104.カミーユルート①
夢と別れ、家に帰ると悟はベッドに転がり一丁前に部屋の天井の隅っこをじっと見ていた。
動画を配信しようとパソコンの電源を入れたものの、ずっと脳裏に浮かぶ夢の顔が頭から離れず、一旦頭を整理しようとデスクから離れ、ひとり思いにふけっていた。
……何だ……このモヤモヤした気持ちは。
あれか。ずっと推してたアイドルがどんどん有名になって遠い存在になるかも知れない、嬉しいような悲しいような気持ちってやつか?
だとしたら、俺の場合は小さい時からずっと見てきただけに、喜びも悲しみもひとしおってか。……まあ、自分で言ってるうちは大丈夫か。
……でも、どうしてだ?
夢の絵を世間に知らせたかったのは俺だろ?
何でこんな気持ちになるんだ?
しかも夢は誰の力も借りず、自分で漫画を描いて送って道を拓いてる。
そうだ。
正直、俺は何もしていない。
あわよくば俺が、俺のチャンネルがもっとデカくなって、いつか誰かが夢の描いた俺のチャンネルのバナーの才能ある絵を見て、そこから夢の描いた絵と俺のチャンネルが共に有名になって……っていう妄想、目標、願い? は、あったけども……。
悟は冷静になり、自分に言い聞かせる。
「……いいか、悟よ。
お前は何もしていない」
RPGゲームに出てくる王様のような口調で独り呟く。
「……ですよね」
悟はしばらく天井を見つめたまま、無意識にぐっと足の指に力を入れた。
「……俺は今まで通り……いや、今以上に夢の事をしっかりと、そばで応援してやればいい。そして支えてやるだけだ。それだけだ。それしかできねえ。そして……そして俺もゲーム配信の世界で絶対に有名になってやる」
誰に頼まれたわけでもない悟の熱い想いは今まで以上に夢への想いと自分の野望に変わっていく。
もう悟は一丁前の推しのプロ、そして有名配信者になったかのような気分になりテンションを上げ、勢いよくベッドから立ち上がってパソコンに向かおうとした。すると、
ピンピロリン♪
ピンピロリン♪
「何だよ」
スマホに話し掛けるように悟はつぶやき、着信音を止める。
「もしもし」
「おう。どした?」
掛けてきた電話の主は金田だった。
「たいがい出てくれるなお前は」
「もう俺の着信履歴はほとんどお前だ」
「おいおい。何かこそばゆいな。ならいっそのこと俺と一緒に家族プランにでも入るか?」
「絶対いやだ」
「あのさ、明日の件だけど、大丈夫だよな?」
「ああ。大丈夫だけど……ん? 何だ? その電話か?」
「まあ、な。念には念をと思って一応確認だ」
(めずらしく慎重だな……。何かあんのか?)
「明日は夢ちゃんからデートの誘いがあっても行くんじゃねえぞ」
「わかってるって。しかもねえし」
「あ、明日の秋波原だけどよ。俺は全然秋波原行かねえしよくわかんねえから色々と案内頼むな」
「え、そうなの? 俺が案内すんの?」
「おう。頼むわ。カミーユも行きたいとこ……あ、そいつカミーユっていうんだけど、自分から行きたいって所があったら連れてってやってくれよな」
(カミーユ……? カミーユってあの……いやいや、偶然だろ……)
「あのさ、その明日会うカミーユってやつは男か? それとも女なのか?」
「ふふ……。それは会ってのお楽しみだな」
「なんだよそれ。気持ち悪ぃな。……まあいいか。……それで、明日そのカミーユってやつが行きたいとこがメイドカフェだったらどうすんだ? お前も入るのか?」
「まあ、やぶさかではないな。っていうか行った事ないし何なら行ってみてえし。それにご主人さまって呼ばれてえし」
「お前にご主人さまと呼ぶメイドは一人残らずお金の為だという事を忘れるなよ」
「いやいや、わかんねえじゃん? 俺という人間の魅力にやられちゃう子だっているかも知んねえし」
「じゃあ切るぞ。もったいないから」
「じゃあやっぱり家族割にしようぜ」
「いや、時間がもったいない。しかも家族じゃねえし」
「つれないなぁ。悟くんは……」
「よろこべ。ここまで冷たいのはお前にだけだぞ」
「俺にそんな扱いを出来るのも今のうちだぜ。明日にはきっと感謝してお前の方から俺にご主人さまって言ってくるぜ」
「はいはい(何を言ってるんだ……こいつは?)。じゃあな」
「おう」
ピッ ー 。
「はぁ……あいつからの電話はいつも訳がわからんな……。さ、動画撮ろ」
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次の日。
秋波原の駅前で金田は一人、カミーユと悟の到着を待っていた。
「ちょっと早く着いちまったかな。……しっかし、やっぱこういう所、来なれないせいかちょっと落ち着かねえな。……まあ何事も経験だ。それに木葉ちゃんも夢ちゃんとたまに秋波原で遊んでるっていうし、今日は俺と木葉ちゃんとのデートのリサーチって事で……」
「おっはよっ! 金田くん!」
呼び掛けられたその声に振り返るとそこには美少年がニコニコと後ろに手を組んで立っていた。
相変わらずの美少年っぷりだ……と、金田は感心を……いやいや!
「えっ!? お前今日男バージョンで来たの!?」
「えっ? なんで? ダメだった?」
「いや……ってかその、ダメじゃねぇんだけど、俺は今日てっきり女バージョンのカミーユで来ると思ってたわ……」
「女バージョンで来てほしかった? さては金田くん、僕に惚れたね?」
「いやいや! ちげぇし! 実は今日来る奴はかなりの美少女好きだからビックリさせてやろうと思ってな……ま、まあいいわ。俺の勝手な妄想だったから」
「妄想……?」
「ま、まあ……何ていうかその……何でもねえ」
「ふ〜ん。で、その人はまだ?」
「おう。もう来ると思うんだけどな」
カミーユはもう既に数回きている秋波原の街並みをまるで初めてきたかのように目をキラキラと輝かせて周りを見回している。
(まじかよ……。せっかく美少女カミーユの姿を見て驚く悟の顔を見たかったんだがな……。そしてあいつがカミーユが男と知った時の驚嘆の顔も見物だったんだが……ちくしょう。先にカミーユに女の子バージョンで来てくれって言っとくべきだったぜ)
ぶつくさと心の中で独り言を呟く金田にどこからか声がする。
「……おい……お〜い。金田?」
その声に気付き、またも自分に声を掛ける方に振り向くと、そこには両腕を組んで立っている悟がいた。
「お、おう。おっす」
「さっきから何回か声掛けたんだが気付かなかったか?」
「あ、ああ。すまん。ちょっと考え事しててな……。あ、紹介するわ。こちらカミーユ。俺の大学に留学生でフランスから来てる……」
待ち合わせの人物が来たのに気付いて、金田の紹介を途中でさえぎるようにカミーユが金田の背後から身を乗り出して悟に自己紹介をする。
「こんにちは! 初めてまして! 僕、カミーユです! あ、あれ……」
「あ、ど、どうも。初めまして。楳野 悟です ー ピンピロリン♪ ピンピロリン♪ あ……ちょっと待って……」
「何だよ。タイミング悪ぃな」
「あ。めずらしく兄キだわ。ちょっと出るわ。ごめん」
悟は2人から背を向けて電話に出る。
「ねぇねえ、金田君」
「どした?」
カミーユがささやき声で金田に話し掛け、金田も思わずささやき声で応える。
「僕、あの人に会ってるよ。ちょっと前に」
「えっ!? そうなの?」
「うん。その時もこの近くで。その時は偶然知り合った人といて、お店に入ったら悟君がいて……それで……」
「えっ? でも悟、気付いてねえぞ。……あっ!」
「そう。その時は女の子バージョンだったんだよ」
「でもよ、悟はカミーユって名前は知ってるだろ?」
「うん、自己紹介したよ。でも何か……わかってないみたいだね」
「おいおい。……まあ、悟らしいっちゃあ悟らしいが……。しかしまあ気付いてないのはいい事だ」
「えっ? どういう意味?」
「いや、何でもねえ。こっちの話しだ」
「僕から言ったほうがいい……」
「いや、このままにしとこうぜ。そのほうが面白くねえか?」
「なんか、ちょっといたずらしてる感じがするね……。でも途中で気付くかも知れないし……。うん、わかった」
「ああ。はいよ……。じゃあな。 ー プッ。
ごめんな。お待たせ」
「おう。じゃあ改めて、こちらカミーユ。で、こっちが悟。まあ俺もまだカミーユと数える位しか会ってないけど、カミーユは日本の友達を沢山作りたいみたいだし悟は美少女ゲームが好きだし、まあお互い仲良くやってくれ」
「おいおい、美少女ゲーム好きは関係ないだろ」
「僕も美少女ゲーム大好きだよ! よかったら色々と日本のゲームの事教えてほしいな!」
「あ、うん。……よろしくね。
……っていうか、カミーユ……でいいかな?」
「もちろん! じゃあ僕は悟って呼ばせてもらうね!」
「おっ。美少女ゲームでいうところの出会いのシーンか。いいねぇ。ドキドキするねぇ」
「おいおい金田。何を期待してんだ?」
「いや、特に何も期待してねえって。さあさあ、ずっとここで突っ立ってんのも何だしどっか行こうぜ」
「僕、今日行きたい所あるんだ! いいかな?」
「おう、いいぜ。な? 悟」
「ああ。どこでもいいよ」
「でもその前にちょっと腹ごしらえしねえ?」
「いいよ! 僕もお腹減ってきた!」
「じゃあ悟殿、案内よろしく」
「俺? ま、まあそうか……じゃあ……行くか」
「おうっ」
「うんっ!」
3人は駅を背にして秋波原の街を歩き出す。
他人からすればただの友達に見えるものの、実のところ、どこか妙な組み合わせオーラが出ている。
(やったね! すっごい偶然! こんなに早く悟君に再会出来るなんて! やっぱ金田君は悪い人じゃないみたい。こんな偶然を運んできてくれるなんてっ。……ふふっ。こうなったら悟君が気付いてくれるまで色々楽しんじゃおっと)
悟は2人の前を歩き、食事を取るためどこに連れていこうか思案しながらも、どこか頭の片隅隅でカミーユに対して少し違和感のような物を覚えていた。




