第14話 木簡〔木口の現場日誌〕
六月二十二日、最初の木簡が出土した。SK-07の中央付近、深度四・三メートル。長さ十八センチ、幅四センチの、長方形の薄い木片。表面に墨書らしき痕跡があった。
その日、廣澤が現場に来た。二度目の来訪だった。最初は六月七日の発掘開始時。それから今日まで、廣澤は調査室の方にいて、現場には来ていない。
六月二十二日の午後、廣澤は現場の縁に立っていた。いつ来たのか、現場の誰も気づいていなかった。気がついたら、現場の北側の縁に立っていた——それだけが観察された事実だった。木簡が出土した、という連絡を現場から廣澤に入れた覚えは誰にもなかった。
廣澤は木簡の出土現場まで歩いた。歩いてきた廣澤を、木口が現場で迎える。「木簡が出ました」と木口は言った。「拝見します」と廣澤は言った。
声が、低かったか、静かだったか、木口には判別できなかった。判別する余裕が、その瞬間にはなかった。廣澤は木簡をピンセットで取り上げた。動かし方が出土遺物の取り扱いに長く関わってきた人のものだった。十分か十五分、木簡を見続けた。
「これは解読を急ぐ必要があります」と廣澤は言った。「外部の解読担当者に依頼する予定です」と木口は答えた。
「お願いします。私の方からも、報告を受けることになるかと思います」
「校閲の権限の範囲で、ですか」
「校閲の権限の範囲で」廣澤は木簡を、現場の整理担当に渡した。その日のうちに、木簡は外部解読担当者のもとに発送された。翌日、解読担当者から最初の暫定報告が来た。「字が、複数の時代のものが混在しているように見えます」。
短い報告だった。それ以上の所見は書かれていなかった。現場日誌に、木口は書いた。「木簡解読、暫定報告。字体が複数の時代混在。継続解読中」。
木簡は、その後、追加で三枚、出土した。計四枚。すべてSK-07の深度三・八メートルから七・二メートルの範囲で出土した。出土の層位的順序と木簡の年代推定が必ずしも整合しなかった。深い層から出た木簡が、浅い層の木簡より、字体的には新しく見える——という事例が解読担当者から報告された。
「地層の年代と木簡の字体年代が層位的に整合しません」。木口はその報告を、現場日誌に書いた。書きながら、奇妙な感覚を持った。地層の上下と字体の新旧が噛み合わない。
地層の下の方が、字体的には新しい。つまり、新しい方が下に。古い方が上に。
逆だった。




