アライアンス
アパートの屋上から見た夜のエブロ・シティは放棄された光のパズルのようだった。複雑なルールとアレンジ可能なテクニックの上にできたゲームの結末は夜明けとともに色あせて消えていくだろう。パイプ椅子に座って、それを眺めながら、紫苑はたずねた。
「あなたは何者なの?」
「カンパニーの生き残りだ」扇はビールをぐいっとあおった。「お前から見たら、ファースト・カンパニーってことになる」
「カンパニーはみな心臓に神経毒を仕掛けられていた。なぜ、生き残れたの?」
「おれと寿はプロトタイプだった。毒は正規生産のカンパニーにだけ仕込まれていた」
「その寿っていう人はどこにいるの?」
「もう、いない」扇は首をふった。「おれが殺した」
「……」
「おれの目的はカンパニーの再現を叩きつぶすことだ。それは死んでいったあいつらへの約束だし、そうすれば、もう少しましな夢を見て眠れるかもしれない。今度はそっちの番だ。目的を教えろ」
「セカンド・カンパニーの阻止」
「お前はセカンドなんだろ?」
「ええ」
「他にいるのか?」
「稼働しているのはわたしだけ。でも、開発中の個体は三十二人いる」
「なぜ、カンパニーを阻止する?」
「約束だから」
「約束?」
「培養槽には独自のネットワークがあった。元々は海洋哺乳類の意思疎通能力を測るための機器で、その名残が残っていた。それでお互いを通信して、約束した。もし、誰かが外に出られたら、全てを破壊する。みんなが――人型の化け物として生み出される前に」
「お前はどうやって逃げた?」
「分からない。気づいたら、街をひとりで歩いていた。でも、わたしの培養槽は濾過機に重大な故障があった。もし逃げたのだとしたら、その交換作業のときに逃げたんだと思う。ただ、逃げるとき、みんなとつなげていたネットワークと外れるとき、なにかあったんだと思う」
「誰かが、カンパニーを再興しようとしている。その黒幕が誰なのか、それは分からない。投資家と科学者、それにギャングも関わっている。正直なところ、おれは誰を信じたらいいか分からないのが現状だ。おれはここ最近は一人のクライアントとつながっていたが、そいつの目的がカンパニーの阻止なのか復活なのか、分からないんだ」
「わたしたちは協力し合える」
「しなければならない。おれたちが殺し合って、得をするのはやつらだ。いま、どこで暮らしている?」
「第六地区。ノースエンド。〈リトル・パレルモ・ソーシャル・クラブ〉」
「そこはマフィアの店だ。やつらの仕事を?」
「情報と引き換えに」
「信用できるのか?」
ジュセッペがヤクザとマフィアを撃ち殺す瞬間が甦る。
「分からなくなりかけている。信じたい、っていうのが正直な気持ちね」
「もし――」扇が言った。「マフィアどもとまずいことになったら、ここに来い。鍵はビッグ・ママに預けておく」
「……ありがとう」
「ひとつききたい」
「なに?」
「夢を見るか?」
「ええ。毎日。あなたも?」
「ああ。戦争の夢だ。それも参加したことのない大昔の戦争」
「今度のことが終わったら、もう、夢を見ないで済むのかしら?」
「分からない。だが、見なくなる前に言っておきたいことがある。それまでは――。そっちの夢は?」
「……いい夢よ。優しい夢。だからこそ、辛い」
紫苑は立ち上がり、いったん帰ると告げた。扉のそばに寄りかかっていたビッグ・ママから預けた刀を返してもらい、ストロベリー・ソーダの礼を言った。階段を降りるあいだ、アンデレは兄妹再会のいい画が撮れたと騒いでいた。




