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きまじめ悪女の薬箱〜初恋の皇子様に嫁ぎましたが、彼は私を大嫌いなようです〜【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 水野沙彰
第2部

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9章 家に帰ってくる理由




   ◇ ◇ ◇




 会議の予定が入っていたため、遅れた仕事を遅くまでするつもりだったラウレンツは、エルマーからの連絡を受け、最低限の仕事を片付けて皇城を出た。

 会議を終えて執務室に戻ってきたとき、ローラントがいないことには気付いていた。だからといって、まさか自分が不在のフェルステル公爵邸にいるとはどうして思うだろう。

 馬車を降りて、邸に入る。


 クラリッサが相手をしていると聞き、自室に行かず直接応接室に向かった。

 扉の向こうから、楽しげな話し声が漏れ聞こえてくる。


「──そのとき……が……」


「ふふ、それでは──」


 流石ローラント、女性相手に話をするのが得意だ。クラリッサの笑い声が弾んでいる。

 クラリッサを困らせていたらどうしようかと思ったが、杞憂だったようだ。


「はははっ」


 今度はローラントの笑い声が聞こえてきた。

 軽薄な遊び人であるローラントの、粗野で男性的な笑い声。この笑い方は、本当に面白いときのものだ。


 そう気付いたとき、ラウレンツはノックもせずに勢いよく扉を開けていた。


「まあ、ラウレンツ。おかえりなさい」


 クラリッサが驚いて、目を丸くしている。

 ローラントはラウレンツが帰ってくることを予想していたのか、余裕の表情でひらひらと手を振っていた。


「おかえり、ラウレンツ」


「執務室に来ないと思ったら……いったい何をしていたの?」


 ラウレンツの問いに、ローラントは口角を上げた。


「夫人に話に付き合ってもらってたんだ。お前がなかなか帰ってこないからさ」


 マイペースに紅茶を飲むローラントの姿に、ラウレンツはいらっとする。

 クラリッサがローラントを見て呆れたように笑っているのもまた、その苛々を助長させた。


「……いいからこっちに来い」


「ひえ、怖い顔してんじゃん」


 ローラントがしぶしぶといったように立ち上がり、クラリッサに笑いかける。


「ありがとう、夫人。ちょっとラウレンツのこと借りるね」


「いえ、楽しかったですわ。どうぞごゆっくりなさって」


 クラリッサも立ち上がり、上品に微笑んでローラントを見送っている。

 応接室の扉が閉まり、クラリッサの姿が見えなくなると、ローラントがシャツの釦を一つ外した。


「──それで、ローラントは本当に何しに来たの」


「あー。友達に対してその言い草はひどくない?」


「酷くないね。少なくとも、私の不在を知った上で訪ねてくるような用事は思い当たらないな。仕事もあったっていうのに」


 ラウレンツが言うと、ローラントはぴんと伸ばした人差し指を

ラウレンツに突きつけた。


「それだ」


「なんだよ」


「仕事があるってのに、お前がそんな顔して家に帰ってくる理由が気になったんだ」


 ラウレンツは虚を突かれて立ち止まる。

 ローラントがラウレンツを追い越して廊下を歩いて行く。

 慌てて後を追いながら、ラウレンツは脳内で必死に言い訳を考えた。


「だからそれは──」


「別に、俺はそういうの聞きに来たわけじゃねーんだな」

 ローラントが自分の邸のようにしれっとラウレンツの部屋の扉を開ける。

 見られて困るものもないのに、今日は何故かそんな些細なことが気になった。


 ローラントはいつも通りだ。

 遠慮のない振る舞いも勝手な行動も、いつも通り。

 おかしいのは、ラウレンツの心の方だ。


「じゃあ何しに来たっていうんだ」


「噂の悪女の真実と、友達の異変の原因を確かめに、かな。いやー、でも、来た甲斐があったね。夫人があんな人だったとは」


 ローラントが言って、戸棚からラウレンツのとっておきの蒸留酒とグラスを二つ取り出した。

 ことん、と音を立て、グラスがテーブルに置かれる。


「どうして私の酒を勝手に出してるんだ?」


「これ、お前のじいちゃんのコレクションから貰ったやつだろ。飲んでみたかったんだよな」


「親戚でもないのに国王陛下をじいちゃんなんて呼ぶの、お前くらいだよ……」


 少し前にラウレンツが国王から頼まれた面倒な外交案件を処理したときに、礼として個人的に貰った酒だ。

 ローラントにも補佐してもらっているから、共に飲むことに異存はない。

 椅子に腰掛けたローラントが、とぷとぷとグラスに酒を注ぐ。度が高い酒なのに、容赦のない注ぎ方に眉を顰めた。

 ラウレンツが諦めて水差しを取って椅子に座ると、ローラントは早速グラスを掲げた。


「それでは、えー、ラウレンツが人間らしくなった記念に」


「なんだよそれ」


 今、すごく失礼なことを言われた気がする。

 しかし酒は綺麗な琥珀色で、樽の良い匂いがする。

 ラウレンツは今日は仕方がないと割り切って、ローラントが持つグラスに自身のグラスを軽くぶつけた。

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