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斬術士  作者: 実茂 譲
3.カンパニー
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41/51

1919→1911

 1919年、メキシコ。

 それは〈時の丘〉と呼ばれていた。ポポカテペトルの麓にある峡谷の特に緑の濃い傾斜に古い遺跡が散在していた。溶ける蝋のような白い樹根が石像に覆いかぶさり、碧く澄んだ池の底でアステカの歴史を刻んだ石板が折り重なって忘れ去られていく。サパティスタの兵士たちは石の廃墟にキャンバス地のテントを張り、三〇・三〇弾を込めたウィンチェスター・ライフルを抱いて眠っている。夜はもうじき明けそうだ。灰青色の曇り空が紗にくるまれた真珠のようにうっすら光り始めている。

 どこかでタイプライターがカチカチとキーを鳴らし、声明文を紡いでいる。土地と自由。それは17年に処刑されたオティリオ・モンターニョの亡霊がつくっているのかも知れなかった。元教師の革命家は反逆罪で銃殺されたが、サパタはその内部抗争のような銃殺に納得しきれていなかった。アヤラ綱領を書いたころのモンターニョは太ってまん丸い最高の無政府主義者だった。モンターニョの人生はそこが頂点だったのかもしれない。

 扇は目を覚ました。タイプライターを叩いているのが誰なのか気になって音を辿った。扇は太古の貴族たちの神殿のなかを彷徨った。音はあちこちからきこえてくる。森は音を飲み込み、樹水に浸した音を放す。葉の裏や大地に根差した蔓から森の呼吸がきこえてくる。手のひらに似た形の葉が天蓋になった石畳の道を歩いていくと、キーを叩く音が明瞭にきこえてきた。白いシャツにソンブレロをかぶった兵士が三人、煉瓦でつくった小さな釜にコーヒー鍋をかけている。

「扇、こっちに来いよ」ペドロ・アダラにそっくりの兵士が言った。「一杯飲んでけ」

 バッジーニにそっくりの兵士が尻をずらして、扇の座る場所をつくった。コントレラス大尉そっくりの兵士が棒で鍋をつついて傾けて、ブリキのカップにコーヒーを注いだ。よく見ると、コントレラス大尉そっくりの兵士はダイナマイトの箱の上に座っていた。焚火とダイナマイトの距離が一メートルもないことは強い不安を覚えるが、誰もそれを表に出さなかった。子どもっぽい見栄だが、この国ではそういうものが非常に重視された。『その男の死に様を教えろ。そいつがどんな人間だったか当ててやる』ということわざもある。死者の日に骸骨の死者に扮装するのは理由があってのことだ。特に革命中のモレロス州では死が身近にあった。戦争や虐殺、最近では海の向こうからやってきたスペイン風邪が猛威をふるっている。人口は革命以前の三分の一にまで減ってしまった。殺されるか逮捕されるか逃げ出すかしているうちに人びとは鍋から上がる湯気のように消えてしまったのだ。この惨状から立ち直るのに三十年はかかることだろう。政府軍はあちこちでサパティスタと疑った農民を銃殺している。そのうち、パブロ・ゴンザレスは石や木を銃殺しなければいけなくなるだろう。

「扇。ヘスス・グアハルトについてどう思う?」バッジーニそっくりの兵士がたずねた。

「おれは信じないね」ペドロ・アダラそっくりの兵士が言った。

「だが、弾と馬を獲得するチャンスだ。それにやつはこっちの言う通りに裏切りものどもを差し出してきたじゃないか」コントレラス大尉そっくりの兵士が言った。

「信用できねえよ。パブロ・ゴンザレスと揉めたらしいが、それだって本当かどうか。扇はどう思う」

「おれも、信じられない」

 ヘスス・グアハルトは最近、サパティスタに寝返りたいと申し出た政府軍の騎兵隊長だった。酒の席でパブロ・ゴンザレスと揉めて、拭い難い侮辱を受けて、サパティスタに寝返りたいということだったが、いまサパティスタ軍はこの男のことで持ち切りだった。サパタは元サパティスタでいまは政府軍に寝返った男の引き渡しを求め、ヘスス・グアハルトはそれに応じた。裏切り者は処刑され、サパタはグアハルトを信じ始めているという。

「大将は信じるって言ってるんだ」

「おれはやばいと思うね。あの顔。人の金で満ち足りたやつの顔だ。そんなやつは汗まで満ち足りてる。香水野郎だよ。あんな顔であんな汗をかくやつらが農民(ペオン)をユカタン半島の奴隷農場に送るんだ」

「でも、弾がないときみたちは戦えないよ」バッジーニそっくりの兵士が言った。

「なんできみたち、なんだ?」ペドロ・アダラそっくりの兵士が噛みついた。

「僕は一発一発確実に当てるけど、きみたちは馬にまたがったまま、ヒャッハー!って叫んで無駄にばらまくじゃないか」

「まあ、それは否定しない」コントレラス大尉そっくりの兵士が頭をかいた。

「確かに弾は大切だ」ペドロ・アダラそっくりの兵士が言った。「でも、大将が死んでも戦えないぜ」

「そんなことは考えたくないけどさ……」

「パンチョ・ビリャと組んでたころは一万発の弾なんて目をつむったままでも手に入れられた。メキシコ・シティにでかいソンブレロをかぶって、行進してやったよな。あれは気分が良かった」

「あれが間違いだった。首都を放棄したのは間違いだったよ」

「でも、大将は大統領にはなりたくなかった。覚えてるか? おれたちが国民宮殿の大統領室で見つけたあの椅子のことを。ビリャはふざけ半分に座ってみたが、大将は焼いてしまうべきだって言った。中央政権の長になんて、大将はつきたくなかったんだ。そんなものが存在するべきじゃないと分かっていたんだ」

「だが、首都から僕らが追われてから、首領クラスの連中でもがっくりきた連中がいた。モンターニョもそうだったし、エウフェミオもそうだった。もし大将がいなければ、僕らだって立ち直れなかった。僕らは戦う。大将のために。なぜなら大将は土地と自由を農民が得るために戦うからだ。この世界でいまや僕らだけだ。正気なのは」

 そこでみんな黙り込んだ。カチカチカチ……。キーを叩く音がきこえてきた。扇はコーヒーを飲み干し、底にこずんだクズを捨てると、また音を辿るために立ち上がった。

 鬱蒼と茂る灌木のあいだに古い石を敷いた道があり、その向こうから紙が端まで来たことを知らせるベルの音がした。

 チーン! ガシャン!

 古く静かに淀んだ黒い池のそばでエミリアーノ・サパタがひとり、大きな石の上にタイプライターを置いて、たったままキーを叩いていた。サパタは扇がやってきたことに気がつき、手を止めて、振り向いた。

「扇か。どうした?」

 サパタがたずねた。銀のボタンがついた黒い牧童用のきつめのズボンに白いシャツ、そばの椅子には刺繍のしてある上着がかけてあったが、いつもかぶる黒いソンブレロがどこにもなかった。革命が起こる前、地元政府のボスたちとトラブルになる前、サパタは祭りのときは着飾って、見事な馬術を披露したのだ。特に荒馬を御すことには定評があり、生涯人間を背に乗せることはないと心に決めた強者の馬たちをサパタは次々と乗りこなした。その調教師としての技術は遠くメキシコシティにまできこえていた。

「不安そうな顔をしているな」サパタがまたたずねた。

「ヘスス・グアハルト」扇はこたえた。「みな不安がっている。今回は危ないんじゃないかって」

 サパタは肩をすくめた。

「これまで危なくなかったときなど存在しなかった。今回も同じだ」

「今回は違う。そんな気がする」

 森に閉じられた池は静かに蒸されていた。サパタはじっと扇を見た。這って生きるより立って死ね。そう言ったのはサパタだ。だが、そこには這って生きなければいけない百姓(ペオン)たちを蔑む意図はなかったし、むやみに命を捨てることを賛美したわけでもなかった。土地と自由。それが這って生きざるを得なかった百姓たちを立ち上がらせ、そして生きることさえできる。あの言葉は逆説に賭けていたのだ。自分の土地に立ち、自分の労働で得たもので生きることができる。だから、その日が来るまでサパタが自殺志願者みたいな危ない橋を渡ることはないことは分かっていた。

「でも、不安なんだ」

「扇、おれは自分が死ぬ日は分かっている」

 サパタはタイプライターに向き直り、またキーを打ち始めた。

 サパティスタもその勢力は小さくなった。幹部同士の争い。サパタの兄であるエウフェミオの横死。パラフォックスの追放。モンターニョの銃殺。1911年のころは想像もしなかった陰惨な出来事が扇に心配事を増やしていた。あのころ心配すべきは前から飛んでくる弾丸であり、後ろから飛んでくる弾丸ではなかったのだ。

 叩かれるキーの音が突然けたたましくなった。そんなキーの叩き方をするのはあの教師上がりの革命家オティリオ・モンターニョだけだった。

「もうじき来る」

 誰がそれを言ったのか分からなかった。虫が気になったからだ。夜の羽虫たちは遠慮なくライフルの薬室や人の口のなかに飛び込んでくる。あちこちで虫を叩く音が、タイプライターのようにきこえてきた。

 チーン! ガシャン!

 八年前、1911年。モンターニョは川岸の大きな石みたいに丸々としていて、太い指はせっせと綱領を打ちまとめていた。モンターニョは銃ではなくタイプライターを武器に革命を戦っていた。ぶっ放される一万丁の銃がなぜ政府軍(フェデラリスタ)に向けるべきなのかを誰が見てもしっかり納得いくようまとめるのが彼の使命だった。

 扇は闇に沈んだ谷のなかから月明りに白く切り取られた橋を見た。副王時代の橋は早瀬をまたぎ、その石の道に鋼鉄の線路をひき、メスカルの樽や繊維を運ぶ機関車が走った。ときどき兵士と奴隷が行き来することがあった。モーゼル銃を手にしたシャコー帽の兵隊たちが橋で南に下っていき、一揆を起こした小作人たちを殺した。生き残った女と子どもは監獄列車に載せられ、奴隷としてユカタンのサイザル麻の農園に送られた。一度だけ複雑な内戦危機と大統領選挙の違反などの組み合わせが独裁者の金塊にこの橋を渡らせたことがあった。だが、すぐに反乱を起こした将軍たちが銃殺され、大統領の再選が確実になると、ベラクルスへ運ばれる途中の金塊は一転、またメキシコシティを目指して橋を渡っていった。

 今夜、政府軍(フェデラリスタ)がサパティスタと戦うために南下してくる。アギーラ将軍は蜂の巣にしたサパタの死体を機関車の先頭にくくりつけてメキシコ・シティに凱旋すると自信をもって新聞記者たちに言っていた。そのなかにはフランスやイタリアの記者もいた。アギーラ将軍は滑稽なくらい大きな口ひげをした老人で、革命勢力のパンフレットはその大きすぎる白いひげを風刺し、彼と彼の配下の部隊を〈人殺し軍団(マタモロス)〉と呼んでいた。人殺したちはこれまで丸腰の百姓や女子どもを撃ち殺したり、サーベルで頭を切り飛ばしたりしてきたのだが、ケンタウロスよりも自在に馬を走らせ、銃と山刀の使い方を知った戦士たちと戦ったことはなかった。人殺したちがメキシコシティに帰ることはないし、そもそもこの橋を渡りきることもできない。そのほとんどは裂けた鉄でぐちゃぐちゃになって絶命する。

 扇たちサパティスタは馬にまたがり、古い猟銃と山刀を鞍に積み、大きなソンブレロをかぶって、とうもろこし皮の煙草を吹かしていた。敵がひとりでも斥候を放っていれば、橋のたもとの暗がりに赤い蛍が何百匹と飛び交っている様を見ていたことだろう。バッジーニそっくりの兵士がとうもろこし煙草を勧めたが、扇を首をふった。扇は鶏牌香烟(ロースター)以外の煙草を吸う気にはなれなかった。煙草は体を壊す。どうせ壊すなら好きな煙草で壊したかった。鶏牌香烟(ロースター)はメキシコシティのドロレス通りにある中国人経営の雑貨店に行かなければ手に入らなかった。そして、サパティスタの扇がメキシコシティへ行くにはかなりの数の兵隊を撃ち殺さなければいけなかった。もちろんそのなかにはアギーラ将軍も含まれているし、最後はポルフィリオ・ディアスの心臓に弾丸をぶち込むことになる。三十年以上大統領の地位を保持し続け、メキシコをしゃぶりつくした老いぼれにも、清算のときはやってくるのだ。

 タンピコのスタンダード・オイルの油田に送られるはずだったダイナマイトを兄のエウフェミオ・サパタ率いる決死隊が橋桁からロープ一本でぶら下がり、橋脚の石をひとつ抜き取ってそこに差し込んでいた。ダイナマイトはマグネトー内臓のプランジャーとワイヤーでつながっていて、T字型のプッシュを押し込むと、電気が走って、ダイナマイトが爆発する。もちろん爆破係は派手好きのエウフェミオだ。

 機関車は鋭い汽笛を鳴らしながら、橋に近づいていた。まだ遠くを走っていたが、サパタの死体が飾られる予定の機関車にはポルフィリオ・ディアスの似顔絵がプリントされたメキシコ国旗が二本、交差していた。列車は全部で二十両あり、機関車が橋の上に差しかかったが、エウフェミオはゆうゆうと葉巻をふかしていて、まだ爆破しなかった。機関車が橋の半ばを渡り切っても爆破しなかった。そして、機関車が橋を渡り切る直前になって、プランジャーを押し込んだ。信管に電気が走り、爆発が夜空を乱暴に吹き飛ばした。轟音で川面が泡立ち、十両以上の車両がそのまま飛び上がり、錆びた色の火を巻きながら川へと落ちていく。さらにその上に橋材の石が降り注ぎ、〈人殺し軍団(マタモロス)〉は車両ごと潰れていった。機関車は後ろの車両に引きずられ、耳障りな金属音で大泣きしながら、橋から剥がされ、逆さまになって川に叩きつけられた。

「ビバ・サパタ!」

「ビーバ(万歳)!」

 百姓兵たちは馬の腹を蹴り、水を跳ね散らかしながら川幅いっぱいに散開し、燃える車両からよろめきながら出てきた〈人殺し軍団(マタモロス)〉目がけて銃をぶっ放した。銃のなかにはナポレオン三世の軍隊が四十年以上前に置いていったマスケット銃もあったが、そのことを深刻に考えるものはひとりもいなかった。銃がポンコツなら山刀を使えばいいし、蜂起のもたらす高揚もあった。だが、なによりも〈人殺し軍団(マタモロス)〉をひとり殺せば最新のカービン銃一丁と三〇・三〇口径の弾丸を差した弾薬ベルトが手に入るのだ。百姓たちはみなベルトを胸の前で交差するようにさせたかったので、もう一本欲しがった。いまや〈人殺し軍団(マタモロス)〉が殺される理由は長さ一メートルもない革製品を獲得するためにまで落ちた。

「ビバ・サパタ!」

「ビーバ!」

 扇たちの部隊もグアダルーペの聖母の旗を先頭に、叫びながら川に飛び込んだ。飛び上がった水の粒が群れて、ソンブレロに落ちてきて、パタパタと乾いた音を立てた。浅瀬では最初の襲撃で崩れた〈人殺し軍団(マタモロス)〉が最初の部隊目がけて銃を撃ちながら、後ろへ下がっていた。扇たちはその背中から襲いかかった。扇は軍曹の袖章をつけた大男に狙いをつけて、ナポレオン時代のミニエ銃を撃った。軍曹の肩が飛び散って、太い腕は袖章をつけたまま肩から落ちた。扇は銃を捨てて、サーベルを抜いた。そして、鐙に突っ立ち、軍曹の頭へ刃をまっすぐ振り下ろした。軍曹は咄嗟に手持ちの銃を振り上げて防御しようとしたが、刃は銃身を叩き切って、眉間まで切り下ろした。

「いいぞ、兄ちゃん! 容赦ねえ! ビーバ!」

 扇のすぐ横の百姓兵がゲラゲラ笑った。白い雑なヒゲを生やした老人だ。だが、次の瞬間、無精ひげの顎が砕け散り、五発か六発を一度に食らって、鞍から弾き飛ばされた。弾の飛んできた方向を睨むと、川に落ちた車両のなかからマキシム機関銃の銃火が噴き出し、敵味方区別なく薙ぎ倒している。扇は馬に拍車を入れた。扇は機関銃の車両から右斜めにあり、その姿は見つかっていなかった。扇の意図に気づいた〈人殺し軍団(マタモロス)〉が徒歩立ちで銃剣を突き出したが、扇の剣が巧みにそのうわついた突きをかいくぐり、相手の腹を斜めに切り裂いた。直後、弾丸が薄気味悪いほど近くを通り過ぎ、耳に嫌な後味を残して消えた。そのとき、騎兵士官らしい男が政府所有の高品質馬専用厩舎で生まれた白い二歳馬にまたがり、中東風の飾りをつけたサーベルで扇に斬りかかった。扇も斬撃で応じ、何合か撃ち合い、剣が噛みあうと、すかさず士官のベルトにあったピストルを抜いて、至近距離で腹に三発撃ち込んだ。さらに腹と肩口に突きを送り込むと、騎兵士官は刃と骨がこすれるザリっとした感触を扇の手のひらに残し、鞍から落ちた。白馬は鐙が引っかかった騎兵士官を引きずりながら川下へと走っていった。機関銃は弾詰まりをおこしたのか銃撃をやめていた。サパティスタはリヴォルヴァーをぶっ放し、〈人殺し軍団(マタモロス)〉をひとりまたひとりと撃ち倒していた。貨物車からは白い百姓着の男たちが武器弾薬の入った箱を運び出していたが、機関銃が再び火を吹くと、荷運び役が次々と倒れていった。

 扇は機関銃の車両そばまで来ると、馬から飛び降り、接続部のドアを蹴り開けた。割れたワイン瓶とちぎれたビロードのカーテンでその車両がアギーラ将軍専用の車両だとあたりをつけた。機関銃兵ふたりとそれを指揮する将軍がひとり。将軍は金糸でドルマン式の派手な上衣に緑色の飾り帯をつけ、新聞で笑いものにされる、白い大きな口ひげをたくわえていた。機関銃の銃声で耳をやられていた三人は扇が斬りかかるのに気づかず、機関銃兵はたちまち斬り伏せられた。アギーラ将軍は咄嗟に銃を抜いたが、人差し指が引き金にかかる前に手首が斬り飛ばされ、扇はそのままバックハンドでこめかみに斬撃を叩き込んだ。

 そうして、サパティスタは初めて機関銃を手に入れたのだ。このときほど歓喜した出来事を他に知らない。口数の少ないサパタでも笑みを絶やさなかった。だが、だんだん分かってきたことだが、機関銃を維持するのは極めて難しく、また重過ぎた。ゲリラ戦に向く武器ではなかったので、結局捨ててしまった。その後も何度か機関銃を手に入れる機会はあったが、最初のときほどの感動はなかった。1919年、サパティスタがここまで追い込まれた理由のひとつには機関銃などの新しいテクノロジーを使いこなされなかったことにある。馬にまたがった数百の男たちがひとつの国を乗っ取るようないいかげんな時代はもはや過去のものになろうとしていた。

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