49.記憶の欠片 2
「えっ ー ? ……何で!? 何だよそれ!
いやだよ!! 俺は行きたくない! 絶対、行かねーから!!」
「晶はもう部屋片付け初めてるから、お前も必要な分だけまとめとけ。母さんはすぐには帰って来れないから、帰ってきた時の為に自分の分だけでも今のうちに早くやっとけ」
夢を送って家に帰った後、悟は父親に怒鳴っていた。
「やだ!! 勝手に行けよ! 何で今なんだよ! 行きたくねーよ! 学校どーすんだよ! 俺は転校しねーから! 一人でここ住むから! コンビニもあるし、洗濯機だってまわす! 全部自分でやるから!」
「うるせえ! いい加減にしろ! マジで荷物まとめねえと本当に置いてくからな!」
「そうしろよ! 俺は行かねーっつってんだろ!」
怒鳴り合う2人に痺れを切らしたのか、奥の部屋から晶が出て来て、いきなり悟の胸ぐらを掴む。
「悟。お前いい加減にしろよ……」
あまりの形相に一瞬、悟は怖気付く。
「お前、何言ってっかわかってるか? 今どういう状況かわかってんのか? お前の学校や俺の学校とか、そんなもんどうでもいいんだよ! とにかく言う事聞かねえと、マジでブッ飛ばすぞ」
悟は半分泣きそうになりながらも、声を振り絞る。
「何で? 何でだよ…? このままみんなで病院通えばいいじゃん…。何でそれがダメなんだよ…何でわざわざ引っ越さなきゃいけないんだよ……」
父親が、落ち着いた様子で悟に話し掛ける。
「お前にはわかんねえかも知れんが、母さんはもっといい所で診てもらったほうがいいんだ。先生がこのまま今の病院にいるより、もっと良い病院があるからそこに入ったほうが良いって言ってくれてな。今より良くなる可能性があるって紹介してくれたんだ。
手術が終わってから転院の件を考えようかと思ってたが、その紹介先の優秀な先生が、今転院出来るなら、その先生がスケジュールが都合良く空いているみたいだからお願いした方がいいって、今の先生が融通効かせてくれてな。
晶も言ったように、今一番大事なのは母さんだ。
お前らも学校、俺も仕事がある。ただそんなもん、向こう行ってからでもどうにでもなる。俺も時間掛けて会社通えば済む話だ。ここから新しい遠い病院に通うより、少しでもみんなが近い所に引越して、母さんの近くにいてやったほうが母さんにとってもいいはずだ。
母さんの病気が無事治って退院できるなら、お前にとってもそれが一番いいはずだろ? 急にトントン拍子で決まった事だが、学校の手続きやら面倒な事は俺がやる。お前らは最低限、自分達の必要な物をまとめとけ。俺はちょくちょくこの家に戻って、少しずつ荷物を移動する。わかったな。俺もギリギリまで悩んだから、お前らに言うのが遅くなって悪かった。
不動産屋の友人に新しい家の目処を付けてもらったから、明日見に行ってくる。そこで条件が合えばすぐ引越しだ。いいな」
父親はそれ以上何も言わず、庭からダンボールを持ってきて、下着や小物を詰め始めた。
「とにかく俺もお前も、そして親父だって気持ちは一緒だ。だろ? 母さんが良くなれば、またここに戻ってくればいいじゃねえか。な?」
兄貴とはいえ、まだまだ子供らしい無責任な、しかし優しく精一杯の同情を悟に向ける。
「……夢に、夢に話さなきゃ……」
「うん? また明日会いに行けばいいだろ。とりあえず今日出来るだけやっとけ」
父親は振り返りもせず、悟に言う。
「こんなの…こんなのって……」
その日の夜、荷物をまとめていると、母親への想い、そして来てしまう夢との別れ、色んな想いが溢れてきてしまい、どうしようもなく悲しくなった。
ベッドに入って目を閉じ、今日夢と花を詰みに行った事を思い出す。
しかし耳に花をかけた美しい幼馴染の顔、そして思わず触れてしまった頬の感触のそれらを、思い出そうとしても、何故か思い出せなかった ー 。




