36.一人相撲
俺はフラれたんだろうか……?
いやいや、俺はまだ告白すらしていないぞ。
それに何で夢は、さっきの木葉とのやり取りだけで俺が夢を好きな事を決め付ける?
いや、冷静になれ。夢が俺と木葉とのやり取りでどう思おうが、俺自身、夢が好きな事には変わりないだろ? それに今、夢への気持ちをごまかした所でさっきの夢の逆告白とも取れたその事実は変わらない。
ー「何だよ、勘違いすんなって。俺の好きな相手は夢だって一言も言ってないじゃん?」
ー「待ってよ。俺、まだ何も言ってないだろ?それなのに何で俺はお前にフラれなきゃならないんだ」
様々な逃げ口上が思い付くが、それらは何の効力もない。いくら夢に言い訳めいた事を伝えたとしても、夢の言った事は覆らない。
何故なら、俺が、夢を好きだからだ。
俺が夢を「好きでない」限り、この事実は変わらない。
夢の逆告白に何も返せないまま、俺はただ隣で泣く夢の鼻をすする音を聞いていた。情けない。
「……何か、言ってよ」
俺は少しの間、放ったらかしにしていた2人の時間を繋ぎ初める。
そして、何のルートも思いつかないまま、ただその場しのぎで言葉を繋げていく。
「ああ…まあ、あれだ。夢は俺との再会、というかそもそも俺自体にそこまでそんな興味がなかったって事だろ? 晃弘君の相談をしてくれた事も漫画を読ませてくれた事も、まあ言ってみれば、良いタイミングでひょっこり幼馴染が現れてそのままズルズル会うようになっちゃったけど、あくまでただ、昔からの知り合いで、何もこれ以上は求めてないって事だろ?
わかってるって。心配すんなよ。俺もさっきは木葉ちゃんに乗せられた? って言ったら無責任な感じがするけど、結局はまあ…あの場の流れ? みたいなのに乗っかっちゃったみたいなもんでさ、夢は何か自分なりに考えて俺に伝えてくれたんだろうけど、そこまで俺は夢にとって重い存在になりたくないしさ。
だから今のままで、夢がいいならこれからも漫画読ませてもらったり引き続き晃弘君の相談にも乗るしさ。
とにかく、何かごめんな。色々、余計な事を気遣せちまって」
ー 最悪だ。出来る限り自分にとっての有利なルートを敷き詰め、肝心な事は何も伝えていない。
目の前にいくつかある、可能性を感じられる扉を一通り全部開けられるようにセットしているようなもんだ。……それが出来てるかどうかは別として。
いやいや、そもそも可能性どころかあくまでただ俺の「希望」のようなものだ。あがいているだけの、一人相撲のようなやりとり。
こういう時こそ、人間の本性や弱さ、強欲さが出るんだろうな。本当、俺っていう人間は……。
「悟は…それで…このままでいいの? また何かあったら会ってくれるって事?」
「ああ、もちろん」
本当、俺って…
「私は…私はただ、今日の話で、何だかよくわからないまま、変に2人に誤解されたまま、このままズルズルしちゃっていつか悟との関係が変になっちゃったら…と思って伝えたかったの。私の勘違いだったとしても…」
「ああ。言いたい事はわかったから。大丈夫だよ、心配すんなって」
本当に、俺って人間は。
「ありがと。何か……よかった。ありがと」
諦めたくないんだな。
どんなに汚くても、どんなに夢に嘘を付いてでも、俺はこの無理目な美少女を、どうしても離したくないんだ。
夢は空を見上げ、重い荷物を降ろしたように、安堵のため息をつく。
俺はそんな夢を見て、どうしようもなく切ない気持ちになった。
「今日はもう、解放してあげる」
「おう。今日はありがとな。また機会があったら漫画、読ませてくれ」
「うん」
「今日はここでいい? ちょっと疲れちゃって」
「ああ、大丈夫だよ。っていうか送ろうか?」
「いや、いいよ。もうちょっとここにいたいから」
「……わかった。じゃ、またな」
「うん。また」
夢に軽く手を振って歩き出した俺は、我慢の限界だった。夢が視界から消えた瞬間、俺は涙が止まらなくなっていた。




