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繚乱のファンタズマゴリア  作者: USK
第二章 星下の歩み
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繚乱のファンタズマゴリア 31 あがき~されど我は星を求む者なれば~

1.


「お前が此処に至ったという事は。順調に勝利の塔を上っているようだな」

『―――』

「死んでなどいないさ。むしろ生命力に溢れてすらいる」

『―――』

「此処は何処か? その質問に答える事は難しい。此処は果てへの標、カタチなき深淵の場所。故に誰も此処を言い表すことは出来ない」

『―――』

「安心するがいい。お前はもうすぐ目覚めるだろう。そして更なる試練へと挑む事になる」

『―――』

「サルファの星の物語に学ぶがいい。其処にお前の求むる解はある」

『―――』

「そしてもう一つ。これはお前が何時か相対する命題だ。全てを壊し、喰らう者がいるとしよう。その者が創造に目覚め、父殺しによりそれを成そうとした時、君はどうする。喰らう者に手を伸ばすか? それとも刃を向けるか?」

『―――』

「今答える必要はない。全ては黄金螺旋階段の果てに」

『―――』

「ならば目覚めるがいい。決して諦めるな」



2.


 ―――暗闇に、光が差しているのに気付く。

 重い瞼をなんとか開く。

 身体も重い。すぐには起きられなさそうだ。

 白い天井と壁。白岩製の。

 病院か。ベッドに横たえられていた。

 どうして、ここに―――

 もやがかかる意識を集中させ、記憶を繋ぐ。

 ―――セレス!?

 バッと起き上がろうとする。しかし起き上がりきれず、途中で再びベッドに横たわってしまう。

「おっと、丁度いいタイミングだったか」

「リョウ先輩……?」

「待ってな、みんな呼んでくる」

 そう言って部屋から出ていくリョウ。

 しばらくすると、ブルーサス先輩達やレイフォン師匠、トウヤ学院長まで入ってくる。

「さて、と。どこから話すかね」

「セレスは、セレスはどうなったんですか!?」

「……やっぱ最初から話すか。ナシュト、お前はゴスペルにやられた。確実に死ぬレベルのダメージを受けてな。だが、お前は『異能』で無意識にズタボロな身体を繋ぎ止めて修復したお陰で今もこうして生きてるってわけだ」

 こればっかりは他の異能にできる芸当じゃない、と付け足すリョウ先輩。

「とはいえ致命傷には変わりねえ。ここに担ぎ込まれて1週間、ようやくこうして目が覚めたってわけだ」

 ……一週間!?

 その言葉に絶句する。

 そんなに自分は眠っていたのか。

 じゃあ、セレスは……!?

「まだ生きている。まだ、な」

 静かに言うネロさん。

「まだ、って……」

 それじゃ、まるで、そう遠くないうちに……

「協会騎士団からの報告では2日後。帝都にて王族を処刑するという宣告が発布せれているらしい」

「2日後……!?」

 ―――寝てる場合じゃない!

 力を振り絞りベッドを立つ。

 いいや、立とうとした。ただそれだけで全身に痛みが走り、力が抜けてしまう

「ナシュト君!?」

 よろめいたオレを、駆け寄ったブルーサス先輩が支える。

「ナシュト、そんな身体で何処行く気だ」

「決まってるでしょう師匠! セレスを助けに行くんです!」

「そんな身体でか? 国境にも辿り着けねえよ。例え辿り着いたとして―――その先にあるのは敵国、だ。敵陣なんて生ぬるいもんじゃねえ。すぐに殺されてお仕舞いだ」

「でも―――」

「でも、じゃねえ!」

 声を荒げるレイフォン師匠。

「状況は深刻だ。睨み合いという程じゃねえが、こっちも向こうも国境付近に兵を集め出してる。魔術協会が牽制兼ねて間に入ってはいるが……少なくとも向こうが止まる気はしねえ。そんな中でこっちから向こうに突っ込むなり忍び込んでバレたりしてみろ。それが引き金になるぞ」

「だからって、このままじっとしていても……!」

「―――そうだ。このままでも戦争は起こるだろう。我々の致命的な敗北だ」

「アルトさん」

 病室にアルトさんが入ってくる。

 全身傷だらけ、特に左肩に重点的に包帯が巻かれてはいるが、少なくとも自分よりは軽傷だ。

 あるいは、《契約者》としての回復力の賜物か。

「……他の人達は?」

「キースはそれほど深刻ではないが封術の印を取り除けずにいる。シーラは姫共々攫われた。グラウディスは……わからん。奴らは殺したと言っていたが死体が見つかっていない」

「そんな……」

「ようするに全部あの狂信者(パラノイア)の思惑通りってわけだ」

 リョウ先輩がやれやれ、といった風に溜息をつく。

 室内に重い空気が流れる。

「……でも、ブルーサス、私はセレスを助けたい。どうにかならないのかな」

 ジルニトラがブルーサス先輩の腕を掴んですがるように言う。

「どうにかって……こればかりは、僕たちがどうこう出来る範疇を超えてるよ。だから……いや、でも……」

「おいブルーサス。お前、今何考えた」

 少し考えを巡らせる仕草を見せたブルーサス先輩に、レイフォン師匠がくぎを刺す。

「いや、その……今の僕とジルニトラなら、空から高速で突入してセレスを助けて戻ってこれるかなって……」

「やめとけ。その方法で助けられるのはセレス一人だ。お前ら、他の王族見捨てられるのか」

「そ、それは……」

 ―――場に、重い空気が流れる。

 沈黙を破ったのは、リョウ先輩だった。

「さて、だ―――ナシュト。それでもお前は、どうしたい」

「どうって……それは、セレスを助けたい、けど―――」

「けど、の先は純粋なお前の意思か?」

「……違います」

「なら、問いを変えるか。お前が背負いたい最小限の命はいくつだ。お前含めてな」

 ―――背負いたい、命の数。

 最小限というなら……今は、セレスだけだ。

 きっと今の自分なら、ブルーサス先輩が取れない選択肢すらとってしまう。

「……2つです」

「なら今はそれだけ背負え。セレスを助けるか、失敗してどっちも死ぬか、2つに1つだ。その覚悟はあるか」

「……リョウ、お前は何を言っているんだ? もうそんな規模の話じゃない事くらいわかってるだろう!」

「ハッ、『もうそんな規模の話じゃない』? なら今更2人の命の話くらい些事だろうよ」

「そういう問題じゃ―――!!」

 師匠の言う通りだ。

 オレのこの望みは、間違いなく"火種"だ。

 それが投げ込まれれば、大勢を巻き込む。

 確実にオレはそれを背負えない。

 けど。

(何もしなかったら―――背負いたいものも、背負うべきものも、無くなる?)

 目を閉じる。浮かぶのは、彼女の笑顔。

 失えば、きっとオレはこの先歩む意思も失う。

「―――嫌だ」

「ナシュト……?」

「それでも、オレは―――セレスを助けたい。オレは彼女と一緒に歩みたい。歩み続けたい」

「ほう?」

「それが何をもたらしたって、構うもんか! ここで彼女を失うのが運命だというのなら、そんなもの! それを壊した先の運命ごと、壊してやりたい!」

「ナシュト……」

 僅かの間、静まり返る部屋。

 ―――その中で、リョウ先輩の笑いが響く。

「クク……運命、ね。それがお前を妨げる、壁にして敵ってわけだ。なら―――」

 リョウ先輩の顔から、笑みが消える。

「そいつは俺にとっても敵だ。いいだろう、ナシュト・ケム。俺がそいつを打破するご都合主義《デウス・エクス・マキナ》になってやる」

 そう言うと、リョウ先輩は高く拳を上げる。

「俺はここに宣言する! この状況を打破してぇ奴は夕刻までに準備を済ませて第一城門に集え!」

「お前、本気か!?」

「本気さ。―――要はブルーサスが考えたのと同じ事だ。他が気付く前に帝都に到達して、一気に事を終わらせる。違うのは人数用意できるって事だ。船を使う」

「船、ですか? でも確か帝都も海に面していないし、海上にも監視はあるんじゃ……?」

「いいや、言っただろう。違うのは人数用意できるってことだと。他に違いはない。つまり―――」

 リョウ先輩が、天井を指さす。

「―――空だ」


3.


 ―――その後、これ以上病室で声を荒げ続けるわけにはいかないと、リョウ先輩はオレを残して全員別の場所へと移動していった。

 オレの手の中にはリョウ先輩が去り際に「夕刻に間に合わせたければこれを飲んでおけ」とこっそりと渡された丸薬。

 リョウ先輩は遼丹と呼んでいたか。少なくともオレは聴いたことのない名。東方の薬なのだろうか。

 ―――何故、先輩はこんなものを用意していたのだろうか。

 語っていたセレスを助ける手段といい、オレがあの選択をする事を見越して用意していたのだろうか。

 疑問は尽きないが、セレスを助けるための道があるというのなら、今はそれを信じるしかない。

 意を決して丸薬を呑もうとした時―――

「よっ。目ぇ覚ましたって聞いたぞ」

 トウヤ学院長が病室のドアから顔を出した。

 その手には一冊の本が携えられている。

「は、はい。今だけはまだ安静にしてるようにと」

「『今"だけは"』ねぇ。……まあ、とやかくは言わねぇさ。言える立場じゃねえからな」

 生徒一人の身の安全すら守れなかったんだからな、と続ける学院長。

「……すいません。ところで、その本は?」

「ああ、これか。頼まれてたもんだぜ」

 そういうと、学院長はその本をオレに手渡す。

「頼まれてた......?」

「リョウの奴からお前がその本探してるって聞いたぜ。ま、確かに渡したからな。ちゃんと身体休めるんだぞ」

 そう言うと、学院長は手を振りながら病室を後にした。

 ―――渡された本を見る。少し痛んだ皮の飾り気のない装丁。

 題名は『星の伝承』。

 そして、その下に書かれていた筆者の名は……

「―――父さんの本!?」

 父さんの名。

 まさか父が本を記していていたとは。

 驚きながらも、本を捲る。

 これは―――。

 目次にある幾つかのタイトルに見覚えがあった。どれも、星に纏わる物語。

 各地に散らばる星の物語を編纂した本か。

 そして、その中には。

(サルファの星の物語!?)

 ―――『サルファの星の物語に学ぶがいい』

 目を覚ます前に夢に聞いた言葉が蘇る。

 これでは、まるで―――リョウ先輩があの夢を知っていたみたいだ。

 だが、今は気にしている時間はない。

 その物語が記されたページを開き、読み込む。

「―――あれ、これって……」

 その内容に、俺は目を見開いた。

次回予告

 輝きを求め、彼らは武器を取る。誇りの為、友の為、忠義の為、復讐の為、―――取り戻す為。

 次回 繚乱のファンタズマゴリア 第32話 反撃~闇払う想い~

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