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斬術士  作者: 実茂 譲
2.紫苑
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師匠と弟子

 少女は小柄な東洋系で、十五歳より上ということはないようだった。黒いタートルネックのセーターにぴったりとしたスキニージーンズ、手の甲に三本の筋が入ったセーム革の手袋、それにふくらはぎを覆う合成素材のブーツ、髪はショートで、着ているものと合わせて少年のような印象を与えるが、星空の時計盤が手首の内側へ向いた小さな腕時計など少女っぽい趣味もあった。少女はいつもサムライ・ブレードを手に持つか、腰のベルトに固定するかしていたのだが、捜査官たちは彼女のことを見落とした。少女が裏口を使って〈リトル・パレルモ〉に出入りしていたのもあるが、二十四時間三百六十五日マフィアのボスたちばかり眺めて暮らしていると、マフィア以外の人間は目に入らなくなってしまうのだ。だから、たとえ彼らの目の前でキリストが復活しても捜査官たちは乱暴にこういうのだった。

「おれのレンズの前からどきやがれ。このアタマのいかれたクソジャンキーめ」

 少女が戻るのはたいてい夕方ごろ、マフィアたちが全員帰った後のことだった。その日、少女はいつものように裏口から〈リトル・パレルモ〉に入った。店のなかの小さなコーヒー・テーブルではジュセッペがカプチーノをすすりながら、新聞を読んでいた。テレビがつけっぱなしになっていて、第七区の製薬工場で実業家のヴァレンティン・ロドフが斬殺され、貴重なピンボール・コレクションの一部が深刻な損傷を受けたというニュースが流れていた。インタビューされているのは大学でピンボール史を教える教授で今回の事件は全人類にとっての損失で、こんなに残酷にヴィンテージ・マシンを破壊できるのは恐ろしく冷酷な人間に違いないと断言していた。彼ははっきりとは言わなかったが、今回の蛮行の裏にはピンボール愛好家に理不尽な嫉妬と劣等感を抱くビデオ・ゲーム愛好家の手引きがあったのではとほのめかした。

「ただいま」

「おかえり。ずいぶんかかったな」

 少女は左手の時計を見た。

「少し想定外の出来事があった」

「そうか。まあ、いいさ。メシにしよう」

 まださほど冷えないので小さな裏庭で晩食ができた。養魚工場産のティラピアでつくったアクアパッツァを食べながら、ラジオの周波数を古い曲ばかり流す局に合わせた。真空管時代のリバイバル・デザインのラジオには投影シールのかわりに豆電球のついた目盛りがあり、丸いつまみをまわすと、赤い針が周波数を示す数字の上を左右に動いた。もうひとつの目盛りは音量つまみで耳障りにならない絶妙なところで調整してあった。

「銃の使い方を教えてほしい」

「おや。まだあきらめてなかったのかね?」

 少女はこくんとうなずいた。

「あれだけサムライ・ブレードを使えれば、銃の使い方など覚える必要はないと思うがね」

「より確実に殺せるようになりたい」

 ジュセッペは、どれだけできるか分からないがやってみようと約束した。

 食事が終わり、食器を片づけると、それまで一度も開けたことのないドアを開けた。小さなエレベーターでボタンは一つしかなかった。赤いプラスチック製のボタンを強く押し込むと、扉が閉まり、エレベーターはがたがた揺れながら最下層を目指して沈んでいった。到着のベルが鳴って、外に出ると、広い部屋に出た。古代の地下貯水池のようだった。大きな投光器が床に寝かせてあり、その強い光のなかに頭と胴体だけのコットン地のマネキンがあった。だが、高い天井は真っ暗で、投光器は奥の壁まで照らすことはできなかった。

「ルールは一つ。床に散らばった空薬莢はきちんと集めて捨てること」

 ジュセッペは左のほうにあるドアを開けて、なかに入り電気をつけた。独身男性用アパートくらいの広さの部屋にあらゆる銃火器があった。壁全体はガラス棚になっていて、大型の対装甲ライフルやアタッチメントをごてごてにつけたサブマシンガン、スナイパーライフル、各コロニーで制式装備になっているパルス・ショットガン、それに何十丁という九ミリ・オートマティックと三五七・四四・四五四・五〇〇の各種口径のマグナム、パルス・ハンドガンが博物館の展示物みたいに保管されていた。

「毎日一丁ずつ教えよう」

 その日、少女が教わったのは小型の九ミリ・オートマティックだった。銃のほとんどは強化プラスチックでできていて、銃口にサイレンサーをはめるためのネジが切ってあった。慣れないあいだ、銃は発射するたびに生き物のように暴れた。だが、生き物には御するコツがあり、それは銃も同様だった。二十メートル離れた位置から胸に二発、頭に一発(モザンビーク・ドリル)ができるようになると、今度はメンテナンスだった。銃というのは想像以上にグリースを食うし、火薬の燃えかすは中世の手砲(ハンドガン)以来、銃を悩ます汚れのひとつだった。銃を分解して、部品ひとつひとつをきちんと掃除し、なめらかに動くようグリースをかけ、拭き取り、パズルのように組み立てる。ほんの三時間足らずで少女は銃を自分の体の一部のように使いこなすことができるようになった。少女は引き金を引きっぱなしにすれば弾をばらまけるタイプの銃の使い方を覚えたがっていたが、ジュセッペの感覚では少女が次に使えるようになるべきなのはスナイパーライフルに思えた。

「機関銃というのはあっという間に弾がなくなる。引き金を引きっぱなしにすれば、二秒ともたない。実際、サブマシンガンやアサルトライフルはフルオートではなく、三発くらいずつ撃つ」

「映画だとたくさん撃てる」

「それは映画だからだ。カットのあいだ、小道具係がまた弾を込めるから無限に撃てるのであって、実際は二、三発ずつちょびちょび撃つ」

「たくさん撃てる銃は?」

「ヘヴィーマシンガンということになる。じゃらっとした弾帯なら二百発くらいぶっ続けで撃てるが、これは装甲車に取りつける銃であって、携帯はできない」

「たとえ三発ずつしか撃てなくても機関銃を使いたい」

「頑固な子だね。まあ、いいさ。明日、サブマシンガンの使い方を教えよう。それでいいかね?」

 少女はこくりとうなずいた。

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