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ダブルスタンダード  作者: 平瀬川神木
第十二章 それでも家族になるために

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第四十五話

「ああ。先日のミッチのインタビューから、俺たちはアルファプロテオ種族を、UUUの指示に従って、窒素を運ぶ運び屋だと認識してきただろ?」

「ええ、先日のインタビューの時も、忙しいから移動しながらということでお話を聞きましたもんね」

「そうだ。ところがUUUがいうには、本来アルファプロテオ種族というのは、UUUにエネルギーを供給するのが仕事らしいんだ。UUUが動くと、その動きに吸い寄せられるように栄養素を運んでくる。UUUは彼らをヘルパーと呼んでいるらしい。その中でまあ、風変わりな奴がこないだインタビューをした相手らしくてな、彼はUUUのための栄養を運んでくるのではなく、UUUの代わりに窒素を運んで手伝っている特殊な個体だと」

「個性ですね。なるほど」

「本来はUUU自身が、情報を集めて必要な場所に必要な栄養を運んでいるらしい」

「なるほど、報告ありがとうございます」


「シュリアン、ミティです。ちょっといいですか?」

「インタビューは順調かい?」

「ええ。いまのパブダさんの報告ですが、こちらのインタビューではこの星のキー種族はアルファプロテオではないかという流れになっています。アルファプロテオは浮遊酸素を使って、エネルギーを効率よく使える能力を持っているのが特徴といえる種族であるということですが。UUUのヘルパーであるという話は出ませんでした。これについて確認を取ります」

「そうだね、ミティ。確認をお願いします」

「……シュリアン、ミティです。イスペップさんにパブダさんの報告をそのままぶつけてみました。 アルファプロテオが地下のUUUにエネルギーを運ぶヘルパーであるというのは本当なのかと。そうしたら、彼は愉快そうに『当然だろう』と言いました。地上の動物や植物も、地下のUUUも、同じLUCAから分かたれた同胞たちなんだと。UUUは地下に広大なネットワークを張り巡らせているが、彼ら自身は光を浴びることも、浮遊酸素を効率よく燃やすこともできない。だから、アルファプロテオがヘルパーとして、その強力な浮遊酸素を使ったエンジンで、地下のUUUにエネルギーを供給し続けている。我々トリックがキネティックの中にかくまってもらったように、地下のUUUもまた、アルファプロテオのサポートなしには一歩も動けない。地上も、地下も……この星のすべての命綱を握っているのは、やはりアルファプロテオなんだと言っています」

「やっぱりこの星のカギになっているのは、アルファプロテオ種族になるようだね」

「そうですね、シュリアン。すべてがつながりました。UUU自身が情報を集め、アルファプロテオがそれを動かす膨大なエネルギーを提供する。この地上と地下の二重のインフラこそが、第三惑星の生命ネットワークの正体です。私たちのコンタクトすべきキー種族は、やはりアルファプロテオといえるのではないでしょうか?」

「そうだね。この調査が終わったら、ミルコメダ会議に提案してみよう。この星の生命体構造はあまりにも複雑だ。それはこれまでの銀河マージで、いろいろなことが起こって、この星に複数の生命体が共存せざるを得ないところから始まっているんだね。シンプルではないけれど、それでも僕たちのこれまでの調査の結果として――」

「シュリアン!」

 シュリアンの言葉を大きな声で遮ったのは、超巨大Mパックの運転手、ボアだった。

「また相当なエネルギーで何かしらの贈り物が入箱された。十一次元収納ストレージの中に、またしても大きな棒状の何かだ」


 インストがチラッとシュリアンを見る。

「シュリアン。これは贈り物なの? それともKOUGEKIなの?」

「わからないよ。ボアさん、どんなものが入箱されたのか成分を教えてください」

「ええと、高純度のプルトニウム239と濃縮ウラン235、重水素と分析不能な、何だろう? 重水素の亜種と表記されているが……これがメインの素材だ。やはり今回も相当なエネルギーといえるな」

「やっぱり贈り物なんじゃないかな……」

「シュリアン、D班のラコヨチです。今日は私たちもUUUの周辺でインタビューを続けていますが、アルファプロテオ種族からもうアンドロメダに引き返すべきだという提案がなされました」

「え? どういうことだい? ラコヨチさん」

「これは……人間、我々が二本脚の不安定な動物と呼んでいる存在が、我々に対してKOUGEKIを仕掛けてきていると。このままだと、前回の炭疽菌の騒ぎが起こったときのように、この周辺に騒動が起こると言っています。引き上げてほしい、彼はそう言っています」

「ええ……どういうことなんだろう」


 銀河調整員のウハメのホログラムが静かにつぶやいた。

「シュリアン。調査といえども、それがきっかけでこの星が不安定になることを我々は望んでいない。どうだろうか? 一度ここで調査を打ち切り、これからはアルファプロテオ種族とのマージに向けた相談を継続していく方向で考えてみては。宇宙は広い。この不運な銀河もいろいろなことが起こった銀河だ。生命体の構造も複雑だ。つまり複雑な思考がそこには存在する。まずはこれからの相談相手が見つかったということで、今回は十分なのではないか?」

「そうですね、ウハメさん。わかりました。全プロキシフォレジャー操縦士へ。緊急ではありますが、これにて調査を終了いたします。至急収納ストレージにお集まりください。五分後に、第三惑星を出発する予定で行動をお願いします」


 シュリアンは、カンファレンスを後回しにして一度解散をした。珍しく少し疲れたのと同時に、これから家族になる生命体に対して、不信感の種を持っていた。

 自宅に戻ったシュリアンは、スピンアライメントの磁場シャワーを浴びて、気持ちを切り替えようとしていた。

 帰りがけにスワエの店に寄って、インダストリーバーガーを買ってきていた。


 テーブルに乗せたインダストリーバーガーを見つめながら、おもむろに通信端末を手にした。浮かび上がったのはノナックのホログラム。

「どうした? シュリアン」

「……うん。少し気持ちが沈んでいるんだ。僕たちには理解できないKOUGEKIという、相手を……なんだろう、相手から何かを奪うために相手の行動を抑止するようなおこないを、僕たちは調査対象の星の生命体から受けたんだ。僕たちはこんな思考を持った生命体と、家族としてやっていけるのだろうか? そんな風に考えてしまう」

「それは今回の調査対象の星の、主たる知的生命体がおこなったことなのか?」

「とても複雑な生命体構造を持った星でね、キー種族とは言えないけれど、とても……面白い二本脚の不安定な生命体がいるんだけれど……その生命体は、その星の気体を振動させて意思の伝達をおこなうらしいから、僕たちとは直接的に意思伝達ができないんだ。どうやらその種族が僕たちに対して、奪うためのKOUGEKIという行動をしてきているようなんだ」

「奪うための行動に間違いはないのか?」

「確定ではないけれど、そういう思考だと他の種族、僕たちがキー種族ではないかと考えている種族から聞いている」

「では、まずは確定ではないことを認識するべきだ。彼らの行動の理由が、奪うことであるということについてはな。そして彼らは気体の振動という、とても効率の悪い意思伝達の術しか持っていない種族であるということも重要だ。シュリアン、ミーム銀河とロコ銀河がマージするときの事件を覚えているか?」

「もちろん覚えているよ。知的生命体同士が激しい議論の末に物別れに終わった不幸な事件だったね。たくさんの生命体種族が滅亡した」

「あの原因は何だと思う?」

「歴史としては、相反する環境の銀河マージだったから、当たり前の相違で起こったこととなっているよね」

「私はね、シュリアン。恐怖だと思っているんだ」

「え? わからないが故に不安定な気持ちになることだよね? 恐怖って。宇宙の知的生命体にはめったに起こらない感情だ」

「そうだ。ミーム銀河とロコ銀河の科学技術の限界が理由となって、相反する銀河環境のマージ後に何が起こるのか読めなかった。見えなかった。だから湧き出た不安な気持ちをお互いがぶつけ合って物別れに終わった。結果あの大惨事だ。今回も同じことが起こっているのではないか? その二本脚の不安定な生命体が、とても弱い存在だとする。これから起こる銀河マージに対応できなくて、自分たちの種族は滅亡するのかもしれないと思っていたら。しかも意思伝達の効率が低いが故に、理解しあうことの能力が低いともいえる。ますますわからないは増強される。そんな彼らがとても強い恐怖を抱えたときに、現状変更を認めたくない一心で行動に出るだろう。今回のそれは、おそらく奪うのではなく、防衛的な行動なのではないか? そんな風に思うんだ」

「ノナックがそんな風に、感情を考えるとは思わなかったよ」

「それはお前の思い込みだよ、シュリアン。生命体は感情を持っている。だから理論で感情を押さえつけている。技術力の高さや科学力の高さではない。それが知的生命体だと私は思っているんだ。もし自分の感情を押さえつけるだけの理論を持ち合わせていなかったとしたら、その恐怖はどんどん大きくなって、行動が破綻するのではないだろうか? だからこその話し合いだろ? 時間は四十億年と少ししかない。だが、これからも対話を続けていって、他の種族からその不安定な二本脚の生命体にアプローチをしてもらって、理論を授けてもらえばいい。まだ間に合うはずだと、私は信じているよ」

「僕にできるのだろうか……」

「シュリアン。宇宙は広い。私たちは『平等であること』『協力し合うこと』『奪わないこと』というアンドロメダ憲章を信じている。だがそれも私たちの思い込みなのかもしれない。さらに変わらなければならないのは私たちなのかもしれない。知り、動き、振り返って考える。そして自分を疑ってまた知ることから始める。それはお前が最も得意なことだろ?」


 シュリアンは天井を見上げた。

「ありがとう、ノナック。僕の派生体。この銀河の代表に選ばれたときに、僕は恐怖を感じたことを、いま思い出したんだ。あのときに背中を押してくれたのはノナックだった。頑張ってみるよ。アンドロメダのたくさんの生命体の代表として。諦めずにね」

 同意を示しながらノナックは言った。

「笑顔でな。お前の突破力は笑顔と頼ることなのだから」

 アンドロメダの静かな時間が流れていく夜だった。


**


 数日後、シュリアンはアンドロメダ銀河の全種族を前に、議場の中央にいた。そして彼は笑顔で言った。

「皆さん。どうか力を貸してください。僕たちの新しい家族を迎えるための知恵を。どうか僕に貸してください」

 銀河の星のように無数に浮かぶホログラムは大きく揺れて、次々に同意のボタンが押されていった。


 了


最後までお付き合いいただきまして、心から感謝を申し上げます。

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