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19.一番のファンはすぐそばに

「な、ならいいんだけど。……いや、よくない!


 俺の動画自体、面白いって言ってくれる事は嬉しいけど、やっぱやってる以上そこは美少女ゲームの面白さもちゃんと知ってほしいというか、あれだ……夢もそうだろ?漫画描いてるその人より、描いてる漫画自体を好きになってほしいだろ?」


「えっ? それは全然違う話しでしょ? だって私は作ってはい、どうぞって世界だけど、悟のは既に出来てるものに対してさらに自分の世界を乗っけてるんでしょ? 私ピヨの実況動画見てるけど、正直ピヨのやってるゲーム自体には興味ないもん。ほとんど知らないゲームだし。でもそのピヨ自体が面白いから観てるだけで、そこまで観てる側はやってる側のポリシー? 的なものはそんなに汲み取って観てる訳じゃないと思うよ? っていうか、私みたいな見方をしてる人もいると思うよ」

 


 確かに……そうかも知れない。



 発信する側とそれを受け取る側、それぞれに動画に対する考え方、ましてや視聴者側からしても一人一人見方は千差万別、様々だ。


 俺だってそうだ。実際他の人がやってる美女ゲーチャンネルをチェックする時、ゲーム自体の内容そのものよりも、配信している側視点での言葉の伝え方、リアクション、編集の仕方等を勉強・リサーチしている。


 それだけでも自分は他の視聴者とは異なる、ある意味特殊な見方をしている。しかしそれだって動画に対する一つの見方というか立派な視点というか、人それぞれに必要な情報を視聴者側で勝手に解釈して受け取っているだけだ。


 もちろん、視聴者の数が増えれば増えるほどその見方は拡がっていく。



「私は悟の動画、別に嫌いじゃないし、イジワルでさっきみたいな事を言った訳でもないし、ただ、ああいうちょっと根暗? な感じのゲームの面白さって何なのかな、って直接聞きたかっただけ」


「とこが根暗だ! 夢しかないぞ! 美女ゲーは!」



 やっぱ意地悪だ。泣くぞ。



 俺の強引な歩み寄りは、当然夢に響く訳もなく、結局夢はまあ、どうでもいいけどねと言わんばかりにフラペチーノのストローを咥えた。


 少しの間2人のやり取りを黙って聞いていながらも、どこか置いてけぼりにされていた晃弘が、ようやく入るタイミングを掴んだかのように、

 

「まあ、ゲーム動画でも漫画でも伝えたいものっていうのは自分の中で持っててもいいし、持っていて然るべきものだと思うけど、その考え方自体が唯一正しい事だとするのは、夢の言うように僕もちょっと違う気がする、かな。結局は観てる人がそれぞれの解釈で楽しんでくれれば、それでいいんじゃないかな?

 夢みたいに、そのゲームそのものの良さがわからないって言いながらも観てくれてる人もいるんだしさ」



 ……そうだよな。



 動画実況なんてものは、まず観てもらってナンボの世界だ。



 観られない動画ほど、無駄なデータな事はない。



「まあ、そうですよね……夢みたいにどうしても美少女ゲームの良さがわからない残念な人って、いますもんね。それを無理に分かれってのも酷な事ですよね。

 まあ、観てもらってるだけで感謝っす」



「登録解除すっぞ」



 いや、しない。

 きっと夢はしない。何かそんな確信があった。


 夢はきっと俺の動画をもっと好きになるはず。



 だって、俺の最終選択肢は夢、お前なんだぜ。


 

ー でも、わかってる。



 夢はきっと、今のこの3人の状況を何とかしたくて、俺に助けを求めたんだ。



 きっとそんな行動、晃弘も気付いているはずだ。



 予定調和とも言えるいかにも幼馴染が昔からやっているような、たわいのないやり取り。7年振りとはいえ、幼馴染の関係という以上に夢とはただ単純にウマが合うのだろう。


 正直、夢の動画に対する俺への意見(?)は少なからず本音が入っていたはずだ。何故なら俺自身、夢の言う事に対して心のどこかで一理あると納得してしまっていたからだ。


 適当な言葉を羅列しても大概、人には響かない。


 夢は夢なりに、俺の動画を観てくれた上で何かしら俺に伝えたい事があったんだろう、まあ大半はただ俺をからかいたかっただけかも知れんが。



 まあ、今はそれよりも ー。



「悟くん、ありがとう。正直な気持ちを言ってくれて嬉しいよ。君の言ってくれた事は素直に受け取るよ。信頼もする……うん。

 それで、もし……よかったら、また会ってもらってもいいかな? やっぱりまだ、晶に会うのは正直何ていうか、まだ準備出来てない…と思う。

 今はまだ、逃げてるようにしか見えないかも知れないけど、もしよかったら悟君にはまた会ってほしい。自分の決心が改めて付いたら、晶に会わせてほしい。だからまだ晶の連絡先も知らなくていいし、とにかく今はそれで……どうかな」


「はい、わかりました。全然、晃弘君のペースで構いません。俺でよければまた連絡してください」


 お互いのスマホで連絡先を交換する。


「どうも。……夢も今日はありがとう。何か頼りない兄貴だけど、今日は一緒に来てくれて助かったよ。自分だけで悟くんに会っていたら良くも悪くも抑えられなくて後々、色々と迷惑を掛けていたかも知れない。本当ありがとう」


「いいよ。私も兄貴が少しでも前に進んでくれるのが何より嬉しいし、陰ながら応援するから。

 ……いい? 悟? 絶対、この事は晶君には内緒だからね!? あくまでお兄ちゃ……兄貴と晶君の問題だから必要以上に首を突っ込まないでよ!」


「わかってるって。逆にフラグを立てようとするな」


「真面目に言ってるの! あんたは感情的になると突っ走っちゃうから、しかも自分の兄貴の事でもあるから、いざとなったら心配でしょうがないから」


(いやいや……その言葉そっくりそのままお返ししたいんだが。)


「また、落ち着いたら……色々と考えがまとまったらこっちから悟くんに連絡するよ。今日はありがとう。久し振りに会えてよかったよ」



 心なしか今日会った時より晃弘の顔が明るくなっていた。



 そして、雨もすっかり上がっていた。




ー 駅の改札まで2人を見送る途中、夢が



「さっき思ったんだけど ー」


「ん? なんだ?」


「美少女ゲームをやればやる程、俺は男としてのレベルが上がるって言ってたけど、その考え方、やめたほうがいいよ」


「何でだよ」


「全っ然、カッコよくないから」


「なっ? ー」


 夢は俺からの反撃をかわすように、さっと改札でスマホをタッチし逃げていった。


「ありがとう。また連絡するから、その時はよろしくお願いします」


 頭を下げる幼馴染の兄貴に俺は多少戸惑いつつも、こちらこそと頭を下げ、次に会う約束を交わす。



 改札を過ぎた夢は、俺の手の届かない安全圏に入って安心したのか振り返り、何とも憎らしい、しかしとびっきりに可愛い過ぎる笑顔で俺に手を振る。



「今日はありがと」



 口パクであったが、俺は理解した。



 こちらも、「おう」と声になってるのかなってないのか、自分でもわからないまま夢と晃弘に手を振る。


 ホームに上がるエスカレーターに向かう2人を見えなくなるまで見送りながら、俺はこの幼馴染の兄妹にまた再会出来た事に心から感謝していた。



 ずっと、仲良くしてくれよな ー。



 「さて、帰るか」



 そしてふと、気付くー



「あ、夢の漫画とSNS 。

 あの時のどさくさに紛れて聞けばよかった……」



 俺は帰り道、温かいコーヒーを買いにコンビニへ向かった。

 


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