第1話【地獄の咆哮】
部屋の静寂を切り裂いた音はバリッ、という普通の家でも聞けそうな音だった。
「あ、じーさーん、大富豪しようぜぇ〜賭けるのはポテチね」
どこか浮き世離れした共用ラウンジとも見える開けた空間にいるのは、
琥珀色の髪色を持った少女と、髭を長く生やした老爺。
2人のカードゲームで一喜一憂している声が部屋に響く。
「ワシのポテチが…」
みるみる手元から減っていくポテトチップスを眺めながら嘆いている老爺は目の前の少女を恨めしそうに見ている。かという少女は、きゃははと鈴を転がすように笑い、相手のポテチをどんどん食べていく。
「あ、じーさん!ズルは無しだよ〜フェアじゃないじゃん」
「ズルなどしておらんわい。」
天界の主であるという老爺は威厳の欠片も無く最後の1枚を死守している。
本来なら一般的な家庭などで見られる光景なのだろうに、ここで見ると不思議でならない。
そんなこんなで騒がしいラウンジに冷ややかな声が混ざった。
「…はぁ、また騒がしいことしてるんですか…それを下界の人間が見たら失望しますよ」
声は目の前にあるパネルから出てるようだった。
緑がかったパネルには、心底嫌そうな、眉をひそめている人物が映っていた。
「あと、その菓子のカスはちゃんと掃除してくださいね、キュレス。あとカードも」
「あ、キーレスじゃーん、ポテチ食べる?これ期間限定でうまいんだよね〜」
キュレス――キュレス・マーティアルは悪びれる様子も無くパネルの向こうの人物、キーレス・リアリードにポテチを勧めている。
「いりません。ゼノ様もキュレスと絡んでないで早く仕事してきてください。」
「ワシの今日の仕事は終わったぞ?」
ゼノと呼ばれた神はきょとんとした顔でキーレスを見ている。まぁ、仕事が終わったとでも思っているんだろう。
「終わってませんよ。まだ財政管理が残ってます。」
「ぎくっ…」
ゼノは大袈裟なほど肩を落とし、それでも聞こえないと言うようにキュリスとまだポテチの取り合いをしている。
ラウンジの喧騒から少し離れた場所。
全ての音が無くなり、静寂が支配する空間――図書館。
幾千幾万の本が棚に収められ、天井の見えない暗闇はあたかもここだけ夜のよう。
「…うるさいわね…….」
彼女が座っている紫色のふかふかのロッキングチェアは動きながら浮いているように見える。愚痴を零しながら分厚い本のページを捲る彼女の周りには積み重なった本や、薬草、空瓶などが無造作に転がっている。
「ルキス、あなたも言ってやってください。ゼノ様が仕事に取り掛からずに
キュレスとポテチの取り合いをしているのですが。」
ルキス――ルキス・リバーティは目線だけを上げ、鬱陶しそうにパネルを一瞬見上げた後、また本に視線を落とした。
「キーレス、私を巻き込まないでくれる?あとゼノは早く古書修復の申請通して。」
「はぁ…どうしたものか…」
彼女の返答を聞くや否やキーレスはこめかみを抑え唸る。
「あ、キーレス、なんか地震来てない?」
キーレスがラウンジの方のパネルに視線を向けると、キュレスのお気に入りの炭酸が小刻みに、かつ規則的に揺れているのが見えた。
「地震ですか…久しく来てませんでしたね。
天界に地震が来るということは下界は結構揺れが強そうです。………!ゼノ様!魔界に一番近い結界が今しがた破られました!」
「あれ、見て!なんか黒いのあがってる!」
キュレスが指した先には下界まで見えるベランダから黒い煙がたちこめている。それをキーレスが視認したであろう瞬間、監視塔にアラートの音がけたたましく鳴る。
「ゼノ様!下界から援軍の要請が来ています!ご指示を!」
「ふむ…お前らは直ちに戦場へ向かえ。こちらで援軍の用意をする。」
一瞬にしてほんわかした空気は失われ、皆が戦闘態勢に入っていった。
図書館はというと、地震によって本が崩れ落ち、見るも無残になっている。
その中で彼女は読んでいた本を閉じ、何日ぶりかの床に足をつける。
「静かな読書の時間を邪魔した奴は今すぐにでも木っ端微塵にしてやるわ」
第2話に続く…




