第66話:星の最高解体士の、至高のお昼寝~大団円~
お腹いっぱいに極上スイーツと手料理を堪能した後の、満ち足りた午後のひととき。
ウロボロスの解体によって誕生した澄み切った水晶湖のほとり、そよ風に揺れる花畑の丘の上には、初夏の柔らかな木漏れ日と、草木の青々とした甘やかな香りが満ちていた。
ふかふかの青草の上に広げられた大きなピクニックシートの上で、白い麻シャツを着たロイド・クレインは、両手を空に向かってぐぐっと伸ばし、心地よさそうに息を吐き出した。
「ふぁぁぁぁ……。お腹いっぱい食べたら、なんだかすごく……眠くなってきたな」
ロイドが小さくあくびを零した、その瞬間――。
周囲にいた五人の少女たちの瞳が、パッと同時に輝いた。
「ロイド様! どうぞ、私の膝をお使いになってくださいまし!」
セリスが真っ先に両膝を揃えて正座し、純白のスカートの裾を整えて満面の笑みで手招きをした。
元聖女の柔らかく温かな極上の膝枕。
ロイドが照れながら頭を預けると、ふわりとセリスの纏う石鹸と白百合の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
セリスの柔らかな指先が、ロイドの額にかかる前髪を愛おしそうに梳いていく。
「反対側の側頭部のサポート、およびマスターの安眠脳波誘導プロトコルを開始します」
すかさずロイドの左側へと滑り込んできたのはルシアだった。
彼女はひんやりと心地よい陶器のような肌をロイドの頬にそっと寄せ、もう片方の手でロイドの左手を包み込んで、心拍数をリラックスモードへと同期させていく。
「ご主人様! 私のモフモフ尻尾は、どんな高級羽毛布団よりも温かいですからね!」
フェンネルが銀狼の耳をパタパタと寝かせ、ロイドの足元に体をすっぽりと丸め込んできた。
ボリューム満点のフサフサとした銀色の尻尾が、ロイドの胸元から爪先までをふんわりと優しく包み込み、極上の毛布となって全身を温めてくれる。
「ぱぱ~! ヴェルもパパと一緒にお昼寝するの~!」
タタタッ!と小さな足音を響かせ、幼女竜姫ヴェルザがロイドのお腹の上にぽすんと飛び乗ってきた。
お腹の上でちょこんと丸くなったヴェルザは、小さな両腕でロイドの首筋をぎゅっと抱きしめ、金色のツインテールをロイドの胸元に散らしながら、早くも「ふにゃぁ……」と幸せそうな寝息を漏らし始めている。
「ふふ……本当に皆様、抜け目がないんですから」
アリアは苦笑しながらも、涼しげなレースの日傘をそっと傾け、ロイドの顔元に優しく心地よい木漏れ日だけが差し込むように日陰を作ってくれた。
アリアの扇ぐ団扇から、涼やかで優しい風がロイドの頬を撫でる。
頭元にセリスとルシアの膝枕、お腹の上にヴェルザ、足元と胸元にフェンネルのモフモフ、そして頭上にアリアの日傘。
世界で最も愛され、世界で最も温かい、無敵の『至高の添い寝結界』。
ロイドは少女たちの温もりに全身を包まれながら、静かに目を細めた。
思い返せば――すべては、あの理不尽な追放から始まった。
オルディス帝国の薄汚れたゴミ山で、誰からも存在を認められず、ボロボロの作業着を着て、泥と煤にまみれて一人きりで掃除をしていた日々。
無能だと罵られ、道具を奪われ、死の谷へと蹴落とされたあの日。
だが、ロイドは世界を憎むことも、復讐に心を染めることも決してしなかった。
なぜなら、彼にとって掃除とは、誰かに褒められるための手段ではなく、世界を愛し、失われた調和を取り戻し、人が前を向いて笑って暮らせる場所を守るための、誇りある職人の魂そのものだったからだ。
ただ黙々と、目の前の壊れたものを直し、汚れた大地を掃き清め、捨てられた命を拾い上げた。
その優しく誠実な手は、教会に捨てられた聖女を救い、感情を失っていた魔導人形の心に火を灯し、折られた銀狼少女に生きる誇りを与え、孤独な豪商令嬢を支え、数千年の暗闇で眠っていた古代の竜姫を目覚めさせた。
そして最後には――星そのものの数万年分の老廃物を解体し、大地を完全な調和へと再生させたのだ。
遠くからは、カチャカチャと竹箒の音とともに、「うわぁぁサボったらフェンネル様に噛まれるぅぅ!」「もっと腰を落として掃け、元皇帝!」という、終身清掃刑に励む悪役たちの情けなくも笑える声が風に乗って微かに届いてくる。
白亜の摩天楼がそびえるエデンの街からは、大工たちの威勢の良い掛け声と、子供たちの無邪気な笑い声が、平和の歌のように響いている。
空はどこまでも青く澄み渡り、世界樹の葉がサワサワと風に歌い、満開の花々が甘い香りを放っている。
地上には、もう掃除すべきゴミは一つもない。
世界は完全に綺麗になり、そしてロイドの腕の中には、世界で一番愛しい家族がいる。
「ロイド様……愛しておりますわ」
「マスター……ずっと、一緒です」
「ご主人様、大好き……」
「私のすべてを、あなたに捧げますわ」
「パパ……だいしゅき……すぅ……すぅ……」
耳元で囁かれる少女たちの甘く愛しい吐息。
ロイドは胸の奥底から込み上げる、言いようのない温かな多幸感に包まれながら、ふっと至福の笑みを浮かべた。
「……綺麗になった場所で、大好きなみんなとお昼寝するのが……やっぱり、世界で一番の幸せだな」
世界を救った星の最高解体士は、手にしたホウキをそっと草の上に寝かせ、最愛の妻たちに抱かれながら、穏やかに、そして幸せいっぱいに瞳を閉じたのだった。
(『神話の解体士~ゴミ拾いだと追放された俺の固有スキルは、あらゆる物質を原子分解・再構築する【神話解体】でした。気づけば世界樹を芽吹かせ、古代竜を蘇生し、帝都の産業廃棄物から白亜の楽園を建国していました~』――完)




