第46話_魔法講座
ラターシャも含めて全員の適性検査を実施しました。面白いことに、全員が属性魔法の適性を一つ以上持っていた。
「ナディアが火、ルーイが水、リコットが風と土、ラターシャが風だね」
流石に『特殊魔法』や、氷と雷の適性者は居ないか。
でも綺麗に分かれてるから、みんな一緒に居れば私が居なくてもそれなりに便利な生活送れそう……いや私を省いて生きていかないでほしいけど。
「どれくらいのレベルまで覚えるかは別だろうけどね」
「でも、あるってことは最低でもレベル1は使えるってことじゃない? それだけで生活が全然違うよ!」
少し興奮気味に言うリコットの頬が上気していて可愛い。この子もナディアとは少し違う形で落ち着いた子だったけど、こうして年相応に騒ぐこともあるんだなぁ。よしよし撫でよう。って撫でたら、何かナディアに睨まれたんだけど。どうしてよ。
それにしても、此処に居る全員が適性ありとなると、やはり適性自体はそんなに稀なものではなくて、自然に覚えられない上に学ぶ機会が得られないせいで、使える者が稀なんだろう。きちんとした教育機関を設ければもっと使える人が増えそう。でもそうなると三姉妹が居た組織みたいに、覚える前に魔力を封じようって輩が増えることも考えられるなぁ。難しいねぇ。
っていうか魔法を使えるものがそこまで稀なんだったら、三姉妹の魔力を封じていたあの焼印、大半の意味は結局、反抗の意志を削ぐ為だったんだな。そりゃ、外働きまでしていることを思えば収納空間を持たせるのも、へそくりしそうって懸念は浮かぶだろうが、対抗する力なんか得るわけがないんだよ。思い出してまた腹が立ってきた。
「レベル1の各属性魔法ってどれくらい? 火はさっき聞いたけど」
「どれも『生成』がレベル1ね。攻撃と言えるほどの威力は持たないわ。だからかは分からないけれど、火の生成が一番小さくて、火花程度」
なるほど、確かに火の生成は無制限に出来たらそれだけで人を焼けるね。だからパチッと点火がレベル1か。私がやってるみたいにブロックハムを焼くくらいの火になるとレベル2らしい。
「点火ねぇ……」
指先で火花をパチパチと出してみる。これくらいか? 結局は魔力操作とイメージの強さだよな。異世界から来た私と同じ感覚でみんなが使えるのかは、よく分からないけれど。
「まあ試しにちょっと教えてみる?」
私がそう言うと、みんなちょっと目が期待の色になっている。そりゃそうだよね。私が巻藁を組み立てているだけで興味津々に見つめちゃうくらい稀な『魔法』を、自分が使えるようになるかもしれないんだから。
「じゃ、ナディアから」
「どうしていつも私からなの」
「年長さんだから?」
全く理由になっていないと言わんばかりの目で見られているが、『お姉ちゃん』をしている彼女はいつも、『不安があること』は最初、『嬉しいだけのこと』は最後に回るようにしているって、ちゃんと気付いてるよ。私としてはそれに合わせているつもり。
「両手を貸して。目を閉じて。私が少し魔力を送るから、それを感じてみよう」
「……少し、くすぐったい」
「ふふ、それが魔力の流れる感覚だよ。今度はナディアから送り返して。そのくすぐったい感じを、押し返すみたいに。手をちょっと握り返してもいいよ」
緩くナディアが握り返すのに合わせて、私は魔力を引いた。誘導するように静かに動かせば、ナディアから彼女の微かな魔力が送り込まれてくる。
「良いね、少し自分で動かせてるよ。今は此処までかな」
私が手を離すと、ナディアは目を開けて、自分の両手を少し不思議そうに眺めていた。
「今みたいに魔力を動かすイメージを繰り返して、制御できるようになってきたら、次に進めるかも」
同じ要領で残り三人にも魔力操作の初級編をやってみた。みんな少しは自分で動かせるみたいだ。生活魔法の収納空間なら使っているから、無意識下でも操ってはいるんだろう。
「体感的に、返してくる魔力が一番強かったのはルーイだね。レベル1くらいはすぐに出来るようになるかも」
私の言葉にルーイがぱっと表情を明るくさせた。これは本当。というか、タグを見る限りルーイの魔力量は子供ながらに他三人とあんまり変わらない。もしかしたら本当に、魔術師って呼べるくらい魔法が使えるようになるんじゃないだろうか。
みんながきゃっきゃと楽しそうに魔力の感覚を話し合っている傍らで、私の後ろにはまだ仕事が残っていることを思い出した。いつまでも逃避しても仕方が無いな。
「私は巻藁の続きするかぁ……」
巻藁自体は出来てるんだけどさ、これを置く場所が無かったら稽古に使えない。今度は台を作ります。これも細かい作業だぁ……。
そうして椅子を元の向きに戻して座ったところで、ハッとして四人を振り返る。
「もし魔法を誤って発動して怪我したら、すぐに言いに来てよー。特にナディアは危ないから、軽い火傷でもちゃんと言うこと」
私の言葉に何故かみんながきょとんとして、それからちょっと可笑しそうに眉を下げた。何よ。過保護ってか? いやいや自分が教えたせいでそんなことになったら寝覚めも悪いし、女の子の身体に傷なんか残したら大変でしょうよ。いつまでも笑ってるばかりの皆に「返事!」と促せば、「はいはい」とか「はぁい」ってちょっと呆れ気味の応答が返った。何よ!?




