第93話_職場見学
いい天気だな。
みんなと朝食を取った後、昨日の夜遊びの影響か少し怠かったので午前中は何もせずに部屋でだらだらして、昼食も食堂で済ませて、また部屋に戻った。みんなも私が部屋で過ごしている内にと魔法の練習をしていた。特にナディアは私が居る時しか、火花は出せないから。だけど窓際でぼーっと空を見上げていた私はそんな昼下がりを一時間ほど過ごしたら、もう飽きちゃった。
「うーん、出掛けてくるー」
「ナンパ? それ以外?」
魔法の練習が中断することになってしまうナディアはその点を気にした様子は全く無く、そんなことを問い掛けてくる。
「……それ以外」
「じゃあ今日は私だね」
当たり前のようにラターシャが監視役として出掛ける準備を始めた。このシステム、本当に継続するんだね、と苦笑いを零す。
「信用ないねぇ」
宿を出てラターシャと並んで歩きながらそう零したら、呆れた顔をされた。
「私達はただ心配なの。大体、信用されたいならもっと話して」
「ごもっとも」
そう答えただけで、私は出掛ける目的も何も話すことなく勝手に歩き続けた。多分ラターシャはこの流れで私が話すことを期待した、もしくは求めたことが伝わると思っていたんだと思う。急に不満を込めて右の腕を抓られた。
「ちょっ、ラタ、まだ失言は、してない、痛いって」
むくれた顔は大変可愛らしいが、抓られた右腕は本当に痛いです。
話してほしい、か。難しいなぁ。
私は元より自分のことを説明するのが苦手なんだよね。結果が出れば別に過程を説明しなくていいでしょって思ってしまう。みんなの予定まで振り回してしまう場合には早めに伝えようという反省は前回したものの、自分だけの話となると、やっぱり難しい。正直に言って、億劫なんだ。
「で、何処に行くの?」
「冒険者ギルド。あ、でもその前にちょっとお菓子屋も。ラタ、何か買いたいものある?」
「……お菓子でご機嫌取るつもり?」
「はは、ラタのじゃないけどねー」
ちょっと眉を寄せたままで首を傾けるラターシャだったけど、お菓子屋に入ると結局、興味津々でお菓子を選んでいた。ナディア達にも、お土産が買いたいらしい。いつもみんなのことばっかりで可愛いね、ラターシャは。
そして買い物を済ませて、いざ、ギルド支部へ。
中に入って、前回同様、辺りを見回す。ラターシャはギルド支部自体が初めてとあって、私の袖を掴んだ状態でありつつも『監視』は忘れてきょろきょろと余所見をしていた。可愛い。少し奥に進んだところで、一番大きな受付台の近くにゾラの姿を発見。向こうも私に気付いてくれたから、軽く手を上げた。
「こんにちはアキラさん。ギルドに何か御用?」
あまり日は経っていないとは言え、毎日多くの人を相手にしているにも拘らず私の顔と名前を覚えてくれているんだな。流石は統括さん。
「うん、ちょっとお願いがあるんだけどさ」
「何かしら」
込み入った話と思ったのか、ゾラは私達を促して少し受付台から離れ、人が少ない空間に移動してくれた。
「ギルドには通信用の魔道具があるってガロに聞いてさー。見てみたいんだけど、だめ?」
貴重なものとは聞いたが、どうだろうか。私の用件が意外だったらしく、ゾラは一瞬目を丸めてから、指先を顎に当てて少し首を傾ける。
「うーん、使用中だとちょっと困るわね。機密事項もあるから……少し待って、確認してみるわ」
そう言ってゾラは私達の傍を一度離れた。駄目である可能性もまだ残るが、前向きに検討してくれるみたいだ。待っている間に通信の魔道具ってものについてラターシャに説明しようとしたら「もうナディアに聞いてるよ」と言われた。あ、そっか。監視しているんだからその結果も共有しているよね。うーん、四人の連帯感と同時に感じる、この疎外感!
そんな複雑な気持ちを抱いたところで、ゾラが戻ってきた。
「裏にいらっしゃい、丁度、使っていないみたいだから」
「ありがとう!」
ゾラの案内で、受付の裏から奥の部屋へと入れてもらえた。
見ている間に通信が来たら席を外さなきゃいけなくなる可能性もあるということに、了承する。無理を言っているのはこっちだからね。
「どうぞ、これが通信の魔道具」
「おお、すごく綺麗」
丸い水晶玉が、複雑な模様を刻み込まれた金属と共に台座に固定されている。水晶玉の大きさは直径二十センチくらいで、魔力探知で確認すれば中に術が入っていた。
通信要請があると、水晶が光るらしい。受ける側が触れれば、通信が始まる。軽く実演してくれた。
送られてくるのは音声ではなくて、たった『三文字』だ。つまり、私の知るような『電話機』とは全く違う。一度に三文字までしか表示できないらしい。二秒間ほど浮かび、消えて、次の三文字が浮かぶ。受けている側はひたすらにそれを速記する。
うーん、なるほど。不便な電子メールみたいなものだな。
ガロから布製魔法陣の依頼がある場合は、詳細や魔法陣の絵柄は手紙で届けてくれるって言っていたから、この魔道具で絵が送れないことは予想済みだった。しかしこの魔道具では詳しい状況を伝えるのも大変だ。私の居場所の確認だけ、これを使う形になるだろう。もしかしたら通信を容易にする為、協力者を含めてギルドの名簿には通し番号でも振ってあるかもな。
「ありがとう、すごく面白かった」
「ふふ、そう? まあ一般人からすれば珍しいものよね」
今日の通信係の人も初めて見た時は興奮したらしくって、思い出話を語ってくれた。残念ながら話の途中で通信が入ってしまった為、私達は急ぎ退室する。
「これ、お手間を取らせてしまったお詫びとお礼。本当にありがとうね」
「あら、ご丁寧にどうも」
先程のお菓子屋で買ったお菓子を手渡して、ラターシャと共にギルド支部を出た。
「さてと。うーん、このまま本屋にも行くけど、付いて来る?」
「うん。でも本屋ならみんなも行きたいんじゃないかな」
別にみんなに行動制限を付けているわけじゃないから、行きたいなら一人でも行くとは思うんだけど。まあ一応、宿に立ち寄って声を掛けてみるか。そう思って宿に寄ったら、結局全員が付いてきた。
みんな意外と本が好きらしい。三姉妹も、読みたい本を読むってことがそもそも出来なかったせいかな。
ラターシャは人族が書いた伝記が結構好きで、ルーイは童話や恋愛小説が好き。リコットもルーイと一緒に恋愛小説を読んでるけど、後はファッション関連の本が多いかな。なお、ナディアは恋愛小説が苦手らしい。彼女が好むのは怪奇みたいなホラー系の話ばかりだ。私はそういうのも好きだけど、他三人は苦手らしくてナディアが読んでるだけで怖がっていて面白い。
私はこの世界に来てから情報収集に躍起になっているので小説は後回しにしがち。でも基本は雑食かな。文字なら何でも読むし、読んでいて楽しいと思う。今日の目当ては魔道具だ。何か面白い魔道具の情報があるといいなー。




