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氷の壁が十分そろったところで時雨からの攻撃も始まる。
性格的にはディフェンスを主体としてしまうのだがその「氷」の能力としては攻撃も問題なく行える。
時雨は突然変異的に「氷」の能力を持った吸血鬼。
眷属の上位の者で、別名で雪女と呼ばれている。
「砕氷連撃」でパチンコ玉ほどの氷を左手から飛ばし始めた。
その数は数十万以上で広範囲にばら撒かれた。
それによって2人の吸血鬼は被弾した。
すぐ地面に腹ばいになったので致命傷になるまでではなかったが戦闘力は大幅に削ることができた。
流れ弾のようにそれていった砕氷のいくつかはたまたま居合わせてしまった人間に当たってしまったものもあった。
動きが緩慢になってしまった2人の吸血鬼のうち森川は月読からの銃撃を受けてしまった。
月読も弾丸が続く限りはとにかく撃ち続けていた。
その中の数発が当たっている。
吸血鬼にとって死に直結しているアリシンという猛毒が体内に入ってしまった。
弾丸がめり込んだ左の脇腹と左足の太ももから壊死が始まった。
火傷よりも酷い燃えている炎のようなものが全身に広がっていく。
それは大きな池に石を投げて広がっていく波紋と同じような速度で全身が焼かれていく。
消滅。
1ダースの眷属の最後の2人が戸山公園内に駆けつけてきた。
時雨の砕氷で怪我をした人間がいた。
若い女性の右うなじからの血を見て美味そうとチラッと思った。
血を飲んでおこうかと思ったが先にやらねばならないことがある。
残念だが落ちついた後にでもと1人は喉を鳴らし、もう1人は駆けながら発砲している。
仲間が来てくれたことに足立はちょっとだけ心強くなった。
でも不安のほうが大きい。
こんなハンドガンと自分の力だけであの吸血鬼どもを倒せるのか?
吸血鬼ども?
1人は確実に吸血鬼だがもう1人の若い男は何者?
まさか人間と吸血鬼の夫婦?
赤ん坊がいなかったか?
そんなバカな?
2人の加勢が入ることで吸血鬼たちの手数は増えた。
だがそこから先に踏み込めない。
このまま長期戦になるかもしれない。
足立としてはふと疑問に思うことがあった。
あの吸血鬼の能力なら単独でも十分に戦えるのでは?
なぜそれをしない?
この答はものすごく単純なもの。
時雨は性格的に争いを好まない。
第2次世界大戦の経験者でもあって戦争には嫌悪感が強い。
さらに戦闘そのものの経験が乏しいということもある。
つまりどうしていいのかわかってない。
能力の持ち腐れといってもよい状態かもしれない。




