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51.失恋


「でも……あの日悟は公園に来なかった。

 あの日だけじゃなくて、もう二度と来なかった」



 そうだ…おれはあの日、2人で川原に花を詰みに行き、夢に触れた日以来、夢に会っていない…7年間も……会っていなかった。



 あの日、公園まで夢を探しに行った夜、親父は新居を決めたと言い、次の日も引越しの準備の合間を見て夢の家まで行ったのだがタイミングが悪かったのか家には誰もおらず、準備が終わった後も公園に行ったが結局夢を見つけられずじまいで、それから2日後、俺は夢に何も言えないまま、別れの挨拶も出来ないまま、引越した。


 それからは、引越し後の手伝い、転校のドタバタや急に変わった新しい環境での、母親を除いた3人での生活、母親の手術や週末の見舞いと、慌ただしく毎日が過ぎていき、たまに夢の事を思い出しはするものの、何故かまた会えるだろう、そのうち会えるだろうと過ごすうち、慌ただしい生活が落ち着く頃には、いつの間にかすっかり新しい環境に囲まれていた。

 

「あ、あれは…俺はその日も、その次の日も夢を探したんだ! 急に決まった引越しの準備の合間に…。家にも行ったし、公園にも行ったし、とにかくあの時俺は夢を探していたんだ! ちゃんと夢に言わなきゃって…。

 でも、確かに何も言わずに引越したのは、今更だけど……悪かった。それについては何も言えない。ただ、今はそれについては謝ることしか出来ない。本当に、ごめん」



「…あれから私…春休みの間、毎日公園に行ったんだよ? 結局休みの最後の日まで会えなかったけど、また明日学校で会えるからいいやって…。その時に、いっぱい怒ってやろうと思ってた……。でも次の日、学校に行ったら先生に「楳野 悟君は引越しました」って言われた時の私の気持ち………ねえ…わかる? 

  ……ねえ!? 何で! 何でアタシには! アタシには言ってくれなかったのよ!」



 夢は電話の向こうで泣いていた。



「……もう、私…本当にショックで……それから私、もう公園にも行けなくなって…。どうしたらいいのかわからなくてずっとずっと悟の事、怒ってたけど……もう忘れよう、忘れようって毎日過ごして……そのうち受験するって事になって、少しずつ先の事を自分なりに考えられるようになって……。

 

……私、きっと悟が必要だった。…毎日、悟を必要としてた…。楽しかった事、悲しかった事、ずっと以前のように隣で聞いててほしかった!!

 でももういなかった! お父さんとお母さんが離れ離れになってしまいそうな時、そばにいてほしかった! 何で! 何でアンタは!………」




 夢は流れている涙と嗚咽を止めるつもりもなく、感情的に言葉を投げ放つ。



 まるで7年分の想いを俺にぶつけるかのように ー 。




 「何で今、アタシに好きって言うのよーっ!!」




 言い終えた後、電話の向こうでむせび泣く夢の嗚咽に交じった泣き声を、俺はただ目を閉じて聞く事しか出来なかった。




 今になってわかった。

 


 夢は秋波原で俺を振ったんじゃない。




 あの時、夢は ー




〈…悟は、もう一度私と会えたのは「運命の再会」だって言ってたけど……私…わたし…そういうの、わかんないから……多分…わかんないから。〉

 


 と言っていた。



 「あんな」運命の再会なんていらなかったんだ。

 あんな再会自体、望んでなかったんだ。



 また、俺が隣にいて、そして俺を必要とする人生を送りたくなかったんだ。




   ー 今、俺は「失恋」した。ー




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