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105.カミーユルート②



 「うわ〜っ! このハンバーグ、美味しいっ! 本当に美味し過ぎるっ! 最高だねっ!」



 駅からさほど遠くない物静かな通りにある、昭和風情のあるレンガ張りの建物。ここは知る人ぞ知る秋波原の洋食屋で、せっかく案内を任されたのなら自分の好きなお店をと思い、悟が秋波原に来た時には度々訪れているこの店に、金田とカミーユを連れて来ていた。



「美味いよね。ここはメンチカツも美味いから今度食べてみるといいよ」


「うん!」


「まあ、確かに美味いわ。こんな店が近くにあったらしょっちゅう行ってるぜ」


「そうだな。何なら今度店長と来てリサーチしてれ。そして店の味に生かしてくれ」


「何で俺が店長と秋波原デートしなきゃなんねえんだよ……俺は木葉ちゃんと来たいのっ!」


「別にデートなんて言ってねえぞ。……ははぁ〜金田、お前まさか店長とも脈アリってか? バイトで一緒にいすぎて芽生えたか? ひょっとして」


「んなわけねえだろっ!」


「メバエタ? 何だろ……。悟君、そのテンチョーさんていう人は男なの?」


「そうだよ。金田と仲が良いんだ」


「そっか。僕はいいと思うよ? BL好きだし」


「だから違ぇっての! 悟、あんまやたらな事言うなよ。カミーユ誤解しちまうぞ」


「今想像した。お前と店長、アリだな」


「ねえよ!」


「ねえ金田くん。じゃあさっき言ってたコノハって誰? テンチョーじゃなかったらそのコノハって人が好きなの?」


「う……!」


「ははっ。何だよその恥ずかしそうで困ったような顔は。まあ隠してもしょうがねぇだろ」


「……ま、まあそうだな……。そうだよ。俺は木葉が好きというか……まあその、あれだ……そのうち俺の彼女になる子だ」


「へ〜っ。見てみたいな。今度よかったら会わせて?」


「いいよ」


「お前が返事するなよ!」


「って事は悟君もその子知ってるんだ。よろしくね」


「ああ。いつでもいいぜ」


「だから何でお前が返事すんだよっ! 何なんだよ……お前らは……」



 カミーユという美少年とは初対面だと思っている悟だが、何故か初めて会った感じがしない。屈託のない会話をしながらも、しかしどこか何とも言えない違和感のようなものを引きずっていた。



(このカミーユって子はかなり美男子だよな。……子っていうか、年は変わらねえか。しかし俺もこんな美少年だったら夢との恋愛ルートも多少は攻略しやすくなるのかな……。いや、逆に色んなサブキャラの子がルートを塞いでくるかもしれん。それはそれである意味憧れなのだが……。しかし何だろな、この感じは……。違和感……なのか? 何故かずっと心がモヤモヤする。ちょうど答えがノドから出かかっているのに出てこない、もどかしい感じだ。……なにか、何か俺はこのカミーユって奴に対して言わなきゃいけない、いや、何かしらの答えを出さなきゃいけない事があるような気が……)



 そして当のカミーユといえば、



(やっぱり悟君、全然気付いてないや……。この前会った時はどこか大人しい印象だったし、動画を配信してる時はものすっごいテンションで話してて……今は何か……リラックスしてる感じだ。金田君との友達付き合いが長いのかな? どっちにしろ、色んな部分が見れて嬉しいっ。そして可愛いなっ。ふふっ。……あ、そうだ! 美少女ゲームのトークはしたいけど、動画の事は絶対にしゃべっちゃだめだ。悟君にとっては僕に会うのがある意味、今日が初対面だし、うっかり動画の事を話して詮索されて、もし僕が前に会った女の子の格好をした方のカミーユだってバレちゃったら、せっかく楽しもうと思ってるルートが台無しになっちゃう。

 ごめんね。悟君。でも、もうちょっと付き合ってね)



「はぁ〜食った食った。ご馳走さまっ。また来てぇな、ここは。カミーユ、お前どっか行きたい所があるんだっけ?」


「うん。…悟君は、たしか美少女ゲームが好きなんだよね?」


「あ、ああ……まあ」


「今はどんなのやってるの?」


「今は……プニプニラグーンてやつを……知ってるかな……?」



 急に悟が引っ込み思案のような話し方をした。

 カミーユも、そして金田も当然のように違和感を感じたが、ひょっとして普段俺の前で話さない美少女ゲームの話をするのに照れているのか? と金田は思った。


 カミーユはそんな事はお構いなしに、



「知ってるよ! あれ僕もやってる! オープニングの夕陽の珊瑚礁から沸いてくる泡姫とプニサンゴのやり取りが最っ高に面白いよね! 美少女ゲームであんなにも面白いオープニング、僕初めて見たよ! 一瞬、美少女ゲームだっていうのを忘れてしまうくらいだったよ!」


「そうだな。あのオープニングはけっこう語り継がれると思うね。あんなゲームの導入シーンはなかなかの傑作だと思うし、それにあのシーンで色んな伏線を張ってて、俺は今水着大会からの旅館での果たし状のシーンまでやってて……あ、まだそこまでやってなかったらごめん。……俺、たいがいゲーム進めるの遅いからさ。てっきり決め付けて話しちまう」


「だってあんなにみんなとやり取りして話しながらやってたら、良い意味で進まないもんね! わかるよ!」


「ん? どういう……」



(ヤバイっ! さっそくやってしまった……! 思わず悟君の動画に触れるような事言っちゃった! え〜っと、え〜っと……)



「い、いや、悟君はゲームやってる友達多そうだから、多分みんなとワイワイやりながら進めてるのかなって……」


「いや……そんな事はないんだけど……でもまあ……」


「悟はよ、ゲーム実況やってんだぜ。Youchubuとかで配信してるやつ」


「えっ?」



(あ……。でもこれで……)



「へぇ〜っ! そうなんだ! なんてチャンネルなの!? 僕も観たいなっ!」


「さと寸の美少女ゲームチャンネル……何か自分でいうとけっこうこそばゆいチャンネル名たけど……」


「ありがと! さっそく観てみるよ(もう観てるけど)!」


「あ、ああ……」


「チャンネル登録もするねっ(もうしてるけど)!」


「ありがと……」


「よし。じゃあそろそろ行くかっ!」


「うんっ」



 3人は店を出てカミーユの行きたい所へ向かおうとしていた。



「カミーユはどこに行きたいんだ?」



 秋波原にめったに来る事のない金田がカミーユに尋ねる。



「ん〜とね。……2人共、女の子は好き?」



 カミーユの唐突な質問に2人は少し驚く。



「まあ……な。悟は基本2次元の女の子好きだけどな」


「まあ、そこは俺も否定はしないが、2次元に限らず……まあ、好きかな」


「そっか! よかった!」



 2人は一体何の確認なんだ? と思いながらもカミーユの回答を待った。



「今から行きたいのは、メルティアってお店なんだけど……悟君知ってる?」


「いや……知らないな。俺も自分の目的の店に来る以外、あまり秋波原を開拓してないからな」


「そっか。え〜っと……ね。ここ。この辺」



 カミーユは地図アプリに載っているその目的地らしい店の場所を悟に見せる。



「色々調べてたんだけど、1人で行くよりみんなと行ったほうが楽しいかなって」


「おっけ。ここね」


「悟、わかるか?」


「ああ。ここは普段通らない道だけどわかるぞ」


「あっ。わかった。さっきの質問からするにメイドカフェか?」



 気になった金田にカミーユが応える。



「違うよ。まあ、そいういうのもあると思うけど」


「?」

「?」



 悟と金田はわけがわからず顔を見合わせる。



「よしっ! じゃあ行こうっ!」



 ポカンとした表情の2人をよそに、再びルンルンで歩き出したカミーユに、悟と金田はただ黙ってカミーユに付いて行くしかなかった。



「ところでカミーユはどうして日本に来たんだ?」



 道すがら、ニコニコと街を観ながら歩くカミーユに、悟は質問する。



 悟は会った時から感じていたカミーユへの違和感に対して、少しでも何かをつかめるキッカケを探ろうとしていた。



「僕のお母さんは日本人で、小さい時から日本のアニメをよく見せてくれてたんだ。そのうち自然に日本のアニメが好きになって、それからその原作の漫画だったり、他の漫画、ゲームへの興味も出てきたりして。で、ゆくゆくは日本に行って沢山のアニメやゲームに触れて、将来の為に勉強したいなって。そう思って親にも話したら応援してくれるって言ってくれてね。こうして日本に来られたんだ」


「将来って?」


「僕はね、アニメーターになりたいんだ。そして日本でアニメを作りたい。自分の好きなものを、自分の感性を活かして何かを生み出したいんだ。その為に今はたくさん日本のカルチャーに触れて自分の感性を磨きたいんだ。もちろん、今はいっぱい遊びたいけどね。でもその遊びが僕のやりたい事、勉強にも繋がっているから僕は本当に恵まれていると思う。僕は幸せ者だ。だから絶対にその夢を叶えたいんだ」



 まっすぐな瞳 ー 。 


 小さな炎にも似たキラメキのようなものを、カミーユの綺麗な瞳の奥から感じて悟はハッとした。



 そして、そのほんのわずかな間、

 悟はカミーユに見惚れていた。



「……そうか。すごいな……。よかったら今度、カミーユの絵を見せてよ。ちなみに俺は美少女ゲーム配信者として有名になる、つもりでやってる。っていうか、なる」


「そっか〜っ! 悟君はなれるよ、絶対! あんな面白い動……あっ、とにかく僕は応募するよ!」


「あ、ああ……ありがと。カミーユのアニメも楽しみにしてるよ」


「うん!」



 目の前の、活き活きと自分の夢を語るフランス人は混じりっ気のない純粋な憧れや好きな物への情熱を持って、それを夢を叶える力、そして生きる力に変えている。美少年だろうが何だろうが、そんな生き方をしているなら輝いて見えて当然だった。




「そうだったのか。俺はてっきりモデルかアイドルにでもなるのかと思ったよ。何せそのルックスだし」



 金田もカミーユと悟の話に興味津々で乗っかってくる。



「そういうのにはあまり興味ないかな。僕は自分の創造力を活かして何かを作るのが好きなんだ」


「はぁ〜っ。お前らやりたい事あっていいよな〜っ。しかも何かカッコいいし。俺もこう……創造力を使うような、クリエイティブな事がしてえ」


「えっ? 金田君は、将来どうしたいとかあるの?」


「うちはさ……もう決まってんだ。親の跡を継ぐんだよ……」


「へぇ〜っ! そうなんだ! 何かお店とかやってるの?」


「うちの家は、寺なんだよ。テンプルなんだよ。お寺」


「え〜っ! そうなの!? すごい! なんかすごいね!」


「そうでもねえぜ……うちは姉ちゃんと俺の2人姉弟でさ、姉貴は今海外に住んでんだよ。ほんっと、自由人でさ……誰か婿をとって寺を継いでくれればいいものを、親父は親父で、姉貴には寺は無理だ、務まらんの一点張りでさ……。本当は高校卒業したらすぐに継ぐ予定だったんだけど、俺がどうしても大学行きてぇって、勉強も頑張るから4年待ってくれって話したんだ。それで卒業したら寺を継ぐって約束で、今は大学通ってんだ」


「そうなんだ。……でも、お坊さんだっけ? 金田君が……」



 カミーユは日本のお坊さんを想像して、その顔が金田になっているのを想像したがうまくいかなかった。



「まあ、寺を継いでお坊さんになって、以前の金田の素行を知ってる奴はなかなか貴重だと思うぜ。そこのお寺の住職は昔合コン大王でしかも恋のキューピッドやってましたってな」


「おいおい。人には歴史ありって言うだろ? だからなれないって訳じゃねえんだし、お前みたいな奴が吹聴しなければなんとか寺はやってけるだろ。まあ……俺も少しずつだが覚悟というか、まあ、ゆくゆくはそうなんのかなって受け入れ始めてるし。今は良い意味悪あがきだと思って見逃してくれ。それに……それによ、その時には木葉ちゃんという素敵な奥さんが俺の隣にいて……。ああ……それだけで俺はもう何だってやってけるぜ」



「悪い事だけはすんなよ。将来あのお寺の住職は昔……って顔にモザイク掛けて声変えられて知人のインタビューとかでテレビに出るつもりはねえからな」


「しねえよ。お前こそスケベ心に負けて悪い事すんじゃねえぞ」


「あ、ほら! あそこじゃない?」



 道の右側に、白いテナントビルに掲げられたいくつかの店舗の看板の中に「メルティア」と書かれた看板がある。


 

「お、ここだな」



(メルティア……。

どんな店なんだ?)



 悟はどんどんと近づいてくる看板を見ながら思案する。




 ビルの入り口に差しかかり、入ろうとしたところ、出てきた女性3人と思わずぶつかりそうになり、



「あ、すいません」


「あ、いえ。すいません」


「?」



 金田とカミーユは気付いたのかわからないが、明らかに声が男性だった。そしてその時にすれ違ったもう2人のうちの1人も男性の顔立ちをしていた。



(何だ? ……そういう趣向はあって全然いいが。……はっ!? まさか!?)



カミーユが嬉しそうに2人の背中を押して、



「さあ、入ろ入ろっ!」



 何か……いやな予感がしてきた。



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