第3話【間抜けな天使】
彼女の体を貫いたのは赤い槍で、完璧に貫いたはずなのに、何故か様子がおかしかった。
「あ〜あ……せっかく持ってきたのに…」
キュリスの方角からではない、後ろの方から彼女の声がした。
後ろを振り返ってみると2人目のキュリスがいて、更に頭が混乱する。
2人目の彼女は前にいた彼女の体に触れると、たちまち光の塵となって消えてしまった。
「キュリス…?いったいこれは…?」
「あ、キーレス。これねぇ、身代わり依代だけど、もっとピンチのときに使いたかったなぁ…貴重なのに…」
彼女は不貞腐れたように私達のもとに帰ってきて愚痴を吐いている。
そういえば、図書館に身代わりが書いてある本があった気がする…もしかして……
帰ってきたら図書館の掃除からかしらね。
「それで、君は誰なの?」
彼女が虚空に向かって鎌を一振りすると、近くの建物の高さは優に超えていて、見上げるのも首が痛くなるほどの巨躯がいた。これほどの大きさを隠すにはそうとう技術と魔力が必要だろうに、私達でも気づかなかった’’これ’’は…?
「魔族の端くれしかいないと言っていたな。これを見てもそれと言えるか?」
「うん。だって別に強そうじゃないもん。ほんとに強かったら1回で目くらまし解けないし、そんなに目立つ体じゃないよ。」
「ええい、うるさい!」
その巨躯はそれだけ言い放つとさっきの槍を雨のように降らせた。だけれどそれは私達には届いていなくて、キュリスめがけて放っている。
「キーレス…修理費用…お気の毒に…」
「そんなこと言ってたら古書修復申請、通しませんよ?」
「……‥..…まぁ、それより私達どうしましょう?」
「そうですね….下手に参戦したらキュリスの攻撃当たりそうですし…あ、そうだ。ルキス、この隙にあいつに飛び乗ってきます。援護してください。」
「わかったわ。」
彼が動くと同時に速度上昇、及び跳躍力上昇、その他諸々のデバフをかける。
ここまで何重にも展開したらさすがの私でも長くは持たないから速く終わらせてきてほしいものだけれど、見た感じ結構掛かりそうね。彼は器用だから早く済ませてくるだろうけど。キュリスは敵の攻撃を防いでいるし、キーリスは討伐に向かっている。なのに私は何もしていないことが嫌で、キュリスに加勢した。
「あ、ルキスじゃ〜ん!ちょうどよかった、シールド張ってくれない?」
「…ええ。」
遠目から見て、ぶんぶん回してるからバリアの天蓋ができてると思ったけどやっぱりそれじゃあ隙ができるみたい。私はなるべく魔力効率のいいバリアを張り、彼女が攻撃するのを横目でみる。視界の端にキーレスが写った。彼はまだ健闘しているけれど、いつまで持つかわからない。それに敵の手札の1枚もまだ見ていないのだから油断も出来ない。
「たぁすけてぇ〜!!!!ひぇぇぇ……」
この戦場に合わない間抜けな声が響いたかと思うと、声が聞こえた方向が青白く弾けた。
その後のバリアのような気絶しい音はきっと2人の耳に届いていることだろう。2人とも音の発生源に顔を向けたのだから。
「あ、そこのだれかぁぁ!!」
「…キュリス、任せたわ。」
私は音が鳴っていて天使がいるだろうところに向かった。
―――4話に続く。




