第72話_第二回魔法講座(2)
ラターシャも無事に試験は合格。充分な量の魔力が動かせていた。弓も毎日練習しているのに、他の時間でちゃんと魔力操作も練習していたようだ。偉いねぇ。という気持ちを込めていつも通り撫で倒したら、怒られた。
そういうわけで、彼女も第二段階へ。適性は風なので、ルーイと全く同じやり方では無理だ。一先ず彼女を部屋の中央に置いた椅子に座らせて、私もその正面に座る。ルーイは桶と共にちょっと端に寄ってもらい、他のみんなも少し離した。
「まず私とラターシャを囲う形で結界を張るね」
うっかり暴風が部屋を荒らしてしまわないように。そう付け足したら、みんな少しホッとした顔をする。大丈夫、初めてだからね、失敗しても問題が無いようにちゃんと対策しますよ。
さて。風の生成魔法は、さっきも浴びたから何となく感触は思い出せると思うけど、自らが出すというイメージをするにはちょっと遠いんだよね。それに風は目に見えないから水よりイメージは難しい。だから自分で放出したものを『受ける』必要があった。
「両手を前に出して、片方の手の平を、自分で指差すみたいな形を取る」
説明しながら私が手本を見せると、ラターシャが頷いて真似してくれた。私はラターシャを補助するみたいに、指差している手を握って、受ける側の手も支える。
「まず私が風を出すよ、手の平に微かに触れる程度ね」
指の先から手の平に向け、ほんの少しだけ風を送る。ラターシャが頷いた。手の平に風を感じたということだろう。
「やりたいことは分かったかな? じゃあ目を閉じて。私に魔力を送ってくれた感覚で、指先から魔力を放出する。それが、ちょっと離れたところにある手の平に当たる。放出する力を強めたら、当たる感触も強くなる。次第にそれが、指先から出る風に変わる」
ラターシャが眉を寄せてるのが可愛い。難しいみたいだ。魔力はまだそんなに強くないから、ちょっと届きにくいかな。
「もう少し手を指に近付けてみようか」
二十センチくらいあった両手の幅を、数センチまで縮めさせた。今はこれでも充分。
「あ」
「分かりそう?」
「うん、ちょっとだけ、当たる、気がする」
「その『気がする』のが一番大事だよ。魔法はイメージと魔力で作られるからね」
多分。私はそういう認識。と頭の中では続けたけど口には出さない。思い込みって大事だからね!
しばらく沈黙してラターシャに集中させてやると、間違いなくラターシャの指先からは魔力が放出されている。風になる速度がやや遅く、感じにくいだけだろう。
「大丈夫、出来てるよラターシャ。手の平が分かりにくいなら、紙にしよう」
薄くて柔らかい紙を手渡し、それを手の平の代わりに受けるポイントにする。私もラターシャから手を放した。
「やってごらん、大丈夫、本当に出来てるから」
少し緊張した面持ちで頷き、ラターシャが真剣な様子で自分の持つ紙を睨み付けている。可愛い。今笑ったら確実に怒られると思うので表情筋を本気で制御した。
私がそんな下らないことに集中している間に、ラターシャが持つ紙が揺れ始める。パッと顔を上げたラターシャは、忙しなく私と紙を見比べた。その瞬間、私の表情筋は容易く仕事を放棄してしまい、頬が緩む。頷いてやれば彼女もさっきのルーイみたいに嬉しそうに目をきらきらさせていた。あー本当にもう、可愛いなぁ。
「放出する魔力を強めたり弱めたりしてみたら、もっと分かりやすいと思うよ。色んな方法で試して、練習してみてね」
ただし問題は、魔力量なんだよな。ルーイと違って、「ここまで」と言う目安が分かりにくい。なので目安そのものが今は無いと、ラターシャに説明する。
「そのまま練習を続けてみて。私が頻繁にラタの魔力残量を確認して、ここまでだなと思ったら止めるよ。自分で感覚を覚えてみてほしい」
「うん、分かった」
「これはルーイ以外、全員そうなるからね、自己管理よろしく」
ナディアの火も総量が目では確認できない。リコットは土の方であれば確認可能かもしれないが、風はラターシャと同じになるし、どちらも練習するなら限度値はそれぞれ変わってくる。彼女の制限が一番難しいかもしれないな。
「それじゃあ次はリコ。風はラタと同じ要領になるから、後で自分でやってみて。分からなかったらラタとも相談してみるのがいいよ。お互いに共有しながら進めたら、また違う成長があるかも」
勿論、二人で考えても難しいことは私に相談してくれたら良いんだけどね。ラターシャとリコットが目を合わせて頷き合うのが可愛くてまた頬が緩んだ。
「土属性は今すぐ有効な使い道があるイメージはないかもしれないけど、レベル1でも多くの量が出せるようになれば何なりと使い道があるよね。その辺はみんなの方が詳しいのかな」
喋りながら今度はテーブルを部屋の中央に引き寄せる。テーブルの上に紙を一枚敷いて、その前にリコットを座らせた。まずは私が手を差し出して、リコットと握手する。第二段階への試験だ。「魔力送って」という短い言葉で理解して、リコットが送り込んでくる。
「あれ?」
「えっ、駄目?」
「ううん、違うけど……まあいいや。リコも合格だね」
「えー気になるんだけど。何?」
「まあまあ」
適当に誤魔化して、私は座っているリコットの傍に立つ。まだ何か言いたげではあったが、笑顔を張り付けて無視をした。
「リコにやってほしいのはね、簡単。こうして、こう。ほら出来た」
「ねえ、雑」
苦笑いを浮かべて言うリコットの端的な指摘に私も笑った。でも本当に、やることが単純だからさぁ。今やってみせたのは、手を紙の上に置いて、次に上げたらそこに少量の砂が残っている状態だ。勿論その砂を、私が土の生成魔法で出した。
「ちょっと手が汚れるけど、私が出した砂を手の平で触ってみて」
ざらざらする〜と言ってリコットはそれを紙の上に擦り付けるようにしている。正しい正しい。そうして砂の感触を覚えさせた後、一旦濡れたタオルで手を綺麗にして、新しい紙と交換する。その上はまだ何も乗っていない、つるっとした紙だ。
「さっきみたいに手を乗せて、魔力を集中。手の表面に溜めた魔力が、さっきみたいなざらざらの砂になるイメージだよ。頑張れ!」
「やっぱり私だけ雑だよアキラちゃん〜」
「ふふ。でもリコは多分もう分かってるよ。出来るでしょ?」
私の言葉に彼女は少しだけ片眉を上げた。この子は前二人の指示を見ていて、どうやらもうほとんど『生成』のイメージが完成している。私に送り込まれてきた魔力が、実体化寸前まで既に練られていたのだ。多分、何かを教えてあげる必要も、呼び水も要らない。
「ほらね」
「何か癪だなぁ……」
案の定、数秒でリコットの手元には砂が出ていた。折角、自分の手で生成魔法が出来たって言うのに、前二人との態度の差が気になって喜び損ねてしまっている。それはちょっと可哀想なことをしたな。




