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20.どいつもこいつも

「あー。ねえな〜っ。わからん。」


 次の日、俺は朝から相変わらず夢のSNSを探す為、検索の鬼と化していた。


「やっぱやってねぇのかな。…もう何なら思い切って晃弘君に夢のSNS聞いてみようかな? ……いや、いくら兄妹だからといって実際妹のSNSを知ってるのかどうか、それに名前で検索しても出てこないし、ひょとして偽名を使ってやってるなら尚の事、兄貴も知らない可能性があるし、『本人に聞いてみれば?』 って言われようもんならもし隠してやってたらあいつの事だ、絶対俺には教えないだろうし……」

 

ー そもそも何故俺はそうまでして夢のSNSを知りたいのか。

 

 そう、俺は夢の漫画活動が気になって仕方がないのだ。


 初めはあの無理目なあいつをいつでも好きな時に拝められれば、というどうしようもないスケベ心、いや、男の性としての真っ当(?)な思いに突き動かされ探していたのだが正直今は、それもだが、いや、それもなのだか、加えて夢の漫画活動が気になっている。


 自分の動画が思ってもみない形で夢に知られて以来、何故か俺もあいつのやってる事(漫画活動)が気になって仕方ない。


「まあ、これ以上探しても無理か。またアイツに会って漫画を見せてもらう時にでも、無理かも知れんが直接聞いてみるか」



 俺はバイトへ行く支度をし、家を出た。




「おはようございまっす」


「おう、おはよ」


 今日も袴田店長はいつもと変わりない様子で鼻歌を歌いながらフライヤーの油を交換している。


 聞いててちょっと音痴なのだか、それは言わない俺の優しさライセンス。



「どうだ? 動画の方は? 調子いいのか?」


「はい、最近登録者数がけっこう伸びてきて調子いいっす」


 店長はしょっちゅう俺の動画を観ている訳ではなく、気が向いた時、どうしようもなくヒマな時に観てくれているらしい。それも何だか悲しいが、どうしようもなくヒマな時間を過ごすよりかは俺の動画を観てる方がいいって事はまあヨシという事にしよう。少しでも再生数アップに貢献してくれているのはありがたい。


 なので直接俺に配信チャンネルの事を聞いて、俺の様子を気にかけてくれているのは、それはそれで嬉しいものだ。



「そっか、よかったな。まあ、俺はお前にここの店やっていって欲しいけど、早く有名になってくれてもいいぞ? 俺も有名人の知り合いの1人や2人ほしいからな」


「あくまで、私益の為っすか。まあ、でも俺は必ず有名実況者になりますから、まあ気長にというかのんびり待ってて下さいよ。そのうち、あっという間にバズって成功しますから。よろっす」


「口だけは達者だからな。まあでもその達者な所はああいう動画には必要かもな。バカにも一つや二つ特技があるってもんだ。まあ気長に待つわ」


 エプロンを着けながら、店長との挨拶もそこそこに俺はゴミ出しをしに店の裏の駐車場に出る。


パンパンに膨れ上がった今にも破裂しそうなゴミ袋を破らないよう気をつけながら、指定のスペースに積み上げる。



ー そこに。



「おっはようございますっ!!」


 ん?


 朝のテンションとは思えない、漫画に出てくるキラキラキャラのような明るい挨拶が聞こえる。


 振り返るとそこには朝日に眩しく照らされた高橋ちゃんが立っていた。


 朝日に照らされたショートカットの陸上インターハイ選手(俺の想像)は、仁王立ちにも似た姿勢で、明るい真っ直ぐな視線で俺に超絶眩しい笑顔をぶつけてくる。


 これは……やばい…ヤラれる……!?



「……な・なんすか、その演出」


「ん? どういう事? おはようっ! さと寸さん」


「あ、いえ…おはようございます……高橋、さん」



(これは……強制的に高橋ちゃんルートPart2なのか? そういう事か?)



「おお〜っ、やっと名前呼んでくれたね? ってか、知ってた? この前は自分ばっかり話して名前も何も伝えなくて、本当ごめんなさい。失礼しました」


 全然反省感のない謝罪を聞き入れ俺はいえいえと会釈をする。


「あ、まあその…警察の方に直に名前を呼ぶのはいささか気負いするんですが、名札は拝見させていただいてたので……あっ」


ー 名札がない。


「いやいや、すごいタイミングで見たんだね。名札は普段してないよ? この前小学校に自転車講習をしに行った時に付けてた名札をずっと付けっ放しにしてたから、その時見たんだね。恥ずっ」


「いや、照れないでくださいよ。こっちが何か、照れますって」


「ところで最近、さと寸さんのチャンネル登録者数が上がってきてるね。何か嬉しい。自分の好きな配信者が少しずつ知られていくのって」



 ああ…そういう所も見てくれてるんだ。



「あ、ありがとうございます。まだまだ収益化の道も遠くてでも、とりあえず今はその動画が収益化出来る最低ライン、登録者1000人を目指してます」


 少々ガッツいた話しだか高橋ちゃんは多分、意に返さないだろう。


「そっか〜。頑張ってるね。私はその辺よくわからないけど、とにかくさと寸さんの動画が楽しみなだけだから。って言うか、一番好きかも。さと寸さんの動画」

 

「えっ? マジですか? それは、その……素直に嬉し過ぎます!」


「ふふっ。自分で素直に〜なんて言っちゃって、こういう時のさと寸さんって本当、面白いですよね。 生さと寸だ」


「こういう、時……ですか?」


「うん。動画でもそうだけど、急に慌ててテンション上がっちゃったり思った事そのまんま口にしちゃってたり。観てる方はゲームもそうなんだけど、そういうさと寸さんを観てる時も本当楽しい。きっとそういう、私みたいな楽しみ方をしてる人、いると思うよ」


 そっか。俺の計らずしも出てしまう必死な感情からの言葉や素直さ……それがやはり俺の動画の長所…なのか?


 店長も、そして夢も俺のそんな所を観てくれて、そして応援してくれてるのかな。


 まあ、そんな長所? も美少女ゲームあっての事だと思うんだが……多分。



「あと、最近さと寸さん、選択のシーンで ー」


「おい! いつまでゴミ出ししてんだ!? サボってんじゃねーぞ!」


「あっ! ごめんなさいっ! 失礼しました! ごめんね、お仕事中に! またっ」


 高橋ちゃんはいきなり出て来た、面識はあるだろうが急に裏口の扉から出て来たガタイのいい店長にびっくりして、俺への挨拶も早々に足早に警察署の方に小走りで去っていった。


 ……しかし、何で高橋ちゃんはこの時間、駐車場にいる俺を見つけたんだ?


「おい、突っ立ってないで早く入って仕込み手伝え。

クビにすっぞ」


「いやいや、有名になるまで待ってください。

その後は煮るなり焼くなり ー」


「いやいや、俺は切り刻みたいわ」


「こわっ。戻ります」



 高橋ちゃんルートを強制終了させられた俺は、そそくさと店長の脇を通り抜け、店に戻る。




「……はぁ〜っ。やらかしちまった……怖がらせちゃったかな。

 しっかし……やっぱり可愛いな。高橋ちゃんは」


 仕込みの準備に取り掛かろうとする俺をよそに、店の外の駐車場で一人、高橋ちゃんの背中を見つめる店長の姿があった。


 


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