18.もう恋なんてしないなんて
やっとこさコーヒーに口をつける。
アイスコーヒーよりも濃い、必要以上に苦味を感じる冷え切ったコーヒーで喉を潤す。
幼馴染2人の片方は窓の外を見て、もう片方はずっと下を向いたままだ。
俺として出来る事はやったはず。これ以上、こっからは2人の、ひいては兄、晃弘の出方を待つしかない。
ー まだまだ暑さを感じる10月、店内は暖房が効いておらず、こんなコーヒーを飲んでると逆に体が冷めてしまう。
そんな中、3人しばらく無言のまま時間だけが過ぎていく。
ー 何となくだが、俺は帰った方がいいかも知れない。ふとそんな事が頭をよぎる。
夢の漫画の件、SNSの件、そして夢にしても俺の動画についてあれこれイジリたかっただろう。
がしかし、こんな状況でそんな話しが出来る訳もないし、話す気にもなれない。
ふと、俺がそろそろ先に帰ろうかと提案しようとした矢先 ー
「あ……天気雨」
窓の外を眺めていた晃弘がぽつりとつぶやく。
今日は気持ちの良い晴天だったのだが、こんな時に、いや、こんな時に限ってこそ降ってくる。
今は何故かその天気雨の音が心地良く、有り難い。
外は晴れ、しかし勢いを増している雨の音。
懐かしみ、そして楽しい時間になるはずだった3人の邂逅。
ー でも、そう思っていたのはきっと自分だけだった。
2人の兄妹は、どこかやりようのない悲しみや不安を抱えて俺に会いに来ていた。
やはり、このまま帰る訳にはいかない。
もし逆に今2人が帰ると言えば引き留める。
ー 何か勝手に、燃えてきた。
「悟、この前の動画だけど」
あん ー ? なんだ?
今、そのタイミングでぶっ込んでくるか? フツー?
「お・おう」
「ガリクロ?だっけ?あのゲーム、何が面白いの?」
カッティーン。
俺の頭で何かが弾けた。
「いやいや、逆に面白いと思わない理由を聞きたいわ?
百歩譲って、百歩譲ってよ? 仮に万が一にでも、俺の動画が面白くないとしてもよ? それでもあのゲームの面白さがわからないなら、逆にそれこそ何が面白くないのか聞きたいわ!」
「いや、面白さがわからないから聞いてるんだけど。
質問を質問で返さないで」
淡々と返す夢に、俺はますます激昂する。
「ん〜とね、ん〜とね。美少女、美少女がね?モテない俺の前に現れて、あの手この手で沢山色んな可愛い所を見せてくれんの!しかもゲームに出てくる美少女は全員、俺の事が好き、もしくは脈アリな感じで接してくれんの! そこに俺の選択次第でどうにでもできて好きなハーレムルートが作れんの! まあ、望んだ通りの美少女をゲット出来ずに失敗に終わる事もあるけど、仮に美少女をゲット出来なかったとしても、作り込まれた圧倒的ストーリーでプレイヤーを感動の境地に連れて行ってくれんの!
しかも一つ一つの美女ゲーは俺がプレイする毎に俺の男としてのレベルを上げてくれんの!
こんなにも素晴らしく、面白いゲームって他にある?
これを聞いてもまだ、伝わらないなら何が面白くないのか逆に聞きたいわ!」
かなりの早口でまくし立てた後、ぽかんと口を開けて俺を見る晃弘に気付いた。
しまった。夢にやられた……。
「ま、まあ?俺の言ってる事がまだわからないなら、俺の動画を観たほうが早いかもだけど!」
「だからそれを観てもわかんないから聞いてんだけど」
ウッギャーっ! 何だこいつは!
「あっそ! 俺はね、俺の動画を観てもわかんない奴は観なくていいって思ってんの! そもそも面白くないなら観なきゃいいじゃん!? それをわざわざ観ておいて面白くないとかつまらないとかご丁寧に御託コメントを時間掛けて打っちゃって、こっちは本当迷惑なんだよな! 夢もそうなら別にいいんだけど? アンチコメント歓迎ってほどまだまだ自分は人間出来てない、底辺配信者なんで! お情けは結構ですので!」
「いや、あんたの動画は、面白いよ? ただ、あの手のゲームの良さがわからないから聞いてるだけなんだけど」
うーん、この。
そういうとこ、好き。




