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心に沈めたあの人は、君をずっと想ってる

お読みいただき有難うございます。

ラストです。

颯真くん視点です。当社比甘い筈です…。

 夕焼けの日差しが差し込む児童館。

 俺の好きなひとは、名前にコンプレックスを持った女の子だった。

 そして、馬鹿な事をして傷付けたから、俺の前から姿を消した。


「颯真くんって、変わったね」

「……そうか?」

「昔は私に頼るなんてしなかったのに」


 そうだっただろうか。普通に頼っていたと思う。

 大体一人で居たのは俺の性分だ。

 言わなくても優しくしてくれる雛菊に甘えて傍にいた。

 だって雛菊は面倒見が良かったから。


「頼ってくれて、嬉しい」


 成長した雛菊は笑う。ああ、いいものを見た。

 少し俺より背が高いから、少し見上げる形にはなるが、それもいい。


「雛菊は可愛い」

「……え?」

「可愛いと思ってたよ、前から。児童館から」


 見る見るうちに顔が真っ赤に染まっていく。

 この顔は児童館で見るつもりだったが、遅くなってしまった。


「え……どうして……ちょっと……待って」


 下から見上げているから、雛菊の顔は背けた位では隠れない。

 手で隠そうとするから、正面に回り込んで両手をぎゅっと握ってやったら、余計真っ赤になった。

 背は高いが、俺の方が手は大きい。

 ちょっとカサカサした、小さな手が俺の手の中にある。

 信じられないくらい優越感が湧いてきた。


 ああ。本当に馬鹿な事をした。

 あの時、あんなくだらない意地悪を他人を巻き込んで迄、するべきじゃなかった。


 あの時ちゃんと絵本を普通に読んでいたら、ずっと仲良くいられたのに。

 こんなに長く会えないなんて思いもしなかった。

 近くに住んでいる筈だから、探したのに。

 子供だから全く見当がつかなくて、本当に苦しんだ。


「雛菊」

「そ、颯真くん……?」

「今度はずっと一緒に居てくれるか?」

「勿論ですっ!!」


 真赤な顔で、即座に返事があった。

 ああ、いいな。雛菊は今も俺に執着している。


 先日、最初に雛菊を見た時、何故か分かった。

 冷たい態度を取ったのは、拗らせ過ぎた俺との思い出が表に出て来たんだろうな。


 ずっとずっと俺を想ってたって。

 心の奥底に、俺を沈めたふりをして執着してるって。

 そう聞こえた気がしたんだよ。

 あからさまに病んでる上に電波だから言わないけど、

 勘って言うのに近いかな。


 何でだろうな。

 何か見えた気がしたんだよ。俺も一緒だからかな。

 まあ、別に俺の場合は心に沈めてなかったけど。


 邪魔なのはアレだ、あの痴女。

 ……早く兄貴と別れないだろうか。非常に煩い。声が大きい。

 アレはアレで俺と似たような何かがあるし、嫌いだ。

 あの痴女のトラウマは便宜上聞かされたけど聞いただけ。

 興味は無い。

 あっちも俺を気に入ることはなさそうだな…。


「颯真くん?」


 雛菊の目が揺れている。顔はもう赤くない。

 俺が何を思ってるか、不安に思ってるんだな。

 ゾクゾクした。

 ……こういう目が好きなんだよな。だから児童館で早まったわけだけど。

 まあ別に普通だよな。

 男なら大体好きな子にちょっと意地悪したいもんだろ。


「何、雛菊」

「あの、ね……」

「何かリクエストでもあるのか?」

「リクエストって……言うか……」

「うん」

「……キスとかしてほしい」


 ……積極的だな雛菊。

 俺の考えの斜め上来るんだな……。

 何かもうちょっとこう、抑え目から始まるかと思ってた。

 でもまあ、拗らせてたのはあっちも一緒か。


「下手だったらゴメン」

「……っ」


 ちょっと背伸びをするのは俺の方で、座らせれば良かったなと思ったがこれ以上待つのは御免だ。

 失敗するのが嫌なのと、雛菊の顔が眺めたいので俺は目を瞑らなかった。

 大体あれだ、キスに目を瞑るのが常識とか個人的には戯言だと思う。

 怪我したらどうするんだ。

 恥ずかしければ向こうが瞑ってれば分からないじゃないか。

 現に雛菊は瞑っている。

 うん、可愛い。

 十分顔を眺めさせてもらう。


 再会して2日で仲直りしてファーストキスか……。

 他人ならどうかと思うが、自分の事となると満足してる。

 まあ10年程中に挟んでるから、長いにも程があった。


 取り合えず最初であんまりしつこいとまた逃げられても困る。

 瞼が開きそうにプルプルしてるから、そろそろ離すか。


「颯真くん…」

「うん」


 ……まあ、アレだ。脳内で考えてはいるが、大したことが言えない。

 序盤はちょっと口説いてたが、さっきから俺はうんしか言ってない気がする。

 雛菊は真赤だが、俺も多分真赤だろう。耳がやけに熱い。


「へへ、浮かれてる……私」

「……俺も、そうかもしれない」


 ……まあ、多分、俺も浮かれてる。

 初恋が叶ったんだ、浮かれるのも普通だろ。



「何校門前でイチャついてんだ!バカ野郎どもおおおおおお!!」



 ウザい。またあの痴女の煩い声が寄ってきた。

 コイツとは是非とも離れて生きて行きたいのに、どうして付きまとうんだ。雛菊のストーカーか。


「ああ、此処校門前だったか?気にしてなかった」

「嘘つけやソーマくん!!

 しっかり周囲を認識しつつ、歩いてただろ!!」

「目に入らなかった」

「二人の世界ってか!?見境のないアホは死ねよ!!」

「し、しのぶ……颯真くんの悪口を言わないで……」


 あ、雛菊が俺を庇おうとしている……。

 可愛い。


「雛菊、お前は悪い根暗男に騙されているんだ、私と逃げよう」

「学校同じなのに逃げてどうするんだ、アホ」

「うるせーーーー!!サッサと卒業しちまええええ!!」


 だが、俺だって別に無策で過ごしている訳じゃない。


「痴女、あんまり喧しいと俺にも考えがある」

「ソーマくん如きがなんですかねえー!?

 このしのぶ様に一体何が出来るんですかねえー?」


 何てムカつく下品な顔と動きだ。

 さっきまでの雛菊との語らいとキスが吹き飛びそうだ。

 だが、それも此処までだ。

 俺は勝ち誇ってスマホの画面の着信履歴を痴女に見せてやった。


「さっき、雛菊と会う前に兄貴を召喚した。

 悪は潰えろそして死ね」

「きゃっ、ヤダアソーマくんってばあ……」

「しのぶ……気持ち悪っ」


 雛菊と同意見。キャラがブレブレだ。


「やっだあ雛菊ちゃんったらあ、」

「しのぶ、まだ本性を見せて無かったの」


 雛菊はこの痴女の過去を多分知らない。

 アホな方が本性だと思っている。

 個人的にはアホでもフリル趣味でも全く興味は無いが、

 カードの一つとしては持っておく。

 そして別に雛菊に説明する必要はないと思っている。

 雛菊にこのアホの過去の情報を脳内に入れるより、俺を見てほしい。

 俺自らが教えるとしたら、この痴女を貶めることに使う。

 今ではない。


「悪い顔をしてるね、颯真」

「兄貴」


 7つ年上のこの兄はほんとうに神出鬼没だ。

 掴み切れない人と言うか……。

 白いようで白くない。黒い訳でもない。

 ……悪い意味で、中身は中庸というか。


「俺は、どんなしのぶでも別にいいよ?」

「うぇ!?翔くんっ!?」

「はい、翔だよ」

「えええええええどうして此処に……お早い御着きなのねえ!?」

「中身は一緒だから、どんなしのぶだっていいんだよ」


 何だその変な受け入れ方は。

 俺は兄貴が分からない。


「今がいいなら、良くないかな?」

「い、意外と刹那的ですね、カケルさん……」


 何で雛菊がそんな尊敬する人みたいな目で、兄貴を見るんだ。


「全てを知るのは無理なんだから、今を大事にね」

「……薄いコメントを有難うよ、兄貴」


 この……特に心に響かない薄いコメントが兄貴の得意技だ。

 それなのに何故か変なファンが出来ている。雛菊もその類か。

 じっと見ていたら雛菊がビクビクしている。


「あ、あの……颯真くん、誤解しないで。

 カケルさんを好きとかではないからね!!」


 まあ、ありきたりなコメントでは有るが、雛菊が言うとまあまあいいな。

 後慌てる顔が可愛い。

 何て言ったら困るかな……。

 様子を見た方がいいか?


「雛菊ちゃん、弟を宜しくね」

「ひぇっ、此方こそ!?」

「駄目よ翔くん!?雛菊に宜しく頼んじゃダメっ!!

 引き取ってどっかに棄ててきて!!」

「おいどさくさに紛れて何言ってやがる痴女」

「誰が痴女だぐらあああっ!?……あ」


 馬鹿な痴女め……自滅したな。

 顔色がどんどん悪くなっていく。いい気味だ。


「いやああああああーーーーーっ!!」


 痴女は逃げて行った。勝利だな。


「あっ、しのぶ!?」

「うん、大丈夫追いかけるよ」


 校門の陰に兄の自転車が置いてあった。

 どうでもいいが、兄はこの自転車と共にどこにでも現れている。

 実は飛んだり出来るんだろうかとこっそり思っている。


「あっ、また自転車ですか!?」

「何で兄貴が自転車乗ってること知ってるんだ」

「颯真はもうちょっと雛菊ちゃんと語らいあった方がいいね、

 じゃあね」


 また薄いコメントを残して兄は去っていった。

 ……まあ、その通りかもしれないが。


 逃げた痴女はどうでもいい。

 俺は雛菊の手を握った。


「とりあえず雛菊」

「は、はぇいぃ!?」


 出来るだけ優しく見えるように、俺は顔を作った。

 効果があったようで、雛菊がさっきと同じように真赤になる。


「俺の家で図鑑を一緒に読むか?」


 もう直ぐ夕暮れだ。あの調子では兄貴は帰ってこない。


 絶対に断らないだろ?

 勿論、この後が雛菊の理想になるかどうかは知らないが、俺はそう提案した。






 完



予想以上に颯真くんがよく心の中で喋っていましたね。

ヘタレなのか黒いのか肉食なのか…。

タイトルとサブタイトルで、『心に沈めたあの人は、君をずっと想ってる』

でした。

若干タイトル詐欺かもしれませんが、こういう趣向が好きで上手くなりたいですね。

気が向けば番外編も書こうかな。


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