109話 温泉バカンスと貞操危機[3/3]
「で? アンタの言い分って何よ。女にここまでさせておいてそれを拒絶して、内容は半端な物だったらただじゃおかないわよ」
「女の子二人に言い寄られた反応がお説教モードってちょっとおかしいと思うよルシウス君」
「それを説明するからちょっと湯につかったまま近づかないでね。俺も湯に入るから」
ぶーたれる二人をなだめながら俺も湯につかって二人を見る。
ルクレティアお嬢様とルシアは先ほどの少し緊張気味ながらも高揚感を持った野獣の視線はどこへやら、抗議の視線を多分に含んだジト目でこちらを睨んできている。
まあ二人の気持ちもわからないではない。
親しい仲とはいえ、異性に対してこんなに明確なアプローチを行ったのに拒絶をされたら、そりゃ自分に魅力がないのかと心配になる。
だがそれでも俺にとっては譲れない線はあるのだ。
「それで? なんで私たちとそういう関係なりたくないの?」
「なりたくないわけじゃなくてなりたいですよそりゃ。俺のことを好いてくれてる美少女からこんな直接的なアプローチをされたら理性が焼ききれますって。理性保ってるの褒めて欲しいほどです」
ヤりたいかヤりたくないかで言えばやりたいに決まっている。
こちらに好意を持ってくれてる美少女に迫られてるんだ。
前世の記憶がなかったらノータイムで飛びついてる。
「私もお嬢様もルシウス君の理性をポイするために頑張ったんだけど」
「もう数年待てない? 二人が大事だから我慢してるんだよ俺。ヤれば出来るって知ってる?」
そう、問題は行為のその先なのだ。
「そんなの当然じゃない」
「というかそれが目的っていうか。さっきも言ったよ?」
「俺は二人の命の危険があるような状況はなるべく避けたいの」
「女が出産のときに命懸けなのは当たり前じゃない……ルシウス、貴方ルシアの覚悟を軽く見てない?」
「私、ルシウス君との子供のためには命を懸けれるよ? 私の覚悟、信じられない……?」
自らの覚悟を軽く見られた思ったのか、ルシアの表情が悲しみに染まり、お嬢様の目に少しの怒りが宿る。
だからそうじゃないんだって。
「十代前半の妊娠はリスクが高いんです。俺は性欲やわずかなメリットと引き換えに二人の命を余計な危険にさらしたくない」
「だからそれも覚悟の上って言ってるでしょ?」
「数年待つだけで百回に一回死ぬ危険が千回に一回に減るとしても? 数年待つだけで大切な人が死ぬ可能性が減らせるのに、相手が覚悟を持ってるからってその危険を受け入れるのは俺は嫌」
「……どういうこと?」
具体的な数を出したことでようやくお嬢様は俺の言いたいことに気が付いたらしく、聞き返してきた。
そう、問題なのは年齢だ。
ローティーンの性行為とその結果もたらされる妊娠がどういう結果を招くかを俺は知っている。
未来、俺の前世である現代において十代の妊娠というのは非常にリスクがあるというのは医者に限らず、周知の事実だ。
そのうちのかなりの割合は経済的や社会的リスク。
そう考えると、私生活において金に困ってない状態まで来ており、社会的にも十二歳から女性は結婚できる古代ローマでは一見リスクが無いように思えるかもしれない。
しかし十代、特に十代前半での妊娠は医学面だけでもリスクは高いのだ。
「十二歳以上は確かに結婚もできるし、そこから夫婦の営みをしてる人も多いかもしれないよ? でも身体の中は十代前半はまだ成長しきっていないんだよ」
「でもルシウス君。私、身長はもうほとんどお母さんと同じだよ? 十分成長してない?」
「見た目が大人と同じでも体の中がまだ成長しきっていないの!」
一見、身体の見た目だけで見れば大人と変わらないように見えても、その中身は別なのだ。
ホルモンバランスや排卵機能が安定していなく生理周期が不安定だったり、あるいは骨盤が未発達なことから起因する、妊娠時の各種リスクも圧倒的に高かったはず。
そもそも身体が成長しきっていない時期の性行為事態、身体にかなりの負荷がかかると、未成年非行を取り扱っている海外の配信者との薬物問題関係を取り扱うコラボ時に聞いた記憶がある。
骨組みを十分に作っていない家に重い家具を運び込むようなものだ。
「二人が俺の子供が欲しいって覚悟の上で迫ってきてくれてるのは本当に嬉しい。でも、あと数年、せめてルシアは一年、お嬢様は三年待てません?」
本当は十八歳以降まで待ってほしいが、社会風土的にそれは難しそうなのでギリギリの妥協ラインを提示する。
「ルシアの一年はともかく、私の三年は長いんだけど?」
「ルクレティアお嬢様よりは短いけど……一年かぁ……」
「どちらも十五歳以上を基準にしたいんで」
「「むー……」」
「二人が十五歳を迎えた後の出産で、例えば子供が逆子だったとしても二人を死なせないための薬を作ることは俺にはできる」
「逆子……って、ルシウス君、そんな極端な……」
「そんな運命を捻じ曲げるような真似まで、貴方ならできるって言うの? ルシウス」
「できます。でも年齢そのものに起因する出産リスクは俺にもどうにもならない」
芳香族化合物ができた今、局所麻酔には手が届く。
ほかの産後の母子死亡率を高めている要因も合成実験動画の配信で何個かやった経験があるものを片っ端から作れば、劇的に下げられる。
優先順位的にはリドカイン・ビタミンK2単離・ペニシリンあたりだろう。
リドカイン以外は精製そのものに時間がかかるし、二人に使うには年単位の臨床期間が欲しい。
二年の猶予があれば、作った薬品をディオスコリデス様を経由して医者に実際の治療経験を積ませることもできる。
そうすれば二人が妊娠する時期には現代基準とまではいかないものの、ある程度の症例が蓄積された状態で出産に臨むことができる。
それをいくら二人が望んでいるかと言って、性欲に流されて台無しにするつもりは俺には毛頭なかった。
「俺は二人とずっと一緒に居たいから、絶対死なせたくないから、だから待ってほしいんだ」
「……その言い方はずるいじゃない。こっちがどれだけの覚悟をしてここを攻め時と定めたと思ってるのよ」
「でもでもそんなに思われるのも悪くないっていうか、大切にされてるのが分かるから暖かくなるっていうか」
「たしかにそれはそうね。『絶対死なせない』なんて、英雄譚でしか聞いたことないセリフだわ」
「ですよね! 一度でいいから言われたい台詞上位ですよお嬢様! しかもそれをルシウス君……好きな男の子から言われるってグッときません?」
「それはそう」
なんか最後のセリフが二人にクリティカルヒットしたらしく、頬を染めて目をそらし始めるルクレティアお嬢様とルシア。
その英雄譚でしか聞かない台詞をローティーンの美少女二人に性的に襲われかけてるローティーンの少年が言ってる絵面って本当にかっこいいんですかね? という疑問が沸き上がるが、指摘してもろくなことにならないのは明らかなのでお口チャック。
「そんなわけで、そういう行為は待ってもらうということで、いいですかね?」
俺の確認に、お嬢様はルシアと顔御見合わせ、何か頷き合う。
「わかったわ」
そして湯から立ち上がって俺を見下ろしながら左手を差し出してきた。
「わかってくれましたか」
よかった。
お嬢様に対して俺も手を差し出す。
すると、お嬢様の胸の上に何やら金属製の何かがのっかっていることに気が付いた。
カシャン。
「ん?」
しかしそれに対して疑問に思うよりも先にお嬢様が胸の上に乗っていたその『手錠』を俺にかける。
カシャン。
そしてもう片方の手錠を自らの右手にかけるお嬢様。
「え? え?」
「ルシア、反対」
「はーい」
カシャン。カシャン。
そしてそんな謎の状況にあっけにとられているとルシアも残る俺の右手に手錠をかけそのまま自らの左手に手錠をかける。
「あの……これはどういう?」
「ルシウスが私たちの身体ことも大事に思ってくれてるのはよくわかったわ」
「ルシウス君くらいの年の男の子ならエッチなことしたい時期なのにそれを押さえて私たちのことを考えてくれてるのはすっごい嬉しいよ?」
「うん。で、なんでそれが手錠をかけるという選択になるので?」
「ルシウスが私たちの事を思って性欲を強靭な理性で押さえて我慢してくれてるのは嬉しい」
「はい」
「それはそれとして、これだけ明らかに誘惑してるのに襲ってこないのはムカつく」
理不尽すぎません??
「なので性行為はしないけど私とお嬢様が満足するまで好きにされてもらうよ!」
「ちょっと先に湯に入ってた分ふやけてきたので俺は一足先に上がりますね」
「「させるとおもう?」」
「どいて! 離して!! 俺は別荘に帰るんだ!」
「手錠された状態で二人に勝てるわけないでしょルシウス君!」
「あ~もうっ! 抵抗しても無駄よ!」
「お嬢様!! 困ります!! あーっ!! ルシアも俺の腰巻に手をかけないで!? お嬢様も胸を押し付けるの止めて!? あーいけません! いけませんお嬢様!?」
あ~やめて! あ~ヤメテ!! あ゛~!




