなく分かってきてたけど、それでもこんなに偉そうな大人たちが慌ててるのって申し訳ないけどかなり愉快。
『えー、この度、オムニー、が地球皇帝を、我々日本人から選出する、と発表されました。これは国際会議にてすでに決定事項であり、オムニーの決定は何人たりとも覆せないことは、地球皇帝の決議案と同時に決定されています。え、オムニア?ゲホッゲホッ、オムニアが提示した今後のスケジュールですが、…』
『オムニーって、オムツじゃないんだから、どうかと思うわ』
『おかーさん!ひのくんはおにーさんだからもうオムツはいてないよ!』
『そうだねぇ、ひのくんはお兄さんだもんねぇ』
お母さんと弟のひのきくんのやりとりを見ながら、空になったお皿にほうれん草をもう一塊よそう。
『お母さん、地球皇帝って何?』
『んー、地球の代表って言ったらいいのかな?地球環境の問題とか、宇宙開発とか、国単位でやってたら埒が開かない問題を地球規模で決定する役割の人らしいよ。』
『え〜、そんなの神様じゃん』
『カミサマはお空の上にいるんだよ!』
『ひのくんよく知ってるね〜』
最近弟のひのきくんはいつも私とお母さんの会話に割り込んでくる。お母さんに頭を撫でてもらって満面の笑みを浮かべるひのきくんを横目で一瞥してから、私は視線をテレビの画面に戻した。相変わらずおじさんがしどろもどろ話してるだけで、“ジーセブン”とか“ブリックス”とか聞き覚えの無い言葉が多いし、内容はよく分からない。
ていうか、この人、総理大臣ってやつでしょ?名前なんだっけ?
その後の話は、お母さんがテレビを消してしまったから詳しいことは知らない。
ただ次の日クラスでも珍しく“地球皇帝”ってニュースの言葉が聞こえた。
数日後、お父さんが帰ってくるなりスマホ片手に『オムニアの選出範囲東京都に限定されたってさ!』と早口で告げた。
『えー、嘘でしょう?』お母さんもかなら驚いているみたいだった。
あまり驚いた反応のない私を見てお父さんは『志乃ちゃんも聞いてる?東京だよ?』と念押してきたので、私は少し得意げに顎を上げて『クラスの子達が話してたからもう知ってる〜!』と胸を張った。
『Abema tvで都知事の小湖さん緊急出演だって、なんの関係が?』
『どういう基準で選んでるんだろうね〜』
お父さんとお母さんが大人同士で盛り上がり始めたので、私はひのきくんを抱っこして子供同士ひのきくんと盛り上がる。
『お父さんが選ばれたら、お父さん地球をどうしたい?』
『どうちたい?』
私はひのきくんのちっちゃいお手てを掴んで、お父さんに向かってむちむちの人差し指を向ける。
『えー、なってみないと分からないな、考える問題にもよるだろうし、』
お父さんはいつもこう。白黒はっきりは答えない。
『お母さんは?』
『おかーさんは?』
『お母さんは、とりあえず温暖化対策の急進かなぁ、このままじゃ子供達困るだろうし』
お母さんはいつもこれ。私たち子供最優先。
『じゃあ志乃ちゃんが選ばれたら?』
『え?』
『だから、志乃ちゃんが地球皇帝に選ばれたら?』
お父さんがニヤニヤしている。私に難しい問題をだして、私がなかなか解けないといつもこのニヤニヤ顔をする。
『子供だから選ばれる訳ないじゃん』
『そんなの分からないよ。オムニアは年齢制限なんて提言してないし。』
お父さんだってそんな訳ないって分かっているのにこういう時のお父さんはしつこいので、私は諦めて考える。
私がもし地球皇帝になったら。
『とりあえず、ほうれん草はたくさん植えてもらうかな。』
ほうれん草は大好きだし、お母さんも身体に良いっていつも言うし、なかなか悪くない政策じゃない?と私は口の中にほうれん草を放り込みながら、適当にそんなことを考えていた。




