第12話 磁気偏向〔木口の現場日誌〕
六月十六日、現場の方位測定で磁気偏向が確認された。測量班が現場区画の四隅で磁針コンパスの方位を確認した。通常、現場では基準点の方位を一度確認すれば十分だ。しかし、この現場では、最初の確認時に北の方位が三・五度ずれていることが報告された。
千葉県北東部の磁気偏角は現時点で西偏約七度。基準値からの誤差は通常〇・五度以内。三・五度の偏差は明らかに異常だった。測量班は現場区画の四隅で再測定を行った。
北西の隅:偏差三・五度。 北東の隅:偏差三・二度。 南西の隅:偏差〇・八度。 南東の隅:偏差〇・五度。
北側ほど偏差が大きい。南側はほぼ通常値。測量班長は現場区画内に磁性体の埋蔵があると推定した。鉄製の遺物、あるいは磁鉄鉱を含む地層——いずれにせよ、現場区画の北側に何らかの磁性源がある可能性が高い、と報告した。
しかし、北側区画はまだ掘削の初期段階で、表土層を除去した程度だった。磁性体の埋蔵を示唆する遺物は確認されていなかった。その後、現場区画を東西に細分割して、磁気偏向の境界線を測定した。境界線は現場区画の中央付近を東西に走っていた。
境界線の北側では、磁気偏差が大きい。 境界線の南側では、ほぼ通常値。境界線そのものは、地表に何も標識のない、ただの位置だった。地表面から見ても、何の異常もない。土の色も、植生も、北側と南側で違いはなかった。
しかし、磁針コンパスを境界線の上に置くと針が振動した。左右に細かく揺れて、安定しない。境界線の北側に動かすと針が落ち着く。三・五度の偏差を示して、止まる。
境界線の南側に動かすと針が落ち着く。通常値で、止まる。境界線の上だけ、針が振動する。その振動は十数秒続いた。針を動かしてから、安定するまでに十秒以上かかった。境界線の幅は数センチ程度だった。数センチの範囲を磁針が通過する間、針は振動した。
測量班長はその振動の理由を説明できなかった。「現場の磁気環境に、原因不明の境界がある」と報告書に書いた。「境界の上では、磁針が安定しない」。現場日誌に、木口は書いた。
「現場区画の磁気環境に、線状の境界が存在。境界の北側で偏差大、南側で正常値。境界上で磁針振動」。書きながら、その境界線の位置を頭の中で地図に重ねた。境界線は、後にSK-07が検出される位置の、すぐ南側を通っていた。
SK-07は境界線の北側にあった。磁気の異常が大きい側。木口は境界線と土坑の位置関係を、現場日誌の隅に小さく書いた。「SK-07は境界線の磁気異常側に位置する」。
書いた字は業務記録の一行として現場日誌に残った。




