狂犬の審美眼
回収チームのヘリはハイウェイの胸壁に腰かけてイヤホンで音楽をきいている扇を見つけると、大急ぎで連れ去った。
「ったく。ひでえことになってんな」副操縦士が言った。
「暢気に音楽きいてる場合じゃねえよな」操縦士が言った。「ケーサツに見られてみ。やつら、ブレーキかけずにお前に突っ込んでくぜ」
空から見ると、玉突き事故はネオンサインの海に溺れ、溶けてなくなっていた。二人の操縦士は娘にAI入りのアライグマのスクレッツォのぬいぐるみをねだられた話をしていて、扇はというとワシントン・ルイスの『カフェ・コン・レイチェ』をききながら、第七地区のシャンティ・タウンを眺めていた。都市の光がベースのリズムに合わせて拍動して、一人のテロリストが死んだ事実を早々に忘れにかかっている。
「それでスクレッツォのぬいぐるみを買ったわけよ。かわいい娘のためによ」
「それで?」
「ところがなにかの手違いがあって、入ってたAIが軍の自爆ドローン用のAIでよ。間違ってたわけよ。しかも旧式の自爆用AIで、ほらAIチップ自体にも爆薬がスプレーされてるやつ。娘が抱きかかえたらカウント・ダウンが始まってよ、3、2、1、ボン! スクレッツォの頭が吹っ飛んじまったのよ」
「ひでえ」
「こいつはひでえなんてもんじゃねえぜ。娘は大泣き、女房はカンカンで、おれはおもちゃ屋に直行して、かわりのスクレッツォをよこせと食らいついたがよ、やつら、スクレッツォのAIが爆発したんじゃなくて、おれがショットガンで頭を吹っ飛ばしたんじゃねえのかって言いやがるの。なわけねーだろ! なんで娘のために買ったぬいぐるみの頭ショットガンで吹っ飛ばさなきゃいけねえんだよ!」
「かわりの品は?」
「もらえずじまいよ。ほら、あそこだ。あのブルーとグリーンのネオン。TとB。くそっ、回収ミッションの途中じゃなきゃ、手榴弾の一つでも落としてやるんだが」
〈ザ・トラブルズ〉へ戻ると、フィギーがいた。手には鶏牌香烟のカートンパック。
「それ、どうしたんだ?」
「おれたちが出ていった後に配達員が来て、補充したんだってよ。やるよ。それにしてもよ、今日は散々な一日だったぜ。あの後、サツに追われて逃げまくってよ。あと少しでやってもいねえ殺しのせいでぶっ殺されるところだった」
カウンターに座り、ランディラを二本頼むと、シャバの空気に乾杯して、冷たいビールを飲んだ。フィギーはあの後、怒りが覚めたところでちょっと煙草をふかしていたのだが、すぐパトカーがやってきて、撃ってきた。フィギーは撃ち返し、警官一人を倒したが、他の警官たちは仲間が撃たれたのを見ると激高して、フィギーをめちゃくちゃに追いまわした。最後にはオカマ・バーへ逃げ込み、そこで数人のオカマ・ガンマンを巻き込んだ三つ巴の銃撃戦をして、警官を一人、オカマを一人撃ってから、設置の必要があるとは思われない女子トイレへ逃げ込み、そこの窓から裏路地に着地して、力の限り走って逃げたのだそうだ。
扇は三本目の鶏牌香烟をつけた。ランディラは二本目。少しめまい。時間を操作した後はアルコールへの耐性が弱くなる。〈トラブル〉を見回すと、ラスティーズのメンバーがほぼ勢ぞろいしていた。レッグス・オマリー、シーマス・〈テフロン・マン〉・ロヴェット、ピット・マンガーノ、マッドドッグ・フィッツシモンズ……。ラスティーズは刑務所に入っているメンバーを合わせても二十人足らずしかいないのだ。そんななか、トミー・リーチの姿が見えない。フィギーは姿を見ると不安を覚えるが、トミー・リーチの姿は見えないほうが不安を惹き起こす。トミーはラスティーズの爆弾係で、ここにいないということは地下室で爆弾をつくっているということだ。はんだごての先がちょっと滑って、触れてはならない金属にコツンとぶつかれば、七十七号ビルがそこに住む人間ごと木端微塵になる。
「心配するこたぁねえんだ」フィギーが扇の肩を叩く。「トミーは自分のやることをしっかりこころえてら。だから、一度も失敗したことはねえ。トミーの爆弾はすげえもんだ。前に判事を吹っ飛ばしたことがあるんだがな。爆発で車は五階建ての裁判所を飛び越して中庭に落っこちたんだ。ありゃあ見ててスカッとする爆発だった。そのぶっ飛び線のきれいなことと言ったら! まるで飾り立てたオマンコよ。あの畜生には三十万も払ったのに、ビンクを無罪にできなかった。おまけに金も返さねえ。だから、こらしめてやったわけよ。オシオキが必要なわけよ。あんなマザーファッカーにはもったいないくらい見事なぶっ飛び線だったけどな」




