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恋いろ  作者: AlphaLD
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いち 淡いはじまり

 教室に夕焼けの光が差し込み、室内を暖かく包む。桜が春を告げて1ヶ月、新学期にも慣れてきたアタシはいつも通り帰りの準備を始める。そんなアタシに1人の男が声をかけてきた。


「お、空成あきな。もう帰るのか?」


 声をかけてきたのは同級生でアタシの親友のひとり、『飛上谷ひがみや 和翔かずと』。イケメンでスタイルもいいけど、彼女ができないとよく嘆いている。それにはしっかりと理由があるのだが……


「職員室に()()届けてから帰るよ。カズも今から帰り?」

「あぁ、今日は部活もねぇしな」


 和翔は野球部に所属している。今日は明日の新入生歓迎会のための体力温存ということで部活が全面的に休みなのだ。


「残念そうね」

「そりゃそーだろ。野球は俺の命!」

「はいはいわかった。じゃあ一緒に帰る?」

「いんや、先輩とこれから新歓に向けて最終ミーティングがあるからまだ帰れねぇ」

「ミーティング?」


 和翔の言葉に首を傾げると、和翔はしっかりを頷きを返してきた。


「明日何をするのかとか、どう教えるのかとかの打ち合わせだな。前々からやってはいるんだが、やっぱ前日にも詰めた方がいいかんな」


 そう言う和翔の顔は楽しそうに笑みが浮かび上がっていた。

 そんな風に喋っていると、教室の扉が開く。


「おいカズ!先輩たちもう集まってんぞ!」


 別のクラスの野球部員が焦った様子で和翔を声をかける。どうやら早く来いというお達しが来たようだ。


「え、マジで!?わりぃ空成、もう行くわ!」

「わかった、気をつけて」


 和翔を見送り、アタシも自分のカバンを手に取る。そして、先程和翔に見せた紙を職員室へと持っていく。

 学校が終わり、それぞれが帰宅を始める。そのせいか廊下は生徒で賑やかで、教室内もそれなりに賑わっている。

 道を塞ぐ人たちの間を縫い、アタシは何とか職員室の前までやってくる。そして戸を開く。


「失礼します」


 そう礼儀正しく言うと、それに気づいた担任が椅子から立ち上がってアタシの前までやってきた。


「来たか空成。それの内容は書けたか?」

「なんとか」

「……そうか。まぁ、焦らずにな。と言っても、提出期限があるから書いてもらうしかないんだが」


 アタシから紙を受け取り、担任がそれに視線を落とす。30秒ほど紙に書かれた文字を見た担任は静かに紙を折り畳み、アタシに顔を向ける。


「よし、ひとまず書けてるし提出完了だな。悪いところもまぁ……無いわけじゃないがこれでいいだろう。もう帰っても大丈夫だぞ」

「わかりました、ありがとうございました」


 担任にそう告げ、アタシは職員室を出る。そして、大きくため息をついた。


「…………か」


 小さくそう言葉を漏らし、その場を離れる。それから帰宅をするために階段へと足を進めようと体の向きを変えた瞬間、前方から何かが迫っているのが目に入った。


(あれは)


 もう何度も見慣れた光景に驚きもせず、アタシは姿勢を低くして両手を開いた。


「───ぇさまー!」


 突撃してくるそれは猛スピードでアタシの前まで迫り、少し離れた位置で地面を蹴ってダイブ。


「よっ───と」


 飛び込んできた子を難なくキャッチし、ふわっと一回転。その子の体は羽毛のように軽く、背もアタシよりもかなり小さい。キュッと抱き寄せると、その子は嬉しそうに頭をアタシの胸にグリグリと押し当ててからパッと可愛い笑顔でアタシを見上げた。


「一緒に帰りましょうお姉様!」

「えぇ、一緒に帰ろう、唯那ゆいな


 そのまま唯那の手を取り、一緒に学校から出る。

 学校の校門から出た瞬間、強い風がアタシたちの髪をたなびかせる。


「わはぁ、綺麗……!」


 アタシの隣で唯那が嬉しそうに声をあげる。目の前に広がる光景、それは夕焼けの日に照らされて煌びやかに輝く一面の海。そう、アタシたちの通う学校───『瀧黎学園りゅうれいがくえん』は海の近くに建てられた世にも珍しい学校なのだ。そのため、校門から出た先には砂浜とそれに続く海がある。


「本当に綺麗ね」

「はい!ねぇねぇお姉様!少しだけ良いですか?」

「まだ涼しいから足元だけね」

「やったー!」


 アタシの言葉を聞いた唯那は嬉しそうに駆け出し、砂浜で靴と靴下を脱いで水の中へ。

 ぴちゃぴちゃと水を跳ねさせながら笑顔いっぱいで唯那がはしゃぐ。それを見ると自然に笑みが溢れ出る。


(楽しそう……)


 そうして海ではしゃぐ唯那を見ていると、ふと目の端に人影が映り込む。


「…………」


 思わず、言葉を失う。綺麗な金髪をたなびかせ、海を眺める美しい女性。背が高く、日本人の顔立ちではないその女性はただ静かに、何をするでもなく海の奥、水平線の先を見ていた。


「お姉様?」


 ひとしきり海を堪能したのか、唯那が戻ってくる。そして、ボーッと女性を見ていたアタシに首を傾げてくる。


「うぅん、なんでもない。それよりも今日の夕飯は───」


 そう言って振り返ろうとした時、目の端に先程の女性が映り込む。何もするでもなく海を見ていた女性が歩みを進めている。その歩みを進める先は海。靴も靴下も、履いたまま。


「ごめん唯那、ここで待ってて」

「え、お姉様!?」


 ただならぬ雰囲気にアタシは放っておけず、カバンと靴、靴下を投げ捨て彼女の元へ走る。女性の足が波打つ海へと踏み入れられる直前、アタシは彼女の手を掴んだ。


「待って!」

「えっ!?───きゃ!」


 アタシに手を掴まれた女性は驚き、振り向いて勢いよく距離を取ろうとする。そんな彼女の足首を容赦なく波が襲い、後ろに倒れそうになる。


「わわっ!?」


 そんな彼女を抱き寄せ、支えようとするが、傾いた体を起こせずに共に倒れる。


「お、お姉様!大丈夫ですか!?」


 バシャーン!と海水が大平に弾け、アタシと女性を飲み込む。そんなアタシたちを心配した唯那が駆け寄ってくる。


「───ぷはっ!」


 波が引き、顔から海水が消えていく。アタシは息をいっぱいに吸い、体を起こす。そして、傍らの女性を見る。


「だ、大丈夫ですか!?」

「けほっ、けほけほっ……え、え?」


 突然の事で理解が追いつかないと首を振る彼女の透けた服に目が吸われる。海水で服が張り付き、くっきりと下着を浮かべる。


「───!」


 アタシは慌てて目線を逸らし、彼女から離れて立ち上がる。


「あ、えと……その。な、何やら嫌な予感がしましたのでつい……」


 そう慌てるアタシの前で彼女も立ち上がる。そして。


「ふふ……」

「え?」


 不意に聞こえる笑い声にアタシは疑問が飛び出す。そして、彼女の方へと視線を向ける。


「あはは、2人ともびしょ濡れ……あはは!」


 女性はお腹を抱えて笑う。この状況が心底可笑しいのだろう。そんな彼女に、つい……見惚れてしまう。


「あ、笑っちゃって……ごめんなさい。私のせいで濡れちゃったのに」

「え、あ、いえそんな……アタシが勘違いしただけですし」

「勘違い?」


 そう首を傾げられる。


「その、靴も履いたまま海に入ろうとしてたので、てっきり……」

「え?……あぁ」


 そこでようやくアタシの勘違いの意味を理解した女性はふふっと笑みを浮かべる。


「確かに靴も脱がずに海に入ろうとしてるなら勘違いされても仕方ありませんよね、すみません」

「いや、そんな───」

「ただ、冷たそうだなと思って……」


 その言葉と、笑顔に、アタシは言葉を詰まらせる。


(……やっぱり、ただ事じゃない)


 そう確信に近いものを感じた。けれど、突然そんなことを聞くのも良くない。アタシは今の考えを振り払い、彼女に手を差し出す。


「アタシのせいで濡れちゃいましたね、良かったらうちで温まって行ってください」

「え?それはどういう……」

「大丈夫、怪しい誘いじゃないですよ」

「そーです!お姉様がそんなことする訳ありません!」


 首を傾げる彼女に唯那も自信満々にそう言う。それに安心したのか───はたまた別の理由か。彼女は頷き、アタシの手を取った。


「……では、お言葉に甘えて」


 そのまま手を握るわけではないが、アタシは笑顔で彼女の言葉に頷いた。


─────────────────────────


 街中を移動する。アタシの暮らす街、『瀧黎街りゅうれいがい』は田舎だが、地域では有名な観光地。だから人足はそれなりに多い。そのせいでびしょ濡れのアタシたちはかなり目立つのだが。

 ついてきてくれている女性にはブレザーを来てもらっている。濡れていて風邪を引いてしまうのもあるし、いろいろ透けてしまっているし。

 吹く春風に寒さを覚えながら歩いていると、不意に後ろから女性が声をかけてくる。


「……あの、お2人は付き合っているんですか?」

「え?」

「いえ、手を繋がれてますし」


 彼女の疑問に振り返る。確かに、アタシと唯那は手を繋いでいる。けれど、そんなことを聞かれたのは初めてで少し驚きが出る。


「わたくしとお姉様は姉妹です!」

「え、()()()なんですか?」

「はい、そうですね」

「わ、すごく仲良しなんですね」


 その言葉にアタシと唯那は顔を見合わせる。それから彼女に向き直り、同時に首を傾げた。


「「そうですか?」」


 動作も言葉も、同時に。それを見た女性はぽかんと少しの間驚きに口を開き、それから笑顔を見せた。


「ふふ、えぇ。ものすごく」


 そう言う彼女にアタシも唯那もやはり疑問を抱いていた。

 学園から徒歩15分、そうしてアタシたちは1つの宿の前で止まる。その外観に特に触れることなく歩みを進めるアタシと唯那に彼女が驚いて声をかけてきた。


「ま、待ってください!」

「ん?どうしたの?」


 突然の事で敬語を忘れて問いかける。そうすると、彼女はまだ驚いた表情で言葉を続ける。


「いやだって、ここお宿ですよね?温泉だけ借りるんですか?」


 その言葉に疑問を抱きそうになったが、彼女がなぜ疑問を抱いているのか気がつき、アタシは口を開いた。


「あぁ、ここはアタシと唯那の家なんですよ」

「え、家?」

「そーです、わたくしとお姉様のお家です!」


 唯那が付け足し、もとい同じ言葉を繰り返す。それにアタシが言葉を付け加える。


「ここは元々ある旅館だったんですけど、今は潰れてしまっているんですよ。それをアタシと唯那が家として利用してるんですよ」

「え───買い取ったんですか!?」


 彼女がさらに驚きを露わにする。正直、この疑問は予想できていた。だから予め用意していた言葉を続ける。


「別の人がこの旅館を買い取ったんですけど、その方とは前々からの知り合いでしたから学園も近いってことで住まわせてもらってるんですよ。もちろん、その方には家賃を支払ってますよ」

「そ、そうなんですね。同じ学生なのにすごい……」

「それよりも早く入りましょう。体を冷やして風邪を引いてしまいますから」


 そうして彼女を潰れた旅館、もといアタシたちの家へと招き入れる。

 家へと足を踏み入れた彼女は内装を興味深そうに見ている。


「わぁ……すごい旅館って感じ……」


 まじまじと周囲を見渡しながらアタシたちの後ろについてくる。

 どんどんと屋内を進み、ある扉の前で止まる。そして、その扉を開く。すると、旅館にしては広々とした更衣室が現れる。


「ここで暖かいお湯に浸かってください」

「え?あ、ありがとうございます」


 少し困惑している彼女と唯那にタオルを渡し、アタシはその場を去る。


────────────…………


 タオルを手渡してお姉様が更衣室を出る。本当はお姉様と一緒に入りたかったけど、来客がいるのなら仕方がない。


「濡れた服を来ていては風邪を引いてしまいますから脱いじゃいましょう」

「あ、はい……」


 そう気の抜けた返事をする女性は更衣室を見渡す。旅館にしてはそこまで大きくない更衣室が気になるみたいだ。


(一般的な家に比べれば大きいですしね)


 横目で女性を見つつそんなことを考え、服を脱ぐ。それに気づいた女性もいそいそと服を脱ぎ出す。


「わ……」

「?」


 服を脱いだ女性を見た瞬間、言葉が漏れてしまう。綺麗でキメ細かい艶のある肌が露出し、更衣室の灯りを受けて輝いている。


「きれー……」

「え?も、もう、そんなに見ないでください」


 そう言って体を隠す女性。その仕草にも見とれてしまうのほどの美しさがある。

 そのまままじまじ見続けるのもどうかということで早速温泉へ。扉を開けると、眼前に二人で入るには広すぎる浴槽がある。浴槽以外もかなり広く、複数人が入っても余裕がある。


「わ、広いですね」


 そう言葉を漏らす彼女がお風呂を見渡す。そして、奥にある2つの扉に目を向けた。


「あの、2つの扉は……?」


 手を添えてそんな疑問を投げ掛けられる。


「あれですか?左の扉がサウナの扉で、右が露天風呂の扉ですよ」

「え、サウナに露天風呂、ですか!?」

「え?はい」


 口を抑えて驚きを露わにする彼女の目には喜色が滲んでいる。


「すごいですね……」


 そう言って歩き出す。そのまま湯船の方へと向かうのかと思われたが、スっとシャワーの方へと向かう。わたくしもその後について行き、隣の椅子に腰掛ける。


「シャンプー……は、これですね」


 文字でしっかりを見分けてから体を入念に洗っていく。横目にその姿を見る。


(……慣れていないのでしょうか?)


 体を洗う動きがどこかぎこちない。誰がどう見ても慣れていないという感じだ。


(……お嬢様、なのでしょうか)


 体を洗うなんて日常過ぎて慣れないなどありえない。であればほかの者に体を洗ってもらっていたのだろうと自然と結果が向く。かなり大人びた用紙をしているから、両親に洗ってもらっているとは考えにくい。メイドや執事、そう結論づけるのが妥当だろう。

 それに、この女性をお嬢様だと思った理由はこれだけでは無い。歩く時や驚いた時、その一挙手一投足が一般人のそれではない。明らかに正されたものに見える。それは素人目からしても明らかだ。

 そんなことを思いながら横を見ると、どうやら体を洗い終えたらしく、どうすればいいかとこちらの顔を伺っていた。ちょうどこちらも洗い終えたところだから、そのまま湯船へと案内しよう。

 温泉へと案内し、わたくしが湯に体を沈めると、それを真似するようにして女性も体を湯船に沈める。そして体の力を小さく抜く。


「はぁ……温かいですね♪」

「そーですね……♪」


 こちらも体の力が抜け、顎近くまで湯船に沈む。

 そうして2人並んで静かに湯船に浸かっていると、不意に女性が声をかけてきた。


「あの、ひとつ良いでしょうか?」

「はい、どーしました?」


 体を湯に預けながら返答をする。


「あの人、あなたの()()()()の事なんですけど……」

「はい」

「なぜ、化粧をされているのでしょう───あ、いえ!その、変だとかそう言いたい訳ではなく!」

「だいじょーぶですよ、わたくしもお姉様も、聞かれ慣れていますから」

「あ、そ、そうなんですね」


 そう言って縮こまる。本当に聞かれ慣れているのに。


「お姉様はかわいいものが好きなんですよ」


 なので、こちらは特になんて事ない返答をする。いつもしている返答を女性にもする。


「かわいいもの?」

「はい、お化粧といえば自分を可愛く魅せるものでしょう?だからお姉様はお化粧をされてるんです。服は身長の問題もあって()()()を着用していますが」

「そうなんですね。お化粧、そういった意味も……」


 小さく言葉を羅列する女性。その様子に先ほどまでの縮こまった感じはない。女性の緊張が解けたことを確認し、改めて湯に体を預けた。


…………────────────

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