35.夢の告白
「じゃあまったね! 今日は会えてよかったよ。また遊ぼうね!」
駅まで戻ってきた途端、木葉が一抜けと言わんばかりに挨拶をする。
木葉はこの後予定があるとか何とかで、俺達2人を残して先に帰る事になった。まあ、俺も帰るつもりだったので一緒にホームへ向かってもよかったんだが。
「ありがとね。木葉。また連絡するね」
「今日はありがと。また…」
離れていく木葉だったが、急にこっちへ引き返してきて俺の耳元に、
「悟君さえよければ、また今度、夢抜きで2人で…きひひっ」
「えっ?」
「じゃ、また!」
ポカンと口を開けたまま俺は、また踵を返してホームに向かう木葉を見送った。
ん? 2人で? どういう事だ?
何か、夢について話したい事でもあるのか?
「悟は、どうするの?」
夢がさっきまでとは違う、明るい口調で聞いてきた。
「…いや、俺も帰ろうかと思ったんだが、何かタイミングはずしちゃって。まあ特に予定はないんだが、どうすっかな…。夢、どっか行きたいとこあったら付き合うぞ?」
「何? その上からの、しかもしょうがない感を出したお誘いは? ひょっとしてまだ帰りたくないのかな? 一緒にいてほしいのかな? ん?」
可愛いく、最高の上目遣いで俺の視界に入ってくる。
「もうちょっと、付き合ってよ」
昼下がりの陽気に包まれ心地よい風が吹く中、2人で駅からそれほど遠くない、オフィスビルに囲まれた中にある、植樹に囲まれた半都市・半自然を思わせるような空間の公園に入った。
「ここ、入ったの初めてだ。」
「なかなかいいでしょ、ここの公園。たまにお兄ちゃんや木葉と会った時、このベンチで話してるんだ」
公園に来る途中で、コンビニで買ったホットのミルクティーを飲みながら、しばらく秋波原の空を見上げる。
何の目的もなくこうして夢と過ごすのはいつ振りだろうか。あの日の再会から夢に会うのは今日で4度目だが、お互い何かしらの用件があって会っていた。
もう漫画も返したし、特にこれといって今夢としなければいけない事もない。
それなのに夢からの「もうちょっと、付き合ってよ」の提案。何か夢は俺に言いたい事でもあるのか?
晃弘君の件か? それともSNSの相談だろうか?
それともまだ俺の知らない、何かしらの用件があるのだろうか?
こんなに頼られるのも、やはり俺の人徳か。
来るもの拒まず(美少女限定)! こんな俺でよければいつでも力になってやろうじゃあないか。
夢はミルクティーのペットボトルを手のひらでくるくると回しながら、俺のほうを見ないで話し始めた。
「悟さ、恋ってした事ある?」
ー マジかよ。
いきなり、そういう話し? ー
「さっき木葉が、グイグイ悟に聞いてたけど、あの子、いつも男の…っていうか、恋愛の話しばかりするんだよね。まあ私も木葉とずっと友達だし、木葉は良くも悪くも男の子や恋愛に興味もってて、いつもあの子の恋愛の話しを聞いてきた。こんな所行ってきた、あんな事でケンカしちゃった、とか、誰々とこのまま一緒にいていいのかな? とか、本当に色々ね。まあ女の子同志ってこういう会話、当たり前なのかも知れないけど私、ずっと人と距離を取ってきたというか、あまり友達を作ろうともしなくて、そんなに人の恋愛話しとか、相談されてもよくわからないんだ…。
自分なりにアドバイスをしようとは思うんだけど、木葉が言ってきた事、もし自分だったら…って置き換えて、話すしかなくて」
「まあ、そりゃそうだろ。 相談に乗る時はその相談相手の気持ちに寄り添った、もっと言えば相談者の立場になったつもり位で接したほうが、いいアドバイスも出来るだろ」
「違うの。私は……何ていうか、自分からのアドバイスは出来ないの。」
「えっ? さっき言ってたやり方も充分なアドバイスだろ?」
(夢は、何が言いたいんだ?)
「だから、私は…何も自分からのアドバイスが出来ないの。わからないから。」
「何が? 何がわからないんだ?」
夢は手のひらで持て余していたペットボトルの動きを止め、うつむきながら
「……経験がないから」
小さく、しかしはっきり聞き取れる口調で夢は答えた。
俺はその時、夢の言った事を理解したし、本来なら心の中でガッツポーズを取るべき場面なのだろうが、何故か俺の心の中は冷静で、自分でもびっくりするくらい、落ち着いて夢の話を聞けていた。
「私自身、そういう経験がないっていうのは木葉も知ってるし、それをわかった上で話してくれているんだろうけど、それに私に話した所で結局、そういう事って最後は自分で何とかするものでしょ? ただ私も、今は木葉の話を聞いてあげる事で、それだけでもあの子の力になれてればなって……」
「そうか…。まあ、こればっかりは個人差があるからな、それに誰もが全員、恋愛の事ばかり考えて生きてる訳でもないしな。まあ、その木葉ちゃんの恋愛観? 的なものを夢から聞く限り、多少は物足りないのかもしれんが、まあそれでも2人は友達で、相変わらず夢に恋愛の話しや相談をしてるんだろ?
なら特に問題っていうか、気にする事じゃないんじゃないか?」
俺は自分の損得感情抜きで、本当に対等な「幼馴染」として、話しをしていた。
とても冷静で、弱みを見せてきた人間にいいカッコをするでもなく、ただ自分にとって大切な「友人」からの相談を受けるみたいに。
「私自身、何回かは、その……告白、とかされた事はあるんだけど ー」
(なにっ!? やっぱりか…!!)
「でも一度も男の人とそういうお付き合いをした事ない。何て言うか、そういうのに全く興味がない訳じゃないんだけど……告白されても、いつも困る……というか、断るのが嫌だな、そんなつもりないんだけど、傷つけてしまったら嫌だな、とか、そういう風に思うようになっちゃって。
でもそんな事って、そんな話しを誰に、木葉にもした所で私自身何も変わらないし、話すつもりもなくて。だから私は恋愛に関しては何も、わからないというか…何ていうか ー」
うん? ー 何だこの流れは ー?
「さっき悟、木葉に色々と聞かれた時に思ったんだけど、悟には好きな人、いるんでしょ?」
「いや、嫁の話しはしたが、あの……その、やっぱ、わかるか?」
「お好み焼き食べた時はいない、って思ったけど…私、結構勘が当たるから自信あったんだけどな。でも話し聞いてると実はいるんだって思って。」
何か、嫌な予感が……する。
夢は、少し戸惑いながらも、意を決したように、ようやく俺の顔を見て ー
「悟は…! あっ、ごめん。大きな声出しちゃって。 …悟はさっき、もう一度私と会えたのは「運命の再会」だって言ってたけど……私…わたし…そういうの、わかんないから……多分…わかんないから。」
夢は少し顔を赤らめ、今日2度めの涙を流した ー。
ー 俺はそんな夢を見ながらも、とっさにハンカチを出す事も出来ず、頭の中に認めたくない言葉が浮かんでいたー 。
ー ひょっとして俺は今、フラれたのか ー?




