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♪西にはあるんだ エルフの国が♪  作者: 川口大介
第二章 エルフ色々多種多彩
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 肌の色に近い、黒い血を噴出させながら、ヴァンクーアはアキカズを、ではなく石が飛んできた方角を憎々し気な目で見た。

 その相手を、確認できたのかできなかったのか。だがどうあれ、目の前のアキカズに対処しないことには、第二撃第三撃を受けると思ったのだろう。ヴァンクーアは視線を戻して、アキカズへの反撃に出た。再度、魔剣で地面を叩き、土砂を吹き上げさせる。

 が、こんな単純な攻撃を、二度続けて受けるほどアキカズは間抜けではない。今度は素早く後退して、土砂をかわしきった。

 だが今度の土砂は、アキカズを狙った攻撃ではなかった。土砂の壁の向こうで、ヴァンクーアの大きな足音が遠ざかっていく。土砂を目くらましに使って、逃げるつもりだったのだ。

「お前の顔、お前の名、忘れんぞアキカズ! 今の仲間もろとも、オレが必ず殺してやる!」

 土砂の吹き上がりが終わり、アキカズの視界が戻った時には、ヴァンクーアの背はかなり遠くなっており、木と木との隙間に微かに見える程度だった。

 そして、前方から大きな笛の音が聞こえた。音質からして口笛、異常な音量は異常な肺活量によるものだろう、つまり吹いているのはヴァンクーアだ。と思ったら、

「うおっ?!」

 キャンプで冒険者たちと戦っていたモンスターの群れが、突然、怒涛のようにアキカズに襲いかかってきた。

 と、いうわけではなかった。モンスターたちはアキカズには全く見向きもせず、真っ直ぐにヴァンクーアを追いかけて行く。

 おそらく、今の口笛は総員引き上げの合図だったのだろう。深手を負ったヴァンクーアが、自分を守れと指示したのだ。

 モンスターたちの中には、鳥モドキも猿モドキもいる。ただでさえそんな顔ぶれで、しかもここは足場の悪い山中だ。アキカズが走って追いつけるものではない。

 仕方なく、アキカズは刀を納めた。


「アキカズ! ……無事ね。良かったあ」

 アキカズが打ち飛ばされた方向へ、打ち飛ばした巨漢が追撃に走った。山の消火に加え、冒険者たちの援護からも手を離せなかったカナエは、アキカズならきっと大丈夫と思いながらも、気が気でなかったのである。

 少し遅れて、モンスターたちまでもがアキカズの方へ殺到した。慌ててそれを追いかけて、今。どうやらモンスターたちは逃げたらしく、アキカズの無事も確認。カナエはようやく一息つけた。

 アキカズは片手を上げて迎える。

「そっちも無事で何より。火は消し止められそうか?」

「ええ。ところでさっき、口笛っぽい音が聞こえたけど。もしかして、あのボスっぽい奴をあなたが撃退して、モンスターごと退却させたの?」

「まあ、そうだが。いろいろあったんで、とにかく聞いてくれ」

 アキカズはここで起こったこと、そしてヴァンクーアが言っていたことをカナエに説明した。

 ブラックエルフのこと、まだ見ぬ黒幕のことなど。

「なるほどね。話が少しずつ見えてきたというか、闇が深くなってきたというか。わたしたちが思ってた以上に、厄介な事件なのかも、これ。で、まだいるの?」

「そのはずだ。……出てきてほしい」

 先ほど、石が飛んできた茂みに向かって、アキカズは声をかけた。

 アキカズとカナエが見守る中、迷いがあったのか少し間を開けてから、その者は出てきた。

「アキカズと、カナエ、でいいのよね。あの大声、聞こえてたわよ」

 十二、三歳ぐらいと見える小さく細い体に、水色のドレスを纏った、高貴な美貌の少女。浮世離れしたその美しさがなかったとしても、長く尖った耳が、アキカズやカナエのような普通の人間ではないことを示している。

 あの、コールドス・リイィープで眠っていたお姫様だ。

「あたしの名は、テレイシア。えっと、」

 名乗ってから、テレイシアは少し考えるような様子を見せた。

「あたしはエルフの、お姫様なの。さっきの、あの黒いのが言ってた通り。だからその、古代の、エルフ王国の、お姫様」

「……素直ね」

 テレイシアが話す様子を見て、カナエは率直に言った。

「どういう意味?」

「信用できるって意味よ。安心したわ」

 カナエはにっこりと笑う。対して、アキカズはガチガチに緊張している。

「あ、ああ、その、姫様。さっきは、ご無礼を、」

「ちょっと」

 ぐい、とアキカズの腕を引っ張って、テレイシアから距離を取って、カナエは小声で言った。

「過度に下手に出ないで。将来の、交易の交渉をする時に備え、対等の関係を印象付けておかないとダメよ。今が、実質的にファーストコンタクトなんだから」

「こ、交易も何も、お前言ってなかったか? 国家の危機で逃亡してきたのでは、って。昔にそんなことがあって、今はエルフの国なんて聞かない。つまりエルフの国は滅んで……」

「エルフが今、世界に多数残ってるのは事実よ。もしも、この子が古い王家の血筋であることが彼らに認知され、歓迎され、わたしたちがその協力者となれれば、どうなると思う? 今、何のコネもないわたしたちなんかが持てる交渉カードとしては、最高よ」

「……純粋に、助けてあげたいって気はないのか。まだ詳細はわからんが、国を失ったであろうお姫様を、こんな小さな女の子を」

「もちろん、あるわよ。それとこれとで一石二鳥ってこと。どちらも本音だから安心して」

「そんな風に言われて、安心も納得もできんわっっ」

 小声で言い合っている二人の背に、テレイシアが声をかけた。

「とりあえず、堅苦しくならなくていいわよ。あなたたちはあたしの臣下ってわけではないんだし。あたしも、もともとそういうのは好きじゃないからね。対等に接してくれていいわ」

「あ、そう? そう言ってくれると嬉しいわ~」

 カナエは振り向いて、ニコニコしている。

 アキカズとしては、まあ、本人がそう言うのなら、ってところである。

 気品がありながら気さくなお姫様というのもいいなぁ、って気持ちもある。

「あたしはここで、あなたたち二人のことをしっかり見たわ。他の人間たちと一緒に、山の火を消そうとしていたこと。あたしを……エルフの王家を護ると言って、戦ってくれたこと」

 カナエが、ちらりとアキカズを見て、「うまい! えらい!」と目で褒めている。

 アキカズは、カナエを見返して、「別に何も狙ったわけではないっ」と目で反論している。

「多くの人間たちはエルフに好意的だと、メルから聞いてはいたけれど。自分で直接、見聞きして、確信が持てたわ。それで、あなたたちは信用できると思ったの。この山の異変を解決するため、山の精霊たちを正常に戻す為に、力を貸してくれる?」

「もちろん。こちらからお願いしたいくらいよ」

「ぜひ! 喜んで!」

 カナエは笑顔で、アキカズは鼻息を荒くして、頷いた。

「ありがとう。となると、あたしたちのことをちゃんと説明しないとね」

 テレイシアは、エルフ王家のこと、過去のことを語り始めた。


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