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斬術士  作者: 実茂 譲
2.紫苑
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アライアンス

 アパートの屋上から見た夜のエブロ・シティは放棄された光のパズルのようだった。複雑なルールとアレンジ可能なテクニックの上にできたゲームの結末は夜明けとともに色あせて消えていくだろう。パイプ椅子に座って、それを眺めながら、紫苑はたずねた。

「あなたは何者なの?」

「カンパニーの生き残りだ」扇はビールをぐいっとあおった。「お前から見たら、ファースト・カンパニーってことになる」

「カンパニーはみな心臓に神経毒を仕掛けられていた。なぜ、生き残れたの?」

「おれと寿はプロトタイプだった。毒は正規生産のカンパニーにだけ仕込まれていた」

「その寿っていう人はどこにいるの?」

「もう、いない」扇は首をふった。「おれが殺した」

「……」

「おれの目的はカンパニーの再現を叩きつぶすことだ。それは死んでいったあいつらへの約束だし、そうすれば、もう少しましな夢を見て眠れるかもしれない。今度はそっちの番だ。目的を教えろ」

「セカンド・カンパニーの阻止」

「お前はセカンドなんだろ?」

「ええ」

「他にいるのか?」

「稼働しているのはわたしだけ。でも、開発中の個体は三十二人いる」

「なぜ、カンパニーを阻止する?」

「約束だから」

「約束?」

「培養槽には独自のネットワークがあった。元々は海洋哺乳類の意思疎通能力を測るための機器で、その名残が残っていた。それでお互いを通信して、約束した。もし、誰かが外に出られたら、全てを破壊する。みんなが――人型の化け物として生み出される前に」

「お前はどうやって逃げた?」

「分からない。気づいたら、街をひとりで歩いていた。でも、わたしの培養槽は濾過機に重大な故障があった。もし逃げたのだとしたら、その交換作業のときに逃げたんだと思う。ただ、逃げるとき、みんなとつなげていたネットワークと外れるとき、なにかあったんだと思う」

「誰かが、カンパニーを再興しようとしている。その黒幕が誰なのか、それは分からない。投資家と科学者、それにギャングも関わっている。正直なところ、おれは誰を信じたらいいか分からないのが現状だ。おれはここ最近は一人のクライアントとつながっていたが、そいつの目的がカンパニーの阻止なのか復活なのか、分からないんだ」

「わたしたちは協力し合える」

「しなければならない。おれたちが殺し合って、得をするのはやつらだ。いま、どこで暮らしている?」

「第六地区。ノースエンド。〈リトル・パレルモ・ソーシャル・クラブ〉」

「そこはマフィアの店だ。やつらの仕事を?」

「情報と引き換えに」

「信用できるのか?」

 ジュセッペがヤクザとマフィアを撃ち殺す瞬間が甦る。

「分からなくなりかけている。信じたい、っていうのが正直な気持ちね」

「もし――」扇が言った。「マフィアどもとまずいことになったら、ここに来い。鍵はビッグ・ママに預けておく」

「……ありがとう」

「ひとつききたい」

「なに?」

「夢を見るか?」

「ええ。毎日。あなたも?」

「ああ。戦争の夢だ。それも参加したことのない大昔の戦争」

「今度のことが終わったら、もう、夢を見ないで済むのかしら?」

「分からない。だが、見なくなる前に言っておきたいことがある。それまでは――。そっちの夢は?」

「……いい夢よ。優しい夢。だからこそ、辛い」

 紫苑は立ち上がり、いったん帰ると告げた。扉のそばに寄りかかっていたビッグ・ママから預けた刀を返してもらい、ストロベリー・ソーダの礼を言った。階段を降りるあいだ、アンデレは兄妹再会のいい画が撮れたと騒いでいた。

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