第一話
「皆様には事前にお伝えしております通り、隣の銀河との合流までの時間が、四十億年を切ってまいりました」
シュリアンがそう告げると、会議場を埋める数万のホログラムが、一斉に揺らぎを見せる。それぞれの意識がこの場所に向けられた証しだ。シュリアンは続ける。
「本来であれば五十億年を切った段階で、事務局が接触をおこなうわけでございますが、前回のメリースリーツー銀河の合流から二十億年しか経過していない事実と同時に、メリースリーツー銀河の一部の種族たちは分裂し、少し離れたところに新メリースリーツー銀河を設立するという事態もございまして。そちらの対応に手いっぱいとなり、隣の銀河との合流準備の着手が遅くなっていることをお詫び申し上げます」
「事務局事務員にお任せしてしまっている私ども全員の責任でしょう。ですがこの二十億年でメリースリーツー銀河とのマージ環境災害も落ち着きを取り戻しているし、彼らの新たな居住星系での暮らしも安定してきている」
「その節は皆様には、我々の受け入れに際しましてって、多大なご尽力を頂戴いたしましって、誠に感謝しておりまっす。我々メリースリーツー銀河の一部の種族が、独立などという更なるご迷惑をおかけしたっことにつきましても、謝罪いたしまっす」
「我は知っています。ええ。銀河同士の交わりにおいては、星衝突はほとんど起こりませんが、ガス雲の衝突による暴発的な星形成や、強力な重力干渉による星系の軌道逸脱など、甚大な物理的変化が避けられません。ええ。ですが、アンドロメダの演算能力をもってすれば、どの星が砕け、どの空間が歪むかなど、すべての物理現象は完全に予測可能です。ええ。我々の歴史は、そうした宇宙の理を前に、互いを尊重し、傷つけることなく避難・移住を繰り返してきた歴史でもあります」
議場を埋めるホログラムの参加者たちが静かに同意のスイッチを押す。
「メリースリーツー銀河の種族が抱いていた、螺旋銀河への強い誇り。我々銀河全員はそれを尊重し、一部の種族が望む分離と独立も支援することで、互いの存在を損なうことなく共存を成し遂げました。アンドロメダ銀河オムニノードの事務局事務員といたしまして、隣の銀河に対しても、同じアプローチで進めてまいりたいと考えます」
「そのとおりですございます。四十億年後、彼らのそれぞれの星系がどのようなマージ環境災害に巻き込まれるのか。我々がそれを計算し、彼らを安全な宙域へと案内するためには、今から対話を始め、信頼関係を築いておく必要がありますですございます。古代ジャミ星語で、安定、情報、基盤を指す、アン、ドロ、メダ。そして重なる、領域を指す、ミル、コ。非常に大きな隣の銀河とのマージは、アンドロメダにとっても大きな出来事になるのですございます。ですから我々は、このマージを重なる領域基盤として、ミルコメダと呼んでいるのですございます」
「では、第一回目のミルコメダ準備行動として、隣の銀河の知的生命体探査から着手します。皆様もご存知の通り、我々宇宙の技術は質量やエネルギーが存在しない虚空域については、物体の移送距離をゼロにすることが可能です。ですが、電磁波などの『情報』そのものは、エネルギーをゼロにすることはできません。結果として宙域制約を受けることになり、隣の銀河が発する情報をライブで手に入れることはできません。超高性能な望遠鏡を用いたところで、我々に見えるのは二百五十万年前の隣の銀河の姿に過ぎないのです」
「我は知っています。ええ。現在の確かな情報を得るためには、現地へ赴き『現在の情報』を摂取する目と耳が必要です。我は知っています。ええ。隣の銀河は隣にあるのに、なぜか我々は相手のことを何も知らないでいる事実を」
「おっしゃるとおりです。そこで隣の銀河を八つのセクターに分割し、それぞれの中央座標へ、輸送箱『Mパック』を送ります。内部には我々の目や耳として、環境探査用遠隔ロボット『プロキシフォレジャー』を百機ずつ収め、隣の銀河の知的生命体存在反応を探るところから始めたいと考えますが、いかがでしょうか?」
全参加者が速やかに賛同を示すスイッチを押した。こうして、善意に満ちた彼らの最初のコンタクト行動は、静かに承認された。
「それではこれにて、アンドロメダ銀河オムニノード、第一回隣の銀河ミルコメダ準備会議を閉幕いたします。皆様ご苦労様でございました」
アンドロメダ銀河の第一核、首都星ジャミ。無機質な光に満たされた広大な会議空間から、何万という参加者のホログラムが、ノイズの粒子となって次々に溶け落ちていく。
議場に実体を残していたのは、オムニノード事務局の事務員シュリアン。張りつめていた緊張をほどく。長時間の会議が残した疲労を、静かに受け止めていた。




