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野外訓練Ⅱ

 木々が生い茂る中を四人は歩く。サイ、ミサキ、キースは汗一つかかず、また疲れを見せていない。

 が、イリアは弓術や馬術を嗜んでいるとはいえ、根っからのお嬢様育ちには深い森を歩くだけでも辛いものだ。

 息が絶え絶えのイリアを心配したサイは、一度休憩を取ろうと提案した。


「さ、賛成ですわ……」


 と言うと、ベタッとお嬢様としては少々はしたなく勢いよく座る姿を見て、三人は苦笑する。

 近くにあった太い木の幹に腰を掛けて、サイはイリアに自分の持つ水筒を渡した。

 水筒を奪い取るようにして飲み、プハッと至福の笑みを零す。


「大分疲れているようだな」


「まっ、お嬢様だからな。武術の腕はあっても、森歩きには慣れてないんだろ。それに引き換え、サイはイリアちゃんと同じ貴族なのに、随分歩き慣れてるんだな」


「これの師匠が風変わりでね。いろんな状況下での修行をさせられてたんだ」


 これ、とはサイが腰から下げている刀だ。

 キースは「へー」と、聞いておきながら気のない返事を返す。

 〈七大貴族〉どころか、貴族にこんな態度を取ったら殺されても文句は言えない。それがムーンライト帝国の、というより、この世界の常識といえよう。キースが殺されないのはひとえに、アインス養成学校の校則とイーバの脅しという拘束力のおかげだ。まあ、サイの性格も相俟(あいま)っているが。

 実は一週間の間に、貴族と平民の小さな衝突が起こったが、問題を起こしたものはもれなく“平等に”イーバの手によって制裁されている。


「一つ聞いていいかい? ウィンストーラ君の師匠の名は」


「名前? サイバ・サクライだ。東方出身のようだが、それ以外は知らない」


「! サイバ……サクライ…………。ということは、君が……」


 ミサキが何かを口にしようとした時、サイ、ミサキ、キースは一斉にイリアを囲むようにして動き、各々の武器を抜き放った。

 素早い三人の動きに、イリアはただ呆然とする。


「ちょ、ちょっと、どうしたのですか? 物騒なものを抜いて」


「敵だよ、敵。何でかは知らんが、俺達を狙っているようだな」


「魔物の気配じゃない。これは……人間? 数は三、いや四か」


「ふむ、一人一殺か?」


「いや、殺さねえから」


 ミサキのボケに、キースが突っ込むというなんとも気の抜けた会話を繰り広げる。

 だが、イリアは敵と聞いてヒステリックに叫んだ。


「何を悠長な! そもそも、この森は魔物や犯罪者がいないように、帝国の軍が掃討したはずではありませんの!?」


「ば、バカ!」


 キースがイリアの口を塞ごうとしたが、すでに遅い。

 C班の実力者の一人が後ろを振り向いたことで、開戦の一端が開いた。

 木々の合間から敵が三人現れ、サイとミサキは一人ずつ迎撃するも、もう一人の敵がまっすぐ涙を流すイリアの元へ走る。

 標的になっていると気付いた少女は、「ヒッ!」と引き攣った声を上げた。

 

 キースは、敵とイリアの間に入るようにして敵の進行を防ぐ。

 敵三人が持つ武器はどれも一般的なショートソード。サイとミサキは近距離型だが、キースの武器は魔法銃。武器の性質上、近距離戦は厳しい。

 頭の中でそう結論付け、早急に決着をつけようとサイは目の前の敵に斬りかかる。


 キースの事もそうだが、他にも早急に決着をつけなければならない理由があった。

 それは、相手が魔法使いか否かだ。

 サイが通っていた中等部の学校での模擬戦の成績は三割以下。一見、実技成績の出来が悪い生徒に見える。が、この成績は下手にサイの剣技が学生から逸脱しているせいだ。

 

 弱い魔法使いが相手では、サイのスピードに着いていけず、サイの相手にはならない。学校の実力者が相手になり、ようやく三割以下という数字が出る。

 この数字が、如実に魔法使いとそうでない者の差を現していた。


「セイアッ!」


「うおっ!? こいつ、本当に学生か!」


 一合、二合と打ち合う二人。火花散らす剣撃の両者の顔は、対極の位置にいる。

 敵は上段、下段、突きと変幻自在の攻撃に対処に追われ、その顔には滝のような汗と余裕のない必死の顔だ。

 一方、サイの顔は余裕に満ち溢れている。魔法を使われない限り、この勝負の支配権はサイが握っているのだ。


「ハッ!」


 刀を手首で回すようにして敵の剣に自身の刀を絡ませ、斬り上げる。敵の剣はおもしろいように手から離れて、上空へとかち上げられた。

 サイは呆ける敵の懐に近付き、柄で鳩尾を打つ。


「グッ……」


 白目を向いて意識を手放した敵に目も向けず、イリアとキースを助けるべく、サイは二人の元へ駆けた。


「魔法使いじゃなくて助かったな。にしても、あの剣術は──」



   ***


「セイ、ハッ、ヤッ!」


「グゥ……ク……ソ、オォォォォォォ!」


 乱れる一房の髪と共に、少女の細腕から繰り出されたとは思えない威力の攻撃が、敵の防御を崩さんと攻め立てる。

 敵も黙ってやられまいと攻勢に出ようと、鍔迫り合いの状態から無理やり押し込んだ。

 ミサキは無理に力比べせずに力を外に流すようにして、敵の剣をいなしながら下がる。


「はぁ、はぁ、はぁ。チッ、さすがにイーバの旦那が言うだけのことはあるな」


 自分達の教官の名前が、突然襲ってきた狼藉者の口から発せられたため、ミサキは不思議に思った。


「何故、我々の教官の名を知っている」


「あ? ああ……そうだな、勝てたら教えてやる……よ!」


 《フレイムランス》──魔法名と右手の照準がミサキに向けられる。ミサキはすぐに照準から外れようと、木々の合間に入った。

 ゴオッと灼熱の槍が先程までミサキがいた場所を穿ち、大きな木に突き刺さる。

 敵が慌てて右手を振るうようにして魔法を消し、火が木に燃え移る前に消されたおかげで、大規模な火事にならずに済んだ。

 が、結果的にだ。


「……貴様、火事になったらどうするつもりだ」


「い、いや、すまない。俺も熱くなりすぎた」


「はっ?」


 乙女にはあまり似つかわしくない、間の抜けな声を上げた。

 突然襲ってくるような狼藉者がまさか謝罪するとは、ほとんどの人間が露程も思わないだろう。

 少なくとも、ミサキのこれまでの人生に、謝罪するような犯罪者はいなかった。


「何しても、いきなり襲ってきた相手に容赦はしない。我が体に流れし力の源よ、より強く脈動し、我が血肉となれ──《エンハンスト》!」


 魔法の元となる魔力を体中に行き渡るようにして流し、攻撃面、防御面、敏捷面を底上げする魔法エンハンスト

 帝国兵士の上位、帝国騎士になるのに必須の魔法である。


「学生の身で、《エンハンスト》だと!?」


 敵が驚く間に近付き、上段からの一撃を浴びせた。


「安心するがいい。峰打ちだ」


 キンッと音をたてて刀を鞘に納めるその姿は、誰もが見惚れる女侍であった。



    ***


「よ~? 久しぶりだな~」


「んあ? 誰だお前」


 サイ、ミサキが敵と戦闘している中、キースもまたイリアを庇うようにして立っていた。

 彼の後ろには、子供のように泣きじゃくるイリアがいる。

 敵はキースに鋭いメンチを切りつつ、指をバキバキと鳴らして間合いを計っていた。


「てめえ、あれだけのことをして俺を忘れたのか!」


「だ、か、ら、知らねっ」


 敵の恫喝に大して恐れもせず、キースは両手を頭の後ろにやって欠伸している。

 キースの余裕たっぷりの態度に、敵の額の横がビキビキと青筋を立ててふうふうと鼻息を荒くした。敵とキースの初めての出会いは、ある居酒屋である。

 日付で言うなら、今から二週間前。


 キースが楽しく麦酒を飲んでいたところ、泥酔した敵が女性店員をナンパしたのだ。

 それも、かなり強引な手段で。

 その女性店員は中々に美人だったので、キースは口説くために、手早く敵を処理した。グーパンチ一発で。結局、女性店員を助けたはいいが、その後の会話がかなりマズく、ビンタを浴びせられるという結果だった。

 ──ということを唐突に思い出したキースは、敵の顔を見て「ハハッ」と無邪気に笑う。


「あの飲んだくれの雑魚か」


「……殺す!」


 男が剣を抜き放つのと、キースが魔法銃が治められているホルスターに手が伸びたのは、まったくの同時だった。

 そしてすぐに決着がつく。

 ──キースの勝利という形で。


「あ、あなた、何をしましたの?」


 イリアの目からは、キースが全く動くことなく、敵に泡を吹かせながら倒したという風に映っていた。


「超高速で金玉蹴った」


 同じ男にやる攻撃ではない。が、キースはやった。キースは無詠唱という、魔法使いにとって最高難度に位置する高等技術を使い、《エンハンスト》を唱えて敵のガラ空きだった股の間に蹴りを見舞ったのだ。


 今起きたことを知っているのは、キース以外誰もいない。


「大丈夫か?」


「おう、問題ないぜ。そっちは?」


「ふむ、私達も問題ない。……しかし、こいつ等は一体」


 合流する四人。敵の目的を話し合おうとしていた中、一人頬に残っていた恥辱(なみだ)を制服の袖で拭っていたイリアが、ふとずっと疑問に思っていたことを口にする。


「あなた達、何故そこらに転がってる下郎共を殺しませんでしたの?」


「何故って、なあ?」


「敵意はあったが、殺意がなかったのでな」


「……それに、こいつ等は帝国兵士だ」


 サイの発言に、驚きを隠せない三人。サイが敵を帝国兵士だと判断した理由は、剣術の構えだ。

 半年ほど前にウィンストーラ家を訪れた帝国騎士と手合せをした時の記憶と、ついさっきまで戦っていた敵の構えが酷似していることを三人に話す。


「ほう、私は東方出身だからわからんな。だが、一流の剣士が酷似してると言っているのだから、本当だろう」


「俺は構えられる前に倒しちまったからな。わかんね」


「もう! 何でもいいからぶっ殺しませんこと!!」


「お前はいきなり物騒なことを言うな」


 四者四様、混沌とした会話が続く。


「うっ、うぅぅ、ちくしょう。イーバの旦那、強すぎじゃねえか」


「全くだ……」


 サイに鳩尾を打たれた敵とミサキに斬られた敵が、お互い肩を貸し合いながら四人に近付いた。

 イリアが魔法弓を抜こうとするのをサイが手で押さえる。


「お前達は、帝国兵士だな?」


「ああ。イーバの旦那が今日の訓練に合わせて、休暇を取ってるヤツを呼んだんだ」


「なるほど。つまり、お前達は黄色のフラッグを狙ってきたのだな」


「それを破壊か奪いさえすれば、給料三倍だったんだよ。……はあ」


 見るだけでテンションがぐんぐんと下がるのわかった。

 フラッグを破壊も奪えもせず、成人(この世界では十八歳が成人)を迎えていない学生にボコボコにされるというのは、国を守る兵士には中々キツイものだろう。


 股間を押さえ、ピョンピョンと飛び跳ねる敵も加わり、一同はこの三人を肉の壁にでもしようと画策する。敵三人を前面に出し、戦闘した場所から早々に離脱しようとした時、またイリアが思った事を口にした。


「そういえば、あなた達敵は四人いるって言いませんでした?」


「………………あっ!」


 三人が事の重大さに気付いた時には、すでに遅し。肉の壁となっていた敵達は、ある男の拳によって例外なく一撃で地面に沈められている。

 サイ、ミサキはそれぞれ刀を抜き、キースはホルスターから魔法銃を抜き、イリアは三人の足を引っ張らないようにと精一杯の勇気を振り絞って魔法弓を手にした。


 木々から伸びる影のせいで、敵三人を沈めた謎の男の姿がシルエットとしてしかわからない。

 身長二メートル近くありそうな偉丈夫で、背中には肉厚な大剣が太陽光に反射してギラリと光った。


「さて、イーバ少佐が目にかけている三班の内の一班。……C班、貴様等の力を俺に見せてみろ」

ダメだ、いろいろ忙しくて更新が滞る……!

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