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PASTIME!!!  作者: 暮
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第94話_抱っこ

 ここ数日、私は昼間、宿に籠っている。

 夜には飲みに出掛けているから「昼夜逆転で眠い、怠い」と言ってそのように過ごしているが、実際は魔道具関連の本を読んだり、魔法石を作ったりする為に籠っている。みんなにはまだ魔力感知の力が無いようなので、ブランケットの下へと隠してしまえば魔法石を作っていても見つかりません。

 多分もう少し魔力操作に長けてきたら、感知能力も自然と付いてくると思うんだよね。つまり今だけだな、こんなことが出来るのは。別に、本気で隠さなくちゃいけないわけではないんだけど。結局のところ私は全てを打ち明ける気がまるで無い。どれだけそれを、望まれていると知っていても。

 何も知らないみんなは、だらけている私に呆れた目を向けつつ、別々に出掛けていたり、一緒に出掛けていたり。今日は、確かそれぞれ違う行き先を言っていた気がする。今は部屋に私が一人きり。魔力を使い過ぎて疲れたのでウトウトしていた。

「ただいま〜」

 最初に帰ってきたのは、リコットだった。ほぼ眠っていた私は「おかえり」と答えたつもりがまともな声にならなくて、リコットが声を上げて笑う。

「寝てたの? ごめんね起こして」

「ううん、平気」

 欠伸を挟んでから落ち着いて返して、やっとのことで人語になる。リコットは軽く目尻を下げて微笑み、私の傍に寄ってきた。そしてソファに寝そべる私の脇の小さな隙間に膝を乗せると、そのまま倒れ込んでくる。

「わあ、何、リコ」

「抱っこしてー」

「あはは、いいよ、大歓迎」

 私の身体の上でもぞもぞと無遠慮に動いたリコットは、収まりのいい場所を見つけたところで私のデコルテに頬を寄せ、目を閉じた。指通りの良いさらさらの長い髪と一緒に背中を撫でていれば、そのまますぐに彼女は眠り落ちてしまった。可愛いなぁ。疲れていたのかな? 相変わらずリコットのスキンシップは甘い。

 彼女の柔らかくて温かい身体と穏やかな寝息を堪能してぼんやりしていたら、次はナディアが帰ってきた。彼女はリコットのように扉を開くなり元気に「ただいま」を言うような癖は無く、相手を確認してから言うタイプ。だから私達の状態を見つめて、静かに言葉を飲み込んでいた。ついでに私が睨まれた。いやいや私が無理やり求めたわけじゃないからね。

 けれど気持ちよさそうに眠るリコットの寝顔を見たら起こす気にもなれないのか、そっとソファの脇に寄ってきたナディアは、彼女を見つめて少し目を細めただけ。そして囁くような小さな声で「魔法の練習をするから」と言った。結界を張れってことね。私も無言のままで応じ、目を凝らせば少し見えるように縁だけ色を付けた結界を彼女の手に張り付ける。ナディアは会釈するみたいに軽く頭を下げて、傍を離れて行った。

 少し離れたところのテーブルについて、ナディアが魔法の練習を始める。最初の時よりずっと火花がはっきり出るようになってきている。私が見てあげられない間にも、全身で魔力を練る練習がしっかり出来ている証拠だ。真面目で勤勉なところは彼女らしい。次の馬車移動では、火起こしをナディアにお願いしようかな。乾いた藁があれば十分に点火できるだろう。

「ん……」

 不意に、低くリコットが唸った。私の上で容赦なく寝返りを打つのが面白くて声が出そうになる。落ちていかないように両腕で囲いながら様子を見守った。結局リコットは顔の向きを窓側に変えてちょっと上に移動してきた程度でまた落ち着く。だけど、彼女の手がぎゅっと私の服を握った。何かに怯えて縋っているみたいで、思わず彼女の身体を抱き締めた。

「どうしたのリコ、何にも怖くないよ。私が抱いてるからね」

 この世のどんな脅威が襲ってきても、リコットのことを守ってあげられるよ。

 そんな意味を込めて囁く。リコットはちゃんと意識が浮上していたようで、私の言葉に少し笑うと、「うん」と頼りなく答えてまた眠った。

 時々、不安になるのだろうか。まだ組織から解放されて間もないからな。一朝一夕で消えてくれる恐怖でもないだろう。こうして甘えてくるのも、そんな不安が少しリコットの中で表面に出てきた時なのかもしれない。

 そしてふとナディアが部屋に居たことを思い出す。また睨まれていそうだなと思って視線をやれば、ナディアは泣いていた。え。びっくりした。彼女も泣くんだ。じゃねえや。どうしたんだ。ナディアは唇を噛みしめ、眉を寄せて、目に涙を溜めている。瞬きをしたら、一滴、二滴と雫が落ちた。

 分裂が出来たらいいのにな。声を殺して泣き、身体を微かに震わせている彼女を慰めたい。だけど、今の私はリコットを抱いている。腕の中で安心して眠ってくれている子を振り払うわけにはいかないし、ナディアもそんなことは望まないだろう。今はきっと、リコットを優先することが正しい。分かっていても、心が切なくて堪らなかった。

 その後、リコットが起きたのは日暮れ前。ナディアが既に帰っていたことにびっくりしていた。

 そして年少組の帰りが遅くてみんなで心配していたが、二人は完全に暗くなる前には一緒に帰ってきた。広場に大道芸人が来ていて、夢中になって見ていたようだ。いつも二人は無邪気で可愛いな。

 みんなで夕食を取って、順番にお風呂に入った後、それぞれベッドに入るまではいつも通り。私も今日は寝支度をした。「あ、今日は居るんだ」みたいな顔を全員にされてちょっと寂しいんだけど。

 しかしいつもは遊んでいる時間なので、当然、みんなと一緒に寝付けるわけではない。目を閉じて大人しくしていても、眠気は全然やってこなくて、時々目を開けては天井を見つめて、カーテンから漏れ入る夜の明かりを眺めていた。続々と眠り就いていく気配がするのに、私の隣のベッドで眠るナディアだけが、眠れないのか何度も寝返りを打っている。

 私は徐に身体を起こし、外出着へと着替えた。すぐに気配に気付いたナディアがこちらを窺い、彼女の金色の目が暗がりの中できらりと光る。

「……結局、出掛けるの?」

「うん、散歩にね。ナディも来る?」

 こそこそと会話――しているが、私はとっくに消音魔法を掛けていた。彼女が私の問いに沈黙した間にそれも伝えておく。溜息なのか何なのか分からない小さな息を吐いた彼女は、多分頷いたんだと思うけど、ごめん、私は君ほど夜目が利かないんだ。でも着替え始めたから了承なのは分かった。

「飲みに行くわけじゃないの?」

 部屋を出て、階下に下りたところでナディアが静かに問い掛けてくる。散歩、って言ったのが気になったらしい。

「そうだね、今夜は休肝日だから……って伝わるのか? とにかくお酒はお休み」

「良いことだわ。あれだけの量を毎日飲んでいたら、数年で死にそうだから」

「数年で……?」

 それが本当だったら二十歳から飲んでいるので残された時間はあと僅かじゃないか? 振り返ったらナディアの口元が少し笑っていた。あら。揶揄われたみたいです。

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