第74話_第二回魔法講座(4)
「ん? 今、出たんじゃない?」
彼女を見守る為に近くの椅子に腰掛けようとしたところだった。魔力の気配に顔を上げる。思ったより早く出来たな。火の生成はもっと苦労すると思ったんだけど。しかし私の言葉に、当の本人すらも目を瞬いて、首を傾ける。
「え、そう?」
おそらく部屋が明るくてよく見えないのだ。私も目で見付けたわけじゃなくて魔力感知の延長だったからな。みんなと相談して、一旦、部屋の明かりを全て消した。
「本当だ、出てる! ナディ姉すごい!」
ちりちりと、ごく小さな火花が暗闇に浮かんだ瞬間、リコットが大きな声でそう言う。ルーイとラターシャも感嘆の声を上げた。しかしナディアは。
「……結構、魔力を使っているつもりなのに」
何処か落ち込んだ声を漏らしていた。火花があまりに小さいからだろう。これでは、何かに点火することはとてもじゃないけど出来そうにない。限界まで乾いた藁であっても、火になることなく消えてしまいそうだ。焦げ目も付くか微妙なところかな。線香花火から零れる小さな火花よりも、それは遥かに小さいのだから。
だけど全然、悲観することなんてない。再び明かりをつけてから、私はナディアの肩をそっと撫でた。
「大丈夫、今より小さな消費魔力でも、練習すればもっと大きな火花にできるよ。今はまだ濃度が低いんだ。結果、非効率になってるだけ」
「そういうものなのね」
今の魔力量を、更にぎゅっと小さく凝縮させるようにしてから、指先から弾き出す。それさえ出来れば、火属性のレベル1はマスター出来るだろう。
「思った以上にみんな優秀! 魔術師集団も夢じゃないねえ」
誰よりも調子に乗ったことを私が言うものだから、みんなはちょっと呆れた顔で笑っていた。
その後は、みんながそれぞれ練習しているのを見守る。まあもうみんなはお風呂も済ませた後だから、眠る時間まで一時間くらい。初めてのことだ、すぐに疲れてしまうに違いないので、後は寝るだけってのは大事。
「アキラちゃん、いっぱいになっちゃった」
「お、すごいねルーイ」
三十分程度で、ルーイは上限としていた桶をなみなみにしていた。まだ少し魔力に余裕はありそうだけど、うーん、やっぱり無理はさせたくないな。
「じゃあルーイはここまで。今までみたいに、魔力を身体の中で動かすイメージはどれだけやっても構わないからね」
魔力を練ったり動かしたりするのは、魔力自体を消費しない。勿論、集中力が必要なので精神的な疲れは多少出るだろうけれど。しっかりと頷いたルーイは、濡れた手を丁寧に拭いたら自分のベッドに座って目を閉じていた。眠るまで、魔力を練るつもりのようだ。勤勉で可愛いね。
「……私も、魔力を練る方に一旦集中した方がいいかしら」
「あー、そうだね。ナディは全身で練るってこと自体、今日初めてやったんだもんね」
やや疲れた様子で息を吐くナディアを振り返る。手元だけで魔力を動かす練習しかしてこなかった彼女が、今日になっていきなり二段階分の練習をしているのだ。早々と気持ちが疲れてしまうのは仕方がない。あと、私がちょっと強めにプレッシャーを掛けた心労もあると思う。藪蛇だから言わないけども。
そうしてナディアが同じくベッドに座ったのを見守ってから、私はラターシャとリコットを確認した。リコットの方は、うん、やっぱり練ること自体が得意みたいだから、小さな消費量で生成が出来ていて、疲れの方もあんまり心配ないかな。あとは。
「ラタは、ちょっと急ぎ過ぎかもしれないね」
「え?」
「弓と一緒だよ。焦らないでゆっくり練って、手の中に留めてから、放出してみて」
「あ……なるほど」
いつかは今みたいな速度で風として出すだろうけれど、最初の内は魔力を動かして、練って、具現化する手順を丁寧にした方が良い。似たような指導を弓でも受けたラターシャは、みなまで言わずとも理解してくれて、言われた通り丁寧に練習をし始めた。こうして全員居る状態で教えると、みんなにも聞こえてるから、何度も同じことを言う必要が無くて楽だなぁ。
「えっ、ラターシャすご。全然変わった」
傍で見ていたらしいリコットが驚きの声を上げる。ラターシャがちょっと照れ臭そうに笑った。でも振り返ってリコットの手元を見た彼女は、一瞬前に自分が褒められたことを忘れたみたいに目を丸めていた。
「リコット、砂、すごいことになってるよ」
「そうなんだよね。どうしよう」
置いてあげた紙の上に四センチくらい積もっている。もうちょっと増えたら紙の外まで流れて行きそうだね。私はリコットの手元を覗き込みながら笑い、紙と砂を回収して大皿を出した。
「こっちにしよっか。もう砂の感触を確かめなくてもリコは出せるでしょ?」
「うん、多分。ありがとー。でもその回収した砂、アキラちゃんはどうするの?」
「大事にするね」
「しなくていいよ!」
私達の掛け合いにラターシャとルーイが笑い出してしまい、「集中できない」って抗議が上がる。ナディアからは「そろそろルーイは眠りそうだったのに」と睨まれた。確かにうとうとしてたね。ごめんってば。
でも実際、ルーイの水は風呂場に流してしまえばいいけれどリコットの砂はそうはいかない。革袋の中に詰めて溜め込んでおく。単純に捨ててもいいけれど、野営時の火の始末とか色々使えるから本当に取っておくよ。ちゃんと説明したら、リコットも苦笑いを浮かべながら納得していた。
「あ、そうだ、明日はみんなで出掛けよう。ちょっと付き合ってほしい場所があるんだ」
「だからどうしていつもそう急なのよ」
「言い忘れてた」
歌うようにそう返せば、ナディアが項垂れる。
明日はまだレッドオラムに到着して二日目ということもあって結果的に誰も予定が無かったから了承してくれたけれど、みんなへ自由に過ごしてくれることを望みながらこうして振り回すのは確かに良くない。今度からはちゃんと報告しよう。
「ごめん、次からはもう少し早めに伝えるよ」
真摯に反省して告げたはずだったけれど、誰も私の言葉を信じた様子は無かった。すっかり信頼が無いなぁ!




