第75話_洋服店
翌日。私はみんなを連れて何処に向かっていたかと言うと、洋服店だ。そう、レッドオラムに到着する前に宣言していた通り、みんなに可愛い洋服を着せます!
「やけに意気込んで何処に連れて行くつもりかと思えば……」
何か呆れた様子でナディアが溜息を零しているけど知らん! 大体そんなこと言うナディアだって、私がルーイに新しい洋服を試着させる度、誰より早く見に来るくせにさ。
「ルーイは世界一可愛い十二歳だね。よし、これも買うから取っといて」
「畏まりました」
店員のお姉さんに指示をすると恭しく頷いてくれる。試着室から出たばかりのルーイは照れたり驚いたり戸惑ったりと表情が忙しない。
「アキラちゃんちょっと落ち着いて、確かによく似合ってるんだけど、これもう八着目だよ」
「うん、ラタは次これ着てみて」
「聞いてる?」
私の袖を引いたラターシャを振り返るまでは何か返す言葉を考えていたと思うんだけど、目が合うともう何を言われたかは分からなくなっていた。私の頭の中では今、これを着たラターシャの姿が浮かんでいる。このワンピースは絶対、ラターシャに似合う。そうだ、あのジャケットと合わせてもらおう。そう思いながら振り返ると、狙いのジャケットにリコットが手を掛けたところだった。
「これ合わせる?」
「うん! リコ天才!」
私の言葉に、リコットは笑いながらジャケットを持ってきてくれた。「着てみてね」と二つをラターシャに押し付けた私は、また新しい洋服を物色すべく傍を離れていく。
「もう諦めた方が早いよ、ラターシャ。いつものアキラちゃんの熱量じゃないから抵抗できそうにない」
「さっさと満足してもらうしかないわね」
ナディアまで加わってこそこそ何か言ってる気がするけど、今は忙しいから気にしないよ! こっちのロングスカートはナディアに合いそうだな。さっき向こうで見付けたブラウスと合わせて、それからこっちはリコットに――。
「よし一軒目、大満足! 次行こう!」
二軒目以降があることを宣言する言葉に、既にみんながちょっと疲れた顔を見せているが、抗議の声はもう上がらない。諦めてくれたようだ。
今しがた出てきた一軒目では、それぞれ四着を購入した。ルーイだけ十三着買ったけど、まあ、彼女のサイズまで幅広く取り揃えている店だった為、元よりこの店でのメインは私の中でルーイだったのだ。今から向かう予定の二軒目は、ナディアとリコットとラターシャ向けの大人っぽい店。ああ、でもルーイに似合いそうな小物や髪飾りはあるかもな。
「それで、何軒回るつもり?」
「あと四軒だよ〜。あ、二軒目の後で、ゆっくりお昼休憩しようねー」
一軒目で既に一時間半を使ったからね。着飾り甲斐のある可愛い女の子が四人も居ると、どうしても時間が掛かってしまう。私が心から楽しんでしまっているので、尚更だ。
そうして結局、昼とおやつ時に休憩を挟みつつも、夕方近くまで彼女らを連れ回して、沢山の洋服を購入した。
「みんなお疲れー、次が最後だよー」
「私らより、アキラちゃんが元気過ぎる……」
後ろでリコットが笑いながら何かを言っている。曰く、私は絶えず店内を歩き回って服を持ってきたり店員と忙しなく喋ったりし続けているのに疲れるどころか元気になっていくのが不思議らしい。私からすれば何にも不思議ではない。ラターシャとナディアとリコットとルーイがありとあらゆる可愛い服を着て七変化してくれているのを目の前にしてるんだよ。そんなの目から栄養ドリンクぶっこんでるようなもんでしょ。疲れるはずがなかった。ちなみに、みんなには適度に座ってもらうようにするなど、疲れさせないよう可能な限り気は遣っていますよ。最後まで付き合ってはもらいますけどね。
「ちょっと待ってアキラ」
「うん?」
「此処?」
「そうだよー」
私が堂々と入り口に歩いて行くのを、四人が戸惑いながら付いて来る。まあ、気持ちは分からなくはない。店は明らかに今までのところとは違って、いかにも貴族御用達といった高級感あふれる外観をしている。ついでに入り口に門番も立っているが、既に話を通してあるので顔パスでーす。
門番が軽く会釈して私を通してくれたところでみんなも少し安堵したのか、恐る恐る私に続いて店内へと入ってくる。中から、数名の店員が歩み寄ってきた。
「お待ちしておりました、どうぞ此方へ」
「……ねえ、ちょっと嫌な予感がする」
「私もよ」
後ろでリコットとナディアが小さな声で会話をしている。私はニコニコと笑みを浮かべながら振り返らずにそのまま店員に続いて奥へと進んだ。
入り口正面は大きなホールになっていて、普通の洋服店同様、ずらりと服が並んでいたけれど、私達が連れられて行ったのは更に奥の別室だ。おそらくVIPルームの内の一つだろう。多分この店には他にもそのような部屋が多くあり、私より更にお金を積んで良い部屋を取る客も居ると思う。
「アキラ、この店で何を買うつもり?」
「もう分かってると思うけど、みんなのドレスを買いますよ」
「それって旅に必要ないよね?」
店員が少し離れたタイミングでナディアが早口で投げてきた問いにあっけらかんと言い放つが、全員が一斉に呆れた顔をした。でも私は、即座に続いたラターシャの指摘にも、にっこりと笑みを返す。使う機会は少ないかもしれないけれど、私の心に必要ですのでつまり必須ですね。
「みんなに似合いそうなものをもう選んで頼んであるからね、あとは着てもらうだけなんだ」
「一体いつ――あ、初日の夕飯前にちょっとだけ居なくなってたあれ!?」
リコットが気付いてしまった通りだ。私はこのレッドオラムに到着した初日、つまり昨日、みんなと散策を終えて一度宿に戻ったものの、夕飯までの短い時間、再び一人で外に出ていた。一時間程度だったことと、「飲める場所の事前調査」と言ったのをそのまま信じてくれていたみたい。まあ、それも嘘じゃないんだけどね。メインの用事の方を告げなかっただけで。
「ご用意できました。お着替えはあちらになります」
「みんな綺麗にしてもらってきてね〜」
「……もう、言葉が無いわ」
「はは、諦めよー」
項垂れながらナディアとリコットが店員の案内に従うと、ラターシャとルーイも少し不安そうにしながら従って、着替え用の部屋へと向かって行った。ラターシャには、擬態の魔法で耳は隠してあるから帽子を取っても触られても大丈夫だよって、別れる寸前にこっそり耳打ちしておく。さて。じゃあ私もちょっと別室に移動します。




