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♪西にはあるんだ エルフの国が♪  作者: 川口大介
第二章 エルフ色々多種多彩
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 遠い昔、栄えていたエルフ王国で内乱が起こった。反乱軍は、人間の魔術師から取り入れた技術と、大地の精霊術とを組み合わせたものらしい、新しい術を開発していた。それが、魔法陣によるモンスターの召喚と使役である。加えて、近隣の人間の国と密約を結んでおり、その軍勢を味方につけていた。

 凶暴強力なモンスターたち、そして圧倒的に数が多い人間の兵士たちにも攻められ、王国軍は劣勢に立たされる。そこで王国のエルフたちは、こちらも人間の技術を取り入れて研究していたもの、タ・イーム・マッスイィーンを使って未来の世界へと逃れることにした。

 マッスイィーンは、草や木や風や川の精霊力の流れが交差する特別な場所、非常に強い精霊力を得られる地点でなくては使えない。エルフたちはそこをリューミヤクと呼ぶが、幸い、それは見つかった。しかもちょうど、必要な二点が。

 まず一点で、小さなマッスイィーンを使い、先発隊を送る。その作業と並行して、もう一つの点で、大規模なマッスイィーンの用意を進めていく。

 先発隊の役目は、未来で受け入れ用の時の門を開くことだ。単独のマッスイィーンによる時間移動は、開発中の現段階では、適性のある者にしかできないのである。

 適性のない、しかも数多くのエルフたちを送るとなると、未来側での受け入れ態勢が必要になる。そこで、先発隊が未来で時の門を開き、それを使って未来と過去を繋ぐことができてから、大規模マッスイィーンで一気にエルフたちを送る、という計画である。 

 

「うっ。つまり姫様……や、その……き、君たち二人がこうなったのは、俺たち人間のせい?」

「今の、あなたたちのせいじゃないわよ。気にしないで」

「そうそう。エルフの内乱に人間軍を引き込んだのだって、エルフなんだから。うまいこと言いくるめて、人間たちにばかり危険を押し付けてたのかもしれないんだし」

「……続きを聞いて」


 メルとテレイシアがいたあの森が、まるごとマッスイィーンであり、その中には受け入れの門を開く設備や、その他の様々な古代エルフ技術の産物がある。それらは全て、精霊力で起動し、操作できるようになっている。

 だが、この異変。山の精霊力が乱れ弱っている。テレイシアが眠るコールドス・リイィープ(眠っている理由はカナエが推測した通り)の維持と、マッスイィーン自体を隠す機能、後は近くの様子を見聞きする機能ぐらいで精一杯であり、他は何もできなくなってしまった。


「それで、メルが一人でいろいろ調査している内に、こうなったってわけ」

「うぅ。やっぱり、俺のせいで」

「いいってば。メルは一人でやるつもりだったらしいけど、あたしだってこんなことになってる以上、寝てるわけにはいかないわ。異変が進行したら、マッスイィーンの状態がもっともっと悪くなるかもしれないんだし」

 

 もう一点の、リューミヤクの場所。そこに、大規模マッスイィーンが建造されるはずであった。そして、この時代と繋がったら、多くのエルフたちが一斉に来るはずであった。

 だが、そこには何もなかった、建造された跡も無かったと、メルは報告した。


「えっ。じゃあ、大規模マッスイィーンが完成する前に、王国は攻め滅ぼされた?」

「あたしも、メルから聞いた時は、そう思って絶望したけど……」

「その可能性もあるけど、無事に完成して、繋がるのを待ってるのかもしれないわね」

 カナエの言葉に、アキカズは混乱する。

「ま、待ってるって、どういうことだ? 今俺たちのいるこの現代は、エルフ王国の内乱の時代より、ずーっと未来なんだろ? で、今、王国は存在してないんだろ? ってことは、」

「未来から見れば、過去は全て過去。逆も然りなのよ。いい? よく聞いて」

 カナエは、噛んで含めるように説明した。

「千年前の人が、千年後に飛べば、そこは現代。九百年前の人が、九百年後に飛べば、そこも現代。【無事に大規模マッスイィーンが完成して、繋がるのを待ってる時間】が少しでも存在したなら、そこと現代を繋げて、来てもらえばいいのよ」

「な、なるほど。何とか解る」

 だいぶギリギリだが、アキカズはどうにかこうにか理解した。

 テレイシアはちょっと、驚いた眼でカナエを見ている。

「あなた、凄いわね。マッスイィーンのこととか、前から知ってたの?」

「実物は見たことないけど、本で勉強だけはしてるから。その様子だと、わたしの理解は間違ってなかったようね?」

 ええ、とテレイシアは肯定する。頷きながらの、カナエに対するちょっとした尊敬の眼差しに、嘘はなさそうだ。

 だがカナエの方は、テレイシアを疑っている。まだ何かを隠しているっぽい、と。

 解り易いところでは、ついさっき、自分で自分の国のことを「古代のエルフ王国」と表現していたことだ。カナエたちから見ればそういうことになるが、それなら普通、そう言う。「あたしの国……あなたたちから見れば、古代の国ってことになるかしらね」などと。ここでの生活が続き、カナエたちとの付き合いも深くなれば、今自分がいるこの時代、現代の感覚に合わせた表現もするだろう。が、目覚めたばかりのこんな段階で、それをするのは不自然だ。

 自分たちの所属を、真っ直ぐに「古代」呼ばわりした時点で、それは正直な告白ではなく、考えて作って言った台詞の可能性が高い。まあ、こんなややこしい理屈以前に、表情や話し方の時点で演技を隠せていないのだが。だからカナエは思ったのだ。このお姫様、根が素直な子みたいねと。

 とにかく。テレイシアの言っていることには、いくらかの嘘が混じっている。だがカナエ自身が感じた「若くて古い」や、コールドスのことからも、テレイシアが遠い過去からやってきたのは間違いない。とすると「古代」ではなく「王国」の方に嘘があるのか? まだ、カナエには判らない。

『とりあえず、この子がエルフであることは確か……いや、まだそうとは……う~ん』

 カナエは既に密かに、テレイシアの中の神様たちを探っていた。

 吸気と呼気の往復や、血液の循環のように、生物の体は多くの神様たちが影響し合うことで、命を保っている。テレイシアの神様たちは、明らかに人間のそれとは違っていた。カナエの知る限りの、動植物とも異なる。人間と、動植物との間。特に植物に寄っているような感じだ。

 森の妖精とも呼ばれ、精霊たち(カナエにとっては神様たち)と交信する能力については、先天的に優れているとされるエルフ。テレイシアからは、正にそういったものを感じる。

 ただ、カナエは本物のエルフと会ったことはない。だからこの分析も、確実な答え合わせができているわけではない。カナエ一人の推測に過ぎない。

『でも、まさか、人間でもエルフでもない全くの別種ってことはないでしょ。特徴はエルフと一致してるんだし。そんな珍しいのがいたなら、どこかの国の誰かが、何らかの記録を残しているはず。でも、そんな記述はどんな本でも見たことがない』

 エルフに関する古い記録は、かなりの数を読んだ。世界中の、いろいろな時代のさまざまな書物を読んだ。精霊術関連の研究書も、歴史の資料も、民話も伝説も読んだ。だがどこにも、「エルフによく似た別種」なんてものは書かれていなかった。

 カナエは自分の知識に自信があり、また、テレイシアには悪意がなさそうとも思える。なので、とりあえずは信用することにした。


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