第87話_冒険者ギルド
約束通り翌日の昼過ぎに冒険者ギルドへと赴くと、先に到着していたガロは、私を見て目を丸め、それから一秒後には笑っていた。
「今日はまた違うお嬢さんが護衛なのか?」
そう言う彼の視線が、私の隣へちらりと移る。今日の私は、ナディアではなくリコットを連れていた。
「あー、昼と夜で担当が変わるそうです」
「ははは! お前も大変だな。いや、お嬢さん方がかな?」
まあ、そうだね。後者だと思うよ。隣にリコットが居るので心の中で答えた言葉は口に出すことなく、にっこりとガロに笑っておく。
昼食後に宿を出ようとしたら当たり前みたいにリコットが「今回は私」と言って付いて来た。昨夜、ナディア不在の内に三人で話し合っていたのだろうか。いや、ナディアが無反応だったことを思うと、夜にナディアが来る時にはもう決めていたんだろう。私を除いて四人の結束が固くなっていく。私を除いて。まあみんなが仲良しなら良いんだけどね、ただその、共通の敵を持ったみたいな状況なのは少し辛い。
「お昼は私とラターシャの交替制なの。ルーイは十六歳になったらローテーションに加わるよ」
「結構長きにわたって私を監視する予定なんだね?」
少なくとも四年後までは計画があるんだね。その頃になっても私は目を離せないと予想されている証でもあり、且つ、四年後も一緒に居てくれる気持ちがあるって表しでもある。うーん、まあ、いいや。嬉しい気持ちが勝りますよ。
「じゃあ早速こっちへ来てくれ」
ガロの方は今日も一人みたい。そういえばもう忘れていたけど、彼の仲間は私の女の子達に睨まれていたんだったな。どんな感じで睨んだんだろう。優しいガロだから『そんな風に見えた』程度でも気を遣ってくれたのかもしれないけど、『対応せざるを得なかった』くらいの強さで睨んだ可能性もあるんだよな……。
さておき、冒険者ギルド支部のホールは色んな冒険者達で賑わいつつも、依頼者も居るから明らかな一般人も沢山居た。だから私とリコットがのんびり歩いていても目立つことは無く、そのまま奥の方へと入っていく。
「入るぞ」
「はい、どうぞー」
丁寧にガロがノックした扉の奥から、柔らかな女性の声。入り込んだ先には、長いだろう紺色の髪を一纏めにお団子にした、清潔感のある装いの女性が居た。
「ようこそいらっしゃいました。お話は伺っております、どうぞ此方へ」
爽やかに微笑んで彼女が私達三人を招き入れる。応接室のような造りだ。勿論、城のそれと比べるような内装ではないが、綺麗に整えられている。座ると同時に女性が出してくれたお茶にお礼を言った。
「私はレッドオラム支部を統括しておりますゾラと申します」
「統括? すごいね、若いのに」
「いいや。こいつは別に若くないぞ、見た目が二十年以上、変わらんだけだ」
この見た目で二十年のずれがあるとしたら、四十歳くらいってこと……? つまりガロとほとんど同年代ってこと……? 目を丸めてガロと彼女を見比べたら、ゾラは先程よりも更に笑みを深めたが、目から光が消えたような気がした。
「ガロちゃん、余計なことを言うとお仕事しばらく止めるわよ」
「職権乱用には断固反対する」
いや素直にそれは謝りなよ、ガロ。私は苦笑いを浮かべた。仲良いねって突っ込んでいいものか迷っている間に、女性の方はさっさと手元の書類をテーブルに並べ始めた。
「お名前はアキラさんだったかしら?」
「うん、アキラです」
「先程も言ったけれど、凡そガロちゃんから聞いているわ。彼個人の協力者として、冒険者ギルドに登録するのよね」
私とガロの二人が頷くのを見て、改めてゾラは頷いたけれど、少し心配そうな顔で私を見つめる。
「魔法に詳しい人なら、良い就職先なんて幾らでもあるでしょう? ガロちゃんの協力者になっても、そんなに稼げるとは思えないけれど……」
「おい、ゾラ。余計なことを言うな。俺達にとって本当に貴重な相談相手だぞ」
面白すぎて声を上げて笑ってしまった。ゾラさんも可笑しそうに目を細めている。ガロ、これはさっきの仕返しでしょ。一拍置いてから気付いたのか、ガロは少し顔を赤くして眉を顰めた。
「まあ実際、国とか貴族は幾らでも私を欲しがるだろうけどね。縛られるのは嫌いなんだ」
一番の理由は『救世主として働きたくない』から『王様達に見付かりたくない』んだけど、今言ったこともまるきり嘘じゃない。縛られるのは嫌いなんだ。生まれた時から、ずっとね。私の言葉に何処まで納得してくれたのかは分からないけれど、ガロもゾラも、それ以上こちらの事情を追及しようという様子は無い。
「ところで前回提供してもらった布製の魔法陣だが、今後同じようなことがあった場合はどのように依頼すればいい? まずは問題の魔法陣の写しをお前へ渡す必要があるか?」
「うーん、そうなるね。布製魔法陣の図柄は全部同じものになるから事前に準備はしておけるけど、対象が本当に問題を引き起こしているかは確認しないといけないから」
相殺の為には別に、逆の魔法陣を描くわけじゃない。必要なのは対象の魔法陣から魔力を吸い上げること、それから魔法陣の図を破壊するだけだ。相殺機能を持つ図柄を知ってさえいれば、ちょっと優秀な魔術師であれば誰にでも出来るだろう。ただ、壊したい魔法陣以上の大きさで相殺魔法陣を描く必要があるし、何の悪さもしていない魔法陣を無駄に消すこともしてはいけない。その為どっちにしろ、対象の魔法陣を私や有識者が確認する必要はある。とにかく、壊す対象の図柄と大きさが重要だということを伝えたら、ゾラさんもその内容を契約書に書き込んでいく。私に協力を依頼する場合の必須事項としてくれるらしい。
「あとは、報酬金額だな」
「魔法関連で何かあった時に相談に乗るという件は、都度の交渉で良いかしらね」
「それでいいよ、場合によりけりだろうし」
何があるのかを今から予想することは難しい。元の世界の弁護士だってある程度の相談は無料にしてるもんね。比べるべきところかは分からないけれど。
「じゃあ、その魔法陣の方は、どれくらいのお値段で請け負って頂けるかしら」
ゾラさんは少し緊張した面持ちで問い掛けてくる。隣のガロも同様だ。
私は二人の表情をのんびりと眺めてから、軽く首を傾けた。




