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94.miyucoルート④



 「あっ……これ可愛いな。……あ、あのっ、さと寸さん、こんなのって、どうですかっ!?」


「あ、ああ……いいね。可愛いね」


「じゃあ、えっと……これなんかどうですかっ?」


「う、うん……それも似合ってると思うよ」



 うさぎのスイーツの店を出た後、今度は美優が春物の服を探したいという事で、悟は美優の買い物に付き合っていた。



「う〜ん……」



 美優は服を自分の体に当て、鏡を見ながら考え込んでいる。



(こんなの、あまり着た事ないな……。ちょっと自信ないけど……でも、これくらいの感じのほうがさと寸さんは好きなのかしら……)



……チラッ。



(!? ……うっ)



 何となく美優の横顔を眺めていた悟は慌てて目を逸らしてしまう。



(やべえ……こっち見られた瞬間、思わず目を逸らしちまった。しかもなんかこれ……めっちゃデートじゃん……。ってか、もし美優ちゃんと年が近かったら俺、惚れてたんじゃねえか? なんかずっと可愛いし……。いや、あくまで! 元々可愛い妹っぽくて可愛いけどもよ! あくまで夢と出会ってなくて年も違ったらって話よ!? そうなんだよ、そうなんだよ! もしそうだったらって話しで……!)



「どうしました?」


「い、いや……なんでも……」


「ちょっと試着してもいいですか?」


「ああ。いいよ。ごゆっくりどうぞ」



 俺は取り繕うような笑顔で美優ちゃんに返事する。


 いつものゴスロリ風の服ではなく、シンプルなパステルカラーのワンピースを持って、美優は店員に一声掛けて試着室に入っていく。




 ふぅ……。

 何か一緒にいればいる程、美優ちゃんに心を持っていかれてる感じがするぜ。

 ……しかし、そもそも何で美優ちゃんは今日俺を誘ったんだ? バナーの絵の主が聞きたかった? それだけか? それなら電話やLaneでも済んだことだ。

 

 それとも、何か他に理由があるんだろうか……。



[気にしすぎ。特に意味はない]

[きっと俺が好き♡]



 …………気にしすぎだろう。

なんとな〜く、俺を誘っただけだ。きっと。



 それに、危ないぞ。ここで俺が勘違いして年下の女の子に「あ? バカなの?」なんて思われてしまったら、大切な視聴者&可愛い妹を同時に失ってしまう事になる。

 ゲームはセーブややり直しがきくが、現実はそうはいかねえぞ……。うっかり勘違いお兄さんさんになるところだった(別にお兄ちゃんて呼ばれてないけど)。

 もっと慎重にならねえと……。


 突然、カーテンが開き、美優の声がする。



「どうですかっ……?」



  ー あっ……。ー



 この時、マジで一瞬時間が止まったような気がして、俺は美優ちゃんに見惚れていた。




 美優は春らしい、淡いピンクのパステルカラーのワンピースを羽織って出てきていた。

 ほんのり顔を赤らめる可愛すぎる美少女妹は、自分からどうですかと言いながら悟の前でモジモジしながら恥ずかしがっている。



 悟はそんな美優をスクショして保存しておきたい衝動に駆られていた。


(おいおいおいおい……。何が「あ」だ。情けなさ過ぎるぞ。もっと他にいいリアクションできねぇのか、俺よ。……まあでも、こんな可愛い子を見たら、誰だってすぐに反応出来ねえわ……)


 


  しかもこの感じは ー

 

 どこか……俺の知ってる人の感じがする。



  ……ああ、そうだ。




   夢みたいだ……。 




  しかし夢には似ていない。



 美優ちゃんは全くの別のタイプの美少女だ。

だけどお互い「美少女」という点では同じだ。

夢とは違うものなのだが、夢と共通しているもの ー 。


 いや、言葉足らずなのはわかってるが、正直そういう言い方しかできん。



 しかし今の俺にも理解出来たことはある。




 夢にもあり、そして美優ちゃんも持ってたんだ ー 。





  ー 無理目な美少女オーラを ー





 どうして俺はこんな近くにいて気付かなかったんだ?

 


 いつも弁当屋に来る時、ファミレスで会った時、見慣れていた今までのゴスロリ系ファッションではなく、こんな服を着られたら雰囲気がかなり……いや、まるで違う。別人みたいだ。



 こんなシチュ、今までなかったぞ。



 美少女ゲームであれば大体は可愛い普段着、制服、パジャマ、裸エプロン、メイド等、ある程度の予想はつくのだが、ゴスロリ系ファッションからいきなりシンプルな装いで、清楚で小さな美少女に変身されたら、こちらとしても戸惑ってしまう。



 今の俺の選択肢は ー

 


 1つだ。




「すっごく似合ってる。

 可愛いよ。美優ちゃん」




 ごく自然に口をついて出た言葉に、嘘も駆け引きもなかった。



 心から出た、悟の素直な言葉だった。

 そして悟は自然と、美優に微笑んでいた。

 


「……!? あ……ありがとう……ございます……」



 美優に向けられた悟の純粋な笑顔は、美優の心を明るく照らしていた。




 ああ……そうか……。



 俺はどこかで気付いていたんだ。



 それは初めて会った時なのか、いつからなのかもわからない。ただ俺はきっと「この事」を、何となくわかっていたんだ。

 美優ちゃんの事を。



 きっと、この子も

 どこか夢と同じ感じがするって。



 だから俺は……。

 そうなんだ……そう思ったほうが、納得がいく。

 例え俺がどんな卑しい人間だと言われても、それがきっと本心なんだろう。



 俺がさっきからずっと夢の事を隠そうとしていたのは、きっと美優ちゃんにも気に入られたかったんだ。それと俺はどこかでそんな自分を、そんな本心を受け入れたくなかったんだ。


 俺は夢を追いかけながらも、心のどこかで美優ちゃんにも気に入られたくて、無意識に夢の事を隠した。そして誤魔化した。

 


 自分にとって大切な存在なのに。


 そんな俺に、選択する資格なんてない。




  本当に俺って ー


  美少女の前では何も出来ないな。





 いくつか店をまわって美優の買い物が終わり、陽も暮れてくる時間、2人は何となく駅の方に向かう。



「あの……」



 美優が立ち止まり、悟の方へ向く。



「うん? なに?」


「……帰る前に、もうちょっとだけ付き合ってくれませんか? もう少しだけ……さと寸さんとお話しがしたいです」


「……うん。いいよ」




 美優ちゃんに促されるように歩いて着いた場所は、オフィスビルに囲まれた、偶然にも俺が以前夢にフラれたあの公園だった。




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