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10話 俺は俺だ。


10話 俺は誰だ。


…。

…。

んっ…。


はっ、ここはどこだ?

俺はどうなった?


体が動かない。


ここは…?


…。


「…そうか、もう終わりなのか…。」


俺はぼやけた天井を見てつぶやいた。


「アイ」…「情報」…なんだったんだ。


…。


諦めもついた、体も動かない。

俺も、復元されるんだろうな…。


何もわからなかった…。

この世界も、俺も…。

帰れない…。


…。

もういいんだ。

眠ろう、ゆっくりしたい…。


俺は瞼を閉じた。


その直後慌ただしい足音がした。


…。


「眠っちゃダメだ、起きろ!」

「血圧、下がっています!」


…。

…。


「血圧、戻ってきました!」

「呼吸も安定しています!」



何が起きてる?

俺は目を開けた。

まだ視界はぼやけていたが、

俺の周りに数名いるようだ。


「起きて、目を開けてください!」

「声が聞こえますか?」


少し静かにしてくれ…。


「良かった…、よく戻ってきましたね。」


…。

…。

…戻ってきた!?



…おい、どうなっている?

俺はあの世界から戻れたのか?

おい、誰か答えてくれ!

おいっ!


俺は、俺なのか?

俺でいいんだよな!

おい、誰か教えてくれ!


「ゲホっ…。」


実際には急に叫ぼうとしたせいか

咳き込んでうまく話せなかった。


ようやく視界がはっきりした。

俺の周りにいたのは医師や看護師だった。


医師、看護師、知っている。

しかし…俺の知らない他人だ。

だが、その存在は俺を安心させた。


…。


数日が経ち、事故にあったこと、手術、現状を

医師から伝えられた。



相手は酒を飲んでいたらしい。

その場で逮捕されたそうだ。


…クソ野郎。

生きている俺に感謝しろ。


医師は続ける。


「損傷したのは、首の脊髄です」

「手足だけではありません。呼吸を続けるための命令も、脳から身体へ届かなくなっていました」


肺そのものは無傷だった。

だが、横隔膜などの呼吸筋に、脳からの命令が届かなかったらしい。


人工呼吸器によって、一時的に呼吸は維持できた。

しかし血圧は安定せず、損傷した脊髄の腫れも進んでいた。


「生命維持装置だけでは、長く持たない状態でした」

「それに、救命手術で頸椎を固定してしまえば、後から脊髄側へ電極を置くことは、さらに危険になります」


そこで、救命手術と同時に行われたのが――

「AIを使ったデジタルブリッジです」


脳が発する信号をAIが読み取り、

損傷した部分を迂回して、脊髄へ電気刺激を送る。


「あの時は、あなたの身体を動かすために入れたのではありません」


医師は少し間を置いた。


「まず、あなたを生かすために必要だったんです」


俺には身内がいなかった。

意識の回復を待つ時間もなかった。


この病院では、デジタルブリッジが緊急救命の術式として認められていた。


最終的に手術を決めたのは、一人の医師ではない。

救命チームと病院だった。


医師は、俺にまだ意識があるか確かめるため、何度も呼びかけたそうだ。


「声が聞こえますか」

「あなたの名前を言えますか」


だが、俺からの返答はなかった。



…。

…。



体は動かせないが生きている。

感謝の言葉しか出ない。


…。


今後は少しずつリハビリを始めるらしい。


先ずはマッサージや、関節を動かす訓練から始める。

身体に刺激を与え、脳にもう一度、身体を認識させるようだ。


その後、少しずつ自分の意思で動かす訓練へ進むらしい。


その後少しずつ動かす訓練のようだ。


…。


考える時間はたくさんあった。

今の現状、そして今後、…生活。


…そしてあの世界のこと。


あれは、昔映画で見たような走馬灯でも、死後の世界でもなかった。


…。

数ヶ月が経った。今日も同じ訓練をする。


右手を握る。

ただ、それだけだ。

俺は目を閉じた。


【アイ】

【なんですか?】


その声に、少し笑った。


【右手を握る】


…。


指先が、わずかに動いた。


医師が声を上げる。

「動いた!」


…違う。


動いたんじゃない。

俺が、動かした。


一人では体を動かせない、俺。


「アイ、ありがとう」







終わり

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


最後までご覧いただきありがとうございます。


noteにも同作を挿絵付、制作日記も投稿しております。

こちらも楽しんでいただけると嬉しいです。

note: https://note.com/tomi3515

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