ハラワタ・ビジネス
クリーン・ハイツにはクリニック向けの臓器を売る業者が合法非合法問わず集まっていた。第七地区の悪行を背負った罪と再生の街ではカネさえ払えば、若さと寿命が手に入った。違法な臓器売買を監視するためのドローンは飛んでいたが、担当部局の役人に月に五〇〇クレジット払えば、監視映像は破棄された。商売の規模は様々だった。発泡スチロールの箱に角膜とドライアイスを入れただけの路上販売もあれば、最新の管理コンピューターで数百基の培養装置を管理する政府もびっくりの巨大工場もあるし、他にも一平方センチ三〇〇クレジットの人工ホログラム皮膚を扱う入れ墨屋もある。だが、なかにはドラッグを買うカネが欲しくて、自分の子をばらし屋に持ち込む男もいる。自分の子がバラバラになってタンクに浮くことになると、もう手遅れでその後悔はどんなにヘヴィなドラッグを服用しても拭い去ることはできない。道路沿いに悲しげな眼をした男が途方に暮れて座っているのはそういうわけだ。
「おれは文字通り、ここで体を売ってる。おれの体じゃない。誰かの体だ。こういうと、まるでポン引きみたいだが、おれはポン引きじゃないし、この世にポン引きほどむかつくものはない。ポン引きを見たことあるか? 第七地区のどこでもいいから車で流せば嫌でも目に入る。オレンジやパープルのスーツを着て、蛍光色の中折れ帽をかぶった薄汚ねえニガーどもだよ」
ボビー・カルディロのことを紫苑はなんとなく好きになれなかった。ネクタイの柄のせいかもしれないし、オフィスに恥じらいもなく飾られているヌード・カレンダーのせいかもしれない。これだけ大量の臓器やホルモンというある種の健康を売買している割には本人の顔は段ボールみたいな色をしていて、ひどく不健康そうに見えた。念入りにめかしこんでボタンホールに花など差していたが、体全体を縦に伸ばしたみたいにひょろ長く、面長だった。顔の長いことを馬の顔に例えるものだが、馬の顔は優しいものだ。ボビー・カルディロの顔立ちは底意地が悪く、鉛筆で引いたみたいな口ひげの形はいつもへの字に歪んでいるし、濁り気味の目は紫苑のことをバラして売ったらいくらになるか値踏みするようにねめつけていた。
カルディロのオフィスは二階にあり、そこから〈カルディロ・オーガン・ネットワーク〉の一階を見渡すことができた。ざっと見たところ、大型の熱帯魚ショップのようだった。だだっ広い大部屋のコンクリート床にはプラスチックのカバーが敷いてあり、組み立てられた工事用足場材に培養水槽が何段も並んでいた。それぞれの水槽には臓器たちが自分はまだ健康な人間の体のなかにいるのだと勘違いさせるための環境維持プログラムが設定されていて、床や壁を無秩序に覆ったケーブルとパイプを通じて、培養液の温度や成分濃度の微妙な操作を行っていた。
「で、これが情報だ」
カルディロは極小のメモリーディスクをデスクに置いた。携帯端末に差し込むと、読み込み中の砂時計が現れて、最後の砂粒が落ちたところで液晶のなかに複数のデータがポップな音を立てて浮かび上がった。データは全て黄色と黒の立ち入り禁止テープによってプロテクトされていた。
「解除は全部二六六六だ」
データを選択し、言われた数字を入れると、プロテクトは三億のナノノイズとなって砕け散った。経歴書が現れる――デイヴィッド・ジョン・ダンフォード。




